英語の学習法(メソッド)のひとつに、オーバーラッピングと呼ばれる方法があります。パラレルリーディングともいいます。要は、英語の音声に合わせて自分も発声する方法です。
必要なものは、テキスト(スクリプト)付き音声教材と、いくらか大声を出しても平気な空間だけ。初学者にも中上級者にもお勧めできる方法です。
オーバーラッピングの特徴
オーバーラッピングは、英語の音声を聞きつつ、その音声のスクリプト(いわゆる台本)も目で追いながら、英語音声を耳にすると同時にスクリプトを読み上げて、セリフを重ねる要領で発話をマネる練習方法です。
つまり、英語教材の音声に自分の声をオーバーラップ(overlap)させるわけです。
読む・聞く・話すを同時に鍛える
オーバーラッピングは、「テキストを読む」「音声を聞く」「英文を声に出す(話す)」という3要素が一体となった学習法です。リーディング・リスニング・スピーキングの3要素をまんべんなく刺激できる強みがあります。
カンペ付きのシャドーイングとも言える
音声教材を模範としてマネる学習方法としては、「シャドーイング」が第一に挙げられます。
シャドーイングは、音声を聞いて即座に(同時的に)復唱する方法です。いわば、スクリプトを使わずに耳から得た情報を頼りに行うオーバーラッピング。発話タイミングはわずかにズレます。
シャドーイングは、難易度の高い学習法です。聞き取り力や語彙力がかなり育っていないと、満足に取り組めません。その点、オーバーラッピングは、敷居は大幅に低く、初心者でも取り組みやすい学習法といえます。
オーバーラッピングで期待できる効果
オーバーラッピングは英会話に求められる能力を総合的に鍛えてくれる学習法です。リスニング・スピーキング・リーディングが、有機的に連関する形で身につきます。
リスニング力が鍛えられる
オーバーラッピングは英語の音声教材を用意するところから始まります。もちろん、英語ネイティブスピーカーによる音声教材であることが前提です。
ネイティブスピーカーによる英語の「正しい」話し方に接することで、実際の英語の発音やアクセント、抑揚、間の置き方、リズム感が身につきます。
英語の発声を耳にしながらスクリプトを参照することにより、音声情報を文字情報を関連づけて把握できます。「この文章が、こう話される」という勘どころが身につくわけです。単語と発音の関連やリエゾン(連声)の事例に多く出会えます。
スピーキング力が鍛えられる
オーバーラッピングは英語を聞きながら自分も同じように発声して、お手本となる声を模倣する練習方法です。
英語コミュニケーションには発話(スピーキング)が欠かせませんが、日本国内で英語を使って話す機会はほとんどありません。まずは、声に出す練習が必要です。そして練習の際には発音や抑揚の調子が分かるお手本があれば理想的です。
オーバーラッピングは、いわば、音楽CDを再生して(歌詞カードを見ながら)歌を練習する要領と同じです。手本となる声にできるだけ似せながら、発音、アクセント、強弱の付け方、文全体のリズム感、その他もろもろの全体的な調子を学ぶわけです。
リーディング力が鍛えられる
オーバーラッピングは、スクリプトを読む過程を通じてリーディング面でも効果が期待できます。
オーバーラッピングでは、スクリプトはリスニング支援用の台本として用いられます。聴覚に合わせて文章を読むことは意外と大変です。じっくり読んで文型を解釈する暇も、手前の語句にさかのぼって意味や係り方を確認する暇もありません。
自ずと、素早く読む、読み返さない、文章を語順通りに読んで解釈していく、という読み方が鍛えられます。これは英文を英文として読み・理解する読解技術の要領に通じます。
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オーバーラッピングでスピーキングとリスニング能力向上
オーバーラッピングはスピーキングとリスニング能力の向上に役立ちます。スピーキングやリスニングというのはそれ自体独立した能力ではなく、発音やアクセント、リズム感と密接にかかわっています。
オーバーラッピングが発音や英語のアクセント、リズム感の把握にどのように影響を及ぼすのか、そしてそれがどのようにスピーキングとリスニングの能力向上に効果があるのか関連性を見ていきましょう。
オーバーラッピングの具体的な進め方
オーバーラッピングの実践に必要となる教材や環境は、そこそこ手軽に用意できます。
- 英語の音声+英語スクリプトが揃った教材
- 音声を再生できる装置(PCなりスマホなり)
- しっかり声を出せる空間
教材の選定は現在の英語レベルに合ったものを選びましょう。文章の大部分は読める・聞き取れる、部分的に分からない箇所がチラホラ、という程度のレベルが適切です。
実践に当たっては、やみくもに「聞きながら自分も話す」ことに終始せず、まずはテキスト(スクリプト)をよく読み、十分に文章を理解してから、聞き取り+発話に移る、という段取りを踏まえましょう。
まずはスクリプトを読む
オーバーラッピングはリスニングとスピーキングの能力向上を期する学習方法ではありますが、いきなり本丸に攻め込む姿勢はあまりお勧めできません。
まずは英文そのものを把握し、内容を理解して、その上で英文がどのように話されるのかを確かめる&自分でも話してみる、という流れを取ることをお勧めします。
音声教材は、何度も繰り返し聞けば、耳が慣れてきて音が聞き分けられるようにはなります。しかし英文そのものに対する理解が先行していなければ、それは英文として聞き取ったとは言えません。
あらかじめ英文の内容を把握して理解してこそ、音声かか聞き取った英語の内容が理解できます。そして文章内容が理解できていてこそ、自分で発話した際に得られるものがあるというものです。
オーバーラッピングは繰り返しが重要
スクリプトの文章を十分に把握できたら、ようやくオーバーラッピングの実践です。
短文1トラック再生するだけなら、ものの十数秒で1回やり終えられます。長くても数分。基本的に1回あたりに取り組む分量は短く抑えましょう。映画のような長大なコンテンツは、ごく細切れに区切って利用しましょう。
オーバーラッピングは同じ箇所を少なくとも数十回は繰り返す前提で取り組みましょう。耳は早々に英文を慣れて、聞き取るようになるかもしれませんが、口が手本を上手く模倣できるようになるにはかなりの練習量が必要です。
自分の声を録音して聞くとさらに効果あり
オーバーラッピングを実施している自分の声を録音して、聞き手として自分の声を再生できる環境まで用意できると、理想的です。
自分の声を傍から聞いてみると、まずは全然発音できていないことが分かって愕然とするでしょう。最初はそれが当然です。大事なことは、お手本となる音声とかけ離れている要素を見つけることです。発音がダメなのか、リズム感がつかめていないのか、など欠点をあぶりだすことができます。