高校の英語教育は新学習指導要領導入によりどう変わるのか
高校では、2022年度から新しい学習指導要領に基づいた授業が始まります。英語の授業では、「読む」「聞く」「話す(やり取り)」「話す(発表)」「書く」の4技能5領域を総合的に充実させることを目標に掲げています。
文部科学省は、新学習指導要領の英語科目について、学習到達目標設定の際に、英語を使って何ができるかを具体的に示す「CAN-DOリスト」を作成するように求めています。新学習指導要領導入により、高校の英語教育はどのように変わっていくのでしょうか。
目次
高校英語教育における学習到達目標設定にはCAN-DOリストを使う
文部科学省は、新学習指導要領の実施にあたり、全ての高校に対して、生徒が身に付ける能力を明確に示した、学習到達目標を設定するよう求めています。高校生の英語能力を明確に示す方法として、英語を使って何ができるかを具体的に示す「CAN-DOリスト」の作成を勧めています。
CAN-DOリストの考え方の基本
CAN-DOリストは、「英語を使って〜することができる」という、「能力記述文」の形で作成します。CAN-DOリストを使って学習到達目標を設定することで、英語の4技能5領域を相互に繋ぎあい、実践的かつ総合的な英語力にまとめあげていく指導が可能になります。
日本の英語教育の現場では、単に時間軸に沿って、「1学期には教科書の何ページから何ページを教える」といった指導にとどまっているケースがあります。具体的なタスク達成を目標としない指導は漫然としたものになりがちで、4技能5領域の習得に結びつきにくいという傾向があります。タスク達成を重要視する視点への転換のポイントとして、文部科学省では次のような説明をしています。
「教科書を教える」のではなく,目標を達成するために「教科書で教える」ことが重要である。
各中・高等学校の外国語教育における「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標設定のための手引き(文部科学省)より
CAN-DOリスト作成の流れとコツ
まずは、CAN-DOリストの設定過程に、高校の中で英語教育に関わる者全員が参加する体制を作ることが大事です。CAN-DOリスト設定のためのメンバーが揃ったら、個々の高校の生徒の現状を踏まえた上で、到達点のイメージを明確化していきます。高校生の現状把握の方法の1つとして、入学時の技能や学習状況について把握できるような調査をすることが挙げられます。
生徒の現状を把握したら、全ての生徒をカバーできる、工夫を組み込んだ指導方法や評価の方法を定めていきます。目標や平均を超える伸びが期待できる生徒にも、目標や平均に届かない生徒にも、それぞれの見通しや学習意欲が保てるようにしましょう。生徒の現状、目標とする生徒像や能力、それらを踏まえた、新学習指導要領に沿った指導の方法や評価の方法が決まったら、学習到達目標の設定に入ります。まず、卒業時の学習到達目標を設定し、その後、学年ごとの学習到達目標を設定します。学年ごとの学習到達目標の設定の際に、CAN-DOリストを作成します。
CAN-DOリストを作る際には、CEFRや、外部の検定試験を実施する団体が作ったCAN-DOリストを参考にすることが勧められますが、事前に調査した各学校の生徒の実態と離れないよう、細かい調整や、適切な時期ごとの見直しをしていくことが大事です。
文部科学省では、CAN-DOリストの記述方法について、以下のように説明しています。
能力記述文は,以下の要件を備えていることが望ましい。
・ある言語の具体的な使用場面における言語活動を表している。
・学習活動の一環として行う言語活動であり,各学校が適切な評価方法を用いて評価できる。
各中・高等学校の外国語教育における「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標設定のための手引き(文部科学省)より
CAN-DOリストの具体的内容については、中学校と高校の新しい学習指導要領に書かれている、英語使用場面や英語の働きを参考にします。高等学校では、中学校の要素を複数、有機的に組み合わせて使うこともできます。
[言語の使用場面の例]
- 特有の表現がよく使われる場面
自己紹介、手紙や電子メールでのやりとりなど - 生徒の身近な暮らしや社会での暮らしにかかわる場面
学校での学習や活動など - 多様な手段を通じて情報などを得る場面
本、新聞、雑誌などを読むことなど
[言語の働きの例]
- コミュニケーションを円滑にする
呼びかける、相づちを打つ、聞き直す、繰り返す、言い換える、話題を発展させる、話題を変えるなど - 気持ちを伝える
礼を言う、苦情を言う、褒める、謝る、感謝する、望む、驚く、心配するなど - 情報を伝える
発表する、説明する、報告する、描写する、理由を述べる、要約する、訂正するなど - 考えや意図を伝える
約束する、意見を言う、承諾する、断る、申し出る、賛成する、反対する、主張する、推論する、仮定するなど - 相手の行動を促す
質問する、招待する、依頼する、誘う、許可する、助言する、命令する、注意を引くなど
学年ごとのCAN-DOリストは細かくしすぎないことも大事です。あまり細かくしてしまうと汎用性が損なわれ、調整や評価がしにくくなります。CAN-DOリストで記述する、こなすべきタスクの具体性は、学習指導要領に書かれているのと同じ程度にしておくとよいでしょう。
高校生の英語力の現状と今後の目標
文部科学省では、高校生の英語力の目標値を設定しています。過去の値からみて、高校生の英語力はどのように推移しているのでしょうか。課題や今後の目標を確認していきましょう。
文部科学省は、第2期教育振興基本計画(2013年度〜2017年度)において、高校生の高等学校卒業時の英語力の到達目標として、「CEFRのA2レベル以上相当を達成した生徒が50%以上」を掲げています。2017年度までの調査では、英語4技能のいずれにおいても、高等学校卒業時にCEFRのA2レベル以上を達成している生徒の割合は50%に達していません。2015年度の調査と2017年度の調査での、高等学校卒業時にCEFRのA2レベル以上を達成している生徒の割合を比較したのが下のグラフです。
出典:平成29年度 英語力調査結果(中学3年生・高校3年生)の概要(文部科学省)
上のグラフを見ると、技能間の値にばらつきが見られ、「話すこと」「書くこと」が低い値を示しています。2018年現在、高等学校の英語教育は、文部科学省の掲げる到達目標を満たすことができていません。今後、高等学校の英語教育においては4技能5領域すべてについて英語力の底上げが必要で、特に「話すこと」「書くこと」といったアウトプットの能力を上げることが求められると言えます。
新学習指導要領の高校英語教育における目標とは
文部科学省では、新しい学習指導要領の解説において、高等学校の英語教育の目標について以下のように説明しています。
外国語科の目標は,「情報や考えなどを的確に理解したり適切に表現したり伝え合った りするコミュニケーションを図る資質・能力」を育成することである。このためには……「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」のそれぞれに関わる外国語特有の資質・能力を育成する必要があり……
高等学校学習指導要領解説外国語編・英語編(文部科学省)より
「知識及び技能」とは、文法や語彙などの身に付けた知識を適切に使いこなせる力のことです。「思考力,判断力,表現力等」とは、TPOに応じたコミュニケーションを行うための力のことです。「学びに向かう力,人間性等」とは、相手の文化を理解および配慮し、自ら英語を使ってコミュニケーションしようとする態度のことです。
高校の英語教育の目標を達成するには、新学習指導要領やCAN-DOリストの背景にある、目的意識を理解して指導にあたることが大切です。
関連サイト
各中・高等学校の外国語教育における「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標設定のための手引き(2013年3月) – 文部科学省
平成29年度英語力調査結果(高校3年生)の概要 – 文部科学省
平成27年度 英語力調査結果(高校3年生)の速報(概要) – 文部科学省
高等学校学習指導要領解説 外国語編・英語編 – 文部科学省
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