中学校、高等学校における英語教育の問題点と改善方法まとめ
中学校の英語教育では、主に「読む」「聞く」が重視されてきました。高校入試においても、ほとんどの学校で重視されるのは「読むこと」と「聞くこと」です。多くの英語の授業は、読解やリスニングを中心に展開されてきました。文部科学省は2014年にグローバル化に対応した英語教育改革実施計画を発表し、従来の「読む」「聞く」から「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能をバランスよく教育していく方針に切り替えました。
2020年の大学入試改革を控える中、中学校や高等学校ではどのような問題を抱えているのでしょうか?
目次
受験英語に偏った教育
日本の英語教育全体に言えることではありますが、英語教育が受験英語に少し偏っている傾向にあります。あまりに英語教育が受験英語に偏ってしまうと、「コミュニケーションツールとしての英語」というよりも、「英語は受験で使うもの」というイメージを強く持ってしまいます。
中学2年生を対象とした「なぜ英語の勉強が大切か?」という質問では、52.3%が「高校等の受験で必要だから」と回答しています。このままでは、受験を終えた途端に英語を勉強する目的を失ってしまいます。 加えて、英語教育が受験英語に偏ってしまうと、受験用の堅苦しい英語ばかりが身に付いてしまう可能性があります。
出典:児童生徒の英語に対する意識(文部科学省)
例えば、受験英語では疑問文は倒置形にしなければ減点ですが、実際の英語では語尾を上げ調子にすることで疑問文を作ったりします。 例えば、授業ではDo you have a pen?という文章が正しい文章として紹介されますが、実際はYou have a pen? だけで済ませてしまうことも多々あります。
受験英語への偏りをなくすためには、生徒に生の英語を触れさせることが、1つの改善策となるでしょう。例えば、海外ドラマを英語で視聴したり、洋楽を聞いたり、同年代の英語ネイティブと会話する機会を持たせたりすることで、日常会話ではどのように英語が使われているのかを、生徒は知ることができます。
4技能がバランスよく教育されていない
日本の英語教育の問題点として頻繁に取り上げられる点は、英語の4技能のバランスが悪いことです。4技能のバランスが悪ければ、生徒はしっかりとした「英語ができる」という自信を持つことは難しいでしょう。
文部科学省が、中学校3年生およそ5万7,000人に対して行った英語のテストによれば、「読む」「聞く」「話す」「書く」のそれぞれの平均点は「話す」が100点中53.0点で最も高く、「聞く」が50.9点、「読む」が46.3点と続き、「書く」が26.8点と最も低い結果になりました。テスト結果を見る限りでは「書く」技能の点数が最も低迷しているなどリーディング、およびライティングに取り組む重要性が認められるのも事実です。しかしながら、言語の性質上、偏った学習は言葉を話せるようになるという実感が得にくく、また実際に英語を話す能力に結びつけにくくもなっているといえます。
出典:英語力改善のための英語力調査事業(中学生)報告書(文部科学省)
中学校の英語の授業において、4技能それぞれに割かれている指導時間を見ると、「読む活動」によく時間を使うと回答した者が最も多く、81.6%でした。 また高等学校の英語教員の、「授業における言語活動の指導に対する意識」を見てみると、「スピーチやプレゼンテーションを授業中に行っていますか」「ディベートやティスカッションを行っていますか」という質問に対しては、それぞれ34.8%、10.6%と少ない結果で、スピーキングに対する教育が疎かになっていると考えられます。
リーディングやリスニングに対して、スピーキングやライティングが蔑ろにされてしまうのは、受験におけるリーディングパートの配点の高さが一因と考えられます。 しかし、新・学習指導要領では4技能をバランスよく習得することが明記されており、これから改善されていくことが予想されます。
加えて、「話すこと」のテストスコアが高いほど、「英語の学習が好きだ」と回答した生徒の割合が高いことも明らかになっています。これからは、文法やリーディングを中心とした授業から、スピーキングやライティングを含めた4技能をバランスよく教える授業にシフトすることが求められます。例えば、学内英語プレゼンテーションコンテストを開催したり、ALTを活用したりすることで、生徒が積極的に英語を話せる環境を作ることができます。
和訳に偏った読解演習
中学校、高等学校の英語の授業では、「読む活動」に多くの時間が使われますが、多くの授業では和訳を中心とした読解演習が行われます。英語を正しく理解するためには、和訳は大切です。しかし、和訳に偏ってしまうと英語だけが持つイメージをうまくつかむことができません。
「apple」のように、ぴったりと対応する日本語表現がある英語表現は和訳でもよいですが、多くの動詞などはイメージで捉えなければ、本当の意味でその動詞を使いこなすことはできません。 「run」は「走る」の他に「流れる」、「うまく経営する」のように訳すことができますが、1つ1つの意味を覚えるよりも、runの「素早く滑らかに動く」というイメージを掴むことが重要です。
イメージレベルまで英語表現を落とし込むためには、多くの文章に触れるのが効果的です。語彙制限がある英語小説などを多読することによって、自然とその英語表現が持つ「感覚」を掴めるようになります。
英語能力試験で好成績を収めていたり、海外留学を経験している教員が少ない
中学校、高等学校における英語教育の問題点は、英語教員の英語レベルが少し低いことも挙げられます。文部科学省は、英検準1級程度以上(CERF B2レベル以上)を取得している教員を、全体の50%まで引き上げようとしていますが、2016年度のデータでは、中学校の英語担当教員のうち、英検準1級相当以上の英語スキルを有している教員は、全体の32%という結果になっています。(参照:文部科学省「平成28年度 英語教育実施状況調査(中学校)の結果」)
また、約半数の教員は海外留学経験がなく、1年以上の留学経験がある教員は全体の9.1%という結果でした。
出典:平成28年度 英語教育実施状況調査(中学校)の結果(文部科学省)
高等学校の英語教員の英語レベルについては、英検準1級程度の英語レベルを取得している教員が62%程度いるという結果になりました。この数字は、およそ5人に3人が英検準1級程度の英語力を持っているということですが、逆に言えば5人に2人は英検準1級程度の英語力がない教員であるということでもあります。また、全体の約半数の英語教員は、海外留学経験がないという結果になりました。日頃から自己研鑽を欠かさず、継続的に英語能力試験を受験するなどして、英語力を向上させるとよいでしょう。
外国語指導助手(ALT)が有効に活用されていない
英語を教える教員という点では、外国語指導助手(ALT)のネイティブスピーカーが有効に活用されていないことも、中学校、高等学校の英語教育の問題点として挙げられます。
ALTを活用することで、生きた英語を生徒に教えられるだけでなく、異文化交流の点でも非常に効果的です。ALTの数は、中学校で7,722人います。全国の中学生数はおよそ333万人ですので、ALT1人当たり432人の生徒を指導しなければならないことになります。また、外国語授業におけるALTの活用率が22.1%と低い数字になっていますので、生の英語に触れる機会が少ないことが予想されます。
高等学校では、中学校よりもALTの活用に積極的ではありません。高等学校におけるALTの数は2,842人、高校生はおよそ330万人いますので、ALT1人当たり1,162人の生徒を指導しなければならないことになります。ALTの活用率も9.7%と低くなっています。
生徒1人ひとりが、講師とマンツーマンで会話できるオンライン英会話などを活用することで、英語に触れる機会を増やすことも1つの手と言えます。
関連サイト
大学入試改革実行プラン – 文部科学省
各都道府県の英語教育改善プラン – 文部科学省
英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究事業 – 文部科学省
penguin readers – Pearson PLC
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