英語の whitewash は、基本的には「白塗り」といった意味、加えて「(虚飾で)糊塗する」というような意味もあります。日本語の「粉飾」に近いものを感じさせる語といえます。
whitewash は white + wash という構成の複合語です。同様に《色名 +wash》という構成の単語はいくつかあります。たとえば blackwash や greenwash など。だいたい後ろ向きな意味で用いられることの多い表現です。
whitewash
基本的な意味は「白く塗る」
whitewash は基本的には「白い塗料で壁や天井を塗る」というような意味合いの表現です。おおむね、漆喰やノロを塗るような作業が想定されます。
wash は「洗濯する」「洗い落とす」といった意味を中心とする語ですが、「(塗料などを)薄く塗る」という意味・用法もあります。paint(ペンキを塗る)や dye(染める)に近い意味合いです。
「白塗り」の意味で用いる場合は、過去分詞の形容詞用法で whitewashed (白く塗られた)と表現する場合が大半です。
木々は白塗りの壁の隣にある
転じて「上辺を良く見せる」「粉飾」
他方、whitewash は「上辺が良く見えるように取り繕う」「悪事を隠蔽する」という意味でも用いられます。
まあ、壁を塗り直すなんて作業はヒビ・キズ・見られたくない汚れを隠す作業でもあるわけで、喩えとしては自然です。
whitewash は虚偽・欺瞞のニュアンスを多分に含み、とりわけ企業が都合の悪いことを意図的に隠している様子を表す際に使われます。やはり「粉飾」の訳語がしっくり来る場合が多そうです。
事故についての企業報告書は、欺瞞であると非難された
彼は自分の悪い評判を隠そうとしている
greenwash
greenwash は whitewash の派生語で、企業が「環境保全のために活動しています」という(実態とは異なる、虚偽の)パブリックイメージを流布することを指す語です。
動名詞の greenwashing (グリーンウォッシング)の形で扱われる場合が多い語です。
昨今は「地球に優しい」「エコっぽい」イメージを伴う商品が消費者に受け入れられやすい傾向があります。グリーンウォッシングはそこにつけ込み、たとえば製品パッケージを緑系の色にしたり、森林のイメージを多用したり、緩衝材をリサイクル素材っぽい材質にしたりして、エコっぽさを漂わせます。しかし実態はべつに環境に配慮した企業活動を行っているわけではないことが結構あるのです。
偽りの環境保全活動は環境に良いことは何もしていない、なぜなら環境のことを考えていないからだ
healthwash
healthwash は、健康によいというイメージを打ち出して商品を売ることを指す言い方です。
greenwash が whitesash のエコ版とすれば、healthwash はヘルスケア版です。healthwashing の語形で多く扱われます。
healthwash の典型例としては、食品が natural(自然の)、 organic(有機の)、gluten-free(グルテンを含まない)といった単語をおおっぴらに打ち出しつつ、しかも同食品が健康に良い効果をもたらすという実証的データは何ら提示していない、という場合が挙げられます。
得体の知れない粉末を熱する疑似タバコなども、ヘルスウォッシングに該当するものがありそうです。
ラベルを読み間違えないで、見せ掛けの健康食品に気をつけなさい
blackwash
blackwash は、「秘密を暴露する」、「誰かの評価を貶める」といった意味で用いられる表現です。
blackwash は、whitewash の派生語というよりは対義語です。whitewash を「(悪事の)隠蔽」と表現するなら、blackwash は「(悪事の)暴露」と表現できるでしょう。
blackwash は、文字通り「黒く塗る」という意味で用いられる場合もあります。blackwashed といえば「黒塗り」。
pinkwash
pinkwash は女性の健康、特に乳癌の女性の支援を指して用いられる表現です。pinkwashing の語形で多く用いられます。
whitewash や greenwash はネガティブなイメージにまみれた語ですが、pinkwash はポジティブで好意的なニュアンスのある語です。
ただし pinkwash もネガティブな意味で使われることがあります。たとえば、イスラエルにおいて LGBT(性的マイノリティ)に友好的な政策が推進されたが、それはパレスチナ問題を隠そうとする策だった、という文脈で pinkwash の語が用いられる例があります。