英語では、文章中の2つの単語が連結して発音が変わる現象(いわゆるリエゾン)がよく生じます。リエゾンは、英語では linking(リンキング)という呼び方のほうが一般的です。
リエゾン(リンキング)は、英語の文章レベルの発音に関わる大事な要素です。大まかな要領は早々に把握してしまいましょう。
リエゾン(リンキング)とは
一般的に英語のリエゾンと呼ばれている発音現象は、基本的には「リンキング」の通称と捉えてよいでしょう。
あるいは、リダクション(reduction)やフラッピング(flapping)など現象も含めた、英語の発音上の特徴的変化を総称する言い方と捉える見方もあるかもしれません。
リエゾンよりはリンキングと呼ぶ方が何かと無難
一般的に「英語のリエゾン」のように表現される場合の「リエゾン」は、だいたい「文章中で特定の単語の末尾の音と直後の単語の先頭の音が連結して違う発音になる」というような現象でしょう。これが英語では一般的に linking(リンキング)と呼ばれます。
もともとリエゾン(liaison)はフランス語で「連結」を意味する語です。音声学の用語としては、特にフランス語における音声上の特性を指します。
英語の音声の連結現象を指してリエゾンと呼ぶ言い方は、英語圏でも一応あるにはありますが、標準的というわけではありません。linking と呼んだ方が無難です。
リンキング・リダクション・フラッピング まで把握すると心強い
リンキングは音の連結による変化を指します。in front of ~ の t と o が連結して /tə/ のような音に変化する、といった例が該当します。
リダクションは音が脱落する現象です。発音されるはずの音がほぼ聞こえないくらい微かな音にされます。全く発音されないわけではないのですが、不慣れなうちは聞き逃します。
英語の音声の特徴的な要素としては flapping(フラッピング)も重要です。フラッピングは音素そのものが変化する現象です。併せて把握しておきましょう。
リンキングの学習方法とコツと注意点
発音の練習は、自分の口を動かして体でコツをつかむ練習が大切ですが、リンキングに関しては「知識を得る」ことと「聞く場数を踏む」ことが重要になってきます。
リンキングは自分が話す分には必須でもない
リンキングを織り交ぜた発話は非常にコナレた印象を醸します。リンキングが伴わない発話は片言の印象を伴う場合があるかもしれません。
しかしながら、リンキングが伴わないということが意思疎通を妨げることはありません。リンキングが生じなくても相手には正しく伝わります。
丁寧にゆっくり話せば自ずとリンキングは消失します。はじめはゆっくり丁寧に話す方を重視した方が無難です。
リンキング(の知識)はリスニング面で半ば必須
リンキングはスピーキングよりも、むしろ聞き取り(リスニング)能力を左右します。
相手の話す流暢な英文を正しく文章として理解するには、リンキングによって連結した音を単語単語に分解しなくてはなりません。これは知識と経験があれば可能な部類ですが、逆にいえば、知識と経験がなければ難しい部分ということでもあります。
リンキング学習はリスニングの場数を踏むに限る
リンキングが発生する場面・パターン数は膨大です。典型的パターンを通じて基礎的な要領は把握できても、それで全てのパターンを網羅できるわけではありません。
どういうパターンでどういうリンキングが生じ、どんな風に聞こえるのか。この手の知識をはぐくむには、実例にできるだけ多く接して経験を積む他ありません。
さいわい、今の世の中はウェブ上に英語圏のニュースソースや動画コンテンツが豊富にあります。リンキングを聞き逃さないように意識を傾けつつ、多くの音声教材に接しましょう。
我流リンキングは危険
不正確なリンキングもどきは相手の理解を妨げるので控えましょう。
リンキングの主なパターン
リンキングの典型的なパターンは、総括しにくい部分はありますが、個々の事例を挙げることは比較的容易です。そして具体的事例から「ああそういうやつね」と勘所をつかむことも容易です。
子音と母音がつながって変化するパターン
前方の語の語末と続く語の先頭が「子音・母音」という並びになる場合、ローマ字的に「子音+母音」で構成された音のように変化します。
t+母音
- front of :/frʌnt(ə)v/ 「フロンタブ」のような音になります。/ə/ は曖昧な音でカタカナ表記ではアともオとも表記されます。
- lot of :/lάt(ə)v/ で「ラダ」「ラダブ」のようになります。
- cut out :「カッタウト」/kʌtάʊt/ のようになります。
out は綴りは out ですが発音は /άʊt/ とア系の音なので、リンキングした音もタ( /tά/)のような音になります。
d+母音
- good afternoon:「グダフタヌーン」/gʊdæftɚnúːn/ のようになります。
- kind of :「カインダブ」/kάɪnd(ə)v/ のようになります。f の音が限りなく弱まり「カインダ」のように聞こえたりもします。
- need it :「ニーディッド」/níːdɪt/ のようになります。
k+母音
- pick up:「ピカップ」/píkʌp/ のような音になります。
- talk about:「トーカバウト」/tˈɔːkəbάʊt/ のようになります。
- shake it:「シェイキット」/ʃéɪkɪt/ のようになります。
l+母音
- chill out:「チラウト」/tʃílάʊt/ のようになります。
- tell us:「テラス」/téləs/ のようになります。
- call on:「コーロン」/kˈɔːlɑn/ のようになります。
n+母音
- soon as:as soon as のイディオムにおいて「アズスーナズ」/æzsúːnəz/ のように発音されます。
- dine out:「ダインナウト」/dάɪnάʊt/ のようになります。
- line of:「ラインノブ」/lάɪn(ə)v/ のようになります。
r+母音
- far away:「ファーラウェイ」/fάɚəˈweɪ/ のような音になります。
- bear on:「ベアロン」/béɚɑn/ のようになります。
- despair of:「ディスペアロブ」/dɪspéɚ(ə)v/ のようになります。
子音と子音がつながって変化するパターン
子音と子音がリンキングする場合もあります。
子音+子音がリンキングする例は you を含む場合が多く、会話では特に発生頻度高めです。
k+y
- thank you:「センキュー」/θˈæŋkjʊ/ のようになります。
- like you:「ライキュー」/άɪlάɪkjʊ/ のようになります。likeは綴り上はeで終わっていますが、発音上はkで終わるので、kとyがリエゾンします。
- kick you:「キッキュー」/kíkjʊ/ のようになります。
t+y
- want you:「ウァンチュー」/wάntjʊ/ のようになります。
- bet you:「ベッチュー」/bétjʊ/ のようになります。
- get you:「ゲッチュー」/gétjʊ/のようになります。
d+y
- would you:「ウッジュー」/wˈʊdjʊ/ のようになります。
- need you:「ニージュー」/níːdjʊ/ のようになります。
- did you:「ディジュー」/dídjʊ/ のようになります。
p+y
- keep you:「キーピュー」/kíːpjʊ/ のようになります。
- hope you:「ホーピュー」/hóʊpjʊ/ のようになります。
- skip you:「スキッピュー」/skípjʊ/ のようになります。
ch+y
- catch you:「キャッチュー」/kˈætʃjʊ/ のようになります。
- fetch you:「フェッチュー」/fétʃjʊ/ のようになります。
- approach you:「アプローチュー」/əpróʊtʃjʊ/ のようになります。
sh+y
- banish you:「バニッシュー」/bˈænɪʃjʊ/のようになります。(意味は「お前を追放する」)
- astonish you:「アストニッシュー」/əstάnɪʃjʊ/のようになります。(意味は「お前を驚愕させる」)
- furnish you:「ファーニッシュー」/fˈɚːnɪʃjʊ/のようになります。(意味は「お前に~を供給する」)
f+y
- if you:「イフュー」/ɪfjʊ/ のようになります。
- brief your:「ブリーフュァ」/bríːfjɚ/ のようになります。
l+l
- beautiful lady:「ビューティフーレイディー」/bjúːṭɪf(ə)léɪdi/のように、l が重なって発音されます。
リダクションとフラッピングの主なパターン
リダクションの主なパターン
t が脱落する例
can’t の最後の t や imortant の真ん中の t は弱く発音され、しばしば脱落します。
that や sort なども t が脱落しやすい語で、「ザッ」「ソー」のようにしか聞こえない場合がままあります。
d が脱落する例
good job はしばしば「グッジョブ」のように聞こえます。他にも、
and も「アン」くらいに聞こえます。
g が脱落する例
walking:しばしば「ウォーキン」/wɔ́kɪŋ/ のように聞こえます。
swimming も同じく「スウィミン」のように聞こえます。
h が脱落する例
on her way home:しばしば「オンナーウェイホーム」 /ɑn (h)ɚwéɪhˈəʊm/ のように聞こえます。her の h が弱く発音されて /ɚ/(アー)のように聞こえます。
I like him.も h の音が消失して「アイライキム」/άɪlάɪk(h)ɪm/ のように発音されます。
重複する同じ音・似た音が脱落する場合
set top は t の音が重なって1つ脱落し、「セトップ」/sétάp/のような音になります。
take care は k と c の音(いずれも発音上は /k/ )が重なり、1方が脱落して「テイケア」/téɪkéɚ/のような音になります。
good day は d が重なってひとつ脱落し、「グッデイ」/gˈʊddéɪ/のようになります。
フラッピングの主なパターン
フラッピング(flapping)は、大雑把にいえば、t が d の音あるいは日本語のラ行の音ように発音される現象です。
フラッピングが起きる条件は2つ、(1)前後を母音を母音に挟まれていること、(2)tの直前にアクセントのある母音があること、この条件を満たす語はフラッピングが発生することがあります。
顕著な例としては letter 、おおむね「レラー」/lédɚ/ のように発音されることがあります。water も「ワーラー」/wˈɔːdɚ/ のように発音されます。
butter、later、party、item、quarter などもフラッピングが発生する語です。
単語が融合して別種の語彙になるパターン
英語の日常会話の、カジュアルな場面では、複数の語が大幅に省略されてほとんど一体化してしまっている場合もままあります。
たとえば wanna /wὰnə/ という語は、want to が縮まった語です。意味・用法は want to と同じですが、発音が大幅に変化し、綴りまで変化しています。
英語ネイティブっぽさ全開の省略・短縮表現 wanna / gotcha / gotta 他
この手の省略表現は、日本語の「すげえ」とか「だりい」といった表現と同様、非常にこなれた感のあるネイティブっぽい言い方ではありますが、かなり俗な表現でもあります。きちんとした場面では使用は避けましょう。