英語学習において、大多数の日本人は「耳を英語化する」――つまり耳を英語に慣らすという要素が不足しています。これは逆にいえば、耳が英語と密接に結びつきさえすれば英会話スキルも飛躍的に向上し得る、ということでもあります。多くの日本人がその可能性を大いに秘めています。
英語学習の中に意識的に「耳の特訓」メニューを盛り込んでみましょう。聴覚は感覚的に順化しやすい部分です。耳が英語に慣れたなと思う頃には、英語力全体がブレイクスルーを遂げていると実感できるはずです。
目次
耳の英語化とはどういう事か
「耳を英語に慣らす」とか「耳を英語化する」とか、どちらにしても比喩的でピンと来にくい表現ですが、要は「耳から入ってくる(音声情報としての)英語を英語のまま頭に届ける、そして英語のまま理解する」ということと解釈ください。
耳が英語化して英語モードになっている理想的な状態では、英語表現を日本語に訳して理解するという思考プロセスが発生しません。耳にした英語を英語そのままの音で理解するわけです。
たとえば、「OK。」という一言は、もはや 《OK=良い・悪くない・承諾》 のように一々日本語に置き換えたりしなくても、直接に「OK」という言葉のまま理解できますよね。これを、「OK」という英語表現を英語の意味で直接に理解できている例と捉えてみましょう。もしこれと同じ思考の脈絡が英語の文章レベルで実現できたなら「耳の英語化」の達成です。もう耳だけ先行して英語圏に帰化したようなものです。
そんな風に「耳を英語に慣らす」ためには、耳から脳にかけての情報の経路を英語に合うように刷新する必要があります。一朝一夕に実現できる事ではありませんが、地道に取り組み続ければ誰でも必ず実現できます。
耳を英語化させるための訓練方法
耳を英語モードにして英語を英語のまま思考に届けるようになる。そうなるためにはどんな学習を行ったらよいものやら。
最も効果的・効率的な方法は人それぞれなので一概には言えませんが、筆者が実際に取り組んで効果を実感できた方法を紹介することは可能です。おおむね初級・中級・上級に区分できます。
【初級】洋楽を観賞する
洋楽に親しむことは、耳に英語を流し込む方法としてはおそらく最も手軽で身近な方法でしょう。歌詞がわからなくても、歌詞を言葉として意識していなくても、単にサウンドを堪能しているだけでも、耳は少しずつ英語に親しんで慣れていきます。
耳の英語化という意味でお勧めしたい選曲は、比較的ゆったりとした曲調の歌です。ひとつひとつの単語が比較的はっきりと聞き取れて、曲としても言葉としても聞けます。
日本の歌謡曲のようなノリの曲を中心とする歌手にお気に入りの歌手が見つかると最高です。古き良き名曲を探してみるとよいかも知れません。
Step1:まずは純粋に音楽を楽しもう
初めは音楽として純粋に楽しみましょう。まずは気に入った曲を見つけることが先決です。
歌詞に特別に意識を向けなくても、いくつか理解できる単語が聞こえてくることもあります。それだけでも曲のテーマやメッセージは察しが付きやすくなります。
この段階では、あえて歌詞の全容を推察しようとはせず、「この曲はハッピーな歌のか、それとも悲しい切ない歌なのか」といった感情的な部分を受け止める気持ちで聞いてみましょう。感情移入できそうな曲に出会えたなら、その後のステップが捗ります。
Step2:歌詞を調べてみよう
ひとしきり曲を聴くと、メロディも覚えて、歌詞は意味が理解できなくてもボーカルをマネて口ずさめるようになってきます。この段階でひとつ、歌詞をあらためて読んでみましょう。
歌詞を向き合ってみると、聞こえていた(と思っていた)単語を聞き違えていたり、聞き取れなかった表現が実は知っている単語だったり、見たことも聞いたこともない言い回しが合ったり、というような発見が見つかります。
曲の全容をすでに把握している段階なら、答え合わせのような感覚で楽しく歌詞を読み解けます。分からない表現があれば意味を調べたいという積極的な意欲も湧きます。
とはいえ、この段階で歌詞全体をつぶさに調べ上げる必要はありません。曲中のお気に入りの部分、よく聞き込みたい部分や自分でも歌いたくなる部分だけ調べておく程度でも十分です。
聞き手がグッと来やすい部分は大体は曲の山場となる部分です。その曲に込められたテーマやメッセージ、あるいは歌い手の感情が、最も伝わりやすい部分といえます。曲の山場でない部分で自分が気になったポイントがあれば、それはそれで大事にしましょう。
Step3:お気に入りのパートを「感情を込めて」歌おう
曲中のお気に入りの部分を歌詞まで把握したら、自分でも歌ってみます。曲も再生しつつ斉唱するように歌うと効果的です。曲に感情移入して、歌手と同じように感情を込めて歌うことを意識しましょう。
この「感情移入」は耳を英語化して英語耳に作り替えるための意外と重要なポイントだったりします。その理由は、英会話で発せられる表現はどれも話者の感情の込もった表現であり、感情を察することが理解の手がかりとなるからです。
会話による意思疎通は、必ずしも文意だけで行うものではありません。話し手の声の調子、表情、まくし立て方、あるいは表現に込められた言外のニュアンスといった要素を手がかりに総合的に判断されるものです。
英語の響きが持つ感情のニュアンスを繊細に感じ取れるようになると、英会話の理解力も向上します。英語歌詞の歌を自分で感情を込めて歌うことは、そういう感情を追体験するという意味でかなり有益です。
私の場合は「Stay with me」でここにグッときた
個人的経験としては、イギリスの歌手サム・スミス(Sam Smith)が発表した曲「Stay with me」が気に入ってよく聞いていました。
サビの部分。
‘Cause you’re all I need
This ain’t love it’s clear to see
But darling, stay with me
そばにいてくれないかな
だって僕に必要なのは君だけなんだ
これは愛じゃない、そんなことは分かってる
それでも、ねえ君、そばにいてよ
この部分だけ取り出してみると、叶わない恋の気持ちを歌っているようで、身分違いの恋なのかなーなんて思ってしまいます。曲の主人公の感情がよく分かる気がして、切ない気持ちになって感情移入しながら自分もサビ部分を口ずさみました。
まあ、実際のところは、この曲は「一夜限りの関係を持った相手を思う歌」だったわけで、あとで盛大にズッコケたんですが、それはまた別の話です。
このサビ部分のフレーズにも、You’re all I need とか This ain’t といった注目すべき表現が登場します。音楽体験と共に記憶された表現は、耳にしただけで感情やら記憶やらが瞬時によみがえって来るものです。この曲を熱唱した時期を経てからは、ain’t のような表現は目にしても耳にしても余裕で直接的に理解できるようになりました。
【中級】海外ドラマや映画を繰り返し見る
歌は、音声としての純度の高い媒体です。言葉は旋律と共に耳に届きます。歌詞の意味を理解しなくても口まねで歌詞をかなりの程度再現できます。その意味で、洋楽を手がかりとする学習方法は最初の手がかりとしては最適です。しかし他方では、言葉の情報量がさほど濃密でなく、効率は良いとは言えない部分もあります。
洋楽を通じて耳と口を英語に慣らしたら、より多くの言葉に触れられる方法で耳を英語に染めていきましょう。
次の段階としてお勧めしたい方法は海外ドラマや映画(洋画)の観賞です。
映画やドラマは言葉(セリフ)の量が歌とは比べものにならないほど膨大です。しかしながら映像があることにより、視覚的情報を援用して効率的にさまざまな情報を得ることが可能です。
作品の選び方
共感できる・共通性のあるテーマの作品を選ぶ
英語学習手段としての洋画選びのポイントは、自分の現在の境遇・生活環境に通じる部分のありそうな作品を選ぶことです。あるいは、登場人物に感情移入できそうなストーリーの作品を選んでもよいでしょう。要は作中に自分を投影できるような作品に出会えると理想的です。
境遇が似ているというということは、実際に同じような場面に遭遇する可能性が高いということ。感情移入できるということは、自分が似た状況に置かれた場合の思考、感情、言葉に共通するものがあるということ。そういった作品を選ぶことで、より自分が使いそうな(現実的な)英語表現に接しやすくなります。
ファンタジーものや犯罪ものは避けた方がよいかも
どんなジャンルの作品でも必ず得るものは見つかるものですが、英語学習の効果や効率といった意味では、ファンタジーの世界や裏社会を舞台とする作品は避けた方が賢明でしょう。
ファンタジー作品は世界観の演出として独自の言葉や表現が多く登場します。造語を一般的表現と誤解して習得してしまう場合があります。
裏社会やアウトロー連中を中心とする作品は下卑た表現表現が多く登場します。粗野な言葉遣いに傾いてしまう懸念があります。
英語字幕を表示できることが教材としての前提条件
作品タイトルの目星がついたらコンテンツを入手しましょう。何度も見ることになるので、DVDやブルーレイディスクといった家庭用メディアが最適です。
いちどレンタルしてみて気に入ったら購入に踏み切る、という段取りで作品を検討してもよいかも知れません。最近ではオンラインで映画作品を配信する動画サービスなどの利用も検討できるかもしれません。
ただし、どういった形式のメディアを利用するにしても、教材に使うコンテンツは「英語字幕」が用意されているものを選ぶ必要があります。ここは重要です。英語字幕アリと確認してから入手しましょう。
名作ホームドラマが定番&おすすめ
英語学習教材として用いられる洋画・海外ドラマは、ある程度の条件を気に掛けつつ自由に選んで構いません。前々から好きな作品を選ぶのも良い方法です。
英語学習向けの定番といえる作品もあります。代表的タイトルとして、「フルハウス」(Full House)、「フレンズ」(Friends)、「セックス・アンド・ザ・シティ」(Sex and the City)などがよく挙げられます。
「フルハウス」(Full House)は幼い子供のいる家庭を舞台とするホームコメディ(シットコム)です。平易な英語表現が中心的に用いられており、比較的とっつきやすい特徴があります。
「フレンズ」(Friends)は思春期の少年少女の生活を描いたコメディで、現実のアメリカ社会でよく用いられているリアルな表現を多く学べます。英語表現だけでなく、状況に応じた声のトーン、会話の進み方、身振り手振りや場所・シーンに応じた立ち居振る舞いなども参考になります。
「セックス・アンド・ザ・シティ」(Sex and the City)はアラサー女性の都会生活をリアルな目線で描いたドラマです。恋愛をはじめとする、教科書からは学べない種類の、ある意味リアルな英語表現が多く学べます。女性はもちろん男性でも楽しめます。主人公キャリーの発する英語は発音も明瞭で聞き易いという部分もポイントです。
Step1:まずは日本語字幕で純粋に楽しもう
最初は作品の内容を純粋に楽しむつもりで観賞しましょう。日本語字幕がお勧めです。
どのような会話が作中で繰り広げられているか、という部分は意識的に把握しておきましょう。とはいえセリフの邦訳をつぶさに記憶する必要は全くありません。
登場人物の発するセリフは、セリフの内容と発話者の感情・心境(および感情の強さの度合い)に少し注意してみましょう。そうして場面と展開を追うように見ていきましょう。
Step2:英語字幕に切り替えて観賞し直す
日本語字幕で一通り見たら、次は英語字幕モードにして改めて観賞してみましょう。
英語字幕を通じて、各セリフに実際どんな英語表現が用いられているのかを確認します。作中で用いられる英語の「実態を把握する」というような心構えで臨むとよいでしょう。
英語字幕での観賞は何度か繰り返すことになります。まずは最初から通して見返し、気になる場面を絞り込んでゆくとよいでしょう。いきなり全編を攻略することもできないので、英語表現や会話の流れにいちばん興味や引っかかりを感じた部分に狙いを定めるのです。
Step3:お気に入りのシーンを字幕なしで見る
場面がある程度絞り込めたら、字幕を手がかりに、そこで使われている英語表現を少し確認しておきましょう。知らない単語があれば軽く調べて、文意を把握しておく程度で十分です。もちろん英文の文法的な構造まで究明する必要はありません。
セリフを軽く把握したら今度はそのシーンを字幕なしで、つまりオリジナルの英語版と同じ環境で観賞してみましょう。字幕で見た英文を思い浮かべながら、音声としてはどう聞こえるかを確認します。
各語と単語をきちんと聞き取れているか、単語は実際にはどんな音で発音されているのか、といった部分を意識しつつ、セリフのトーンやリズムを耳に慣らします。背景となっている場面や心境(怒りの表現なのか悲しみの表現なのか等)も念頭に置いておきましょう。
Step4:登場人物になりきってセリフを再現する
Step3で選んだシーンのセリフの「音」が耳が慣れてきたら、次は、そのセリフを発している登場人物になりきって、シーンを再現するようにして自分も同じセリフを発してみましょう。
映像を一旦停止してからの復唱ではなく、映像を再生しながらそれに被せるように自分でも喋る形をとりましょう。これは「シャドーイング」の方法論でもあります。ただの復唱ではなく、作中のセリフ回しをカンペキに模倣する勢いで、口調から表情まで何から何まで真似る、さらに登場人物になりきって心境まで自分の中で再現することがコツです。
模倣の完成度は少なくとも「知ってる人に披露したら感心されるレベル」を目指しましょう。
他の場面も同様に再現してみる
Step4も何度か繰り返すとかなり再現できるようになります。よし完璧、と思えたら、この場面は修了。また他の気になる場面で、同じように段階を踏んで口まねをマスターしましょう。
同じ作品で複数の異なるシーンを模倣することにより、同じ世界観の異なるシーンにおける表現や口調の違いといった微妙なニュアンスが感覚的に分かるようになります。もちろん手持ちの英語表現の数(語彙力)も増えます。実際に同じ状況に遭遇した場合、頭で英文を組み立てることなく、身体が覚えたフレーズをリアルに再現できるようにもなります。
【上級】ポッドキャストを活用して音声を真似る
「洋楽を歌う」学習法は、音楽として堪能しながら英語を耳に入れてマネできる方法です。「洋画を観賞する」学習法は、視覚的な情報も手がかりとしながら、より純粋な言葉としてセリフをマネする方法です。
ここまでのステップを自分のモノにできたら、次は音楽的な要素も視覚的な要素も除いた、より言葉としての純度が高い英語を耳に入れる練習に挑みましょう。
具体的には、ラジオニュースのような、文章を淡々と読み上げるタイプのメディアを利用して学習します。音声言語だけを手がかりとして、そこで言及されている話題や話の脈絡をただしく聞き取って把握する、それに慣れる取り組みです。
教材として利用するメディアは、海外ラジオの垂れ流しでも悪くはありませんが、いわゆるポッドキャスト(Podcast)がオススメです。幅広いジャンルの膨大なコンテンツがあり、巻き戻しやスロー再生がほぼ標準的に利用できます。配信登録(購読)設定しておけば定期的に新しいコンテンツが手元に届くため、教材の更新に事欠かないという点も嬉しい点です。
Step1:自分に合いそうな番組を探す
最初はコンテンツの選定から。自分に身近な話題や、興味の持てる話題を扱った番組を見つけましょう。
思いっきり敷居の高さを感じたら、まずは視覚情報を少し利用するところから始めてもよいかもしれません。具体的には、テキスト情報(スクリプト)も併せて配信されている番組や、あるいは映像つきのビデオポッドキャストを利用するという方法があります。
日本語を含まない海外メディアがオススメ
ポッドキャスティングにおける番組の選定は意外と難しいところですが、極力、英語だけが使用されている(日本語が含まれない)番組を選びましょう。英語に耳を慣らす練習の中で、日本語を耳に入れてしまうと、思考が日本語モードに戻ってしまいます。これは非常にもったいない話です。
私(筆者)の場合、はじめに英語と日本語を併用する学習番組を使って英語学習に挑み、失敗しました。理解が捗る日本語にどうしても意識が傾いてしまって、英語を通じて理解しようとする気にならないのです。結局は英語を聞き流して(聞き捨てて)日本語ラジオ番組を聞いていたに過ぎなかったのです。
ド定番は国営・公営放送局のニュースメディア
ポッドキャスティングを活用した英語学習としてよく紹介される番組といえば、NHK WORLD RADIO JAPAN による「English News」、VOA(Voice of America)による「VOA Learning English」、BBCが配信している「BBC Radio」などが定番と言えます。
NHKもVOAもBBCも、いずれも国の公共放送局の立場にあるニュースメディアです。時事的な情報を発信している点、英語初学者を意識した平易な英語表現が用いられている点、日本語を一切含まず英語だけで番組が構成されている点、などが共通する特徴です。
Step2:まずは1/2スロー再生で聞いてみる
ポッドキャストのコンテンツの再生環境(端末やアプリ)は、さまざまな種類がありますが、大抵の場合は再生速度を2倍速や1/2倍スローで再生する機能が備わっています。このスロー再生が初心者には嬉しい機能です。
とりあえず最初は通常の速度で聞いてみて、聞き取れなかった部分があれば少し巻き戻してスロー再生にして聞き直してみましょう。それだけでも、「聞き逃した単語は自分の知っている単語だった」とか、あるいは「意味も綴りも見当が付かない単語だ、固有名か?」といった気づきが得られます。この過程は、耳にする音を明瞭に把握するために役立ちます。
Step3:初めて耳にした単語を覚える
スロー再生を通じて「音」を把握できた語が、自分の知っている単語だったら、目下の疑問は解決です。他方、もしそれが自分の知らない語彙だった場合、可能ならこの段階で単語の意味を調べて明らかにしておくことをお勧めします。
この段階で単語の意味をつぶさに調べるべきか否か、これは英語学習の考え方によって賛否両論ある部分です。考え方によっては、「できるだけ多くの英語フレーズを耳にして同じ単語に何度も出会ってその意味を推察するべし」という見解もあるでしょう。これはこれでもっともな考え方です。
ポッドキャストを通じて耳だけを手がかりに単語を調べる取り組みは、決して安易な方法というわけではありません。辞書を引くにしても音から綴りを推測する必要があり、音と綴りを結びつけるセンスが問われます。
前後の文脈から妥当そうな意味が推測できるなら、それでいったん解決としてもよいかも知れません。その場合は「はじめて耳にした語彙」として記憶に留め、次にまた遭遇した機会を逃さず捉えられるように意識しておきましょう。
もし、この段階で単語の意味や綴りを明らかにできると、文章全体を文字情報(スクリプト)として頭の中で再現できる状態になります。こうなると、ここまで経てきた洋楽~洋画の学習の流れと同様、文字情報を念頭に置いて口まねをする学習方法にすんなり移ることができます。
Step4:スロー再生の音声をマネする
ポッドキャストで語られる英語文章の音になれてきたら、これも自分でマネてみましょう。聞くと同時に自分でも喋るシャドーイングの練習です。
まずはスロー再生にして、できるだけ丁寧に忠実に模倣するよう意識してシャドーイングに臨みましょう。耳だけを頼りに言葉を再現するのは簡単ではありませんが、その分だけ「音」がしっかりと身につきます。
スロー再生から始めると、細部の発音が聞き取りやすくなり、口まねが捗ります。聞き逃しがちな音も拾いやすくなります。たとえば「I’ve been ~」という表現は、通常の速度だと「アイベン」のように聞こえてしまいがちですが、スローで再生すると「アイブベン」と ve も微妙ながら発音していると気付いたりします。
Step5:通常の等倍速度でマネてみる
スロー再生をシャドーイングして音を忠実に再現できるようになったら、再生速度を通常の速度に戻して、等倍速でのシャドーイングに挑みましょう。
はじめはきっと舌がモツレてうまく再現できません。1/2倍速を経験しているからなおさらです。これをちゃんと等倍速でマネできるようになると、うわべだけでなく基礎の部分がしっかりした発音が身につきます。
ここまでシャドーイングが達成できると、もう普段の英会話を聞いて理解する流れと同等の「聞き分ける能力」が備わっています。曲のメロディも視覚的な補助情報もない、純粋に音だけの情報から、言葉の意味を理解していけます。
「聞こえてきた英語をそのままの音で理解する」という、高次元の英語リスニング能力、いわゆる英語耳が、すでにモノになっているはずです。
【学習のコツ】気づきを楽しむ余裕も持って学ぼう
勉強は苦行のイメージで捉えられがちですが、知識や能力が身についていくことに喜びが見いだせると、一気に苦ではなくなるものです。知識の習得効率も段違いです。
英語学習も「知的な喜び」を感じながら進めましょう。どんなに些細な事でも構いません。気づきは新たな気づきをもたらし、喜びを増してくれます。
アメリカ英語とイギリス英語の音の違いを楽しんでみる
たとえば、アメリカ英語とイギリス英語の違い。これに意識が向くか否かで、同じ学習内容でも得られる知識の量が違ってきます。
アメリカ英語とイギリス英語では、同じ英語の同じ単語なのに発音がけっこう違っている例が多くあります。たとえば water (水)は、アメリカ英語では「ウォーラー」のように聞こえますが、イギリス英語では「ウォーアー」のように聞こえる場合がままあります。schedule(予定)はアメリカ英語では「スケジュール」ですが、イギリス英語では「シェジュール」のように発音される場合があります。
発音を通じて国柄の違いを感じられるようになると、学習の上でも有益ですし、なんか色々と推測してほくそ笑む余裕が生まれます。もっとも、あまりに極端な事例に遭遇すると学習をいったん中断することにもなりかねませんが。
筆者などはずっとアメリカ英語を手がかりに英語を学んできたのですが、あるときイギリスに渡航してイギリス英語に囲まれる境遇に身を置いたら、「これも英語か?」というくらいに何を言っているのかさっぱり理解できず戸惑った記憶があります。実際のところ日本語の東と西の方言くらいには米英の英語の音には差があります。
とはいえ戸惑いを感じた機会は最初のうち、今では楽しみながらアメリカ英語の耳をイギリス英語の耳に慣らしているところです。
【教訓】英語の耳づくりに向かない学習法
耳を英語に慣らす方法そのものは、いくらでもあります。洋楽・洋画・ポッドキャストと段階的に移行していく学習方法は、かなりお勧めではありますが、これが唯一無二の方法というわけではありません。
言語学習方法には個人による向き不向きもあります。自分に適した方法が見つかれば、誰が何と言おうとそれが最適な学習方法なのです。
そういう側面を踏まえてなお、耳の英語化を目指すに当たって「お勧めできないぞ」と進言しておきたい取り組み方があります。これは実体験(失敗談)に基づく助言です。
背伸びしすぎるな、身の丈に合った英語を聞け
英語学習者が最初に意識するべき点は、自分の英語レベルと学習教材の英文の難度を意識して、自分に合った教材を選択する、という点かもしれません。ここで選択を誤ると長く尾を引きます。
英語にも文章の平易さのレベルがあります。基礎的な英単語・英語表現をシンプルな文章構造で叙述する文章がある一方で、日常ではまず用いない専門用語を多用したり、中世の詩に出てくるような雅な表現を好んで使ったりする文章もあります。
教材選びは決して背伸びせず、「ゆっくり聞けば7~8割くらいは今の自分にも理解できそう」程度のレベルのものを選びましょう。「7割方はもう知っている知識なら非効率じゃん?」と考えるのではなく、その7割の知識をフル活用して残り3割について学ぶのだと考えましょう。
語彙や文章表現が自分の知識レベルをはるかに超えているような英文は、聞いても何一つ理解できず、手がかりとなる情報すら満足に得られません。手がかりも何も掴めない英語は雑音・環境音でしかありません。
英語と和訳を聞き比べる教材はお勧めしない
英和対訳を左右に並べて掲載しているテキストのような感じで、英語と日本語の文章を順に読み上げていくタイプのリスニング教材があります。このタイプの教材は、耳を英語に慣らすための学習には不向きです。
耳が英語に慣れていない脳みそは必ず、日本語に頼ってしまって、英語をそのまま聞きいて理解することの意義をないがしろにします。耳にした英語がそのまま頭に届く、頭は英語を英語のまま理解する、という境地には到底たどり着けません。
英語と日本語訳を交互に再生するタイプの音声教材は、文章構造や情報の出方などを聴き比べるという点では有意義であるとしても、英語ネイティブに近い言語感覚を身に染み込ませるという目的では使いにくい教材です。
継続が重要。そして地道な取り組みが重要
耳を英語モードにする取り組みは、資格試験とは違って、合格といえるポイントもなければ、修了といえるポイントもありません。そのくせ学習を怠るとすぐに退化してしまいます。英語圏で生活するというわけでもなければ、自発的に学習時間を割いて不断に学習を続けなければ維持すら困難なスキルなのです。
これから学習を始めるという段階なら、1日のうち少なくない時間を、耳の英語学習に割いてやる必要があるでしょう。これは個人的所感に過ぎませんが、1日1時間程度は英語をじっくり聞く・話す時間に充てるくらいでないと、耳の英語化は促進されないように思います。
やっぱり楽しむことが重要
1日1時間も英語の勉強に費やすのか、と考えてしまうと愕然としてしまいますが、ここは一つ、人生をかけた趣味のつもりで臨んでみましょう。
自分の好きなことを英語を通じて見聞きするのもよいでしょう。
英語を通じて新たな知識や情報を探すつもりで臨んでもよいでしょう。
幸い(というわけではありませんが)、洋楽や洋画といった娯楽作品が英語耳の養成のよい教材にできます。そうした作品を堪能することを第一の目的に据えてしまっても問題ありません。
英語は結局は自分の世界を広げるための手段に過ぎません。英語を味わうために英語を学ぶ、英語を学びながら英語を味わう、そして英語を知れば知るほど世界が広がり、英語がもっと楽しくなる。そんな好循環を実現することが、きっと理想的な学習方法なのではないでしょうか。