連載コラム「大学で学べる学問を知ろう」国際教育をテーマに市瀬先生に聞く

 

市瀬教授

高校生にとって、大学でどのような学問が学べるのかを知ることは、進路選択の大きなヒントになります。連載コラム「大学で学べる学問を知ろう」では、各分野の専門家にインタビューを行い、学問の魅力を探ります。 

今回は、「国際教育」を専門とする宮城教育大学の市瀬智哉先生にお話を伺いました。 

✔ 国際教育とはどのような学問なのか? 

✔ 日本と海外の教育にはどのような違いがあるのか? 

✔ これからの時代に必要な学びとは? 

国際社会で求められるスキルや、高校生が今からできることについて、先生の研究をもとに詳しく解説していただきました。 

先生の専門分野について 

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国際教育がご専門とのことですが、具体的にどのような研究をされているのでしょうか? 

市瀬先生:
国際教育と一口に言っても、その範囲は非常に広いです。私が取り組んでいる国際教育の研究は、世界の教育の変化を踏まえ、日本の教育が国際的な潮流に適応できるようにすることが大きなテーマです。 

例えば、以前は知識や技能を習得することが教育の中心でしたが、近年では 「コンピテンシー(資質・能力)」 を育成することが重要視されています。これは、単に知識を蓄えるのではなく、思考力や問題解決力、コミュニケーション能力など、変化の激しい社会を生き抜くための力を養うものです。 

また、持続可能性(SDGs)や気候変動教育 など、これからの社会で欠かせないトピックも国際教育の重要な要素となっています。日本の教育が世界の教育のトレンドを適切にキャッチアップし、国際社会の中で議論できるような力を育てるための研究を行っています。 

国際教育というと、やはり海外の教育の在り方を学び、日本の教育に活かしていくということなのでしょうか? 

市瀬先生:
それもありますが、もう少し具体的に言うと、私は 「日本の学校の国際化」 というテーマにも取り組んでいます。私立の学校では国際化が進んでいるところも多いですが、私は公立学校や地域の学校も含めて すべての学校が国際化を進めていくべき だと考えています。 

そのためには、国際理解教育 が不可欠です。国際理解とは、単に外国の文化を学ぶことではなく、人権や平和、環境保護など、世界共通の課題について 国際的な視点を持って考えられる力を育てること です。これによって、生徒たちは自分たちの地域や社会が、世界とどうつながっているのかを実感できるようになります。 

さらに、日本は今後、 外国人の児童生徒が増えていく ことが予想されます。現在でも多くの外国にルーツを持つ子どもたちが日本の学校に通っていますが、彼らが 日本の教育システムの中で適応しやすい環境を作ること も重要です。そのための取り組みや、地域の学校がどのように国際的な環境を整えていくかといった点も、私の研究の範囲に含まれています。 

国際教育といっても、海外に目を向けるだけでなく、日本の教育環境自体をより開かれたものにすることも大切ということですね。 

市瀬先生:
そうですね。国際教育は決して「海外で学ぶこと」だけではなく、日本国内で多様な価値観を受け入れ、国際的な視点を持つこと も含まれています。そのため、地域の学校や公立校にも広がるような仕組みづくりが必要だと考えています。 

公立高校における国際教育の課題と可能性 

私立高校では国際化が進んでいる一方で、公立高校ではなかなか導入が進んでいない現状があるかと思います。その理由として、どのような課題があるのでしょうか? 

市瀬先生:
おっしゃる通り、私立高校は国際化を学校の特色として打ち出しているところが多く、英語教育や海外との連携も進んでいます。一方で、公立高校では 国際化に対する関心や必要性が地域によって異なる という課題があります。 

特に都市部では、街自体がグローバル化を志向し、学校の国際化も自然な流れで進んでいます。しかし、地方では必ずしもそうとは限りません。例えば、東北地方のように 地域全体が国際化を志向していない 場合、学校単位で国際教育を進めることの優先度が低くなりがちです。また、教師自身が 「国際教育は自分に関係のない話」 と捉えてしまうこともあり、結果として学校の取り組みが限定的になってしまうという壁があります。 

公立高校でも国際教育を広げるためには、どのような仕組みが必要でしょうか? 

市瀬先生:
国際教育を進めるためには、「国際理解教育」を より多くの学校で当たり前のものにしていく 必要があります。これは、単に英語を学ぶことではなく、人権や平和、環境問題など 世界的な課題を多角的に学ぶこと を指します。 

また、日本に増えている外国ルーツの児童・生徒への対応 も重要なテーマです。国際教育は、海外の情報を取り入れるだけでなく、多文化共生の視点を持つこと でもあります。こうした教育を すべての公立高校で進めていく ためには、地域の特色を活かしながら、少しずつ意識を広げていくことが求められます。 

SDGsESD(持続可能な開発のための教育) 

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SDGsを達成するための教育として「ESDEducation for Sustainable Development)」が重要視されていますが、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか? 

市瀬先生:
持続可能な社会を作るためには、それを実現するための教育が不可欠です。その役割を担うのが ESD(持続可能な開発のための教育) です。 

実際、近年の小中高の教科書には SDGsのマークや記述 が増えており、学びの中で持続可能性に触れる機会が増えています。しかし、問題は SDGsを意識せずに授業を進めてしまうこと」 です。せっかく教科書に載っていても、先生がその意義を伝えなければ、生徒の学びにはつながりません。 

生徒が主体的にSDGsに取り組むための学習方法として、どのようなものがありますか? 

市瀬先生:
最近、「探究学習」や「課題研究」 が大学入試にも影響する形で広がっています。この中で、SDGsをテーマにした研究を進める生徒も増えています。 

例えば、生徒が「どうすれば地域の二酸化炭素排出量を減らせるか?」や「循環型社会を実現するために何ができるか?」といった問いを立て、地球規模の課題を 自分たちの生活や地域と結びつけながら探求する スタイルが広まっています。このようなアプローチは、学びをより 実践的かつ主体的なもの にする上で非常に効果的です。 

また、一部の地域では ユネスコの支援を受けた課題研究の発表会 も行われており、生徒が国際的な課題について深く考え、発信する機会が増えています。こうした取り組みがさらに広がれば、高校生のうちから グローバルな視点を持ち、社会課題に貢献する力を育む ことができると考えています。 

教育学への関心と国際教育への道 

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市瀬先生は、もともと教育学を専門にされていましたが、国際教育という分野に進まれたきっかけは何だったのでしょうか? 

市瀬先生:
私自身、もともと異文化や異民族といったテーマに興味を持っていました。しかし、それらをただ観察するだけでは社会に貢献する手段にはならないと感じていました。 

そこで、「何かスキルを持つことが必要ではないか」と考えるようになりました。例えば、農業、科学技術、教育といった分野で専門的な知識や能力を身につけることで、社会に対して より具体的な形で貢献できる と思ったのです。その中で 「教育」という分野にこそ、自分の関心と社会貢献の可能性がある と気づき、教育学を志すようになりました。 

教育というのは、単に知識を伝えるだけではなく、子どもたちを育て、世の中を変えていく手段 になり得ます。特に国際教育の分野では、世界的な視野を持ちながら、地域や社会に対して影響を与えられる可能性があります。その点に魅力を感じ、研究を続けています。 

国際学部や国際系の学部は高校生にも人気ですが、そこで学ぶことが実際のキャリアにつながるのか不安に思う高校生も多いと思います。先生はどのように考えていますか? 

市瀬先生:
確かに「国際学部に進みたい」と考える高校生は多いです。しかし、実際に進学した後、「国際的な仕事がしたいけれど、具体的に何をすればいいのかわからない」 という悩みを抱える人も少なくありません。 

例えば、「国連で働きたい」と考える人も多いですが、国際機関で活躍するためには、単なる語学力だけでなく、専門的なスキルや知識が必要 になります。実際に国際機関で働いている人たちは、医療・福祉・農業・教育・環境など、何かしらの専門分野を持っている ことがほとんどです。 

つまり、「国際的な仕事をしたい」のであれば、まずは自分の専門分野を確立することが重要 です。高校生のうちから「どのような分野で力を発揮できるのか」を考えながら学ぶことが、将来のキャリアにつながると思います。 

国際社会に貢献するためには、どのような力を身につけるべきでしょうか? 

市瀬先生:
国際社会で活躍するためには、まず 「専門性を持つこと」 が大切です。そして、それを支える 「創造力」や「問題解決力」 も必要になってきます。 

国際教育の分野では、単に知識を学ぶのではなく、「どうすれば社会をより良くできるか?」を考え、実行する力を育てること が重要視されています。例えば、持続可能な社会を目指すためのプロジェクトを企画したり、地域課題を解決するためのアイデアを提案したりすることが求められます。 

また、英語での議論力 も欠かせません。今、世界では東南アジアやヨーロッパ、インド、アフリカなど、多くの国の人々が英語を使って議論し、国際的な問題解決に取り組んでいます。しかし、日本ではまだ「英語を使って議論する」ことが日常的ではなく、その点でハードルを感じる人も多いです。 

英語を使った議論力を身につけることは、国際社会での活躍につながりますし、それは単に「英語が話せる」こと以上の意味を持ちます。「自分の考えを整理し、他者と意見を交わしながら、新しい価値を生み出す力」こそが、これからの時代に求められるスキルです。 

高校生の皆さんには、ぜひ「自分はどの分野で貢献できるのか?」を考えながら学びを深めてほしいと思います。 

国際教育と持続可能な学び:日本と海外の比較 

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市瀬先生、日本の教育におけるSDGsESD(持続可能な開発のための教育)の取り組みについてお話しいただきましたが、海外と比較するとどのような違いがあるのでしょうか? 

市瀬先生:
国際教育という視点では、北欧の国々の取り組みが特徴的です。北欧では、知識や技能の習得だけでなく、社会に貢献するためのスキルを育てることが重視されています。 

例えば、民主主義的な議論の場を設けたり、リーダーシップを育成する教育が実践されています。日本ではまだ十分に普及していませんが、探究学習やプロジェクト型学習などを通じて、そうしたアプローチが少しずつ広がっています。 

日本でも探究学習の取り組みが進んでいるということですね? 

市瀬先生:
はい。一部の学校では、SDGsをテーマにした課題研究を行い、生徒が地域社会の課題に対してアプローチを考える機会を提供しています。また、ユネスコが主催する課題研究の発表会などを通じて、生徒が研究の成果を発表する場も増えています。 

ただし、こうした取り組みはまだ教育全体の主流にはなっていません。今後、より多くの学校で取り入れられることが期待されます。 

教育の中で課題となる点は何でしょうか? 

市瀬先生:
日本の教育における課題の一つは、創造性(クリエイティビティ)を育てる機会が十分ではないことです。これまでの教育は「正解を求める学び」が中心で、新しいアイデアを生み出す力を伸ばす機会が限られています。 

また、探究学習が広がってきたとはいえ、一部の生徒だけが積極的に取り組む状況もあります。持続可能な社会を作る学びは、一部の生徒だけが取り組むものではなく、より多くの生徒が参加できる形が理想的です。 

国際教育が拓く未来:高校生へのメッセージ 

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市瀬先生、これからの社会を生きていく高校生に向けて、どのような意識を持つことが大切だとお考えでしょうか? 

市瀬先生:
これからの時代、持続可能な社会の実現や国際的な課題解決に取り組むことが求められますが、それは一部の人だけが関わるものではありません。例えば、私立の学校や意識の高い生徒だけが「持続可能性が大事だ」と言って取り組むのではなく、もっと広い層の生徒が関心を持ち、行動できる環境が必要です。 

そして、それは単に「社会のため」にやることではなく、個人にとっても大きな価値を持ちます。なぜなら、こうした課題に向き合い、創造性を発揮できる人材こそが、これからの社会で評価されるようになるからです。社会に貢献しながら、自分のキャリアを築くことができるという視点を持つことが大切だと思います。 

もう一つ大切なのは、英語で議論する力 です。世界では、東南アジア、ヨーロッパ、インド、アフリカの人々も、当たり前のように英語を使って議論をしています。しかし、日本ではまだ「英語を話せる」こと自体が特別なこととされ、実際に意見を交わす機会が少ないのが現状です。 

英語はただの「勉強」ではなく、他者と考えを共有し、新しいアイデアを生み出すためのツールです。ですから、高校生の皆さんには、英語を通じて自分の意見を発信し、世界の人々とコミュニケーションを取る力を身につけてほしいと思います。 

英語教育については、日本の公教育も力を入れ始めている印象がありますが、それでも課題は残っているのでしょうか? 

市瀬先生:
そうですね。日本の学校教育は、文法や語彙の習得には力を入れていますし、公教育の質も決して低いものではありません。ただ、それを「実際に使う機会」が少ないのが課題です。 

英語が話せない理由を「学校教育のせい」だとする声もありますが、それだけではないと思います。社会全体で英語を使う場が増えないと、生徒たちも「英語は勉強するもの」という意識のままになってしまいます。 

ですので、学校だけでなく、社会全体で「英語を使って議論する場」を増やしていくことが大切です。英語を話すことを特別視するのではなく、「当たり前のこと」として捉えられるような環境を作っていけるといいですね。 

学問を追求することの魅力 

最後に、市瀬先生にとって「研究」や「学問を追求すること」の魅力とは何でしょうか? 

市瀬先生:
やはり、何かに没頭できること自体が魅力ですね。研究をしていると、本当に時間を忘れることがあります。それだけ夢中になれるというのは、とても楽しいことですし、知的な探究の喜びを感じます。 

また、自分が考えたことや試行錯誤したことが、少しずつでも社会を動かしたり、教育の現場に影響を与えたりするのを実感できるのは大きなやりがいです。一度に大きな変化を生むわけではありませんが、積み重ねが未来を作っていくのだと感じています。 

高校生の皆さんにも、ぜひ「何かに没頭する経験」をしてほしいと思います。それがどんな分野であれ、興味を持ったことを深く探求することが、将来の選択肢を広げてくれるはずです。 

まとめ:国際教育の可能性と高校生へのメッセージ 

国際教育は一部の人のためのものではなく、社会全体で考えるべき重要な学びです。世界の課題を知り、自分に何ができるかを考えることが、これからの時代に求められる力 になります。 

また、英語は「勉強するもの」ではなく、「使うもの」。世界では当たり前のように英語で議論が行われています。 

学問を深めることは、自分の興味を追求し、社会を動かす力にもなります。夢中になれるものを見つけ、学び続けることが未来につながります! 




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