太陽(sun)、月(moon)、星々(stars)といった天体は、古来から親しまれてきた存在です。英語表現の中にも月や星が登場する慣用表現が色々とあります。
とりわけ「月」を使った言い回しは種類が豊富です。どれも比喩が満載で、中々に機知に富んだ表現。ちょっと使ってみたくなること請け合いです。
予備知識:表記は定冠詞つき+小文字表記が基本
太陽や月や地球は、固有の天体(天体の固有名)として述べる場合には、先頭大文字で the Sun、the Moon、the Earth のように表記します。
他方、他の惑星や天体を意識せずに、いわば「お日さま」「お月さま」「地上」というニュアンスで述べる場合には、小文字のまま the sun、the moon、the earth と表記します。慣用表現に登場する太陽や月は、もっぱら小文字表記です。
定冠詞は基本的に必須です。ただし、《「恒星」という程度の意味で用いられる sun 》、《「衛星」の比喩として用いられる moon 》、《「土壌」くらいの意味で使われる earth 》などは定冠詞を伴いません。
a full moon (満月)や a crescent moon(三日月)、a new moon (新月)などは不定冠詞を伴って表記されます。これらは、あの「月」を指す言い方ではなくて、「月の様態」を表現する言い方に過ぎないためです。
「月」に関する英語の慣用表現
月を引き合いに出す表現はたくさんあります。
promise ~ the moon
とうてい実現できない約束をする
promise ~ the earth とも言います。promise の後には人(someone)が入ります。
文字通りには「月をあげると約束する」という意味。すなわち、実現できるわけがない大ボラの比喩です。
bark at the moon
ムダな抗議をする
bay the moon とも言います。bark も bay も「咆吼する」という意味の動詞。
文字通りには「月に吠える」。しかし月に向かって吠え立てても何も得られません。ということで、「無駄で実りがない(のにやかましい)抗議」といった意味で用いられることがあります。
once in a blue moon
極めてまれに
blue moon は、文字通り月が青く見える現象。大気中に舞う塵埃が見え方に影響して生じる現象だそうです。
このブルームーンの出現は全く偶然的で予測困難、さらに出現頻度はきわめて稀。超激レアな代物の代名詞です。
ブルームーンは「あの月そのもの」を指す言い方ではなくて「月が青く見えるという様相」を述べた言い方なので、不定冠詞を付けて a blue moon と表現します。
「ブルームーン」は「同じ月に満月が2度訪れる月の(2度目の)満月」という意味で用いられることもあります。この意味のブルームーンも、せいぜい数年に1度の割合でしか出現しません。
over the moon
大喜びして舞い上がる
嬉しさのあまり飛び上がる様子を誇張して述べた言い方です。有頂天、あるいは天にも昇る気持ちといった日本語表現に通じるところがありそうです。
僕はもう天にも昇る気持ちだよ
ちなみに、英語圏でポピュラーな民謡集「マザーグース」(Mother Goose)に収められた「Hey diddle diddle」には「The cow jumped over the moon!」(牝牛が月を飛び越えた)という一節があります。これは「大喜び」を意味する比喩表現というよりは、暗示に満ちた謎の比喩として扱われています。
ask for the moon
無茶な願いをする、ない物ねだりする
ask for ~ は「~をねだる」という意味の表現で、文字通りには「月が欲しいとおねだりする」、すなわち、到底実現できない事をねだるという意味の比喩表現です。
動詞は ask に限らず、cry for the moon や wish for the moon といった「要望する」という意味の他の動詞でも表現できます。
hung the moon (in the sky)
祭り上げる
主に think someone hang the moon の形で「someone をあたかも完璧超人であるかのように見る」という意味で用いられるスラング表現です。
往々にして皮肉めいたニュアンスで用いられるよう表現のようです。「月を空に掛けた当人(とでも言うつもりか?)」というような感じでしょうか。
the moon on a stick
なんでもかんでも
「望むものは何でも」という意味で使われるスラング(若者言葉)です。1990年代頃にコメディー番組を通じて広まった表現だそうで。
文字通りには「棒に付いた月」。アイスキャンデーのようなイメージでしょうか。
ちなみに、「美少女戦士セーラームーン」でセーラームーンが手にする三日月の就いたスティック型のアイテムは「ムーンスティック」(Moon Stick)といいます。the moon on a stick との関連は不明ですが、おそらく関係ないでしょう。(セラムンは海外でも女子に大人気です)
「太陽」に関する英語の慣用表現
under the sun
この世の(全ての)
「この太陽の下」、すなわち、「万物」「この世のありとあらゆる物事」といった意味で用いられる言い方です。beneath the sun ともいいます。
everything under the sun (この世の全て)という言い方も定番のフレーズです。
私達はありとあらゆる事柄について話し合った
文字通り「太陽の下」という意味でも使います。
with the sun
右回り
(北半球における)太陽の動きと同じ方向、つまり右回り(時計回り)という意味の表現。
航海術から生まれた表現のようで、主に海事(航海)関連で用いられます。
against the sun
左回り
太陽の動きとは逆の方向、ということで、左回り(逆時計回り)を指します。with the sun の反対表現。
a place in the sun
有利な地位
「日だまり」「日の当たる場所」という意味で、文字通りの意味でも用いられますが、口語表現としては比喩的に「多くの支持を得る」「優位にある」立場、というような意味で用いられることがあります。
「星」に関する英語の慣用表現
oh my stars
あらまあ!これは驚いた
Oh my god ! と同様に感動詞的に用いられる言い方です。my stars とも言います。
Oh my stars は Oh my stars and garters ! という言い回しの省略形です。通説では garters はガーター勲章(the Order of the Garter)のこと、stars は星章を意味するものと解釈されていますが、なにせ古い表現なので詳細は定かでない模様。
see stars
目から火花が出る
頭を強烈に打った場合などに目がチカチカする現象をたとえた言い方です。海外のドタバタ系のマンガやアニメ(cartoon)にありがちな描写という感じがします。
実際に頭をゴチンとぶつけるとだいだい閃光のようなものが見えます。日本語では「火花」と表現するところを英語では「星」と表現する次第。
starry-eyed
夢想的な、空想的な
stars in one‘s eyes とも表現します。「夢見るような眼差し」というニュアンスの言い回し。
starry は star の形容詞形で、「星のようにキラキラした」という意味もあります。理想や希望を抱いた眼差しは輝いて見えるものです。ただし starry-eyed には非現実的な夢想という意味合いが多分に含まれます。
reach for the stars
大望を抱く
文字通りには「星に手を伸ばす」。夜空に輝く星々は、宝石のように美しいけれど、手を伸ばしても届くはずのない存在です。すなわち、(半ば不可能事と思えるような)高遠な目標を掲げることの比喩表現です。
one’s star is rising
頭角を現しつある
star には「幸運」や「成功」といった意味があり(この意味ではもっぱら単数形で用います)、星の巡り合わせが上昇トレンドにある、という意味で、「運気が向いている」「成功を収めつつある」ことを示します。
rising star とも表現します。