英語の発音学習には、IPAチャートと呼ばれる表を用いると良いとされています。
IPAチャートは国際音声記号に指定されている発音記号を性質別に整理した表です。
IPAチャートを用いることで、各発音記号の発音方法や他の発音記号との細かい違いを把握することができます。
IPAチャートとは
IPAチャートは、発音記号を音の性質によって「子音」や「母音」などとグループ分けをして、わかりやすく並べた表です。
IPAは「International Phonetic Alphabet」の略で、国際音声学会が定めた音声記号を指します。
IPAチャートはあらゆる言語の音声を文字で表記することを目的として作られたため、英語だけではなくフランス語や中国語、アラビア語などの言語の音声にも対応できるとされています。
ただし、日本国内で出版されている英和辞典や英語学習の参考書は 「Jones式発音記号」に準拠していることが多いといわれています。
Jones式発音記号はIPAを簡略化した日本独自の発音記号で、IPAの発音記号とはやや異なります。
IPAチャートの使い方
IPAチャートは主に、子音、母音、その他の記号、補助記号、超分節要素に分けることができます。英語の音声に大きく関わる部分は子音、母音、超分節要素です。
国際音声学会の公式ウェブサイトで図表が確認できます。
IPA: pulmonic consonants
IPA: vowels
IPA: suprasegmentals
子音(consonants)の表の使い方
IPAチャートの 「Consonants(Pulmonics)」と示された表が子音の一覧になります。英語の音声で用いられる子音の発音記号が示されています。
IPAチャートを用いることで、各子音がどのように発音されるかがわかります。発音方法における、子音同士の共通点も見つけることができます。
表の右側に行くほど、口内の奥部で発音される音であることを示します。
例えば、/p/ と /b/ は最も左側に位置しているため、口の手前で発声される音であるはずです。実際に、/p/ と /b/ は両唇音(bilabial)と呼ばれ、唇を用いて発音されます。
/ŋ/ はIPAチャートの子音の表で、比較的右側に表記されている音です。/ŋ/ は、綴りで king(/kɪŋ/)などの「ng」に対応される音です。実際に /ŋ/ は軟口蓋音(velar)と呼ばれ、喉元で発音される音です。
さらに、表の上側に行くほど、空気を強く閉じ込めて発音される音であることを示します。
例えば、/m/ は子音の表の上に近い場所に位置している音です。/m/ は鼻音(nasal)と呼ばれ、口内の空気を完全に閉鎖して、鼻を用いて発音されます。
なお /p/ と /b/ のように、表の各枠内に2つの発音記号が示されている場合、右側の発音記号が有声音(a voinced consonant)、左側の発音記号が無声音(an unvoiced consonant)であることを示します。
有声音は声帯を振動させて発声される音です。有声音を発声する際に、喉に手を当ててみると、振動を感じることができるはずです。対して、無声音は声帯を振動させずに発声される音です。
母音(vowels)の表の使い方
IPAチャートの「Vowels」と示された表が母音の一覧になります。英語の音声で用いられる母音が表になって示されています。
IPAチャートを用いれば、母音の発音方法がわかる他、母音同士の細かい発音方法の違いに気が付くことができます。
母音の表の右側に行くほど、舌の最も高い位置が口内の奥側で発音される音であることを示します。反対に、左側にある音は舌の最も高い位置が口の手前で発音される音だといえます。
例えば、/i/ は母音の表の中で、最も左側に位置している音です。/i/ は左側にあるので、舌の最も位置を口の手前にして発音されるはずです。
実際に、/i/ の発音は前舌母音(front)のひとつと呼ばれ、発音する際は舌先を口内上部まで近づけて発声されます。
さらに、母音の表の上側に行くほど、舌を上部に置いて、口を閉じて発音される音であることを示します。
例えば、/ɔ/ は母音の表の中で比較的下に位置しています。audience(/ˈɔː.di.əns/)などに用いられる /ɔ/ は半広母音(open-mid)のひとつとされています。/ɔ/ と発音する際には、あごを下げて、舌を口内下部に少し押し付けるように置きます。
なお、/ʌ/ や /ɔ/ といった、表の各枠内に2つの発音記号が示されている場合、右側の発音記号が円唇母音(a rounded vowel)で、左側の発音記号が非円唇母音(an unrounded vowel)を示します。
円唇母音とは、唇の丸みを伴って発音される音です。それに対して、非円唇母音は唇の丸みを伴わずに発音される音をいいます。
超分節要素(suprasegmentals)の表の使い方
IPAチャートの「Suprasegmentals」で示された表が超分節要素の一覧になります。超分節要素とは、発音記号に付加される、強調や音節の分かれ目などを示す記号のことです。
「ˈ」は第一ストレス(primary stress)を意味する記号です。英単語内で最も強く発音されたい部分に第一ストレスが置かれます。「ˌ」は第二ストレス(secondary stress)を意味する記号です。それぞれ第一強勢、第二強勢とも呼ばれています。
「ː」は長(ちょう、long)と呼ばれる記号です。直前に置かれた発音記号を長く発音するといった意味があります。
「.」は音節境界(syllable break)と呼ばれる記号です。「.」が単語内の発音記号の間に置かれることで、音節の切れ目を表します。
IPAチャートを使いこなせると何が良いか
正確な発音の仕方を体系的に理解できる
子音の場合、表からは「口内で発音される部分」と「発音する際の空気の閉じ込め具合」がわかります。母音の場合、表からは「発音する際の舌の用い方」がわかります。
IPAチャートがないと、感覚的にしか発音を理解できません。しかし IPAチャートがあれば、いつでも表を見直すことで発音の仕方を体系的に復習することができます。
例えば /ʃ/ は子音の表の「真ん中下」に位置している母音です。したがって /ʃ/ を発音する際は、口内の真ん中付近で、空気をさほど閉じ込めず発声される、と見当をつけることができます。
他の発音記号との違いが一目でわかる
IPAチャートを参照することで、音の性質の違いを理解することができます。
例えば、IPAチャートの子音の表を見ると、/m/ と /n/ はどちらも鼻音のひとつとわかります。しかし /m/ と /n/ では「発声される部分」のみが異なると知ることができます。
/m/ は両唇音(bilabial)と呼ばれ、唇を用いて発声されます。一方、/n/ は歯茎音(alveolar consonant)と呼ばれ、上の歯茎に舌の先端を接触させて発音される音です。