英語には猫を引き合いに出す慣用表現が沢山あります。気の向くままに行動するイタズラもの、自由奔放な生き物。しかし憎めない。
西欧文化が観察したネコの姿も、共感できるものばかり、発想・目の付け所は感心するところも多いでしょう。
猫の行動・習性に着目したイディオム
熱いブリキ屋根の上の猫
like a cat on a hot tin roof
like a cat on a hot tin roof は、誰かがイライラして、落ち着かない様子を表現する言い方です。
猫はよく屋根の上に登ることがありますが、その際に屋根が熱いとあたふたする様子が、落ち着きのない人と重なったのでしょう。
彼女に話しかけないで。彼女、手が付けられない状態だから
屋根裏部屋にいる猫
like a cat in a strange garret
like a cat in a strange garret は、とても用心深くて臆病な人を表すイディオムです。
garret は屋根裏部屋のこと、だいたい小さくて粗末な造りの屋根裏を指します。
鳩の群れに猫を放り込む
put the cat among the pigeons
put the cat among the pigeons は騒動を起こすことを指す慣用表現です。鳩の群れに猫を放り込んだら、そりゃあ大変な騒ぎになるでしょう。
put の代わりに set を使って set the cat among the pigeons とも表現できます。
猫がどこへ飛ぶか見てみよう
see which way the cat jumps
see which way the cat jumps は、日和見するという意味合いの表現です。気まぐれな猫の動向をひとまず見守りましょうということで。
様子を見よう。形勢が有利な人を選ぶつもりだから
クリームを得た猫
like the cat that got the cream
like the cat that got the cream は、自分の目的を達成して、大満足な様子を指す表現です。たいてい自分が満足するために傍若無人に振舞う人を指します。
got の代わりに stole を使って表現する言い方もあります。
姉は満足そうな顔をして笑っている
好奇心が猫を殺す
curiosity killed the cat
curiosity killed the cat は、好奇心によってトラブルに巻き込まれるさまを指す言い方です。
他人の問題を詮索するなよと忠告する言い方としても多用されます。
どうやってそれらのお金全てを手に入れたんだ?―詮索好きの猫は早死にするよ
カナリアを食べた猫
the cat that ate the canary
the cat that ate the canary は満足げな様子・幸せそうな様子を表すイディオムです。
カナリアは西欧では古くから飼われていた愛玩鳥です。身近な小鳥の代名詞という位置づけでしょう。
食事桶の中の猫
cat in the meal-tub
cat in the meal-tub は隠れた危険、あるいは隠れていることを指す言い方です。meal-tub は「食事を入れる桶」を表す古い英語です。
年老いた政治家候補は、ひっそりと隠れて待っていた
キルケニー猫のように戦う
fight like Kilkenny cats
fight like Kilkenny cats は、最後まで(死にそうになるまで)争う2人、執拗に争い続ける2人を指す表現です。
Kilkenny(キルケニー)はアイルランド南東部にある都市の名前です。アイルランドの童話の中に登場する、お互いを殺しそうになるまで戦う2匹の猫になぞらえた表現です。
彼らは執拗に争っていたので、警察を呼んだ
猫の居眠り
cat nap
cat nap は短い睡眠、ほんのちょっとウトウトしたさまを指します。catnap と表記する場合もあります。
猫はよく眠る生き物ですが、個々の睡眠は短いものです。少しつつけばすぐ起きるような眠りを思わせる言い方です。
猫の群れのような
like herding cats
like herding cats は困難・不可能な仕事を指す表現です。
たしかに、自由奔放なネコどもを規律ただしく統率するなんてことは、困難でしょう。
猫の容姿・イメージに着目したイディオム
猫のひげ
the cat’s whiskers
猫のひげ(the cat’s whiskers)、猫の鳴き声(the cat’s meow)、猫のパジャマ(the cat’s pajama)。これらは全て、優れた人や物を指す英語表現です。古めかしい言い方で、主にイギリスとオーストラリアで使われています。
描かれた猫
painted cat
painted cat は「金銭に卑しい人」を表すイディオムです。「売春婦」を意味する prostitute と同様の意味でも使われます。
かっこいい猫
cool cat
cool cat で「かっこいい人」を意味します。特に、かっこいい男性に対して使う表現です。
このくらいストレートに猫がポジティブな喩えに用いられる例は、実はそうそうありません。
彼ってかっこいいよね、本当に好きだわ
太った猫
fat cat
fat cat は、とても裕福で権力のある人を軽蔑した呼び方です。
本人に面と向かって言ってよい種類の表現ではありません。
怖がりの猫
scaredy cat
scaredy cat は、理由もなく怖がる人、すぐに怖がる人を表しています。子ども同士でよく使う表現です。fraidy cat も同様の意味で使われます。
怖がるなよ。ほら行くんだ!
子猫がいる
have kittens
kitten は日本語で「子猫」です。子猫は怖がりで弱い存在とみなされています。「I have kittens.」 で「極端に心配している」「異常に神経質になっている」様子を表します。
母は私の事について極端に心配している
チェシャ猫のような笑い顔
a grin like a Cheshire cat
a grin like a Cheshire cat で、「にんまりした笑い顔」を表します。
「不思議の国のアリス」に登場するチェシャ猫は、実はこのイディオムを由来として生み出されたキャラクターです。
野良猫
alley cat
alley は「裏路地」や「細道」を意味します。そんな裏路地にいる猫、つまり野良猫のことを alley cat と言います。alley cat を人に対して使うと、モラルのない、気まぐれな行動をする人を表します。特に女性に対しては「売春婦」という軽蔑的な意味で使われることもあるようです。
猫が引っ張ってきた物みたい
look like something the cat dragged in
look like something the cat dragged in で、「汚くてだらしがないものや人」を表します。dragged(引っ張ってきた)の代わりに brought(持ってきた)も使われます。
猫が引っ張ってきたものをごらんよ!
look at what the cat dragged in!
look at what the cat dragged in! は、誰かが変な格好もしくは汚らしい格好で現れた際に「なんて格好だ!」「誰かと思ったよ!」と言いたいときに使います。口語では、look at の at を省略して look what the cat dragged in! の形で使われることもあります。
やあ、久しぶりだね!―誰かと思ったよ!
全ての猫は暗闇の中では灰色だ
all cats are grey in the dark
all cats are grey in the dark を直訳すると「暗闇の中ではどの猫も灰色」です。つまり、暗闇のようにある状況下では、見た目はあまり重要でなくなることを表しているのです。
猫だって王様を見ても良い
a cat may look at a king
a cat may look at a king で、どんなに身分の低い、重要でない事物であっても、それなりの権利があることを表します。
猫と動物、猫と人の関係に着目
猫を蹴るくらいイカレてる
mad enough to kick a cat
猫を蹴ったら怒って反撃されてしまうことは目に見えています。それでも、猫を蹴ってしまう。mad enough to kick a cat は、猫を蹴るくらい怒っていて、我を忘れている様子を表しています。
カバンの中から猫を出す
let the cat out of the bag
let the cat out of the bag は、「秘密を漏らす」という意味です。カバンの中にいる猫を、豚だと偽って売ろうとして人がいたことが由来となっています。
秘密を洩らした隣人を責めた
猫とネズミの遊び
play cat and mouse with
cat and mouse は猫がねずみを追いかける様子を表します。play cat and mouse with で、「~をもてあそぶ」という意味です。猫がネズミを追いかけたり、ネズミを殺す前にもてあそんだりする様子から生まれました。
猫がいない間にネズミが遊ぶ
when the cat’s away, the mice will play
when the cat’s away, the mice will play は、元々は主人がいない間に召使がサボることを表していました。現在では、会社などで上司がいない間に部下が仕事をサボることを表します。ちなみに、mice は mouse(ネズミ)の複数形です。
猫と犬のように雨が降っている
it is raining cats and dogs
it is raining cats and dogs(猫と犬のように雨が降っている)で、「大雨が降っている」「雨が酷く降っている」ことを表します。なぜ、猫と犬で大雨を表すのか、そのイディオムの由来ははっきりと分かっていません。
猫と犬のような生活
lead a cat and dog life
lead a cat and dog life で、ケンカや小競り合いばかりして暮らすことを表します。特に、ケンカの多い夫婦やカップルに対して使われるようです。
日本語では、仲の悪い2人のことを犬と猿を使って「犬猿の仲」と言いますが、英語では仲の悪い2人を cat and dog(犬猫の仲)と表現します。
5年経ったら、彼らは犬猿の仲になった
猫の首に鈴を付ける
bell the cat
bell the cat は、進んで危険なことを引き受けるというイディオムです。このイディオムは、ネズミたちが猫に鈴を付けて猫が来たことを知ろうとするが、その鈴を誰も付けたがらなかったという童話が元になっています。
手袋を付けていたらネズミは捕れない
cat in gloves catches no mice
猫は、ネズミを傷つけないよう手袋を付けていたら、ネズミを捕まえられません。cat in gloves catches no mice は、慎重すぎたり礼儀正しすぎることで、望む結果を得られないことを表します。
猫の足に敷かれる
live under the cat’s foot
live under the cat’s foot は、誰かの言いなりになっていることを表す慣用表現です。たいてい妻の尻に敷かれている夫を形容する表現です。
結婚したその日以来、ずっと奥さんの尻に敷かれている
猫に舌を取られたのか
has the cat got your tongue?
has the cat got your tongue? は、急に黙り込んだり、話さなくなった人に対して「何で話さないんだ?」という意味で使われます。話し言葉では、has を省略して the cat got your tongue? の形で使われることもあります。