「僭越ながら~」という表現は、いかにも日本的な謙り(へりくだり)ですが、英語の定型的な前置き表現にも同じ意味合いで使える言い方があります。
たとえば With all due respect, ~ (お言葉ですが)、あるいは I do not mean to be rude, but ~ (無礼を承知で申し上げますが)といった言い回しは、「僭越ながら」に対応する表現として使えます。
「僭越ながら」に対応し得る英語の言い方は複数挙げられます。場面と趣旨に応じて使い分けましょう。
目次
「僭越ながら」を「恐縮」の意味で捉える英語の定型的前置き表現
日本語の「僭越ながら」という表現を、《自分の発言や行動をへりくだっていう表現》という風に解釈するだけでは、うまく対応する英語表現は見つけにくいままです。
これを「自分のような身が申し上げるのもなんですが」という感じの、平たい言葉の代替表現に言い換えてみると、案外それなりに趣旨の合う英語表現が見つかります。
英語の中にも、《本来は場にふさわしくないだろうけれど》的な趣旨を表明する定型的な前置きフレーズがいくつかあります。
With all due respect, ~
With all due respect, は、「due respect(然るべき敬意)を持って」という意味合いで「恐縮ながら申し上げます」と述べる英語の前置き表現です。日本語の「お言葉ですが」に近い感覚で使えます。「僭越ではございますが申し上げます」という趣旨も伝わるでしょう。
With all due respect, はもっぱら目上の人に対して意見する場面、とりわけ意見が対立するような見解を述べるような場面で用いられる英語表現です。
With the greatest respect, ~
With the greatest respect, も、With all due respect, と基本的には同じ趣旨で使える英語の言い回しです。the greatest と最上級を使って表現することで、「これ以上ない」ほどの強い敬意を示します。
With all due respect, も With the greatest respect, も、基本的に、「相手との意見対立が予想される」または「自分が発言して然るべき場面とはいえない」ような場合に限って用いるべき言い方といえます。濫用は上策とはいえません。
I do not mean to be rude, but ~
I do not mean to be rude, but ~ は英語を文字通り捉えれば「無礼をはたらくつもりはないのですが」とでも訳し得る英語の言い回しです。「僭越」の語義に通じるものがあります。
英語の I do not mean to be rude, but ~ は、「本当に言いにくいことや相手を不快にさせるかもしれないことを述べる際の釈明」に近いニュアンスで用いられる言い回しです。わりと深刻な場面で使う言い方です。
表面的な意味は「僭越」に近いとはいえ、日本語で「僭越ながら申し上げます」というように何でもない場面で使うと違和感を持たれます。
「僭越ながら」を「許可」「感謝」の意味で捉える英語の定型的前置き表現
Can I tell you something ?
Can I tell you something ? は「ひとこと良いですか?」と相手に伺いながら発言を切り出す英語表現です。
これ自体は「自分にも発言権をください」と申し立てる言い方であり、べつに立場の上下を前提とする「へりくだり」の意味を示す表現というわけではありませんが、文脈に応じて「僭越ながら」と相通じる趣旨が表現できる言い方でもあるでしょう。
Please allow me to ~
許可を得る言い方としては allow の語を使って allow me to ~ と述べる言い方もあります。
to に続く動詞次第では発言に限らず行動について「僭越ながら~させていただきます」と述べる意味でも使いやすい言い方です。
僭越ながら私見を申し上げます
I’m happy to be here.
I’m happy to be here. は、発表の冒頭部分で「私にも発表ができて光栄です」「こうして機会を頂きうれしいです」といった喜びの気持ちを表す英語の言い回しです。冒頭部分に置く決まり文句であり、かつ場の雰囲気を整えるという点では「僭越ながら」を英語にしたものと言えなくもありません。
相手を不快にさせることがなく、ヘタに「私ごときが・・・・・・」と自分を下げるような言い方よりも無難な言い回しです。
使用場面がやや限られる言い方ではありますが、使える場面では候補の筆頭に挙げるべき表現といえるでしょう。
「僭越ながら」を「異見」の意味で捉える英語の定型的前置き表現
相手の主張や考え方に対して一言もの申す、という反論の糸口として「僭越ながら」と切り出す場面もあるでしょう。
反論の前置き表現として「僭越ながら~」と述べるような場面では、英語では「相手の見解を尊重し理解を示す」表現に置き換えるのが最適です。たとえば、「言いたいことは分かります」「その意見ももっともですが」というような言い方が使えます。
異論を唱える場合にも、まずは相手を肯定する、肯定から入ることが大切です。そうすれば相手も面目が保たれますし、場が険悪になる懸念も減らせます。意見をむげに棄却せず積み上げていくという建設的な対話の精神にもかなうでしょう。
I can see your point, but ~
異論の前に理解を示す具体的な英語表現としては、I can see your point 、あるいは、I can see what you are saying のような表現が使えます。
仰ることは分かりますが、より大局的な視点が必要です
ごもっともです、ただ教科書の方に誤りがあるという場合もございます
調子を和らげる意味で「僭越~」と言いたい場合の英語表現
何か意見を述べる場合に、相手との人間関係上強くは言いにくかったり、内容に自信がなかったりして「ちょっと謙遜気味に言いたいな」ということは、多々あるものです。「僭越ながら」とまでは言わないけど、ひとこと前置きしておきたい、という場面は少なくないでしょう。
英語では助動詞 would を用いたI would say ~ あるいは I’d say ~ といった「遠回しに述べる」表現が、言葉の調子を和らげる英語表現として使えます。
ただ言うだけではぶっきらぼうに聞こえかねない事柄を、ちょっと柔和に伝えたいなら、
I would say ~
I would say もしくは「敢えて言えば」「ちょっと言うと」と以後の主張を弱くする英語の言い方です。抗議や強い主張ではく、私なりにひとことだけというやわらかな感じを英語で出せる言い回しです。
もちろん省略して I’d say ~ と述べても可
I would は縮めて I’d と表現してしまえます。
いっそ「僭越ながら」部分を省く手もアリ
英語にもへりくだりの発想は様々ありますが、日本語の謙譲表現を持ちこんで訳しても中々うまい英語表現にはできません。これは英語と日本語では感覚や考え方が異なる部分です。
たとえば、向こうから発言や意見を求められているような場面では、「僭越ながら」のような前置きはむしろ省いた方が英語としては自然です。
「目上の人だから」程度の感覚でやたら謙遜・謙譲表現を使っても、「謙虚」とか「礼儀正しい」といった印象には結びつきません。むしろ英語文化の中では「皮肉を言おうとしている」とか「意見が食い違うことへの嫌味を言っている」ように聞こえたり、「ろくでもない発言であると自ら認めている」「何かをごまかそうとしている」といった不本意な伝わりかたに結びついてしまう可能性すらあります。
余分な情報は削る勇気を持つ
日本語は謙譲や謙遜を示す表現をとにかく盛る言い方が好まれますが、英語では余分な文飾の過剰な付け足しは好まれません。敢えて「僭越ながら」と言い添えなくても問題なさそうな文脈であれば、英語の中では思い切って丸ごと省いてしまうのも手です。
情報として価値の低い部分は、誤解を生むくらいなら、いっそ省いてしまった方が得策ともいえます。これは「僭越ながら」に限らず、英語全般に適用できる考え方です。