「管理職」は「オフショアで人件費抑制」の意外な落とし穴
経済産業省によれば、2014年度の現地法人数は2万4,011社で、地域別にみるとアジア圏は1万5,964社と全地域の66.5%を占めています。アジア圏は他の地域よりも経済成長率が高く、日本の商品やサービスのニーズも高いことから、日本の企業の多くはアジア圏に進出しています。また、現地の人材を採用することで人件費を大幅に抑えられることも理由の1つです。
製造業における一般職と管理職との賃金格差は大きい
下のグラフは、製造業における一般職、および管理職の1か月あたりの賃金(ドルベース)を国別で表したものです。日本の場合、管理職の賃金は一般職の賃金の1.8倍ほど高くなっています。一方で、アジア諸国における一般職と管理職の賃金格差は日本よりも大きく、ミャンマーでは7.49倍となっています。
出典:JETRO「投資コスト比較」
非製造業の一般職と管理職との賃金格差は2倍前後
非製造業では、一般職と管理職の賃金格差は各国とも2倍前後で、製造業よりも賃金格差の小さいことがわかります。日本は1.97倍で、製造業とともに賃金格差は2倍以下です。ミャンマーでも2.38倍と、賃金格差はそれほど大きくありません。
出典:JETRO「投資コスト比較」
製造業と非製造業の賃金を比較すると、ほとんどの国で非製造業の賃金が製造業の賃金よりも上回っていることがわかります。
賃金が低ければ人件費が抑えられる
下の図は、企業が一般職の従業員に1人にかかる年間負担額(ドルベース)を表したものです。比較的物価の高いシンガポールや香港、韓国は高い傾向にあり、ミャンマー、カンボジア、インドネシアの年間負担額が安いことがわかります。
出典:JETRO「投資コスト比較」
※年間負担額は、基本給に諸手当や社会保障、残業代、賞与などを含めた額です。
年間負担額の低い国で従業員を雇えば人件費を安く抑えられます。しかし、安いからといって飛びつくのは危険です。例えばミャンマーの場合、識字率(15歳以上の成人の中で日常生活で読み書き、理解ができる人の割合)が他国よりも低いという統計結果(人間開発報告書2011 本体)が出ていますので、事務や接客などの業務に従事させる際には注意を払う必要があります。また、インドネシアは、国土交通省の調査報告によれば「教育水準は低く、2014年8月時点で、就業者の47.1%を小学校の卒業者・中途退学者・未就学者、17.8%を中学校卒業者が占めており、企業や公的機関における職業能力開発の重要性が高い。」と分析しています。これらは全ての国民に当てはまるものではありませんが、人材選定は慎重に行いたいものです。
参考サイト
海外事業活動基本調査 – 経済産業省
人間開発報告書2011 本体 – 国連開発計画(UNDP)
インドネシアの基礎情報 – 国土交通省
現地採用の主な雇用形態および労働契約締結時の留意点:中国 – JETRO
第3章 国内事例調査結果 – 独立行政法人中小企業基盤整備機構
備考
各国のデータは、その国の主要都市におけるデータです。他の都市や地方部などでは賃金等の異なる場合があります。なお、本稿に掲載している各国の主要都市は次の通りです。インドネシア(ジャカルタ)、韓国(ソウル)、カンボジア(プノンペン)、シンガポール(シンガポール)、タイ(バンコク)、台湾(台北)、中国(上海)、フィリピン(マニラ)、ベトナム(ホーチミン)、香港(香港)マレーシア(クアラルンプール)、ミャンマー(ヤンゴン)。