日本でも読まれている「マザーグース」(Mother Goose もしくは Nursery Rhymes)。これは、主にイギリスで作られた伝承童謡です。作者不明の物も多く、その数は1000以上あるとも言われています。物語性のある唄から、特に意味のない言葉遊びのような唄まで、幅広いジャンルが含まれます。
「マザーグース」は、様々な映画や小説に引用されており、英語圏の人たちの前提知識、教養とみなされています。「マザーグース」を知ることで、英語の作品をより理解し、楽しめるでしょう。
目次
Humpty Dumpty(ハンプティ・ダンプティ)
「Humpty Dumpty」はマザーグースのひとつで、そのお話に出てくるキャラクターを指します。Humpty Dumpty は卵のような形をしていて、塀から落ちたせいで元の形に戻れなくなってしまいます。
Humpty Dumpty の唄
Humpty Dumpty had a great fall.(ハンプティ・ダンプティは落っこちた)
All the king’s horses and all the king’s men(王様の馬と家来がこぞって来たけれど)
Couldn’t put Humpty together again.(ハンプティを元に戻すことはできなかった)
「鏡の国のアリス」に登場
Humpty Dumpty は、作家ルイス・キャロルが書いた「不思議の国のアリス」(Alice’s Adventures in Wonderland)の続編、「鏡の国のアリス」(Through the Looking-Glass)の中にキャラクターとして登場します。「鏡の国のアリス」では、卵の形をしてアリスに話しかけます。
―Through the Looking-Glass, CHAPTER VI. Humpty Dumpty
「そして彼は本物の卵みたい!」アリスはそう言って、彼を受け止める準備をした。その瞬間、彼が落ちてくると思ったからだ。「まったく腹立たしいね」と、ハンプティ・ダンプティは長い沈黙の後にアリスを見ようともせず言った。「卵呼ばわりされるのは、実に腹立たしい!」
Humpty Dumpty は「丸々太った人」
Humpty Dumpty はマザーグースの中のキャラクターですが、現在では「(卵のように)小さくて丸々太った人」や「回復できない人や物」を表す言葉としても使われています。
ここのレストランのシェフは、ハンプティ・ダンプティのように小さくて丸々太っている
Tweedledum and Tweedledee(トゥイードルダムとトゥイードルディー)
「Tweedledum and Tweedledee」もマザーグースのひとつで、その話の中に出てくるキャラクターを表しています。話の中では、Tweedledum(トゥイードルダム)と Tweedledee(トゥイードルディー)という2人の人物がおもちゃのガラガラ(rattle)を巡って決闘します。
Tweedledum and Tweedledee の唄
Agreed to have a battle;(彼らは決闘することにした)
For Tweedledum said Tweedledee(トゥイードルダムが言うには、)
Had spoiled his nice new rattle.(トゥイードルディーが彼の素敵なガラガラを壊したそうだ)
Just then flew down a monstrous crow,(ちょうどその時、巨大なカラスが飛んできて)
As black as a tar-barrel;(それはまるでタール樽のように真っ黒)
Which frightened both the heroes so,(2人の英雄は恐れをなして)
They quite forgot their quarrel.(ケンカのことは忘れてしまった)
「鏡の国のアリス」に登場
Tweedledum と Tweedledee も、Humpty Dumpty と同じく「鏡の国のアリス」にキャラクターとして登場します。「鏡に国のアリス」の中では、チビでデブな2人組み(two fat little men)で、大きくなった小学生のよう(exactly like a couple of great schoolboys)と記されています。そして、アリスに「セイウチと大工」(The Walrus and the Carpenter)という長ったらしい物語を聞かせるのです。
―Through the Looking-Glass, CHAPTER IV. Tweedledum And Tweedledee
「彼女に何を暗唱してあげようか?」トゥイードルディーは、アリスの質問は無視して、真面目な顔でトゥイードルダムを見ながら言った。「『セイウチと大工』は一番長いお話だよ」とトゥイードルダムは兄弟に愛情を込めたハグをしながら答えた
Tweedledum and Tweedledee は「区別のつかない2人」
Tweedledum and Tweedledee は、現在、「全く区別のつかない2つのモノや人」を表す言葉として使われています。identical(一覧性の)や similar(類似した)と同じ意味です。
両政党は互いに批判し合っているが、その問題に関しては、どちらも全く同じ立場を取っている
simple Simon(まぬけなサイモン)
「simple Simon」は、一文無しなのにパイを食べさせろと言ったり、クジラを釣ろうとして失敗したりする間抜けなサイモンのお話です。simple Simon の simple は「簡単な」、「簡素な」という意味でよく知られていますが、ここでは「間抜けな」という意味で使われています。simple を「間抜けな」(foolish)という意味で使うことは稀で、これはかなり古い言い方です。
simple Simon の唄
Going to the fair;(定期市場に行って)
Says Simple Simon to the pieman,(間抜けなサイモンはパイ売りにこう言った)
Let me taste your ware.(あなたの商品を味見させてくれ)
Says the pieman to Simple Simon,(パイ売りはサイモンにこう言った)
Show me first your penny;(まずは君のお金を見せてくれ)
Says Simple Simon to the pieman,(間抜けなサイモンはパイ売りに言った)
Indeed I have not any.(実は一文無しなんだ)
Simple Simon went a-fishing,(間抜けなサイモンは釣りに出かけた)
For to catch a whale;(クジラを捕まえるために)
All the water he had got,(彼は水をたくさん飲んでしまい)
Was in his mother’s pail.(ママのバケツに吐き出した)
Simple Simon went to look(間抜けなサイモンは見に行った)
If plums grew on a thistle;(アザミの木にスモモが成っていないか)
He pricked his fingers very much,(彼は指をひどく刺してしまい)
Which made poor Simon whistle.(可哀想なサイモンは悲鳴をあげた)
「ダイ・ハード3」のセリフに登場
simple Simon は、映画「ダイ・ハード3」の爆破予告犯のセリフに出てきます。こうした最近の作品でもマザーグースは使われているのです。セリフでは「Said simple Simon to the pieman going to the fair, give me your pies… or I’ll cave your head in!」(間抜けなサイモンはパイ売りに定期市場へ行けと言う。パイをくれ、さもなくばおまえの頭をつぶしてやる!)と話されており、マザーグースの中の間抜けなサイモンとパイ売りのやり取りがアレンジされていることが分かります。
simple Simon は「騙されやすい人」
simple Simon は、そのまま「間抜けな人」や「騙されやすい人」を表す言葉としても使われています。
彼らは皆、君のことを馬鹿で間抜けな奴だと思っているよ