連載コラム「大学で学べる学問を知ろう」ソーシャルロボティクス研究者・飯尾尊優先生に聞く

飯尾さま

高校生にとって、大学でどのような学問が学べるのかを知ることは、進路選択の大きなヒントになります。連載コラム「大学で学べる学問を知ろう」では、各分野の専門家にインタビューを行い、学問の魅力を探ります。 

今回は、ソーシャルロボティクス(Social Robotics ヒューマン・ロボット・インタラクション(Human-Robot Interaction という分野を研究されている 飯尾尊優先生 にお話を伺いました。 

「ロボットが人を褒めると、どんな影響があるのか?」
「人と自然にコミュニケーションできるロボットとは?」 

ロボットと人の関係性を探る、先生の研究の魅力に迫ります。 

飯尾先生の研究分野について 

― まず、先生のご専門であるソーシャルロボティクスやヒューマン・ロボット・インタラクションについてですが、これらはどのような研究分野なのでしょうか?

 

飯尾先生:
ソーシャルロボティクスもヒューマン・ロボット・インタラクションも、基本的には似たような分野です。どちらも「人とロボットが、柔軟で適切なコミュニケーションを取るためにはどうすればよいか」を考える学問ですね。 

ただ、違いをあえて言うならば、ヒューマン・ロボット・インタラクション(HRI)はその名の通り「人とロボットの相互作用」に特化した研究です。つまり、人間とロボットのやりとり自体を細かく分析し、どうすればスムーズな対話や関わりが生まれるのかを探る分野です。 

一方で、ソーシャルロボティクスの方はもう少し広い視点を持っています。たとえば、「社会においてロボットがどのように受け入れられるのか」「社会的に調和するロボットとは何か」といったテーマを扱います。そのため、社会的な受容性や倫理学的な課題、さらにはロボットの実装についても含まれることが多いです。 

― つまり、ヒューマン・ロボット・インタラクションは、ロボットと人の関係性を深く掘り下げる研究で、ソーシャルロボティクスは、より社会全体の文脈でロボットの役割を考えるということですね?

 

飯尾先生:
そうですね。その理解で大丈夫です。ただ、実際の研究では両者が明確に分かれているわけではなく、かなり重なっています。実験室レベルでロボットの動作を検証することもありますし、逆に社会にロボットを導入する際の課題を考えることもあります。どちらも共通する部分が多いですね。 

飯尾先生とロボットとの出会い 

先生はもともとロボットに興味があったのでしょうか?

 

飯尾先生:
いや、大学に入るまではそんなに興味なかったんですよ。むしろ情報系の分野が好きで、AIやデータ処理の研究をしたいと思っていました。 プログラムを書いて、コンピューターが自分で学習しながら答えを見つけていく、そういう「考えるシステム」に興味があったんです。 

でも、大学院に進学してから研究所のインターン に行くことになって、そこでロボット研究と出会いました。それが人生の大きな転換点でした。 

具体的に、そのインターンではどのような経験をされたのですか?

 

飯尾先生:
僕は「ロボットが自分で学習して動く」みたいなことを期待していたんですが、いざ研究所に行ってみると、全然違いました。ロボットは基本的に、プログラマーが決めた通りにしか動かない。 つまり、「こう動け」と命令したことを忠実にやるだけだったんです。 

それを見たとき、「え、ロボットってこんなに手作業なの?」 って思いました。僕の中では、「ロボット=自律的に考えて動くもの」っていうイメージがあったので、すごくギャップがありました。 

そんなとき、研究所の方に言われたんです。
「そもそも、まず動かすことが大事なんだよ」 って。 

「まず動かすこと」ですか?

 

飯尾先生:
はい。ロボットがどれだけ賢くなったとしても、ちゃんと動いて、人と関われる状態にならないと、社会で使えない ということです。どんなに高度なAIが搭載されていても、実際の生活の中で使えないと意味がない。だから、まずはロボットを動かし、人とのやり取りを観察して、そこから改善していくことが重要です。 

この考え方に出会ったとき、僕の価値観がガラッと変わりました。
それまで「ロボットが自分で考えること」にばかり興味があったのが、「ロボットが人とどう関わるかを研究する」 ことに興味が向きました

 

では、高校生が「まだ自分のやりたいことが見つからない」と悩んでいたとしても、大丈夫でしょうか?

 

飯尾先生:
むしろ、それが普通だと思います。僕自身も、ロボット研究をやろうと思って大学に入ったわけじゃないし、たまたまインターンでロボットと出会って考え方が変わりました。 

だから、「今やりたいことが分からない」からといって焦る必要はない と思います。大事なのは、そのとき目の前にあることをしっかりやること。勉強して知識を増やしていれば、ある日ふとしたきっかけで、興味のある分野に出会えるかもしれません。 

ロボットが人を褒める? その研究の背景とは 

— 先生の研究の中に、「ロボットが人を褒める」というテーマがありますよね。これはどういうきっかけで始まった研究なのでしょうか?

 

飯尾先生
ロボットと人間が会話するとき、どういうコミュニケーションをすれば良いかを考えたときに、「褒める」という行動は基本的にポジティブな影響をもたらすだろうという直感がありました。ただ、それが実際にどれだけ効果があるのかは、明確には分かっていなかったんです。 

人間同士の研究では、褒められることでモチベーションが上がったり、パフォーマンスが向上したりすることが分かっています。たとえば、キーボードのタイピングをする実験では、褒められたグループの方が翌日、より速く、正確にタイピングできるようになっていた、という研究があります。これは、脳の神経活動にも関係しているらしいのですが、詳しいことは専門外なのでそこまで深くは分かりません。 

それをロボットでも試したらどうなるか、というのが研究の出発点でした。 

— 実際の実験では、どのように検証したのでしょうか?

 

飯尾先生
まず、ロボットが人を褒めるグループと、ロボットが褒めずに単に「今〇回目です」と事務的に伝えるグループを用意して、どちらの方が良い影響を与えるかを検証しました。 

それだけでは少し単純すぎるので、もう一つ工夫を加えました。ロボットって、人間と違って簡単に増やしたり減らしたりできるんですよね。そこで、「複数のロボットが褒めたら、効果がより強くなるのか?」という点も調べました。 

—つまり、1台のロボットと2台のロボットで褒めるのを比較したということですか?

 

飯尾先生
そうです。「褒めないグループ」「1台のロボットが褒めるグループ」「2台のロボットが褒めるグループ」を作って、全員に同じ作業をやってもらいました。そして、翌日もう一度同じことをやってもらったところ、やはり褒められたグループの方がパフォーマンスが向上していた。そして、1台よりも2台で褒められた方が、さらに良い結果が出んです。 

— 面白いですね! それはつまり、ロボットが「人にとっての社会的な存在」として機能しているということですよね?

 

飯尾先生
そういうことですね。人間って、周囲の評価によって行動が変わることがあるじゃないですか? 例えば、友達に褒められたらやる気が出るとか、クラスの皆から応援されると頑張れるとか。ロボットでも同じような現象が起きるっていうのが面白いところです。 

特に、ロボットが2台になることで効果が高まるという点は、人間の社会的な振る舞いと似ていますよね。人から褒められるのと、集団から褒められるのでは受け取る印象が違うのと同じように、ロボットでも「複数から褒められる」ことで影響が大きくなる可能性がある、というのが示唆されました。 

ロボットが人間関係をサポートする? 

— 今回の研究を聞いていて思ったのですが、例えば高校生が新しいクラスに入ったとき、最初は緊張して馴染みにくいことがありますよね。こういう場面でロボットが間に入ることで、コミュニケーションが円滑になることもあるんでしょうか?

 

飯尾先生
まさに、それは将来的にやりたいことの一つですね。今、大学のキャンパスで、ロボットを使った「挨拶運動」のような実験をしようと考えています。ロボットが学生に「ちょっと〇〇さんと話してみたら?」と促したり、自然な形で人と人をつなげたりできるんじゃないかと。 

人間同士だと、例えば先生が「みんな仲良くしようね」と言っても、「うーん……」となることもありますよね。でも、ロボットなら、ちょっと空気を読まないくらいのおせっかいな介入ができるんです(笑)。「お前ら喋れよ!」と人が言うと角が立ちますが、ロボットが「〇〇さんと話してみなよ」と言うと、ちょっと笑いが生まれたりする。そういう形で、ロボットが人間関係をつなぐ役割を果たせるかもしれません。 

研究の面白さとは? 

— 最後に高校生に向けて、先生が考える「研究することの魅力」を教えてください。

 

飯尾先生
やっぱり、新しいことを発見できることですね。誰も知らなかったことが分かる瞬間って、すごくワクワクするんですよ。「これ、もしかしてこうなってるんじゃない?」と思って調べてみて、本当にそうだったときの感動は、研究ならではの楽しさです。 

それと、研究って一見難しそうに見えるけど、実は身近なこととつながっているんです。例えば今回の「ロボットが人を褒める」研究も、もともとは「人間って褒められると伸びるよね?」という素朴な疑問から始まっています。そういう「なんで?」を突き詰めていくのが研究の面白さかなと思います。 

— 本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

まとめ 

今回のインタビューでは、ソーシャルロボティクスやヒューマン・ロボット・インタラクションという分野を専門とする飯尾尊優先生に、ロボットと人との関係性についてお話を伺いました。 

飯尾先生の研究では、ロボットが人と自然にコミュニケーションをとるための仕組みや、人がロボットを社会の中でどのように受け入れるかを探求しています。特に「ロボットが人を褒めることによって、どのような影響があるのか」というテーマでは、ロボットの言葉が人の行動やモチベーションに与える影響を実験的に検証し、興味深い結果を得ています。 

また、先生自身のキャリアについても伺いました。もともとはロボットに特別な関心があったわけではなく、大学院でのインターンをきっかけにロボット研究へと進んだというエピソードは、高校生が進路を考える上でも参考になるかもしれません。「今やりたいことが分からないのは普通のこと。まずは目の前のことに取り組むことが大切」という言葉には、多くの高校生にとって励みになるメッセージが込められています。 

研究の魅力について飯尾先生は、「誰も知らなかったことを発見する瞬間が最高にワクワクする」と語ります。身近な疑問から生まれる研究が、実際に社会に役立つ形で応用される過程を知ることで、学問の持つ可能性を実感できるのではないでしょうか。 

ロボット研究に限らず、日常の「なんで?」という疑問を大切にすることが、未来の学びにつながるかもしれません。 




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