英語表現に役立つ動詞力とは何か?
動詞力とは、動詞を適切に使える力のことです。動詞のイメージを身に付け、単語の概念を理解することで、動詞力が身に付きます。
→動詞力とは何か
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「PEN英語教師塾」の動画「動詞力とは何か」の講義から、動詞力の身に付け方について紹介します。英語の授業で活用し、生徒が動詞力を身に付ける際の役に立ててください。
目次
動詞の意味知識の形成が大切
動詞の意味知識とは、動詞を使うために、知っておかなければならない情報のことです。生徒への指導では、動詞力を身に付け、動詞の意味知識が形成されるように教えていくことが求められます。
言語使用で意味知識が形成される
言語使用によって、意味知識の形成が行われます。意味知識を身に付けるために、言語を使う体験が大切です。言語を使うことで、概念形成が行われ、意味知識が形成されていきます。言語使用から意味知識の形成までのプロセスを繰り返すことで、意味知識が定着します。
日本に住んでいる場合、英語を日常的に使用する経験が少ないため、意味知識の形成がしづらいという課題があります。英語の授業では、積極的に言語使用の体験が求められます。言語を使用するためには、動詞の役割や用例を覚えることが大切です。
モノとモノの関係を表現する「動詞」論
動詞はモノとモノを関係づけ、コトを語るために使われます。動詞の場合は、指示する役割がありません。名詞を例に考えると、「犬」など何かを指すことが役割です。名詞は、思考対象や知覚対象、観念対象を持ちますが、動詞には対象がありません。
動詞の役割は函数的(関数的)であると言えます。函数的とは、xとyの値が定まることで、fという座標が決まることです。動詞は、xとyの値が決めることで座標が明らかになるように、モノとモノの関係を表現する役割を持っています。
動詞には、上位概念や下位概念はありません。「もつ」「にぎる」「つかむ」という動詞はそれぞれ、平等に異なる意味を持ちます。概念の上下がないということは、「もつ」と「にぎる」、「つかむ」が別の役割を持っていることを意味しています。「もつ」の上位概念として「にぎる」がある、「つかむ」の下位概念として「にぎる」がある、などの考えは成立しません。「寿司を握る」と「寿司を持つ」は異なる意味であるということです。
動詞の意味知識を形成するには、後ほど解説する動作図式(Action-based Schema)の理解が求められます。
心理学者レフ・ヴィゴツキーは語彙とコアを区別した
ロシアの学者ヴィゴツキーは言葉について、meaningとsenseを分けて解説しています。meaningとは、概念であり、コアのことです。senseは意味と訳されます。ヴィゴツキーは、語というものは文脈から意味(sense)を獲得するとしました。文脈によって変化するので、同じ言葉であっても、前後の流れによって意味が変化します。meaningは安定したものです。概念・コアは、どのような文脈においても変化はしません。動作動詞の概念・コアを説明する方法は2つあります。「図式表象」と「記述表象」に分類されます。
図式表象とは、コア図式(Action-based Schema)で説明する方法です。記述表象では、描写によってコアを説明します。
言語使用例としてのcut使用例11種
今回はcutを事例に言語使用の説明をしていきます。代表的なcutの使用例は以下の11種類に分けられます。
1. I cut my finger (on a knife).
私は指を(ナイフで)切った
2. Let’s cut this cake in five.
このケーキを5つにカットしましょう
3. Will you cut the talking, please?
おしゃべりをやめてくれますか
4. Your words cut me deeply.
あなたの言葉は、私を深く傷つけました
5. The man cut a horse with a whip.
男は鞭で馬を打った
6. The baby cut his first tooth around Christmas.
赤ちゃんは初めての歯がクリスマス頃に出てきた
7. Let’s cut math class.
数学の授業をサボろう
8. They cut costs to a third.
彼らはコストを3分の1に削減した
9. A washing machine cuts housework really down.
洗濯機が家事の手間をとても減らした
10. The editor cut the article.
編集者は記事を削除した
11. I’ll cut you a piece of cake.
一切れケーキを切ってあげましょう
動作図式(Action-based Schema)は言語使用で形成される
言語の使用経験を通して、動作図式を形成していきます。図式とは、一般化されたものです。身体的な経験や知覚を土台として、作られていきます。
図式は、ゲシュタルト的と捉えることが可能です。ゲシュタルトとは、物事の捉え方を、部分の集合として捉えるのではなく、1つのまとまりとして捉えることを意味します。
1. 図式は知覚・身体的経験を基板に生まれる
2. 図式は「ゲシュタルト」であり、図と地の関係がみられる
cutのコアは「切る」
cutのコアは理解しやすいので、引き続き一例として紹介していきます。cutの記述表象は「切る、鋭いもので」です。図式表象では「鋭いもので切る」コアイメージがあります。
cutの代表的動作図式2種
本来、コアは1つでありますが、「切り込み(cutting-in)」と「切り分け(cutting-off)」の図式も覚えておくと、cutの用例がわかりやすくなります。
コア図式の投射を11種類の用例に当てはめる
先に紹介した11の文章の例を、2種類のコア図式に当てはめていきます。cutの使用例は、抽象レベルの違いはありますが、「切り込み」もしくは「切り分け」のどちらかに分類が可能です。先ほど紹介した用例を確認していきます。
切り込み図式
「切り込み」の図式が投射されている用例を確認していきましょう。
1. I cut my finger (on a knife).
私は指を(ナイフで)切った
指を切ったということは、けがを意味します。
4. Your words cut me deeply.
あなたの言葉は、私を深く傷つけました
「深く切り込んできた」ことを意味し、「グサッときた」と批判された状況を表現しています。
5. The man cut a horse with a whip.
男は鞭で馬を打った
鞭で、切り込むように深く打ったという意味でcutが使われています。
6. The baby cut his first tooth around Christmas.
赤ちゃんは初めての歯がクリスマス頃に出てきた
この用例では「歯茎から出る」と図式にできますが、後述する「焦点化」にも当てはまります。
切り分け図式
「切り分け」の図式が投射されている用例を確認していきましょう。
3. Will you cut the talking, please?
おしゃべりをやめてくれますか
「おしゃべりをやめてくれない?」と訳すことからわかるように、会話している状況を切り離すという意味で使われています。
7. Let’s cut math class.
数学の授業をサボろう
数学の授業を、自分たちの行動と切り離す意味で使われている用例です。
8. They cut costs to a third.
彼らはコストを3分の1に削減した
費用を切り離すという意味で使用されています。
9. A washing machine cuts housework really down.
洗濯機が家事の手間をとても減らした
量的なものが少なくなることを意味しますが、「8」のコスト削減する場合と似た用例です。
10. The editor cut the article.
編集者は記事を削除した
記事に掲載する紙面から切り離すことを意味します。
11. I’ll cut you a piece of cake.
一切れケーキを切ってあげましょう
ケーキを切り分ける意味で使用されています。
焦点化(highlighting)の用例
cutの以下の2つの例文には、何をcutとしているか説明が必要です。
6. The baby cut his first tooth around Christmas.
赤ちゃんは初めての歯がクリスマス頃に出てきた
「最初の乳歯」が、歯茎を切り込んだ結果を示しています。歯に切り込みを入れているわけではなく、切り込みを入れた結果に焦点が当たっていることを覚えておきましょう。
11. I’ll cut you a piece of cake.
一切れケーキを切ってあげましょう
「一切れのケーキ」が切り離された結果に焦点が当てられています。「あなた(you)」を切り分けているわけではないことに注意してください。
2つの例文は、切った結果に焦点が当てられています。どこに焦点を当てるかで、用例が異なる事例です。
cutの意味知識は4項目に分類される
cutの動詞力を手に入れるには、コア図式(1)だけではなく、(2)から(4)の役割を身に付けることが必要です。
(1)cutのコア図式とその応用のしかた(典型用例を含む)
(2)cutの動詞スクリプト(WHO, WHAT, HOW)と動詞構文
(3)cutの句動詞
(4)cutの関連動詞のネットワーク
それぞれの役割について確認していきましょう。
構文的可能性4種
cutの構文的可能性は4つに分類されます。
WHO + person
「誰」がカットするのか
WHAT + object
「何」をカットするのか
with WHAT + instrument
「何」をもってカットするのか
HOW + manner
「どのように」カットするのか
4つの様態を覚えることで、cutの構文を表現に使うことができるようになります。
動詞構文について5種
cutの動詞構文は5つ考えられます。
A[+person] cut B [+object]
He decided to cut the cost to a half.
彼はコストを半分に削減することを決めた
A[+person] cut B [+object] with C[+instrument]
John cut a cake with a knife.
ジョンはナイフでケーキを切った
A[+person] cut B [+person] C[+object:outcome]
I’ll cut you a piece of cake.
ケーキを切り分けてあげましょう
A[+instrument] cut Adverb[+manner]
This knife cuts well.
このナイフはよく切れる
A[+object] cut Adverb[+manner]
The cake cuts easily.
ケーキは簡単に切れる
cutの動詞構文とコア図式をセットで覚えることで、動詞力は身に付きます。
形容詞のコロケーションとして相性がいい
構文と関連して、コロケーションも覚えておきましょう。コロケーションとは、「cut + 形容詞」を意味します。
cut + short
I hate to see your career cut short.
あなたがこのように辞めてしまうのを見たくありません
cut + loose
The space shuttle cut an engine loose from its body in order to gain height.
スペースシャトルは、高さを上げるため、エンジンを切り離し、ボディを軽くしました
cut + deep
Some comments cut deeper than others.
いくつかのコメントは、他のコメントよりも辛辣なものでした
cut + open
These two balls are then cut open to reveal the names inside.
これらの2つのボールは、内側の名前を明らかにするために開かれています
句動詞について6種
句動詞に関する動画は別で用意していますので、そちらを参考にしてください。cutの句動詞は代表的な6種類を覚えておきましょう。
・cut out
・cut off
・cut in
・cut down
・cut up
・cut away
関連動詞で表現の幅が広がる
関連動詞を覚えることで、具体的なイメージで語ることもできます。cutを取り巻く動詞として覚えておくことで、表現の幅を広げられるでしょう。
語彙間ネットワーク
切り込む:carve, chop, engrave, slash, etc.
切り離す:detach, dissect, divide, partition, etc.
切り出す:abbreviate, curtail, reduce, shorten, shrink, etc.
切る(けが):injure, stab, wound, etc.
動詞力を構成する4項目
動詞の意味知識に必要なことは、以下の4つにまとめることができます。
(1)コア図式とその応用のしかた(典型用例を含む)
(2)動詞スクリプト(WHO, WHAT, HOWなど)と動詞構文
(3)句動詞
(4)語彙間ネットワーク
特に1と2は、動詞を文のなかで使う基本知識なので重要です。4項目を覚えることで、動詞力が身に付きます。教室で指導する際には、意味知識に欠かせない4つの項目を中心に教えていきましょう。
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