英語の口語表現では wanna や kinda のような表現がしばしば使われます。それぞれ、 want to の略、および kind of の略です。特にアメリカ英語の、かなりカジュアルなシーンでよく見聞きする表現です。
この手の短縮表現は基本的に話し言葉でのみ用いられます。書き言葉で目にする機会は、話し言葉をあえて文字に起こしたコンテンツに限られるでしょう。しかし音楽・小説・映画の字幕といったポップカルチャー界隈では、口語表現を文字ベースで読む場合が多いこともまた事実。ネットスラングとしてチャット等で目にする機会もあるかも知れません。
代表的な短縮表現をいくつか知っておくだけでも、アメリカ大衆文化に対する造詣が深まるはずです。
目次
to を加えた短縮表現
主に動詞+to が一体化した表現は、最も頻出するパターンのひとつです。to の子音 t は消えて、母音 a が名残を残しています。
going+to → gonna
意味:~するつもりである
発音:/gənə/
gonna は主に「~するつもり」の意味で用いられる表現です。wanna などと同様にアメリカでは広く使われているスラングです。
それで私はどうしたらいいの?
これから何するの?
want+to → wanna
意味:~したい
発音:/wὰnə/
wanna は、want to もしくは want a の省略形です。どちらが使われているのかは、文脈を見て判断しましょう。
やらなきゃならん事をやれ、やりたい事ができるように
今行きたい?それとも後で?
チーズバーガーがほしい
got+to → gotta
意味:~しなければならない
発音:/gάṭə/
gotta は、got to の略、より正しく言えば (have) got to の省略の省略です。もともと完了形を省略した表現なので get ではなく got が用いられていると理解できます。
gotta はほとんど have to と同じ意味で用いられます。日本語で表現するなら「~しなくちゃならない」という所でしょう。
物価は高いが子供を食わせにゃならん
gotta の直後に動詞ではなく名詞が続く場合もあります。この場合は (have) got to ではなく (have) got a の略として用いられています。
また、gotta を Gotta ~? のように疑問文で使うときもあります。このときは、gotta は Have you got ~? という疑問文の省略形として使われています。
タバコ持ってる?
have+to → hafta
意味:~しなければならない
発音:/hǽftə/
hafta は have to の略、といことは gotta とほぼ同じ意味用法で用いられる表現です。書き言葉ではめったに見かけません。
彼女に電話しないと
need+to → needa
意味:~する必要がある
発音:/níːdə/
needa は、to を省略している他の表現、wanna や gotta に比べると、使われる頻度は低いと言えます。
ちょっとでも寝なきゃ
of を加えた短縮表現
前置詞 of が直前の語と一体化した表現も比較的多く見られるパターンです。of もやはり母音 a に変化しており、to と区別のつかない形になっています。
out+of → outta
意味:~の外
発音:/útə/
outa は 「外に」「外へ」という意味を表現する言い方で、もっぱら動詞 get と組み合わせて Get outta (here) ! の形で用いられます。動詞 get を伴う場合「ゲラウア」のような発音に聞こえます。
こっから出てけ
I’m outta here. (私ゃ出てくよ)のような言い方にも使われます。逆にこれら以外の場面では使われる機会はまれです。
kind+of → kinda
意味:ちょっと、~みたいな
発音:/kὰɪndə/
ある物事について説明したいけれど、正確な表現が分からない。そんな時に kinda(~のような)を使います。主に、自分のもやっとした気持ちや、答えにくい状況などを説明するときに使います。
ちょっと緊張ぎみなの
ちょっと彼には悪いことしちゃったな
また、ちょっと答えにくい質問に対して um…kinda(ああ・・・またそういう感じ)と答えを濁すときにも使います。
あの子はカノジョなん?
–
? Um…kinda.
んー、まあそんな感じかな
sort+of → sorta
意味:ちょっと、~みたいな
発音:/s`ɔɚṭə/
sorta は、「ある程度」「いくらか」を意味します。Do you see what I want to say? ― Sorta.(私の言いたいことわかる?―だいたいね)のように、理解の程度について「だいたい」「ある程度」と答える時にも使える便利な表現です。
腹がへったみたいだ
また、婉曲的に yes と言いたいときにも使われます。
彼のこと好き?―まあね
kinda と同様に、疑問形でも使われます。「どんな~が好きなの?」と聞くときには、what sorta ~ do you like? です。
君ってどんなタイプの音楽が好きなの?
lot+of → lotta
意味:たくさんの
発音:/lɑ́tə/
lotta は、「たくさんの」を意味します。lotta troubles(山ほどのトラブル)や lotta things to do(沢山のやらなきゃいけないこと)のように、どちらかというとネガティブな物事に対して使われるようです。
彼は部屋のたくさんの食べ物をみんな食べちゃった
me が繋がった短縮表現
動詞+me の形が融合した表現は、手前の動詞の語尾が消失して、me の音が保たれるという特徴があります。
let+me → lemme
意味:私に~させて
発音:/lémi/
lemme は、「私に~させて!」とお願いしたり、「私~していい?」と許可を取るときに使います。話し言葉というよりも、主にテキスト上で使われているようです。
聞いていかな?
give+me → gimme
意味:~をちょうだい
発音:/gími/
gimme は、「~が欲しい」と何かをねだるときに使われます。また、gimme back!(返してよ!)というフレーズで使われることも多々あります。
チョコくれ~
gimme は名詞で「とてつもなく簡単なもの」を指して使うこともあります。動詞としても名詞としても使われているのです。
ねえ、この問題超簡単だったと思わない?
you が繋がった短縮表現
動詞+you の形の省略表現は、動詞が t の綴りで終わる語の場合に特徴的な変化を示します。you は原型を止めず cha に変形し、動詞の末尾の t と組んで tcha / tʃə / の形を取ります。
get+you → getcha
意味:あなたを捕まえる、あなたに~を取ってくる
発音:/ɡɪtʃə/
getcha は、主に I understand(理解した)という意味で使われます。I getcha もしくは Getcha で「分かったよ」「了解」などと訳せます。
あー分かった
get your の省略形として用いられることもあります。
ちょっと待っててクッキー持って来たげる
got+you → gotcha
意味:あなたを捕まえた、あなたに~を取ってきた
発音:/gάtʃə/
gotcha も getcha と同様、主に I understand(理解した)の意味で用いられます。
ほら、追いついた!
怒られたり諭されたりした際の返答として「分かってるよ」と言う場面にも使えます、が、どうやっても誠意のない生返事に聞こえるので、ちゃんと向き合う場面では避けましょう。
お願いだから二度と嘘をつかないで
–
? Gotcha, gotcha.
分ーった、わーった
let+you → letcha
意味:あなたに~させる
発音:lɛtʃə
letcha は、あまり頻繁に使われる表現ではないようです。I’ll letcha.(後で教えるね)は、友人間でスケジュール調整を行うときなどによく使われています。
宿題が終わるまで行かせやしないよ
bet+you → betcha
意味:確かに、~に違いない
発音:/bɛ́tʃə/
bet は、「~が絶対に正しい」「~が絶対に起きる」と確信を持っているときに使います。betch で、「絶対に~だから」「間違いないから」と相手に何かを強調するときに使います。
あんた答えを知ってるんでしょう
betch は、自分のお気に入りを勧めるときにもよく使われます。
この映画は絶対に良いから
diddy とdidja と dontcha と
you を伴う短縮表現としては diddy や didja のような語もまれに見かけます。どちらも did you の略です。
dontcha は don’t you の省略形。
さらにこんな表現もあります。
- what did you → whadja
- what did you → whadya
- where did you → wheredja
- why did you → why d’you → whyja
- will you → will ya → willya
この辺になってくると一般的に普及していると言えるかどうか怪しくなってきます。
have が繋がった短縮表現
have を含む短縮表現はもっぱら助動詞+have で完了形という構成です。
have はほぼ跡形なく、母音 a が名残をとどめるのみ。直後に動詞の過去分詞が続くので、have 要素がほとんど残っていなくても時制は判断できます。
should+have → shoulda
意味:~すべきだったのに、しなかった
発音:/ʃʊdə/
shoulda は、should have の短縮形です。この後には、過去分詞が続きます。「should have+過去分詞」で、「~するべきだったのに(しなかった)」と意味します。主に、自分や相手が過去にしなかったことについて責めるときに使われます。
彼が私にそのことを話せばよかったのに
could+have → coulda
意味:~だったかもしれない
発音:/kʊdə/
coulda は、could have の短縮形です。「could have+過去分詞」で、「~できたかもしれない」「~があり得たかもしれない」を意味します。過去にしなかったことについて後悔するときに、よく使われます。
「would have+過去分詞」の場合とは異なり、能力や可能性について話すときに使います。
くよくよすんなよ、君が来なかったらもっと悪くなってたかもしれないんだから
もし勇気があったら、彼のガールフレンドになっていたかもしれないのに
would+have → woulda
意味:~だっただろう
発音:/wʊdə/
woulda は would have の短縮形です。「would have+過去分詞」で、「~していただろう(でも実際にはしていない)」を意味します。通常、if 節と一緒に使われます。
君がいなかったらとんでもないことになってたぞ
もし寝ていなかったら死んでいたよ
must+have → musta
意味:絶対~したはずだ
発音:/mˈʌstə/
musta は must have の短縮形です。「must have+過去分詞」で、「~したに違いない」「絶対に~したはず」を意味します。話す側の、強い過去の推測を表します。
お前が彼に嘘をついたんだろう
might+have → mighta
意味:~したかもしれない
発音:/mɑɪtə/
mighta は、might have の短縮形です。「must have+過去分詞」と比べると、「might have+過去分詞」の推量の程度は弱くなります。日本語では、「~だったのかもしれない」「~したかもしれない」と訳せます。
私、そこにいったことあるかも
もっとイレギュラーなパターン
類例がなく独特の変化を見せる、それでいて割と広く用いられている言い方もいくつかあります。
dunno や sup は特にネットスラングとして好んで用いられます。
don’t+know → dunno
意味:知らない
発音:/dəˈnoʊ/
dunno は don’t know の短縮形です。donno と表記する場合もあります。発音は、dunno のノー部分にアクセントを置きます。
あいつが何をするか俺にはわからない
あなたどこにいるの?―わからない
what’s up ? → sup ?
意味:どうよ
発音:/sʌp/
what’s up? はカジュアルなあいさつ文句としてよく用いられる言い方で、文字通りには「最近どうよ」、ニュアンスとしては「よう」「おっす」程度の感覚で用いられる表現です。語頭が消失してアクセント部分だけ残った格好です。
変形や短縮は、スラングの典型的パターンでもあります。短縮表現が身になじんでくると、スラング全般に対する感覚もきっと身近に感じられるようになってくるでしょう。
総称は …… eye dialect ?
wanna 、gonna、kinda といった短縮表現の総称(類型の呼称)はなかなか特定できません。
カバン語のようでカバン語でない、リエゾンのようでリエゾンでない。2語は完全に融合・一体化し、発音もごっそり変わっています。
英語辞書で代表的な語(wannaなど)を調べると、contraction(短縮表現)と説明されていたり、あるいは reduction(弱化)だったり assimilation(同化)だったりして、一定していません。もともとスラングだし、文法的区分は確立されていないのかも知れません。(知ってる方いましたらご教示ください)
類型を調べる際には、eye dialect という区分が一応の手がかりにできます。
eye dialect は口語表現の訛りや特徴をあえて文字に落とし込んだ表記を指す言い方です。wanna や gonna も含み、同時に fuckin’ や ‘cuz のような短縮形や offen (oftenの変則表記)なども含む、広範な区分、もしくは上位概念です。wanna や hafta のような表現を他より詳しく調べてみる際には役立つかも知れません。