インタビュー:LCA国際小学校・山口紀生学園長に聞く「LCA国際学園の英語の教え方」

前後2回に渡ってお送りする LCA国際小学校 学園長インタビュー、後編です。

前編(第1部)では、LCA国際小学校の設立に至る経緯を中心にお話を伺いました。この第2部では、具体的にどのような英語の授業が行われているのかという部分に迫っていきます。

LCA国際小学校で実践されている英語教育は、決して単なる英語授業ではなく、「子どもの学習」「日本人の英語学習」といった特性を十分に踏まえた、経験と実績に裏打ちされた教育ノウハウであることがインタビューを通じて伝わってきました。

英語学習が「日本」や「日本人であること」の意識を育むという見解や、それを力強く仰る学園長の姿も、また印象的でした。

第2部:LCA国際学園の英語の教え方

「英語漬け学習」は量と質の両方が大切

―― 英語学習の取り組み方は、大人と子どもでは違ってくるでしょうか?

違ってくると思います。

幼稚園児や小学校低学年くらいの子どもだと、ただ聞いているだけでも話せるようになります。アメリカの子どもが普通に英語を話せるようになるのと同じ要領です。

子どもなら、海外に行ってしまえば必ずある程度まで英語が話せるようにはなります。最初は大変でしょうが、3ヶ月もあれば問題なく英語が聞き取れるようになりますし、半年もするとたいてい、話せるようなっています。

日本での英語教育は勝手が違います。まず英語を使う「量」が足りません。当校では1~3年生は授業の80%を英語で行っています。4~6年生は50%の授業が英語です。でも、これだけ英語を使っても、それだけでは決して十分とはいえません。

それに「質」も重要です。正しい英語を何度も繰り返し口に出してトレーニングしながら英語環境に浸しておく必要があります。

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習う、慣れる、試す

今までの日本の英語教育は「習う」ことばかりでしたが、当校では「習う」「慣れる」「試す」の三拍子で取り組んでいます。習った英語は、毎日繰り返して練習する。たとえばメトロノームのリズムに合わせて、反射的に言葉が出るようになるまで繰り返します。

「慣れる」の部分がないと、唐突に What is this ? と聞かれた場合、答えが口を突いて出てくるようにはなりなりません。加えて、答えは This is a banana. だったり This is an apple. だったりするわけです。banana と appleでは冠詞が違います。こうした部分を反射的に正しく言えるようになるには、習得するまで練習するしかありません。

「試す」の部分も重要です。英語学習の目標はあくまでも「自分が英語を喋ること」です。今までの英語学習には、自分が英語を喋るという部分が抜け落ちていると思います。

英語に「慣れる」ためのトレーニング方法については、なかなか適した教科書がなかったので、出版社エデューレコミュニケーションズを作って教科書を製作ています。

この教科書を使った授業はかなり成果が出てきてます。これは今後、多くの方に役立てて頂きたいと思っています。

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授業の様子。みんなが自主性に積極的に発言して受け答えする印象的な授業風景でした

文法も教える。そして文法の授業は日本流がいい

―― 日本の英語教育では英文法をカッチリと教わる印象があります。こちらの英語イマージョン教育の中では英文法に時間を割いて教えるのでしょうか。

文法も教えます。LCA国際小学校では4年生から英文法を教えています。3年生が終わるまでに英語は体にしみついているので、その上で「実はこういうルールがあるんだよ」と解き明かしていくわけです。

文法の教え方には、かなり苦労しました。はじめは海外の文法の教科書を輸入して使いましたが、どうも少しズレているんです。日本人が想定する英文法、たとえば不定詞や関係代名詞というような部分について解説はほとんどなくて、must と have to の微妙な違いや使い所というような、かなり細かい部分を解説しているんです。とにかく細かい(笑)。日本人にはもっと根本の文法解説が必要です。

日本の英語の教科書は優秀

日本の文法書は日本人に適していて、とても優れた教え方だと思っています。海外の教科書よりは断然、日本の教科書の教え方を採用した方がいい。でも、教師は日本人よりも英語ネイティブスピーカーに教えてもらった方がよいという部分もあります。たとえば冠詞の a と the を使い分ける感覚は、どうしても日本人では添削しきれない。そうすると、外国人が英語だけで教えられるテキストがないという問題が生じます。

日本語の英文法を英語で教えるための教材はどこにもない。だから、文法の教科書も作りました。

―― (教科書見本を拝読) これは、確かに目次の章立てなんかが日本風というか、自分が習った英語の教科書を思い出します。

そうなんです。日本流の学習内容。これを英語で外国人が教えられるように作ってあります。そして外国人教師にもトレーニングを積んでもらって、日本人が英語のどういうところを教えるべきかを理解した上で教えてもらう。だから教師の育成も行っています。

ネイティブティーチャーの文法感覚は日本人とは違っていて、しかも感覚的に理解してしまっているから、なかなか日本人が納得できるようには解説できません。「そういうものだから」とか「どうして分からないの?」という感覚に陥ってしまう。これは日本人が日本語を教える場合も同じでしょう。特殊な訓練を積まなければ、すっきり教えられるようにはならないと思います。

この(日本流の)教科書で教えると、中学・高校に進学してから習う英文法に違和感を感じなくて済むという利点もあります。ああ知ってる、習った、となる(笑)。海外で英語を感覚的に身につけた帰国子女は、この部分でつまづいてしまうことがあるんですよ。

範囲でいうと、今は高校3年までに習う文法は小学校で一通り教えてしまいますね。

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図書館(図書室ではなく)の様子。自ずと西洋史に親しめる空間。蔵書は洋書と和書が半々

日本語教育の意義と大切さ

―― 先ほどのお話にあった、「低学年は国語以外の授業はすべて英語で行うのに、高学年になるとむしろ日本語の授業が増える」という点はちょっと意外でした。

そうですよね。普通は逆だろうと考えるはずです。

こうしたカリキュラムを採用した理由はいくつかあります。ひとつには、英語を身につけるには年齢が若ければ若いほど効果的ということ。小学校低学年までに英語をみっちり学習すれば、日常英会話は問題なくこなせるようになります。

中学受験に備えるという理由もあります。LCAはまだ小学校までしかありませんので。そこで、入試科目となる国語・算数・理科・社会の4教科は日本語の授業に切り替えて、受験にも進学後の授業にも十分に対応できるようにしています。

また、LCAで学ぶ子たちが「日本人として劣る」ということは絶対にあってはならない、という思いがあります。ここで学んでいる生徒たちは日本人です。日本の文化を理解し、日本に誇りが持てる人になってもらいたい。そのためには、日本語や日本の勉強にもしっかり取り組む必要があります。当校は英語で授業を行う以上、他校にもまして日本語を大切にしたいという思いがあります。

英語を手がかりに日本語への意識が磨かれる

―― 国語の教え方については、独自の教育法などはありますか? たとえば英文法を踏まえて日本語の文法を教えるとか……

日本語力を伸ばす方法としては、作文の指導に力を入れていますね。私が以前出版した「見たこと作文」という作文の指導法に基づいて書かせています。とは言っても、小学校の国語の授業だけで十分な国語力が身につくというわけでもありません。まずは言葉や文章に興味を持ってもらって、色々な本を読んでもらう、そこに導いていくことが大切です。

各ご家庭にも、お子さんには本を読ませてくださいとお願いしています。それに、きちんとした日本語を使ったコミュニケーションを取るようにと。たとえば「水!」ではなくて「水をください」というように会話してくださいとお願いしています。

英語の文法をしっかりやると、日本語の文法も新鮮に映って、意外と理解が捗るようです。また、英語文化と比べることになるため「日本」をより意識するようにもなります。相乗効果といいますか、英語を学ぶことで日本語にもよい効果が出ているように思います。

これまで、「早期英語教育」の是非について色々と言われてきて、学者さんの間でも賛否両論あります。当校では早期英語教育を実践して、英語も不自由なく使えるし、日本語もしっかりと使える、そういう子が育っている結果が出せています。早期英語教育の成果を実例で示せた点は、ひとつの成果を果たしたと言っていいかなという気もしています。

大人と子どもの英語学習法の違い

―― 大人になってから英語の学習に取り組むとなると、何が必要でしょうか。

大人には「説明」が必要と考えています。頭で理解しないと、しっかりとは身につかないと思いますね。

発音を例に取ると、子どもは、英語ネイティブの発音を耳にすれば何の説明を受けなくてもそのまま口に出せます。理屈はなくてもいい。でも大人はそうはいきません。発音では口の動かし方について説明を受けた方が効果的だし、読解には文法の理解や日本語訳を参照することも有益と思います。

ただ、これは英語学習の三拍子でいう「習う」の部分です。習い方にはそういった違いがあるとしても、「慣れる」「試す」の部分は共通で、繰り返し使って慣れて実践で試さないといけないという部分は、子どもでも大人でも、同じように必要と思います。

 

山口紀生学園長(2016年6月インタビュー時撮影)

―― そういえば、第一期生に当たる方は、現在は?

現在(※2016年度)、高校3年生です。どういう進路に進むか、興味深く見守っています。

日本の大学に行く子もいれば、海外に出る子もいるでしょうね。どちらの道を選ぶにしても十分なだけの学力は身についているはずです。

――では来年度は非常に楽しみですね!

楽しみです。本当に楽しみにしています。

―― ありがとうございました。

関連サイト:
LCA国際学園 (http://lca.ed.jp/)
エデューレコミュニケーションズ (https://com.edure.co.jp/)




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