英語を学ぶと「カジュアルな表現」「フォーマルな表現」といった区別をよく目にします。これは、つまるところ表現の丁寧さの度合いを区別するものです。
英語と日本語では丁寧さの表現方法はだいぶ異なります。日本語では動詞に「です」や「ます」を付ければ一応は丁寧表現の形になり、ああ丁寧な口調だなと判断できますが、英語ではそうした記号のような表現パターンを手がかりにはできません。
カジュアルな表現とフォーマルな表現の勘どころを掴むには、表現の簡素さの度合いに着目してみるとよいかも知れません。敢えて略式に表現する、あるいは、あえて略さずにしっかりと表現する、という表現の分け方は、英語のカジュアル表現・丁寧表現の使い分けに通底していると言えそうです。
英語でフォーマルな表現を使うべき場面や相手とは
英語・英会話においてフォーマルな言葉遣いを用いた方が好まし場面(カジュアルな表現は避けた方が無難な場面)は、大まかにいえば、日本語で丁寧な言葉遣いが求められる機会と大きな違いはありません。
基本的には日本語と変わらない
海外の英語レッスン事業者 TalktoCanada.com は、次のような事例を挙げています。
フォーマルな表現を使うべき相手
- 職場の上司
- そこまで親しくない親戚
- そこまで親しくない知人
- 医者
フォーマルな表現を使うべき場面
- 会社
- 授業中
- 病院
- 教会など
- 銀行
- 図書館
- 高級デパート
- 市役所などの公共機関
こまかい年の差は影響しない
日本語の場合、年長者に対しては基本的に敬語表現が使われます。たかだか1~2歳の年齢差であっても、よほど気さくな仲でなければタメ口は使えません。
英語では、それなりに友好的な関係なら年齢差によらずカジュアルな表現で会話します。
カジュアルな表現とフォーマルな表現の主な違い
フォーマルな表現は短縮形を避ける
英語ではカジュアルな口調になればなるほど表現の短縮(contraction )を多用します。たとえば you are → you’re 、あるいは cannot → can’t のように略されます。
フォーマルな英語表現では、こうした短縮表現はむしろ避けて、you are や cannot のように略さず述べる言い方が好まれます。
とりわけライティングではこの傾向が顕著に表れます。学術論文などで can’t のような短縮形を用いると顰蹙を買いかねません。
- I’ll / I will
- gonna / going to
- wanna / want to
- gotta / ‘ve got to
フォーマルな表現は露骨な主語を避ける
英語の文章は原則的に主語を必要としますが、人を主語において表現できる場合に敢えて物事を主語にとることで、表現を穏便にする方法があります。フォーマルな表現では比較的この表現法が好まれます。
たとえば、He hasn’t done the task yet. (彼はまだ仕事を終えていない)という一文なら、The task hasn’t been done yet. (あの仕事がまだ片付いていない)と表現し換えることで、特定の人物を非難するニュアンスを取り払い、より丁寧で配慮のある文章にできます。
特にアカデミックなライティングでは、一人称は基本的に避けられます。自説を述べる場合でも I believe that ~ ではなく It is believed that ~ と述べる記述方法が定番です。
フォーマルな表現はもちろんスラングを遠ざける
スラング(俗語表現)や口語でのみ用いられる表現は、もっぱらカジュアルなシーンで用いられます。フォーマルなシーンでは用いるべきでない表現と見なされます。もちろん卑語の類は厳禁です。
スラングか否かは、ある程度は判断しやすいとしても、口語的表現はなかなか見極めにくいところです。境界線もやや曖昧なところがあり、話者によって判断が違ってくる場合もあり得ます。
この辺の感覚は知識と経験を積み重ねていく他ありません。ただ、「互いに置き換え可能な語彙がいくつかある場合、より簡素で平易な表現の方がカジュアルになりやすく、より長くて厳密な表現の方がフォーマルになりやすい」という傾向はひとつの指針にできるでしょう。
口語表現と見なされやすい語と、フォーマルな場面で代替できる語
接続語
カジュアル | フォーマル | 意味 |
anyways | nevertheless | それにもかかわらず、 |
plus | moreover | そのうえ、 |
but | however | しかし、 |
so | therefore | そのため、 |
also | in addition | ~もまた、 |
asap | as soon as possible | できる限り早く、 |
in the meantime | in the interim | その間に、 |
in the end | finally | 最終的に、 |
強調語
カジュアル | フォーマル | 意味 |
a lot of lots of |
much many |
多くの |
tons of | large quantities of | かなり多くの |
totally | completely | 完全に |
really | definitely | 本当に |
その他の語
カジュアル | フォーマル | 意味 |
kids | children | 子供 |
bad | negative | 悪い |
good | positive | 良い |
really big | considerable | かなり大きい |
right | correct | 正しい |
wrong | incorrect | 誤った |
smart | intelligent | 賢い |
cheap | inexpensive | 安い |
フォーマルな表現は基本動詞のイディオムも避ける傾向にある
go や get といった基本動詞を使った句動詞をはじめとする熟語(イディオム)は、どちらかと言えばカジュアルな表現と見なされがちです。
基本動詞による句動詞は語義が多岐にわたり、意味を一意に特定しにくい傾向があります。これはカジュアルな表現の特徴といえます。
もっとも、基本動詞を使ったイディオムの中にも、フォーマルな場面で違和感なく用いられる種類の言い方があります。一概に、すべてカジュアルな表現と断言するわけにもいきません。
もし、イディオムを動詞1語で置き換えられるなら、十中八九、1語の動詞を使った方がフォーマルな場面に適します。
カジュアル | フォーマル | 意味 |
go up | increase | 上がる |
go down | decrease | 下がる |
go against | oppose | ~に反対する |
put off | postpone | ~を延期する |
set up | establish | ~を立ちあげる |
find out | discover | ~を発見する |
stand for | represent | ~を代表する |
get in touch with | contact | ~と連絡を保つ |
think about | consider | ~について考える |
フォーマルな表現では略称は正式名を案内してから使う
複数語からなる名称を、各語の先頭1文字ずつ取って省略する表現方法は、カジュアルな表現でもフォーマルな表現でも一般的に行われます。たとえば US(United States)やUN (United Nations)など。
フォーマルな文章では、初めてその語に言及する場合には省略せずフルに表記し、2度目以降からは省略するという書き方が好まれます。
これは日本語の文章にも相通じる作法と言えるでしょう。日本語で「国際連合(国連)」のように記述するようなものです。
カジュアルな表現とフォーマルな表現の使い分けが大切な理由
日本語を話すことを考えた時、友達や家族、年代の近い人への話し方と、仕事場やよく知らない人への話し方は違います。この言葉の使い分けは日本語では常識と考えられます。
この常識は英語にも当てはまります。フォーマルな場でこの常識が守れない人に対してはあまり信頼が置けません。これと同じように英語でこの常識が守れないと相手方に悪い印象を与えてしまいます。
片言の日本語を話す外国人がところかまわずカジュアルな日本語を使っていてもそこまで気にはなりません。これと同じように英語が流暢に話せない段階では、相手もこちらに常にフォーマルな表現を使うことを求めないでしょう。しかし、とても流暢に話しているのに言葉遣いだけがカジュアルなものであればやはり少し違和感を覚えてしまいます。
ある程度英語が話せるようになってからこのような事態に陥らないためにも片言の段階から場面ごとに使う文法や単語を覚えておくことは後々役立つはずです。
また、英語がまだそこまで流暢に話せない段階で、しかし言葉遣いがしっかりとしていれば相手に「しっかりと対応しようとしているな」など好印象を与えることができるかもしれません。
そして、カジュアル、フォーマル関係なく、多彩な表現方法を持っていたほうが会話する際に便利です。片方の表現を忘れてしまっても、もう一方の表現を覚えていれば単語が出てこなくて会話に詰まると言うことも避けられます。
つまり put off を忘れてしまっても postpone を覚えていればカジュアルな会話では不向きであってもそれを使うことで会話自体が滞ってしまうことは避けることができます。
このようなアドバンテージを考えてもカジュアル、フォーマル両方の表現方法を身に付けておくことに損はありません。