「ご飯を炊く」「ケーキを焼く」は英語でどう言う?

英語で「ご飯を炊く」と表現する場合、動詞は「炊く」に対応する特別な表現がないので、特にヒネらずに cook rice と表現することになります。

cook は料理(加熱調理)全般を包含する、すこぶる汎用的な表現です。cook rice で済むというのは楽でもあり、何だか物足りなくもあります。まあ、西欧文化と稲作米食文化との疎遠さを考えると納得せざるを得ません。

食材(名詞)と調理法(動詞)は、往々にして特定の組み合わせで用いられます。たとえば「ケーキ – を – 焼く」、あるいは「うどん -を – ゆでる」、といった定番の組み合わせがあります。こうした組み合わせの発生は共起と呼ばれます。

日本語と英語とでは共起の発生パターンが少なからず違います。これは文化の違いを知る手がかりでもあり、同時に英語表現の造詣を深める良いイトグチでもあります。

「飯を《炊く》」は英語圏では特筆されない

日本語では「炊く」という動詞を「食材を水と一緒に(釜などに入れて)加熱して(煮るようにして)調理する」という調理方法に用います。コメ以外には大根なども「炊く」と表現されます。

日本語の「炊く」という動詞は、「焚く」に通じます。長時間にわたって高火力を投じるというニュアンスが汲み取れます。

「炊く」調理法そのものは、「煮る」「茹でる」といった動詞と決定的に区別できるわけでもありません。それでも、「米」「めし」「ご飯」を作る場面については動詞はもっぱら「炊く」と表現します。こういう結びつきが「共起」です。

特筆されないから cook や make で表現する

英語圏ではコメ(rice)と共起関係にある特定の動詞が特にありません。そのため、きわめて汎用的な表現で、具体的には cook(調理する)のような語で表現することになります。

I’m going to cook rice for dinner.
夕飯のためにご飯を炊く

英語圏では「炊飯器」を rice cooker といいます。このことからも、米を「炊く」動作は cook と表現する言い方が妥当と分かります。ちなみに「炊飯」は rice cooking です。

cook は基本的には火を通す(加熱する)調理を指す語です。加熱料理のニュアンスを前提しない動詞としては make が挙げられます。make は「ご飯を作る」というニュアンスで自然に使えます。

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cook と make はあらゆる料理・調理法に使える万能表現

料理・調理について用いられる動詞にも色々と種類がありますが、その中でも cook と make は最も広範であり汎用性の高い動詞です。おおよそ日本語の「料理する」「作る」と同程度の幅広さ(あるいは緩さ)で使えます。

たとえば、魚を調理するにしても、焼く・蒸す・煮る・炙る・握る、捌く、下ろす、等々、調理法によって使われ得る動詞は色々あります。cook と make は、そんな区別などお構いなしに、「魚を調理する」行為を指す場面で全般的に使えるわけです。

She cooked the fish.
彼女はその魚を調理した

ただし、cook はもっぱら火を使った調理を指します。火を使わずに作る料理は cook ではなく make 、と使い分けましょう。

We made sandwiches.
サンドイッチを作った

ある種の調理法は英語では細かく区別する

「焼く」はケーキと肉とを言い分ける

英語では、「炊く」と「煮る」は特に区別しませんが、「焼く」に関してはかなり細かく区別して扱います。

たとえばケーキ(焼き菓子)なら基本的に bake で表現します。肉なら grill あるいは roast 、さらに食パンなら toast

どういう風に焼くのかという点まで含めて区別するわけです。

  • bake ― オーブン等を用いて直火ではなく熱伝導で焼く
  • grill ― 肉などを網の上で焼く
  • toast  ― パンなどを焼く、火に当てる
  • broil  ― 直火で焼く、あぶる
  • roast  ― 火に当てる、炒る
  • saute  ― さっと油で炒めるように焼く

「炙る」は違いがありそうでない微妙な部分

日本語では「炙る」調理方法が「焼く」とは区別されますが、英語では直接に「炙る」に対応する語彙は特になく、文脈に応じて grill、broil、roast といった動詞が用いられます。

食材によって典型的な調理法があり、その調理法によって妥当な動詞も違ってくる、という塩梅で見定めることになりそうです。

「煮る」「茹でる」関連の動詞にも注意が必要

「煮る」および「茹でる」と表現し得る調理方法も、英語では言い分けが難しい部分です。

日本語の「煮る」に対応する英語の動詞は、基本的には simmer stew で表現されます。simmer は沸騰直前の高温でコトコトと煮る感じ、stew はとろ火でトロトロと煮る感じの調理を指します。

日本語の「茹でる」に対応する英語の動詞には poachboil があります。poach は(「侵入する」といった意味もありますが)料理関連では「沸騰直前の温度で茹でる」「熱湯にそっと入れる」ような調理を指します。boil は、どちらかというと「沸かす」「煮る」感じで茹でる方法を指す語です。

「煮る」「茹でる」に関連する調理方法の呼び分け方は、日本語と英語では、そもそもの観点、区分の立脚点が異なります。英語を日本語に対応づけて把握する暗記型の把握方法では、限界があります。


いっそ文化の違いを楽しむ方向で理解しましょう

料理に関連する名詞-動詞の共起表現は、日本語と英語とではかなりの違いがあります。もちろん共起表現のズレや差異は料理関連の語彙に限らず、他のあらゆる分野でも大なり小なり見られます。

共起表現は、多少間違っても、些細な誤解のタネにはなるかもしれませんが、意思疎通に致命的な支障を来すようなことはありません。共起表現がイマイチ不確かだったとしても、言葉を濁したり詰まらせたりせず、不確かな微妙な言葉をどんどん紡ぎましょう。

言語は文化に密着しています。文化的に関心・重要度の高い物事は、その分だけ細かく呼び分けられます。調理方法もまた然り。日本語と英語を対比してみて、それぞれ充実している部分と、わりと疎かになっている部分とを対比してみると、それだけでも海外の「料理の文化史」の一端が見えてきます。




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