「英語にできない《駆け付け警護》」から学ぶ日本と世界と英語表現

11月15日、安倍内閣は南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣する陸上自衛隊の部隊に、新任務「駆けつけ警護」を付与することを決定しました。この「駆け付け警護」、防衛省の英訳ではそのままローマ字で「kaketsuke-keigo」と表記されています。

日本固有のものに英訳を当てるのが難しく、そのままローマ字を当てはめてしまう、という事自体はよくある事です。「駆け付け警護」も、ピッタリと対応する英語がないためにこのような表記になったとされています。とは言っても、日本語をローマ字に直しただけでは外国人に向けて意味が伝わりません。英語に直すとすればどう訳すことができるでしょうか。

「駆け付け警護」とは?

そもそも「駆け付け警護」とは、離れた場所にいる国連や民間NGOの職員、他国軍の兵士らが武装集団などに襲われた場合に助けに向かう任務の事です。この任務は、2015年9月に成立した安全保障関連法のうち、改正PKO協力法に新しく盛り込まれました。陸上自衛隊2014年より国連平和活動(PKO)として南スーダンに派遣されてきましたが、今回新たに「駆け付け警護」の任務付与が内閣にて閣議決定され、20日に現地へ出発しました。

「駆け付け警護」の任務付与によって、現地で邦人に対する暴動や襲撃などが起こったとき、自衛隊がその場に行って保護・警護をすることが可能になりました。この「駆け付け警護」には武器使用が可能とされています。そのため、警護といっても現地の紛争に巻き込まれるのではないか、憲法9条によって禁止されている武力行使に当たるのではないか、など論争の的となっています。
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外務省HP記載の英訳

新任務「駆け付け警護」には対応する英語訳がないとされ、外務省のホームページに記載されている英訳では、「いわゆる」(so-called)をつけてその後にローマ字の”kaketsuke-keigo”が続いています。また、()内で説明がなされています。

so-called “kaketsuke-keigo” (coming to the aid of geographically distant unit or personnel under attack) or “use of weapons for the purpose of execution of missions”
いわゆる「駆け付け警護」(襲撃にあっている地理的に遠い団体や個人の援助に向かうこと)または「任務遂行を目的とした武器使用」

外務省
http://www.mofa.go.jp/fp/nsp/page23e_000273.html

日本の自衛隊は憲法9条により武器の使用が禁止されていますが、新しい任務では現地にいる邦人を保護する目的であれば武器の使用が許可されています。しかし、これはPKOに参加する他国のように、軍事活動が許可されているという事ではなく、あくまでPKO五原則(日本がPKOに参加する際の条件)の範囲内の「警護」だとされています。こうした日本独自の考え方は英訳しづらいため、kaketsuke-keigoとそのままローマ字になったようです。


「駆け付け警護」の英訳

もっとも、日本語をローマ字に直しただけでは、その読み方はわかっても意味は伝わりません。日本の英字新聞各紙は、「駆け付け警護」にそれぞれ独自の英訳を当てています。

Japan timesの英訳

kaketsuke keigo, or coming to the aid of other nations’ peacekeeping troops and civilians under fire
駆け付け警護、つまり他国の平和維持軍や襲撃されている一般人の援助に向かうこと―Japan Times (2016年8月24日)
rushing to the rescue
急いで救助に行くこと―Japan Times (2016年8月24日)
“rushing to provide security”
「急いで警備を提供しにいくこと」―Japan Times(2016年10月29日)

 

朝日新聞(The Asahi Shinbun)の英訳

Rushing (to distant places) to protect (people)
(遠く離れた場所に)急いで(人々を)守りに行くこと―The Asahi Shinbun

 

読売新聞(The Japan News)の英訳

Coming to the aid of foreign troops or civilians under attack under certain conditions
(特定の状況で襲撃を受けている外国の軍や一般人の援助に向かうこと)―The Japan News

 

毎日新聞(The Mainichi)の英訳

“rush-and-rescue”missions
「駆け付け助ける」任務―The Mainichi

 

以上各紙の英訳を見てみると、「駆け付け」にはrushが多いようですが、日本語でも定義が曖昧になりがちな「警護」にはrescueやprovide security、protectなど様々な語が当てられています。ただし、やはり短い言葉だけでは表現しきれないので、誤解のないようcoming to the aid of~など長文で補足説明を行う必要があるようです。

各単語のニュアンスをチェック

各単語が醸し出すニュアンスによって、危険性の有無、緊迫感などの印象は変わってきます。各紙が英訳に使っている単語のニュアンスを見ていきましょう。

rushのニュアンス

「駆け付け」という語には、ほとんどの新聞でrushが当てられています。rushは「急いで行動する、突進する、突撃する、殺到する」などの意味を持ちます。Oxford Dictionariesでは「Move with urgent haste」(緊急に急いで動く)とされており、緊迫した状況で急いで行動する、というニュアンスがあることがわかります。

I rushed outside and hailed a taxi.
私は外に飛び出してタクシーを呼んだ
Two medics rushed in, put the officer on a stretcher, and took him out.
2人の救命士が駆け付けて、担架に警官を載せ、連れ出した

rescueのニュアンス

rescueには「救う、救助する」という意味があります。Oxford DictionariesではSave (someone) from a dangerous or difficult situation(危険または困難な状況から(誰かを)救う)とあります。助けに行く人が困難な状況に陥っていることがポイントとなります。

Firemen rescued a man trapped in the river.
消防士は川に落ちた男を救出した
Two crewmen died, but the remaining 20 were eventually rescued by the lifeboat.
2人の船員が死んだが、残った20人はやがて救命ボートで救出された

provide securityのニュアンス

provideは「提供する」、securityは「安全、無事、防衛、警備」の意味を持ちます。securityはOxford DictionariesでThe state of being free from danger or threat(危険や脅威のない状態)。必ずしも危険な状況に陥っているという訳ではないけれども、「危険がないという安心を警護によって提供する」というニュアンスです。

The system is designed to provide maximum security against toxic waste.
このシステムは有毒廃棄物から守る最大限の安全を提供するよう設計されている

Colonialism is no longer seen as a threat to peace and security since there are no more empires left.
もう帝国が残っていないので、植民地主義はもはや平和と安全への脅威とはみなされない

protectのニュアンス

protectは「保護する、防ぐ、守る、庇護する」という意味をもちます。Oxford DictionariesではKeep safe from harm or injury(害や怪我からの安全を保つ)。こちらも、「守るもの」が有害なものや怪我の可能性にさらされていることが前提にあるようです。

He tried to protect Kelly from the attack.
彼はケリーを襲撃から守ろうとした
I thought my privacy was protected by the constitution.
私のプライバシーは憲法によって保護されていると思った

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