英語の中には発音が「強形」と「弱形」の2通りに分けられる単語があります。単語レベルの学習では《強形》が標準的な発音として把握されます。実際の英会話では《弱形》の方が多用されます。
強形と弱形の違いは些細ではありますが、強形・弱形を意識できるようになると英語の語感・リズム感がよく理解できるようになります。リスニング力もスピーキング力もネイティブスピーカーに近づきます。
英語の「強形」と「弱形」の予備知識
英語はリズムやイントネーション(抑揚)を活用して表現する言語です。文章の中で大事な部分は強く印象的に発音し、さほど大事でもない部分は相対的に弱く発音します。
そうすると、文章の構成上は必須だけれど文意に大した影響を与えないような語は、気持ち弱めて表現されます。相対的に弱められることで他の語が際立つわけです。
基本は強形
英語の発音における「強形」は、単語を単独で発音する場合の発音であり、単語の発音としては標準的な方の発音です。
「強>普通>弱」という3区分があるわけではありません。「普通>弱」という対比の「普通」を、「弱」との対比で「強」と表現しているに過ぎません。つまり強形は普通の発音です。
文章中で文意を左右する単語は基本的に強形で発音されます。名詞、動詞、形容詞、疑問詞、副詞などは強形(普通の発音)です。
機能語は弱形になりやすい
英語の発音における「弱形」は、アクセントが置かれない弱く曖昧な発音です。文章表現としては不可欠な要素なんだけど、文意の上で大した意味を持たないような機能語が、弱形で発音されます。
機能語である be動詞、接続詞、冠詞、前置詞、人称代名詞などが弱形になる語と捉えてしまってよいでしょう。
弱形の特徴
単語が弱形になる場合の特徴的な傾向としては、 /a/、/æ/、/ʌ/ が軒並み /ə/ に変わる、および、語尾を伸ばさない、といった点が挙げられます。
総じて、弱形の発音は、ちょっと気合いを入れて発音する必要がある要素を省いてしまう傾向があります。たとえば him は弱形では h が省かれますが、h の音を作るのは口や舌が億劫です。弱形は省エネといえば省エネです。
弱形が文章のリズムを生み出している
英語の弱形は英語特有の抑揚を生みだす重要な要素です。
文章中のすべての語をクッキリを強形で発音すると、英文はぷつぷつと単語ごとが切れてしまって、流暢さの損なわれた文章に聞こえます。
もし「日本語を話す西洋人のマネをしてください」と言われたら、多くの人は「わた^ーしはー、アメェリカから、き^まーした」というような大げさな抑揚が入り交じったな言い方を再現しようとするでしょう。
これはもちろんステレオタイプ的な見方であり、褒められたものではありませんが、他方「西欧言語は抑揚を重視している」という事実を示唆するものでもあります。
日本語は抑揚の少ない、あるいは抑揚を活用しない言語です。それだから日本人の話す英語は「単調な発音」とも捉えられがちです。
弱形の要領を把握すると、聞き逃した部分が聞き逃しでない(弱形だった)ことが分かり、結果的に聞き取り力も向上します。スピーキング面でも、英語本来の自然な発音に近づき、こなれた話し方になり、話し手自身も肩の力を抜いた話し方ができるようになります。
強形も必要、使いドコロもある
強形と弱形の両方ある語は、文章表現上はだいたい弱形で述べられます。強形だけ把握せず弱形も把握しましょう。
では弱形だけ覚えておけばよいのでは? というと、一概にそうとも言えません。
文章中で弱形を取る語は、文章の前後関係から相対的に弱く発音されているわけで、そもそも弱形の発音であるわけではありません。強形(基本)と弱形(応用)の関係です。
あくまでも強形が単語の標準的な発音です。
文章中でも、特に強調する意味であえて強形で用いる場合もあります。弱形になる単語であっても、気持ちを込めたいときは積極的に強形が使われます。
弱形で発音される主な品詞と単語例
人称代名詞
人称代名詞は文中で使われる頻度が高く、大きな意味を持たないので弱形になります。
me
- 強形:/míː/
- 弱形:/mi/
me の弱形は、語尾を伸ばさずに /mi/ のように発音します。
you
- 強形:/juː/
- 弱形:/jʊ/
you の弱形は、語尾を伸ばさずに /jʊ/ のように発音します。
your
- 強形: /jɔː/
- 弱形:/jɚ/
your の弱形は、語尾を伸ばさずに/jɚ/のように発音します。
he
- 強形:/híː/
- 弱形:/i/
he の弱形は、h が脱落し /i/ のように発音します。元の発音と大きく異なるので、しっかりと確認しておきましょう。
his
- 強形:/híz/
- 弱形:/ɪz/
his の弱形は、hが脱落し /iz/ のように発音します。特に、is と発音が同じなので混乱しやすい弱形です。文法的にも誤りですが、I like his spirit. が I like is spirit. に聞こえたりします。
him
- 強形:/hím/
- 弱形:/ɪm/
him の弱形は、h が脱落し /im/ のように発音します。
she
- 強形:/ʃíː/
- 弱形:/ʃi/
she の弱形は、語尾を伸ばさずに /ʃi/ のように発音します。
her
- 強形:/hˈəː/
- 弱形:/ɚ/
her の弱形は、語尾の r を強調せずに /hˈəː/、もしくは /ɚ/ のように発音します。特に、/ɚ/ と発音されてしまうと、her の弱形と認識していなければ聞き取るのは非常に難しいです。
we
- 強形:/wíː/
- 弱形: /wi/
we の弱形は、語尾を伸ばさずに短く /wi/ と発音します。
our
- 強形:/ɑː/
- 弱形: /ɑɚ/
our の弱形は、語尾を伸ばさずに短く、/ɑɚ/ と発音します。
us
- /ˈʌs/
- /əs/
us は、/ʌ/ を /ə/ に変えることで弱形になります。かなり曖昧な /ə/ の音を出します。
them
- /ðém/
- /ðəm/
them は、/e/ を /ə/ に変えることで弱形になります。強形では /e/ を発音しますが、弱形では曖昧な /ə/ の音を出します。
be動詞
be動詞は、文と文をつなぎ調子を整える役割があり、be動詞自体に意味はないので弱形になります。
be
- /bíː/ → /bi/
be の弱形は、語尾を伸ばさずに /bi/ と発音します。非常に短いので聞き逃さないように注意が必要です。
am
- /ˈæm/ → /m/
am の弱形は、I’m のような短縮形からもわかるように、/m/ だけ発音されます。
is
- /íz/ → /ɪz/
is の弱形は、アクセントを付けず /ɪz/ と発音します。his の弱形と同じなので注意してください。
are
- /ὰɚ/ → /ɚ/
are の弱形は、アクセントを付けず短く /ɚ/ と発音します。非常に短いので、慣れないうちは聞き逃してしまいがちです。
was
- /wάz/ → /wəz/
was の弱形は、アクセントがなく、曖昧に発音される /wəz/ です。
were
- /wə/ → /wɚ/
were は、/ə/ が /ɚ/ に変化することで弱形になります。曖昧に発音されます。
been
- /bɪn/ → /bən/
been は、/ɪ/ が /ə/ に変化することで弱形になります。曖昧な /ə/ を意識しましょう。
助動詞
助動詞は I’ve や she’ll など、短縮形を作ることからも分かるように、省略されやすい傾向があります。実際の会話では弱形で用いられます。
do
- /dúː/ → /du/、/dʊ/
do の弱形は、母音の前は /du/、子音の前は /dʊ/ になります。
does
- /dˈʌz/ → /dəz/
doesは、/ʌ/ を /ə/ と曖昧に発音すれば弱形になります。does は弱形になっても大きく発音が変わるわけではないので、聞き逃すことは少ないでしょう。
have
- /hˈæv/ → /həv/、/v/
have の弱形は /həv/、/v/ の2通りあります。後者は I’ve などの省略形を考えれば分かりやすいはずです。/v/ と発音された場合、非常に短く聞き取りづらいので注意が必要です。
has
- /hˈæz/ → /həz/、/z/、/s/
hasの弱形は主に3通りあります。he’s (he has の省略形)などを考えれば分かりやすいはずです。/z/、/s/ と発音された場合、非常に短く聞き取りづらいので注意が必要です。
had
- /hˈæd/ → /həd/、/d/
hadの弱形は /həd/、/d/ の2通りあります。I’d (I had の省略形)などを考えれば分かりやすいはずです。/d/ と発音された場合、非常に短く聞き取りづらいので注意が必要です。
can
- /k`æn/ → /k(ə)n/
can の弱形は、/æ/ がはっきりと発音されないので、しばしば /kn/ のような発音になります。
will
- /wíl/ → /əl/、/l/
will の弱形は /əl/、/l/ の2通りあります。I’ll (I will の省略形)などの省略形を考えれば分かりやすいはずです。/l/ と発音された場合、非常に短く聞き取りづらいので注意が必要です。
must
- /mˈʌst/ → /məs/
must の弱形は、/ʌ/ がはっきりと発音されず、最後の t が脱落します。助動詞なので間違えることはあまりないかもしれませんが、mass や math と聞き間違えないよう注意が必要です。
shall
- /ʃˈæl/ → /ʃəl/
shall の弱形は、/æ/ が曖昧な /ə/ の音に変化します。発音はほぼ変わらないので聞き間違えることは少ないでしょう。
could
- /kˈʊd/ → /kəd/
could の弱形は、/ʊ/ が曖昧な /ə/ の音に変化します。あまり大きな変化ではないので聞き間違えることは少ないでしょう。
should
- /ʃˈʊd/ → /ʃəd/
should の弱形は、/ʊ/ が曖昧な/ə/の音に変化します。shall や could 同様大きな変化ではないので聞き間違えることは少ないでしょう。
would
- /wˈʊd/ → /əd/、/d/
would の弱形は、/əd/、/d/ の2通りです。I’d (I would の省略形)などを考えれば分かりやすいはずです。/d/ と発音された場合、非常に短く聞き取りづらいので注意が必要です。
前置詞
使用頻度の高い前置詞は、頻繁に弱形で用いられます。前置詞は綴りが短いものが多く、特に聞き取りづらいので注意が必要です。
at
- /ˈæt/ → /ət/
at の弱形は、/ə/ が曖昧に発音され、しばしば t しか聞き取れないかもしれません。
for
- /fə/ → /fɚ/
for の弱形は、短く /fɚ/ と発音されます。
from
from /frάm/ → /frəm/
from の弱形は、/ά/ が /ə/ に変化します。前置詞の弱形の中では聞き取りやすい部類です。
of
- /άv/、/ˈʌv/ → /v/、/ə/
of の弱形は、/v/、/ə/の2通りありますが、どちらも非常に聞き取りづらいです。/v/、/ə/ の音が聞き取れたとしても、それが of だと認識できなければいけません。of の弱形は特に注意しましょう。
to
- /túː/ → /tʊ/、/tə/、/tu/
to の弱形は /tʊ/、/tə/、/tu/ の3通りあります。どの発音も最初の /t/ の音だけは変わらないので、聞き逃さないようにしましょう。
接続詞
前置詞と同様、使用頻度が高く綴りが短い接続詞は頻繁に弱形で用いられます。
and
- /ˈænd/ → /ən/、/n/
and の弱形は、/ən/、/n/ の2通りです。/ən/ は冠詞の an の弱形と同じ発音ですので注意が必要です。/n/ と発音された場合、非常に短く聞き取りづらいので同様に注意が必要です。
but
- /bˈʌt/ → /bət/
but は、/ʌ/ が /ə/ に変わると弱形になります。文脈的に間違えることは少ないと思いますが、bat /bˈæt/ と発音が近いので注意が必要です。
than
- /ðˈæn/ → /ðən/
than は、/æ/ が /ə/ に変わると弱形になります。それ以外の箇所は強形と変わらないので、聞き間違える心配はあまりないでしょう。
that
- /ðˈæt/ → /ðət/
that は、/æ/ が /ə/ に変わると弱形になります。それ以外の箇所は強形と変わらないので、聞き間違える心配はあまりないでしょう。