小売店店員の英会話力は他業種よりも低いという事実
TOEICを運営、主催している一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会の調査によれば、TOEIC IPテストの企業平均スコアは484点、小売業平均スコアは454点でした(2015年度)。外国人観光客を相手に接客する小売店にとっては英会話スキルは必須ですが、他の業種以下という予想外の結果でした。小売店の店員には、より一層の英会話スキルが求められます。
小売店の英会話力は他業種以下
下の表は、TOEIC IPテスト受験者のテスト結果を小売業、運輸、サービスの業種別に分けて表したものです。併せて、TOEICの点数に対応するCEFRのレベルを付しています。小売業には土産店や雑貨店、ドラッグストア、アパレル店などの小売店が含まれ、運輸には鉄道、バス、タクシー各会社、サービスには飲食店、ホテル、旅館などが含まれます。
出典:TOEIC Program DATA&ANALYSIS 2016(一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)
※TOEIC IPテストは、企業が社員の英語研修の効果測定や新入社員の英語能力測定を行う際に、企業の指定した日時、場所(事業所や営業所など)で実施できるテストです。
外国人観光客を相手に接客するケースでは、店員には話すこと(Listening)と聞くこと(Speaking)に関する英語力が問われます。Listeningの点数を業種別で見ると、小売業257点、運輸296点、サービス295点という結果でした。小売業は平均269点よりも下回っていることがわかります。また、Speakingについては、小売業90.7点、運輸101.3点、サービス106.2点という結果で、小売業と運輸が平均102.1点よりも下回っています。
TOEICテストによる評価は、一般的にはListeningとReadingの2技能の合計点であることが多く、その場合の合計点は、小売業454点、運輸520点、サービス530点です。一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会によれば、454点は5段階評価の下から2番目の評価(レベル D)で「通常会話で最低限のコミュニケーションができる」と評価しています。具体的には以下のような英語力が該当します。
- ゆっくり話してもらうか、繰り返しや言い換えをしてもらえば、簡単な会話は理解できる。
- 身近な話題であれば応答も可能である。
- 語彙 ・ 文法 ・ 構文ともに不十分なところは多いが、相手がNon-Native に特別な配慮をしてくれる場合には、意思疎通をはかることができる。
また、小売業のSpeakingの点数である90.7点の評価は「質問への回答・基本的な情報提供を行う能力・意見を述べ複雑な要求に応える能力が限られている」とされています。具体的な英語力は次の内容が該当します。
- 意見を述べたり複雑な要求に応えようとするが、うまくいかない。
- 単文、または文の一部分のみで応答することがある。また、以下のような問題がみられる。
・回答が非常に短い、または長くても理解されにくい
・聞き手の立場や状況をほとんど、またはまったく意識していない
・発音・イントネーション・アクセントに常に問題がある
・間が長く、躊躇することが多い
・語彙・語句が非常に限られている - ほとんどの場合、質問に答えることや、基本的な情報を提供することができない。
- 音読は分かりやすい場合もあるが、分かりにくい場合もある。自らが考えて話をするときは問題が多い。
小売業の点数を見る限り、上述のような英会話力では外国人観光客が満足するような接客は困難であるといってもよいでしょう。目標点として、ListeningとReadingの2技能の合計で470点以上、Speakingで110点~120点以上は取得しておきたいところです。
ListeningとReadingで470点以上取得すれば、「日常生活のニーズを充足し、限定された範囲内では業務上のコミュニケーションができる」ことになり、「通常会話であれば、要点を理解し、応答にも支障はない」、「複雑な場面における的確な対応や意思疎通になると、巧拙の差が見られる」、「基本的な文法 ・ 構文は身についており、表現力の不足はあっても、ともかく自己の意思を伝える語彙を備えている」といった英語力が備わります。
また、Speakingで110点以上取得すれば、「質問への回答・基本的な情報提供は概ねできる。意見を述べ複雑な要求に応えることはある程度できる」ことになります。
CEFRではA2~B1レベルの低い評価
各業種のTOEIC取得点数をCEFRの評価と照らし合わせてみると、ほとんどがレベルA2という結果になりました。下の表からもわかる通り、評価は下から2番目です。
ListeningにおけるレベルA2の評価は「ゆっくりはっきりと話されれば理解できる」で、Speakingでは「簡単な句や文を使って短い話をすることができる」というものです。TOEICの評価と同じように、接客時に充足する英会話力とはいえません。
外国人観光客の多くは中国や台湾、韓国など母語を英語としない国から訪日しています。一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会によれば、彼らの英語力は日本人よりも高いという調査結果が出ていますが、ネイティブ並みの英語力は持ち備えていません。そのため、スムーズな会話を実現するには、CEFRのレベルB1~B2程度の英会話力を取得しておきたいところです。
出典:TOEIC Program DATA&ANALYSIS 2016(一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)
関連サイト
資格・検定試験に関する基礎資料 – 一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会
TOEICテストWorldwide Report 2013 – 一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会
小売業の店内の多言語表示にかかるガイドライン – 経済産業省
労働市場における人材確保・育成の変化 – 厚生労働省