自閉症の子どものコミュニケーションを支援する「PECS」とは
自閉症は、対人関係やコミュニケーションを苦手としたり、言葉の発達に遅れが見られたり、パターン化した行動やこだわりを見せたりするといった特徴を持つ障がいです。会話することが苦手な子どもは、「何を言われたのか理解できない」「言いたいことがうまく伝えられない」といった問題を抱えています。このような子どもには、絵カードを使って意思疎通を図ることがすすめられます。
絵カードを使ったコミュニケーションのトレーニング方法の1つに「PECS」(ペクス、Picture Exchange Communication System)があります。PECSとは、絵カードを使って自発的なコミュニケーションが取れるように開発された、トレーニング方法のことです。1985年にアメリカ合衆国の学者であるロリフロスト(Lori Frost)とアンディボンディ(Andy Bondy)によって考案されました。日本語では、絵カード交換式コミュニケーションシステムと訳すことができます。
PECSを使ったトレーニング方法とはどのような内容か見ていきましょう。
PECSでは絵カードを手渡ししてコミュニケーションする
PECSの特長の1つに、絵カードを親や先生に直接手渡してコミュニケーションを取ることが挙げられます。絵カードをボードに貼り付けて見せたり、絵カードを指差ししたりしてコミュニケーションを図るというものではありません。絵カードを貼り付けただけでは、近くに誰もいなければ伝えることができません。また、絵カードを指差しするだけでは、それをどうしたいのかということを伝えられないことがあります。PECSでは、絵カードを手渡しするので、相手に伝えることができるのです。
次に、PECSには、6つの学習フェーズ(学習ステップ)が用意されている点が挙げられます。子どもの成長段階、発達段階に応じてステップを踏みながら、コミュニケーション力を養っていくことができます。
PECSの学習フェーズ
PECSの学習フェーズは6段階に分かれています。絵カードを使ったことのある子どもでも、フェーズ1から始めます。
フェーズ1
フェーズ1では、何か伝えたいことがあったら、絵カードを手渡しするんだ、ということを覚えさせます。トレーニング方法は、目の前にある1枚の絵カードを取り、近くの人に手渡しをする練習をします。絵カードの内容は何でも構いません。
フェーズ2
フェーズ2では、フェーズ1の応用として、子どものいる位置から絵カードの場所や手渡しをする人の場所を少しずつ離していきます。伝えたいことがあったら絵カードのある場所へ移動して絵カードを取り、伝えたい人の所まで行って絵カードを手渡しをするといったことを覚えます。ここでも絵カードの内容は何でも構いません。
フェーズ3
フェーズ3では、複数の絵カードの中から、自分の欲しいものが描かれたカードを選び出して手渡すといった練習をします。欲しいものがあったら絵カードを使って伝える、といったことを学びます。
言葉の発達が遅い子どもは、欲しいものがあると言葉では伝えずに、欲しいものがある所まで連れて行って指差しすることがあります。PECSを取り入れることで、絵カードを使って要求するようになります。
フェーズ4
フェーズ4になると、複数の絵カードを使って文を作る練習をします。必要な絵カードは、欲しいものが描かれた絵カードと、「ください」のような文字が書いてある絵カードです。例えば、牛乳が欲しい時は、牛乳の絵カードと「ください」の書かれた絵カードを、文カードに貼って手渡します。文カードは、複数の絵カードを使う時に用いる横長のカードです。
フェーズ4では、形や大きさ、色などを伝えるための絵カードも使います。これにより「何のどんなものが欲しいのか」といったことが伝えられるようになります。例えば、「牛乳」「ください」の文カードだけでは、温かい牛乳が欲しいのか、冷たい牛乳が欲しいのかを知ることができません。ここに「あたたかい」「つめたい」という絵カードを加えることによって、より具体的な要求が伝えることができるようにになります。
フェーズ5
フェーズ5では、「何が欲しい?」という質問に、絵カードの中から適切なものを選んで手渡す練習をします。例えば、赤鉛筆が欲しければ「赤色を示す絵カード」「鉛筆の絵カード」「くださいの書かれた絵カード」の3枚を文カードに貼って手渡せるようにします。
フェーズ6
フェーズ6では、「何が見える?」「何が聞こえる?」などの質問に対して答える練習をします。必要な絵カードは対象物の描かれた絵カードと、「みえる」「きこえる」のような文字の書かれた絵カードです。例えば、鳥が見えた場合は、鳥の描かれた絵カードと、「みえる」の絵カードを文カードに貼って手渡します。
フェーズ6では、自発的に伝える力も養います。何かを見つけた時、何かの音を聞いた時に、自分から進んで絵カードを取り出して、相手に示せることを目標にします。
PECSによる効果
5歳以下の子どもに1年以上PECSを続けたところ、約52%の子どもが言葉だけでコミュニケーションが取れるようになり、21%の子どもがPECSを使いながら言葉を話すようになったという調査結果が出ています。(参照:PECS(ぺクス)とは何か?門眞一郎)
PECSに興味を持った親御さんは、まずはPECSが体験できるワークショップへ出向いて、どのようなものかを体験してみるとよいでしょう。放課後等デイサービスの相談員に聞いてみるのも手です。
関連サイト
発語のない自閉スペクトラム症児への PECS を用いたコミュニケーション支援の実際と効果 – 野村 晴奈・落合 利佳
相談支援つうしん – 湘南養護学校支援部
発達障害の意思疎通工夫を 「絵カード」を広めた門医師が講演 – 独立行政法人福祉医療機構
発達障がいの子どもを支援する絵カードの作り方 – みらいジュニア
発達障がい児向けのオンライン英会話サービスをおすすめします