英語の kill は基本的に「殺す」という意味を持つ動詞です。命を奪うという意味の物騒な語彙。とはいえ日常会話でも kill の語を使った表現は意外と多く用いられます。
日常会話の(生死に関係しない)文脈では、 kill は往々にして「止める」「消す」程度の意味で用いられます。いずれも口語的な言い方です。
日本語でも、ダメになることを「死ぬ」と表現する場合があります。そういった感覚で捉えると、口語的な kill の感覚は意外とすんなり腑に落ちるでしょう。
kill の意味の捉え方・考え方
動詞 kill の第一義・中心的な意味は、あくまでも「殺す」。生命を断つということです。
訳語は文脈によって色々と工夫できます。殺す、死なす、殺害する、息の根を止める、植物を枯らす・枯死させる、等々。
なお kill には殺意の有無を問うニュアンスはありません。殺意や計画性を伴う殺害行為などは murder や slay のような表現を使った方がニュアンスがうまく伝わるかもしれません。
「維持されてきたものを断つ」と捉える
kill の口語表現における幅広い意味合いは、日本語において「勢いを殺す」「息を殺す」「持ち味を殺す」と表現する感覚とおおむね同様です。
これは「kill =殺す」の派生表現とも言えますし、ある種の比喩表現とも言えるでしょう。しかしながら、ここは敢えて kill の根本的な意味を「活動が維持されてきたものを停止させる」というような抽象的なイメージで捉えてみましょう。
根本イメージから捉え直すことで、「kill =殺す」という訳語の対応づけに囚われない考え方が身につきます。いわゆるコアイメージの獲得。これは die(死ぬ)の語意の理解にも応用できますし、その他の語彙の理解にも役立ちます。
英語で「死亡」「逝去」「他界」を婉曲的に表現する言い方
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kill が取り得る意味合い
止める・やめる・スイッチを切る
kill は、エンジンを切る、照明をオフにする、コンピュータ上で処理が進行中のプログラムを強制停止する、といった意味でも多く用いられます。
「活動を停止させる」というイメージがつかみやすく、kill の意味の広がりの橋渡し役となってくれる用法といえます。
灯りを消して頂戴
彼女はエンジンを止めて車から降りた
効果を弱める・消す・ダメにする
色・におい・音・薬の効き目などについて言及する文脈では、効果や勢いを消す、あるいは弱める、という意味で kill が用いられることもあります。
悪影響を和らげる、という意味でも、良いもの・美しいものを台無しにするという意味でも使われます。「殺ぐ」という言い方に通じるものがありそうな感。
薬で痛みを抑えようとしているところです
あのカーペットの色が部屋を調和を殺いでるよ。変えたら?
時間をつぶす・ヒマをつぶす
時間を目的語に取って kill time と言うと、特に用事がない時間に何かをして過ごす、時間をつぶす、というような意味合いを取ります。
そこの市立図書館は暇つぶしに一番いい場所だ
半日も時間が空いちゃうよ。どうしよう
勝負に圧勝する
スポーツの試合などで相手に圧倒的な差をつけて勝利するような場面も、 kill で表現できます。ただの勝利ではなく「完全勝利」というレベルの勝ち方をした場合に用いられます。
モーターシティFCがコロンブスイーグルスに完勝した
なお、圧倒的に不利という前評判を覆す「大番狂わせ」を giant killing(ジャイアントキリング)と言いますが、これは「Jack the Giant Killer」という伝承に由来する言い方とされています。
強烈に痛い、苦しい
ケガや病気による苦痛がひどくて耐えられない、死ぬほど苦痛だ、という状況を kill を使って表現することもあります。
もっぱら痛みや苦しみの原因を主語に取り、「そいつに殺されつつある」という形で表現されます。これは明確な比喩表現といってしまってよいかも知れません。
死ぬほど歯が痛い
暑くて死にそうだ
授業料があまりに高くて本当に参る
ポジティブな意味合いでは、「笑わせる」(抱腹絶倒させる)といった意味合いもあります。kill oneself laughing (笑いこける)というイディオムもあります。slay にも同様の意味用法があります。
酒や食事を平らげる
飲食に関しては、すごい量の食べ物や飲み物(特にお酒)をすっかり胃に収めてしまうさまを kill で表現します。
ただの完食ではなく、とうてい食べきれないように思われたジャンボサイズの料理を平らげたり、恐るべき早食いで食べ終えたり飲み終えたりするような状況を表現します。
何てこった、もうテキーラを空けたのかい
シカゴピザは到底食べきれない
欲しくて欲しくてたまらない
I’d kill for ~ という言い回しで kill が用いられる場合、「何がなんでも(~が)欲しい」という欲求の表現となります。( I‘d は I could kill for または I would kill for のどちらの略とも解釈できます)
I’d kill for ~ は字面通りに捉えれば「~ためなら人殺しも厭わない」とでもいうような穏やかでない表現ですが、女の子がショッピング中に「アレ欲しい~」と言うような気軽なフレーズとして用いられます。
ビールが飲みたくてたまらない
たいていの女子は小顔になりたいと願っている
似た表現に I’m dying for ~ (死ぬほど~したい)という言い方もあります。
ビールが飲みたくてたまらない
悩殺する
相手を魅了するようなステキな装いも kill を使って表現できます。たとえば女性の艶やかなドレス姿。「悩殺」あるいは「男なんてイチコロよ」というニュアンスで捉えてよいでしょう。 主にdressed to kill や killing の形で用いられます。
女性のセクシーな姿に限らず、露出は少ないけれど魅力満点の装いや、男性の盛装にも使えます。
服がばっちり決まってるね
昨日のパーティのサラはとってもきれいだった
あくまでも口語的な表現であることを念頭に置きましょう
kill の「殺す」以外の用法は多種多様で、日常的に幅広い場面で使われていますが、どれもカジュアルな会話の場面で使用される言い方です。フォーマルな場面では基本的に避け、軽い会話に限って使いましょう。