「それはちょっと難しいね」と、英語で表現する場合、まず思い浮かぶ単語は difficult でしょうけれど、それは少し安直かもしれません。場面によってさまざまな意味合いの「難しさ」があり、英語ではそのニュアンスを表現し分けることができます。
「難しい」と訳しうる英語表現は複数あり、必ずしも各単語の意味や用法はがっちり限定されているというわけでもありません(置き換え可能な場合が多々あります)が、単語の種類とそれぞれの単語がもつイメージをひとまず把握しておきましょう。
日本語の「難しい」という表現は、「物事が複雑でわかりにくい」とか「理解・習得・解決が容易でない」とか、「物事が扱いにくく厄介」とか、はたまた「煩わしい」といった幅広い意味合いを含みます。こうしたニュアンスを正しく把握できると、対応する適切な英語が選べるようになります。
英語で「簡単・楽勝・朝飯前」を表現するユニーク慣用表現
難しさを意味する英単語の種類と意味
「difficult」は、頭脳を駆使する難しさ
difficult は日本語の「難しい」に対応する意味で用いられる最も一般的で基礎的な単語です。
difficult は、肉体的な労苦や辛苦を伴う努力よりも、むしろ知識・技術・判断力などが求められる種類の困難を指します。頭を使って、考えて解決するタイプの「難しさ」「困難」はだいたい difficult で無難に表現できます。
その問題を解決するのは難しい
私達はすぐに彼女と上手くやっていくのが困難だとわかった
「tough」は、骨の折れる難しさ
tough は「硬い」「頑丈な」といった意味を基本とする語ですが、加えて「しぶとい」「骨が折れる(困難である)」といった意味でもつかわれる表現です。たとえば、険しい岩肌を登ったり、ガチガチに固まった肉を包丁で捌いたりするような「難しさ」は、tough で表現できる典型例といえるでしょう。
tough は必ずしも肉体的重労働を指すというわけではなく、より広い意味で「困難」を指す意味合いでも使えます。difficult よりも少しカジュアルな表現として difficult を代替することも可能です。
私にとってこの問題を扱うのは難しい
彼を毎日追跡するのは骨の折れる仕事だった
「stiff」は、頑固で手ごわい困難
stiffは基本的には「かたい」という意味ですが、「難しい」「手ごわい」という意味でも使います。堅くて簡単には曲がらない、手を加えることができないというイメージです。
あのドアはすごく開きにくい
君は難しい試験を乗り越えなければならない
「hard」は、肉体的・精神的にきつい事柄
hard も基礎的な単語で、もともとの意味は「かたい」といったところですが、力を加えても容易には形が変わらないことから「厳しい」「難しい」という意味が派生しています。
hard は、difficultのように特別な思考を必要とするというよりは、肉体的・精神的に努力を必要とする、根性がないと乗り越えられないようなキツさをいいます。
あの柵を乗り越えるのは困難だ
この数学の問題は私にはきつすぎる
おおむね日本語の中で用いられる「ハードな」という形容詞と同様のニュアンスと捉えてしまってよいでしょう。
複雑で手ぎわを要する難しさには「tricky」
tricky (トリッキー)は「扱いにくい」「巧妙な」「手際を要する」という意味をもちます。名詞のtrickは「策略」「ぺてん」などの意味を持っています。
tricky は、複雑な問題を処理しなければならないときや、繊細なものを扱うときに使えます。
アイライナーを引くのは難しい技だ
新しいラジオは扱いが難しい
慎重な扱いを要する難しさには「delicate」
delicateは第一義としては「繊細な」「微妙な」という意味ですが、「慎重な扱いを要する」「難しい」という意味でも使われます。うかつに動いたらすぐにダメになってしまうような緊張感をもって、注意深く行動しなければならないときなどに使われます。
彼女は難しい立場に立たされている
君はその交渉がどれだけ難しいかわかっていないようだな
多くの労を要求するような難しさには「demanding」
達成するのに多くのエネルギーや時間をもっていかれる、という意味合いでの「難しさ」にはdemandingを使います。動詞のdemandは「要求する」という意味で、形容詞のdemandingは「多くを要求する」ことから「過酷な」「きつい」という意味をもちます。
彼女は忙しくきつい仕事をしている
従業員は長時間働き、体力的に過酷な作業を行った
あえて「難しい」とは言わずに「難しい」を表現する
「難しい」「きつい」を意味する単語を直接的に使わず、間接的に「楽じゃない」「簡単ではない」と表現して「難しい」ことを伝える言い方もあります。難しい仕事や作業を断りたいときなどは、こうした言い方のほうが角が立たないかもしれません。
「簡単じゃない」
基本敵には否定形+easy、simpleなど「簡単」を意味する単語の形で表せばOKです。It’s difficult.と言うよりも少し遠まわしで柔らかい言い方になります。
そんなに簡単じゃないよ
「超簡単というわけでもない」
not the easiest thing to doは直訳すると「一番簡単な事ではない」ですが、「いとも簡単にやってのけられると思ったら間違いだよ!」と少し遠まわしに言う表現です。
そんなに楽なものじゃないよ
「散歩みたいに気軽にできるものじゃない」
not a walk in the parkは「公園の散歩のようではない」、つまり「気軽にできるものではない」という言い方です。
よくも僕にさせようとするね。そんなに気軽なものじゃないんだよ
ちょっとヒネったニュアンスの「むずかしい」を英語で表現するには
「むずかしく考える」「むずかしい年頃」「むずかしい顔をする」「気むずかしい」というような日本語の慣用的な表現は、単純に「難しい」という語義を手がかりに対応する英語表現を探そうとしても、なかなかぴったりとはまる表現が見つかりません。
まずは日本語の意味を噛み砕いて、日本語で言い換え表現を探してみてから英語に置き換えていくと、英語に直しやすくなるでしょう。
「むずかしく考える」という場合
「むずかしく考える」という言い方は、物事を過剰なほど複雑に・深刻に考えることを指すので、take things too seriouslyと表現できます。
むずかしく考えるのはよせ。きっと大丈夫だよ
「むずかしい年頃」という場合
「むずかしい年頃」というような場合での「むずかしい」は思春期の感じやすい子供などの扱いが厄介であることを指します。「困難な」という意味をもつdifficultは「扱いにくい、気難しい」という意味も持つので、この意味での「むずかしい」はdifficultでOKです。
娘は難しい年頃です
「むずかしい顔をする」という場合
「むずかしい顔」という表現は、表情が険しく、機嫌が悪そうなこと、不快そうなことを指します。この場合は「機嫌が悪い」ことを意味する単語を使いましょう。「むっつりした、不機嫌な」のsullenやglum、「不機嫌な、腹を立てた」を意味するdispleasedなどが当てはまります。
難しい顔をしてるね。何かあったの?
「気むずかしい」という場合
「気むずかしい」は独特の考え方をもっていて扱いにくい様を指します。怒りっぽい頑固おやじのイメージです。「喜ばしにくい」ことからhard to please、「好みが難しい」ことからfastidiousなどの表現で置き換えられます。
私達の先生は気難しい
彼は気難しい主人に仕えている