発達障がいを持つ小学生のコミュニケーションの基本的な支援と訓練
発達障がい児の中には、コミュニケーションを苦手とする子がいます。うまくコミュニケーションが取れないとストレスを抱え込み、いわゆる問題行動や二次障がいにつながる場合もあります。
発達障がいの小学生がコミュニケーション能力を発揮し、社会生活への適応状態を改善できるようになるには、十分な支援と訓練が必要です。
コミュニケーション障がいの仕組み、小学生の生活の中で実践できる基本的なコミュニケーション訓練のコツや方法について解説します。
コミュニケーション障がいのある子どもの訓練は「挨拶」の支援から始めよう
発達障がい児の中には、なぜコミュニケーションの苦手な子がいるのでしょうか。まずその仕組みについて周囲が知ることが、結果的に問題の改善や能力の訓練への近道となります。
人と挨拶をしたり、一見目的のない会話をしたりといったことは、発達障がいのない人の多くが自然に行っていることです。しかし、コミュニケーション障がいを持つ子どもは、挨拶をはじめとした、人と定型的なやりとりをしてつながりを確認する行為が苦手です。普通の感情のやりとりが成り立たないため、コミュニケーション障がいを持つ子どもは周囲から「人に関心がない」「感情がなくて冷たい」といったような誤解を受けがちですが、彼らは実は、感情や人への関心が薄いわけではありません。
コミュニケーション障がいを持つ子どもは、「暗黙の了解」のような、明示されないルールを理解することが苦手です。周囲の人が自然と理解している「感情を言葉や態度で伝える方法」や、「一見無目的な言葉をやりとりする重要性」を、改めての説明なしには理解できません。だから、皆が当たり前にこなしている挨拶や感情表現でつまずくのです。ここが、「発達障がい児のコミュニケーション障がい」とされるものの1つの根本要素だと言えます。
逆に言えば、発達障がい児のコミュニケーション訓練では、まず、感情を伝える方法やコツ、人と言葉をやりとりすることの重要性について丁寧に説明し、本人を楽にしてあげる「挨拶支援」から始めればよいということです。
家庭では基本の挨拶をゲーム感覚で身に付けさせよう
家族とのコミュニケーションは、社会生活の中で行うコミュニケーションの素地となります。「ありがとう」「どういたしまして」などといった決まり文句の挨拶にも、皆の生活を円滑で快適にするという機能があります。コミュニケーション障がいを持つ子どもには、こうした挨拶の意味や機能を筋立てて説明してあげることが、訓練の第一歩となります。
自分にとって意義が感じられないことをやることに苦痛を感じる発達障がい児は多く見られるので、「意味がわからなくても身に付けておけばあなた自身にもメリットがある」という点を強調するとよいでしょう。「挨拶は、みんなの人生がうまく回る呪文みたいなものだよ。面白いね。言えるように一緒に練習していこうね」といった感じに、楽しさを演出して誘導するのも1つの手です。
夏休みのラジオ体操で作るシールブックのように、達成度が目に見えてわかるような演出をすることも効果的です。子どもの教育において、わかりやすい「ご褒美」はあまりよくないということも言われてきましたが、発達障がい児の場合、課題を達成することについての脳の反応や、音声情報の理解が弱いので、わかりやすいご褒美が効果的な場合があります。目で見て達成感を得られるような仕組みをいろいろと用意できるとよいでしょう。
以下のように、家庭生活の中でよく使う挨拶ややりとりをリストアップし、ゲーム感覚で身につけられるようにサポートしましょう。
※以下はあくまで一例です。この通りにする必要はありません。本人とご家庭の状況に合ったものを考えてみてください。本人が考える過程も楽しめるようであれば、一緒に考えてみるのも1つのよい訓練になるでしょう。
朝の挨拶、やりとり
- 親:おはよう → 子:おはよう
- 親:調子はどう? → 子:元気、まあまあ、おなかが痛い、ママは?、パパは?、など
- 親:いただきます → 子:いただきます
- 親:おいしい? → 子:うん、おいしい、ハムがおいしい、など
- 親:ごちそうさまでした → 子:ごちそうさまでした
- 子:今日は学校で運動会の練習がある。帰りは4時だよ → 親:わかったよ
- 子:行ってきます → 親:行ってらっしゃい、気をつけて → 子:はーい
帰宅後の挨拶、やりとり
- 子:ただいま → 親:おかえり
- 子:きょう学校で紙芝居があった、楽しかったよ → 親:それはよかったわね
- 子:あした音楽の授業があるので笛が必要だよ → 親:今のうちにランドセルにしまっておこうね
- 子:きょうは疲れた、イライラした、悲しさが50%ぐらい → 親:学校で何があったの?
- 親:お風呂先に入ってね → 子:はーい
- 子:いいお湯だったよ、ママもどうぞ → 親:ありがとう。入ってくるね
- 親:おやすみ → 子:おやすみ
外出時には初対面の相手とのコミュニケーションの方法を教える
子どもとの外出は、子どものコミュニケーション能力を訓練するよい機会です。挨拶をされたら笑顔で挨拶を返すこと、自分からも積極的に挨拶をしていくことを教えましょう。
自分から挨拶する場合の、適切な距離感がつかめない子も多いので、例えば「2メートルぐらいまで近づいたら」「目が合ったら」などの条件を明確に指定してあげましょう。「自分から元気に挨拶するのはよいこと」「挨拶をしたら挨拶を返さなければならない」とだけ教えていると、場にそぐわない大声で挨拶してしまったり、相手が返答するまでしつこく挨拶をし続けたりということも起こります。声のボリュームを「1から10でいうと5ぐらい」と表現したり、「挨拶は1回にする」と説明したりするなど、常に明快な指示を心がけると、言動の改善につながりやすいでしょう。
学校生活では集団生活の方法や目上の人とのコミュニケーションの方法を学ばせる
学校生活では、家庭生活とは違った人間関係の作り方を子どもに学ばせることができます。年上の人や指導者は、目上の人であるということを、多くの小学生は無意識に理解します。しかし、発達障がい児の中には、こうした社会的な上下関係の感覚がピンとこず、先生に対して文字通り友達のような感覚で接し、失礼だとされて叱責を受けてしまう子もいます。先生に対しては、たとえ心から尊敬しているのでなくとも、処世術として、敬語で接する必要があることを教えましょう。
学校では、集団生活でのルールを学ぶことも大切です。遊びたい時や何かを借りたい時は、突然無言で飛びついたり物を取り上げたりするのではなく、一言、許可を得る必要があることなど、集団生活の中の細かな暗黙のルールを1つひとつ教えていきましょう。
家庭で保護者の方が先生役やクラスメート役をして、適切な言動がとれるようにロールプレイをするのもよいでしょう。
コミュニケーション支援ツールの助けを借りよう
コミュニケーション障がいを持つ子どもは基本的に、音声で入ってくる情報の処理が苦手です。情報を目で見られるように視覚化してくれる視覚支援ツールは、多くの場合効果を表します。
視覚支援ツールは、本人にとってはコミュニケーションにおける不全感を取り除いてくれ、周囲とつなげてくれる助けです。また、視覚支援ツールは、周囲にとっては結果的に本人の問題行動を減らして社会適応度を改善し、期待する言動を増やしてくれる便利な訓練ツールの1つだと言えます。
視覚支援ツールには次のようなものが挙げられます。
- 絵カード
- ピクトグラム
- コミック会話
支援ツールの情報は、放課後等デイサービスなどの支援機関などでも手に入りますが、通販サイトで販売していたり、作り方を解説するWeb サイトがあったりするので、いろいろと探してみましょう。
関連サイト
小学校通級指導教室に通う児童の社会適応力を育てる教育実践 : 相互性のあるコミュニケーション能力の向上を目指して – 埼玉大学学術情報発信システム(SUCRA)
発達障害児に対する視覚支援ツールとしての 「コミック会話」の教育効果の実践事例 -問題行動のある A 児への支援- 佐竹和美 – 佛教大学
発達障害児支援ツールの例 – 厚生労働省
発達障害、知的障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック – 国土交通省