英語原文で「不思議の国のアリス」を読むための予備知識

英語学習の取っかかりは「敷居の低さ」が重要です。その意味で英語の絵本・童話・児童文学作品を読む取り組みは非常にお勧めできます。たとえば「不思議の国のアリス」(Alice’s Adventures in Wonderland)なんていかがでしょうか。

ただ、「不思議の国のアリス」は少し風変わりな作品でもあります。作風を理解し、挑むタイミングを見極めてから挑みましょう。

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「不思議の国のアリス」の予備知識

「不思議の国のアリス」は、19世紀にイギリス人作家ルイス・キャロル(Lewis Carroll)によって書かれた児童書です。

原題は「Alice’s Adventures in Wonderland」。これを原作として後に製作されたディズニーアニメのタイトルが「Alice in Wonderland」(「ふしぎの国のアリス」)です。

ちなみにルイス・キャロルという名はペンネームです。

「アリス」のココがステキ

  • 原著が英語。英語版がオリジナルです。
  • 基本的に児童向けの作品なので、全体的に語彙が易しい
  • 有名な作品なので親近感がわく。視覚的イメージも豊富。
  • 原作はすでにパブリックドメイン化しているので無料で入手可能Project Gutenberg などが代表的な配布元として知られます。
  • 和訳もクリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)ライセンスで無償で入手できます。プロジェクト杉田玄白が有名です。

Alice’s Adventures in Wonderland by Lewis Carroll ― Project Gutenberg
不思議の国のアリス ― プロジェクト杉田玄白

  • いわゆる「言葉遊び」がふんだんに盛り込まれており、イギリス文化を背景にしたパロディーやジョークも盛りだくさん。読みこなした暁には英語文化に対する造詣が一段と深化していることでしょう。
  • 「不思議の国のアリス」を元ネタとする作品も多く世に出ています。原典に接することで、後世の作品の見え方・味わい方もまた一段と深まるでしょう。

「アリス」のココが曲者

文章の中では、イギリスで読まれている詩が作り変えられたり、英語の慣用句からキャラクターが生まれたりしています。「不思議の国のアリス」を読むためには、イギリス文化やイギリス英語も頭に入れておく必要があるのです。


英語慣用句から生まれたキャラクター

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ニンマリ笑う「チェシャ猫」

「チェシャ猫」(Cheshire Cat)は、ニヤニヤ笑って姿を消す不思議なキャラクターとして描かれています。ルイス・キャロルの作った架空の存在です。変なキャラクターがたくさん出てくる「不思議の国のアリス」のお話の中でも、特に目を引く存在と言えるでしょう。

Cheshire Cat は、「grin like a Cheshire cat」という慣用句から生まれたといわれています。オックスフォード英語辞典で意味を引くと、「Have a broad fixed smile on one’s face」(強張った笑みを顔いっぱいに広げている)と載っています。まさに「チェシャ猫」のような、薄気味悪いニンマリとした顔をイメージすると良いでしょう。

水銀のせいで「狂った帽子屋」

お茶会の場で登場する「狂った帽子屋」(Mad Hatter)。このキャラクターは、「as mad as a hatter」という慣用句から生まれました。意味は「完全に正気でない、狂った」です。当時、帽子屋では帽子を作るために水銀を使っていました。その水銀が帽子屋で働く人の神経系に悪影響を及ぼしたため、帽子屋は気が狂っていると思われていたのです。

発情期で狂う「三月うさぎ」

「狂った帽子屋」と同じく、お茶会で登場する「三月うさぎ」(March Hare)も「as mad as a March hare」という慣用句から生まれています。うさぎは3月になると発情期になり、狂ったようになると考えられてきました。そこから、March Hare は「狂った人」を表すようになったのです。


イギリス詩の替え歌「How Doth the Little Crocodile」

ルイス・キャロルは、文章の中でイギリスの教訓的な詩「Against Idleness and Mischief」(怠け心といたずらを戒める)を、「How Doth the Little Crocodile」(なんて小さなクロコダイル)という歌に自ら作り変えています。パロディーです。ちなみに、dothdoes の昔の言い方です。

元の詩である「Against Idleness and Mischief」は、勤勉な働き蜂を称えた教訓的な詩です。一方、パロディーの「How Doth the Little Crocodile」では、ワニが貪欲に魚を食べようとする様子が描かれています。全く正反対の内容と言えるでしょう。詩と歌を見比べてみると、似たような表現を少しだけ変えていることが分かります。

元の詩「Against Idleness and Mischief」

How doth the little busy bee(なんと小さくて忙しい蜂なんだ)
Improve each shining hour,(時間を最大限に活用して)
And gather honey all the day(一日中ハチミツを集めている)
From every opening flower!(全ての花から!)

How skilfully she builds her cell!(なんと巧みに巣を作るんだろう!)
How neat she spreads the wax!(なんときれいにワックスを塗るんだろう!)
And labours hard to store it well(労働者達がそれを蓄えておくのは困難だ)
With the sweet food she makes.(彼女達が作った甘い食べ物を)

パロディーの歌「How Doth the Little Crocodile」

How doth the little crocodile(なんと小さいクロコダイルなんだ)
Improve his shining tail,(ぴかぴかな尻尾を磨いて)
And pour the waters of the Nile(そしてナイルの水を使って洗う)
On every golden scale!(金色のうろこ全てを!)

How cheerfully he seems to grin,(嬉しそうにニンマリ笑って)
How neatly spread his claws,(きれいに爪を広げて)
And welcome little fishes in(小さな魚たちを迎える)
With gently smiling jaws!(その優しげに笑った大きな口で!)

日本でいう駄洒落?アリスの聞き間違い

小説の中では、日本のだじゃれ「ふとんがフットンダ!」のように、発音や綴りが同じ(もしくは似ている)英単語で遊ぶ表現が出てきます。

tale(お話)と tail(尻尾)

‘Mine is a long and a sad tale!’ said the Mouse, turning to Alice, and sighing. `It is a long tail, certainly,’ said Alice, looking down with wonder at the Mouse’s tail;
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER III, A Caucus-Race and a Long Tale
「僕の話はとても長くて悲しいよ」とネズミはアリスを振り返って言った。そしてため息をついた。「たしかに、長い尻尾ね」と、アリスはネズミの尻尾を見下ろしながら言った

小説の中で、ネズミが tale(お話)と言ったところを、アリスが tail(尻尾)と聞き間違えるシーンがあります。tale の発音は /teɪl/、tail の発音も /teɪl/ と、どちらも同じ発音です。 発音が同じ単語を使って言葉遊びをしています。

not(ない)と knot(結び目)

`I had not!’ cried the Mouse, sharply and very angrily. `A knot!’ said Alice, always ready to make herself useful, and looking anxiously about her. `Oh, do let me help to undo it!’
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER III, A Caucus-Race and a Long Tale
「そんなことは言ってない!」とネズミは鋭くとても怒って叫んだ。「結び目!」とアリスは言った。彼女はいつも誰かの役に立つ準備ができていたので、心配そうに辺りを見渡して言った。「まあ、それなら私が手伝うわ!」

この部分では、アリスは、ネズミが言った not(~ではない)を knot(結び目)に聞き間違えています。not の発音は /nɒt/、knot の発音は /nɒt/。どちらも同じ発音です。

antipathy(反対)と antipodes(反対の場所)

`I wonder if I shall fall right through the earth! How funny it’ll seem to come out among the people that walk with their heads downward! The Antipathies, I think–‘
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER I, Down the Rabbit-Hole
「地球を突き抜けて落ちるのかしら!頭を逆さまにした人たちが歩いているところに出てきちゃったら滑稽に見えるでしょうね!それは、反対の人たちのいるところかしら・・・」

アリスは、地球の裏側の人たちのことを、antipodes(対蹠地、正反対の場所)という単語を使って the Antipodes(反対側にいる人)と言いたかったのですが、それと綴りが似た antipathy(根強い反感)と間違えて the Antipathies(反対する人)と言ってしまいます。同じ「反対」でも、antipodes は「場所の反対」、antipathy は「感情の反対」を表します。ルイス・キャロルによる、綴りが似た単語を使った言葉遊びと捉えられるでしょう。

古めかしいイギリス英語

「不思議の国のアリス」が書かれたのは、今から100年以上も前です。書かれた時代が古いため、今はあまり耳にしない単語も頻繁に登場します。そんな古めかしい単語の意味についても押えておきましょう。

fancy! は「まさか~だなんて!」

fancy は「想像する」や「心に描く」という意味で知られている単語です。しかしながら、昔の用法では「まさか!」、「なんと!」と驚きを表す表現としても使われていました。fancy that ~ !how surprising ~ !(まさか~とは!)と同じ意味を表します。

and she tried to curtsey as she spoke–fancy curtseying as you’re falling through the air!
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER I, Down the Rabbit-Hole
そして彼女はしゃべりながら婦人の会釈をしようとした―宙を落ちながら会釈をするなんて!

alas! は「ああ悲しいかな!」

alas は古めかしいユーモアのある表現です。同情や哀れみを表す単語として使われていました。通常、alas! のように感嘆符(!)と一緒に使われます。日本語では「ああ悲しいかな」や「なんと可哀想に」、「それは残念に」などと訳されます。

and Alice’s first thought was that it might belong to one of the doors of the hall; but, alas! either the locks were too large, or the key was too small, but at any rate it would not open any of them.
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER I, Down the Rabbit-Hole
そしてアリスが真っ先に考えたのは、この廊下にある扉のどれかに合うのではないかということだ。でも残念!どの鍵穴も大きすぎたり、または鍵が小さすぎたりして、どっちにしろ、どの扉も開かなかった

shan’t は「~しない」

shan’t shall not の短縮形です。主に話し言葉で使われていました。I shan’tI refuse to(私は嫌です、私はしません)と同じ意味で使われます。何かをしたくないときに拒む表現です。

`Oh, my poor little feet, I wonder who will put on your shoes and stockings for you now, dears? I’m sure I shan’t be able! I shall be a great deal too far off to trouble myself about you:
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER II, The Pool of Tears
「私の可哀想な足、今となっては誰があなたに靴や靴下をはかせるのかしらね?私ができないことは確かだわ!あなたが遠くに行き過ぎたせいで構ってあげられないの」

queer は「普通じゃない」

queer は「変だ」、「普通じゃない」、「予想していない」という意味で使われていました。現在は、「変だ」という意味で使われるより、「同性愛者の」(gay)という意味で使われているようです。

`Dear, dear! How queer everything is to-day! And yesterday things went on just as usual. I wonder if I’ve been changed in the night? Let me think:
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER II, The Pool of Tears
「あらまあ!今日は全てのことが変だわ!昨日は普段どおりだったのに。夜の間に誰かと入れ替わったのかしら?考えてみよう」

daresay は「あえて言うならば」

daresayケンブリッジ英語辞典で引くと、「used to say that you agree or think that something is true」(何かについて正しいと、賛成もしくは考えていることを伝える)と説明されています。日本語では「あえて~と言う」、「たぶん~だと思う」と訳されます。I dare say や I daresay も同じ意味です。

`Perhaps it doesn’t understand English,’ thought Alice; `I daresay it’s a French mouse, come over with William the Conqueror.’
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER II, The Pool of Tears
「もしかしてネズミは英語が分からないのかも」とアリスは考えました。「私が思うに、彼はウィリアム征服王と一緒に来たフランスのネズミだわ」

comfit は昔の「砂糖菓子」

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comfitオックスフォード英語辞典で引くと、「A candy consisting of a nut, seed, or other center coated in sugar.」(木の実や種を砂糖でコーティングした砂糖菓子)と説明されています。古い時代の英語圏でよく食べられていたお菓子です。

Alice had no idea what to do, and in despair she put her hand in her pocket, and pulled out a box of comfits,
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER III, A Caucus-Race and a Long Tale
アリスはどうすればいいのか分からなかった。悲しい気持ちでポケットの中に手を入れると、コンフィットの箱を取り出した

ルイス・キャロル独特の奇妙な英語

作者ルイス・キャロルは、自分自身で作った言葉を使うことがあります。それが何を表しているのか、一見分かりにくいものが多いのも事実です。

curiouser and curiouser は「ますます奇妙だ」

`Curiouser and curiouser!’ cried Alice (she was so much surprised, that for the moment she quite forgot how to speak good English);
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER II, The Pool of Tears
「ますます変だわ!」とアリスは叫んだ。(彼女は驚きすぎたため、その瞬間、どのように英語を話すのかをさっぱり忘れてしまったのです)

アリスが驚いているシーンで、「Curiouser and curiouser!」(ますます奇妙だわ)と叫びます。ここで使われている curiouser は、文法的には more curious が正しいです。しかしながら、簡単な英語すら間違えてしまう状況を描くことで、アリスがどれだけ驚いているのかを伝えていると言えます。

caucus-race は「政党の幹部会レース」

`What I was going to say,’ said the Dodo in an offended tone, `was, that the best thing to get us dry would be a Caucus-race.’
―Alice’s Adventures in Wonderland, CHAPTER III, A Caucus-Race and a Long Tale
「私が言わんとしているのは、」とドードーはむっとした口調で続けた、「つまり我々を乾かす最も良い方法は幹部会レースだということだ」

ぬれた身体を乾かすために、動物たちが無秩序に走り始めるレース。小説の中では、そのレースを caucus-race と呼んでいます。ルイス・キャロルが作った造語のひとつです。caucus とは、「政党の幹部会」を表します。caucus-race とは、政治家達が幹部会であちこち走り回って利権を求める様子を、動物たちが無秩序に走り回る様子に重ねて揶揄しているのです。


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