英語で「壊す」「破壊する」と表現する場合、何を壊すのか、どんな風に壊すのか、そして、どの程度まで壊すのかによって表現を使い分けられます。
ちょっとしたダメージを食らわす損害を与えるだけなのか、それとも修復不可能になるまで壊すのか。ニュアンスに応じて動詞を選べるようになりましょう。
破壊の程度に応じて使い分ける動詞
break は基本的で汎用的に使える表現
いわゆる「壊す」の意味でまず思い浮かぶ動詞といえば break でしょう。break は最も基本的で一般的な表現、幅広い場面で汎用的に使えます。
中心的ニュアンスは「ダメにする」というより「分ける」
break の根幹には「2つ以上に分割して損なわせる」といったニュアンスがあります。
Separate or cause to separate into pieces as a result of a blow, shock, or strain.
殴打、衝撃、負荷などの結果として分断する、もしくは分断その要因になる
―― Oxford Dictionaries
つまり、break の語義は切る・割る・折る・砕く・もぐ・ちぎる・やぶる・断つといった意味合いが先行します。「機能を損なう」という意味合いは、切ったり割ったりしたことにより生じた結果です。
「機能的な部分が分断されて損なわれる」といった概念的なイメージで捉えてもよさそうではありますが、break は必ずしも機能的な損失を意味するとは限りません。
ちなみに、break は骨折や外傷といった身体的な損害も表現します。
そのスポーツ選手は事故で脚を骨折した
抽象的・比喩的な意味合いでも使える
break は具体的なモノの破損・破壊に限らず、抽象的・概念的なものを分断して損なうという意味合いでも広く用いられます。
- システムの故障
- 約束の破棄
- 心身の衰弱(健康が維持できなくなること)
- 統率の崩壊
- 作業の中断=休憩
今朝ひっきりなしに(やむことなく)電話が鳴り続いた
泥棒らは窓から部屋に侵入した
10分ほど休憩しよう
彼は何度も何度も約束を破った
彼らは関係を絶つことにした
destroy は徹底的な破壊のイメージ
destroy は対象を「修復不能な程度にダメにする」という意味合いのある動詞です。日本語の「破壊」には break よりも destroy の方が近いかもしれません。
destroy も、具体的・物体的な対象に限らず、抽象的で形のないもの(たとえば計画や人間関係など)を壊す意味合いで使えます。文脈に応じて「滅ぼす」「台無しにする」「駆逐する」という風にも訳されます。
destroy の語源をたどる、とラテン語の destruere に行き着きます。destruere は de- + struere で「積み上げられてきたものを失わせる」という程の意味。積み上げ築かれてきた対象を無に帰するというようなニュアンスを含みます。
多くの文書資料が火事によって失われた
豪邸が火災により全焼した
彼の不倫で私達の関係は破壊された
この文書は破棄しないでください
ruin は修復不能なまでに壊すイメージ
ruin も破壊に通じる意味合いで用いられる動詞です。特に「修復や再興ができない状態に陥らせる」というニュアンスを含みます。
破壊というより破滅・滅亡といった訳語の方が合う場合が多々あります。農作物が嵐の被害に遭って全滅するというような意味でも用いられます。
国や都市の衰亡・荒廃は特によく ruin で表現されます。ruin そのものも名詞として(おおむね複数形で)「廃墟」「荒城」「遺跡」の意味で用いられます。
ruin も物質的な破壊に限らず、抽象的なものの破滅や荒廃を指して使われます。人の没落・零落・破滅・破産、あるいは健康を損ねたり、場の雰囲気がぶちこわしになったり、人間関係が険悪になったり。
両親の口喧嘩でディナーがぶちこわしになった
国家存亡の危機に瀕している
お父さん、飲みすぎると健康を害するよ
damage は傷・損傷が出る程度の損害
部分的にちょっと損害・損壊・損傷が生じる程度の壊れ方なら damage で表現してもよいでしょう。「欠けた」「へこんだ」という壊れ方は damage で適切に表現できます。
damage は必ずしも、全く機能しなくなる状態を示すとは限りません。部分的に機能が損なわれたり、価値を減じたり、支障・不具合が生じるようになったりと、さまざまな程度・ニュアンスで使えます。
輸送中に壊れが生じた
破壊の方法に応じて使い分ける動詞
破壊の程度というよりは「どういう風に破壊したか」という動作に着眼した語もあります。
smash は叩き壊す・粉砕するイメージ
smash は強い衝撃を食らわせてコナゴナにする(その結果として無茶苦茶に壊す)という意味合いを中心とする語です。日本語の「ぶっ壊す」の語感に近いものがあります。
smash で表現すると、全力で殴りにいった、対象は砕け散った・ペチャンコになった、というニュアンスが伝わります。
crash は大きな衝撃や音を立てて壊すイメージ
crash は「衝突」「倒壊」「大破」といった訳語で表現されることの多い語です。
轟音を響かせながら崩壊・崩落する様子が想起され、自ずと壊滅的な破壊の程度も想起されます。
crash と同じような綴りと意味の語に crush もあります。
crush は巨大な力で押しつぶすイメージ
crush は外圧をかけて変形させる、圧する、つぶす、といった意味合いで用いられる語です。
砕石や廃材処理に用いられる機械の「クラッシャー」(破砕機)は crusher 。くるみ割り器やニンニクつぶし器も crusher です。
ちなみに crasher には「呼ばれてないのにパーティに顔を出すやつ」という俗な意味があります。
発音は crash が /kræʃ/ 、crush は /krəʃ/ 、と微妙な差があります。混同してもされても致命的な誤解を招くことはそうそうなさそうではありますが。
tear は引き裂くイメージ
tear は布や紙といった薄いものを引っ張って裂く・破る動作を指す語です。関係に亀裂を生じさせる、仲を引き裂くといった比喩的な意味でも用いられます。
日本語の「壊す」との結びつきは少し薄めですが、関連表現として一緒に把握してしまいましょう。
破壊する対象に応じて使い分ける動詞
demolish は建設・建築を取り壊すこと
demolish は destroy の硬い言い方といえる表現です。もっぱら「建物を壊す・取り払う」という意味合いで用いられます。
私達はこの古い建物を取り壊して、新しく建てなければならない
建物の他に、議論や計画を覆すという意味合いで用いられることがあります。これも「建設的に」基礎から積み上げられてきたものをぶち壊すイメージが感じられます。
覆す・ひっくり返すという意味なら upset も
ひっくり返して駄目にするという意味では upset も使えます。転倒・転覆・逆転、およびその結果としての混乱のイメージがあります。
upset はボート等を転覆させる、計画をご破算にする、気を動転させる、といった意味で用いられます。腹具合が悪いという意味合いもあります。
dismantle は機械を分解・解体すること
dismantle は機械装置から装備を取り除く動作を指す語です。場合によっては「分解する」とも訳せますが、「解体」「撤去」「取り壊し」という意味を帯びる場合も多々あります。
dismantle は dis- + mantle という構成の語であり、mantle は「外套(いわゆるマント)で覆う」という意味の語です。外側に装着されているものを取り外す意味合いの語といえます。
父は洗濯機をバラして問題を見つけようとした
ravage は災害(を被る)
ravage は、嵐・洪水・干ばつといった自然災害もしくは飢饉・疫病・戦争というような、個人がどうこうできる範囲を超えた災害が襲って深刻な破壊・被害をもたらすという意味で用いられます。多くの場合、受身で用いられます。
戦禍や蝗害なども ravage で表現されます。
花々は台風によって深刻な打撃を被った
巨大なハリケーンによって市の南部が壊滅的被害を受けた
subvert は権威や権力の破壊、打倒、転覆
subvert も破壊、損害を与える行為を示します。とりわけ政治権力や支配階級を打ち崩す・打倒するという意味合いで用いられます。
最近、彼と彼の取り巻きたちが民主主義国家の転覆を目論んでいるようだ