英語のタスクハンドリング力とは?
生徒の英語力を向上させるには、まず、教師が「英語力とは何なのか」を理解した上で、効果的な指導を行っていくことが大切です。PEN英語教師塾では、英語力は「タスクハンドリング(課題の遂行)」であると言っています。
タスクハンドリングや、タスクハンドリングスキルについて、「PEN英語教師塾」の提供する動画で解説します。動画講師は慶應義塾大学名誉教授・ココネ言語教育研究所所長の田中茂範先生、視聴時間は25分弱です。
→タスク・ハンドリング力
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目次
英語力とは「英語でのタスクハンドリング力」のこと
漠然と「生徒の英語力を上げなければ」と思っているだけでは、英語指導の要点を欠いてしまうことがあります。英語教育現場では、2020年度導入の「大学入試共通テスト」への流れを受け、英語の4技能(「読む」「聞く」「話す」「書く」)が注目を浴びています。英語力というと、英語の4技能が思い浮かぶ人も多いでしょう。しかし、第2言語習得論の第一人者で、最新の英語教育を研究している慶応大学の田中茂範先生は、英語力の定義にはもう少し違った観点が必要だと述べています。
例えば、「何かについて英語で説明する」ことが求められている場合、単に「英語のスピーキングの技能を持っている」だけでは要求に十分に応えることはできません。「由来から説明する」「何かと比較して説明する」「使い方について説明する」などの複数の説明方法を知っており、かつ、それに対応した英語での語彙を持っていることが必要です。
田中先生は、英語力のことを「英語でタスクをこなす力」と捉えています。これからは、英語で言う力(Can Say)だけでなく、英語でタスクを遂行する力(Can Do)まで含めた、より深い英語力の観点を持つことが大事だと言っています。
「タスクハンドリング」について理解する
英語でのタスクハンドリング力は英語力と定義しましたが、そもそもタスクハンドリングとは何なのか、どのような種類があるのかなどについて見ていきましょう。
タスクハンドリングとは
人の生きる過程は、大小さまざまなタスクをこなし続ける過程だと言うことができます。タスクとは、日本語で「課題」のことです。タスクを遂行することを、タスクハンドリング(Task Handling)といいます。タスクには、言語的なものと非言語的なものがあります。例えば、「近所の人と挨拶や雑談をしてコミュニケーションを深めること」は言語的タスク、「時間通りに起床し身支度して、授業に遅刻せず参加すること」は非言語的タスクとして挙げることができます。
言語タスクは4つの表現モードで遂行される
人にとってタスクは世の中に数えきれないほどありますが、そのうち言語タスクは、4つの表現モードのうちいずれかを使って遂行されます。
・Speaking tasks (ST)
例: 会話をする
・Writing tasks (WT)
例: メールを書く
・Reading Comprehension tasks (RCT)
例: 新聞を読んで理解する
・Listening Comprehension tasks(LCT)
例: 授業を聞いて理解する
上からそれぞれ、「話す」「書く」「読む」「聞く」という英語の4技能にほぼ対応していることがわかります。Multi-modal tasks(MMT)ともいいます。
Speaking tasks(ST)には次のような例が挙げられます。
- ・自己紹介を行う(職業や興味・関心を含めて)
- ・友人との雑談の中で、ある朝のハプニングについて語る
- ・ある人物の外見と性格を語る
- ・ある商品の解説を15分で行う
- ・好きな人に自分の想いをしっかり伝える
- ・ある会議で司会を務める
- ・自分の町の様子・特徴を説明する
- ・国益に合うように貿易交渉を行う
- ・中華料理とフレンチを比較して類似点と相違点について語る
- ・学会で研究発表を行う
- ・パーティーでホストを務める
タスク難易度を4つの指標で測ってみる
田中先生によれば、タスクに対して人が直感的に感じる難易感(Easy―Difficult)には、以下の4つの指標が関わっているといいます。
- ・Simple(単純な) ー Complicated(複雑な)
- ・Familiar(親しみのある) ー Unfamiliar(親しみのない)
- ・Prepared(準備できる) ー Spontaneous(即興の)
- ・Procedural(手順あり) ー Free-floating(自在な)
4つの指標それぞれに、以下のような例が挙げられます。
・SimpleーComplicatedの例
右側が、よりComplicatedなタスクです。
(例1)ある食べ物の感想を述べる vs 2つの食べ物を比較して、両者の違いを述べる
(例2)若者言葉の「かわいい」を説明する vs 「義理」と「人情」について説明する
・FamiliarーUnfamiliarの例
タスク遂行者が大学講師である場合、右側の「サッカーの実況中継」は親しみのないものであり、より難度が高いと感じられると言えます。
(例)大学で講義をする vs サッカーの実況中継をする
・PreparedーSpontaneousの例
右側の突発的なタスクはあらかじめ準備しておくことが難しいため、難度が高く感じられる場合が多いと言えます。即応が得意な人と不得意な人がいますが、即応が不得意な人はより難度が高いと感じられるでしょう。
(例)ある結婚式で、事前に頼まれていた祝辞を述べる vs あるパーティーの席上で突然「一言お願いします」と振られる
・ProceduralーFree-floatingの例
雑談は一連の流れが想定しにくく、偶発的かつ自由に流れていくので、難度が高く感じる人が多いと言えます。これも、人によって難しく感じる度合いは多少違ってきます。
(例)会議の司会 vs 雑談
・タスク難易度を測るにはLanguage Resourcesの観点も必要
タスク遂行者にとっての言語タスクの難易度をはかるには、タスク自体の難易度情報だけでなく、タスク遂行者がタスクに使う言語にどれだけの言語リソース(Language Resources)を持っているかの情報も必要です。
例えば、「英語で1分間の自己紹介をする」というタスクの場合、遂行者の言語リソースの大小によって、遂行の難易度は変わってきます。 Let me introduce myself. I’m 〜, I work for 〜, I’m interested in〜 because 〜 などの言い回しを使うことができるかによって、「英語で1分間の自己紹介をする」タスクの難易度は変わるわけです。
「タスクハンドリングスキル」に着目する
タスクハンドリングについて理解したところで、タスクをハンドルするための力、「タスクハンドリングスキル」について考えていきます。
人生において、タスクは無数に存在します。個々のタスクを列挙して個々に対応していくだけでは、タスクハンドリングの効率や能力を上げていくことは難しいと言えるでしょう。タスクよりも抽象度を上げた認識をして、一群のタスク遂行に汎用や応用の可能な「タスクハンドリングスキル」に着目することが重要になってきます。
「タスクハンドリング」から「タスクハンドリングスキル」に視点を移していくことで、より効率的で的確なタスク遂行のためのスキルアップを図ることができるようになります。各種のタスクハンドリングスキルのうち、例としてスピーキングタスクに使えるものを挙げると以下のようになります。
- ・日常会話力 (発問、応答、割り込み、話題展開、話題変更、発話意図など)
- ・プレゼンテーション力 (speech、presentationなど)
- ・事物描写力(show & tellなど)
- ・概念描写力(定義、例示など)
- ・比較記述力(優劣、長短)
- ・意見表明力(話題についての考えを述べる)
- ・物語展開力(朝起きての出来事:記述とコメント)
- ・対話力(ディスカッション、ディベート、立場表明)
- ・交渉力(説得、妥協、提案)
- ・議事進行力(会議、シンポジウム)
タスクハンドリングスキルを細かく分析する
タスクの背景から取り出してみた一連のスキルを、さらに細かく分析していきましょう。タスク遂行の背景にあるスキルを細かく分析しておくほど、効果的でポイントを押さえた英語指導や英語学習が可能になります。
事物描写力の例
スピーキングタスクの遂行に必要な「事物描写力」は、ものごとについて説明する際のスキルで、幅広く応用が効きます。
- ・タイプで語る
- ・直訳する
- ・由来を説明する
- ・比較する
- ・使い方を説明する
- ・素材や形状を説明する
例えば、日本特有の「ラムネ」という飲み物について英語での説明を求められた場合、以下のような説明をすることができます。
Ramune is a type of soft drink in a bottle. (タイプ)
ラムネはボトルに入ったソフトドリンクの一種です
Ramune comes from “lemonade.” (由来)
ラムネは「レモネード」の語が由来です
A small glass ball is placed at the top of the bottle. (形状)
ボトルの頭の部分に小さなガラス玉があります
It’s a lid. To drink Ramune, push the ball down hard into the bottle with your thumb.(用途・働き)
これはフタで、飲むためにはこのガラス玉を親指で押して、ボトルの中に落とします
日常会話力の例
日常会話(spoken interaction)の特徴は、「断片性」「協働性」「偶発性」にあると言えます。日常会話力を細かく分析していくと、以下のような力(スキル)が見えてきます。
- ・発声力
- ・基本語の力を最大利用する力
- ・慣用表現を利用する力
- ・断片的に表現を紡ぐ力(頭で文を作らない力)
- ・必要に応じて軌道修正を行う力
- ・相手の言語リソースを利用する力
- ・発問を通して会話の流れを作る力
- ・応答する力
プレゼンテーション力の例
プレゼンテーション(spoken production)の特徴は、「目的性」「構造性」にあると言えます。プレゼンテーション力をさらに分析していくと、以下のような力(スキル)が見い出せます。
- ・内容構成力
- ・表現行為力(声の高低、声量、速さ、身振り、アイコンタクト、姿勢、表情、自信、覚悟)
- ・文法力(正確な文法で語る)
タスクの持つ「目的」にも着目する
ここまで英語タスクの背景にあるスキルについて掘り下げてきました。英語タスクをこなす「スキル」だけでなく、「目的」にも着目することは、英語力アップを果たす英語指導のために重要です。タスクの目的に着目すると、必要なスキルの分析がより的確なものになり、指導のポイントをより効率的に把握できるようになると言えます。
例えば、スピーキングそのものは単に「話す」という表現モードのことで、目的はありません。しかし、スピーキングタスクには、話すことによって遂行したい目的があります。英語を使ってより本質的、かつ主体的に目的を遂行できる力(≒英語タスクハンドリング力=英語力)を育てるため、タスクの目的を掘り下げ、教材やテストなどに工夫を凝らしていくとよいでしょう。
リーディングタスクの目的
リーディングタスクの目的には、次のようなものが挙げられます。
- ・情報を得る
- ・学習のために内容を暗記する
- ・英文の内容を理解し、設問に答える
- ・分析し批判する
- ・娯楽として楽しむ
- ・相手の心(気持ち・要求内容)を知る
リスニングタスクの目的
リスニングタスクの目的、リスニングする人の役割には、次のようなものが挙げられます。
- ・日常会話や交渉の相手のように「対話の相手」の役割をこなす
- ・相手の気持ちを理解する「カウンセラー」の役割をこなす
- ・何かを学ぶ、何かの情報を得ることを目的として「学習者」となる
- ・娯楽を目的として「鑑賞者」となる
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