英語の名詞には単数形(singular)と複数形(plural)があります。基本的には語尾に -s を付ければ複数形。例外的パターンも多少あります。
英語の名詞の中には、単数形・複数形の区別はあるのに単数形の出番がほとんどなく、もっぱら複数形が用いられる語があります。また、同じ語のはずなのに単数形と複数形で意味が全然違ってくる語もあります。
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複数形の方が標準的に用いられる名詞
言葉の基本的な考え方としては、「言葉(名詞)は単数形が主であり、複数形は従というか派生的な位置づけ」と捉えられます。
英語表現の中には、単数形と複数形の区別がちゃんとあり、単数形の方はほぼ使われず、もっぱら複数形で扱われる語もあります。
data(datum の複数形)
data (データ)は事実や数値などの情報・資料を指す語です。この data は、実は datum の複数形です。
datum はラテン語由来の語で、おおよそ「情報の一部分」のような意味と捉えられます。しかしながら、およそ情報なんてものは単体・単数では扱えない代物です。常に複数形で扱われる感覚はそう不可解でもないでしょう。
データが「一個の情報」と表現し得る場合でも、やはり基本的には data と表現されます。
数字は考慮するに値する資料だ
最も新しいデータは、様々な分野の研究員によって集められた
ちなみに、information(情報)は不可算名詞です。
paparazzi(paparazzo の複数形)
paparazzi (パパラッチ)は、スキャンダル情報を得る目的で著名人を執拗に追跡する報道関係者の総称です。これは某イタリア映画に登場した人物「Paparazzo」の名前に因んだ名称であり、Paparazzo をイタリア語的に複数形にした言い方が Paparazzi です。
パパラッチは基本的にターゲットに群がるような存在であり、複数形の paparazzi が標準的に用いられています。
今週ずっとパパラッチに追い回されているため、彼はイライラしているようだ
media(medium の複数形)
media (メディア)は「媒体」とも訳される語です。新聞や広告といった情報伝達媒体という意味で多く用いられます。media はmedium の複数形です。
情報伝達媒体としてのメディアも、やはり単一の存在として扱われることは少なく、もっぱら複数形でまとめて扱われます。
ただし、単数形 medium も別の意味では一般的に用いられます。大きさや程度を示す「ミディアム」、美術分野において媒材を示す「メディウム」などは medium と表現されます。
情報伝達媒体という意味・用法でも、「(特定のひとつの)広告媒体に出稿する」というような文脈なら、単数形 medium が用いられても何ら不自然ではありません。
先生は、空気は音を伝えるための媒体だと話した
父は情報機関で働いている
criteria(criterion の複数形)
criteria (クライテリア)は、判断や決定の「基準」「標準」といった意味の語であり、 criterion の複数形です。
「基準」や「標準」も基本的に複数あってしかるべきものという前提があるのでしょう、普通は単数形でなく複数形で criteria と表現されます。ただし、「たったひとつの」と強調して述べるような場面では単数形 criterion が用いられることもあります。
彼にとってはお金の量こそが唯一の基準なのだ
我々はいくつかの重要な基準を見つけた
agenda(agendum の複数形)
agenda (アジェンダ)は agendum の複数形です。会議等における「議題のリスト」といった意味合いです。
agenda (アジェンダ)はもともと agendum の複数形、だったのですが、最近では agenda の語が単数扱いで定着しつつあり、 agenda の複数形として agendas という語が登場しています。
子どもの貧困については、議題リストに戻すべきだ
複数形でないと使えない名詞
名詞の中には、単数形と複数形の区別があり、かつ、複数形で扱う前提のある語があります。単数形も使い所はあるのですが、単数形と複数形は意味・用法が全く違います。
たとえば「ズボン」や「ハサミ」のように、複数の構成要素が揃ってはじめて1個のモノとして扱われるようなタイプの物が、この例に該当します。
billiards(ビリヤード)
キューで玉を突く競技としてのビリヤードは英語で billiards といいます。これは billiard の複数形に該当します、が、単数形に当たる billiard は競技名としての「ビリヤード」を指さず、もっぱら「ビリヤード用の」という形容詞の扱いで用いられます。
父と一緒にビリヤードに興じた
そこに転がっているビリヤード用のボールを取ってくれないか
trousers(ズボン)
穿く衣類の「ズボン」は英語で trousers といいます(pants や slacks ともいいます)。trousers も trouser の複数形に当たる語ですが、名詞としての「ズボン」は必ず複数形を取ります。
ズボンは中世頃の男性向け衣料を原形としており、当初は左右の脚を通すパーツが分かれていました。一対揃って着用するものであり、複数形で扱ってしかるべきものだったわけです。
ズボンの原形といえる衣類はもっぱら男性が着るものであり、それを起源とする trousers もやはり男性向けのズボンを指します。
ズボンは日本語では「1本」あるいは「1枚」「1着」のように数えますが、英語では a pair of trousers と数えます。
単数形に当たる trouser は「ズボン用の」や「ズボンの」という意味で形容詞(限定用法)的に扱われる語です。イギリス英語では俗に「不正に金を得る」という意味の動詞として用いられることもあります。
このシャツに似合う新しいズボンが必要だと思うんだけれど
ズボンのポケットを開けてください
scissors (はさみ)
ハサミ(鋏)は英語で scissors と言います。scissor の複数形です。構造上ふたつの部品(刃)から成ることが念頭に置かれた表現といえます。
ハサミ1本(1丁)は英語では a pair of scissors と数えます。
scissors の単数形に当たる scissor は、「ハサミのような」という意味の形容詞として用いられるか、あるいは「(ハサミで)切る」という動詞として用いられます。
そのハサミ取ってくれる?
見て!あそこにハサミみたいな形の尾っぽの鳥がいる!
複数形が複数種類ある名詞
言葉は時と共に変化するもの。英語も、時代を経て綴りや発音や意味が変わることは珍しくありません。複数形の語形もまた同様です。
新しい意味や綴りが世間に定着すると、古い方は廃れていくものですが、時には古語的な用法として残り続ける場合もあります。
brothers と brethren(brother の複数形)
brother(兄弟)の複数形は基本的に brothers ですが、 brethren と表記する書き方もあります。
brethren はかなり古い言い方で、聖書の中にも出てくる表現です。今日では宗教的・精神的な結びつきによる「兄弟」というような意味合いで用いられることがあります。
兄弟はいますか?
教えてくれ、どうして私が兄弟らを裏切れるだろうか?
cloths と clothes(cloth の複数形)
単数形 cloth は「布」もしくは「布切れ」といった意味合いの語です。cloth の複数形に当たる語には cloths と clothes があります。
cloths は、単数形 cloth の単純な複数形です。数枚・数切れの布といった意味合い。
clothes は、いわゆる衣類・衣服を表現する語です。ちなみに衣服の(1着2着という)数え方は a suit of clothes と表現されます。
柄物の布をいくつか持っていませんか?
急いで服を着ちゃいなさい!
fish と fishes(fish の複数形)
fish (魚)は基本的には(可算名詞だけど)単数形でも複数形でも形が変わらない語です。釣り竿で釣った1匹の魚も、底引き網で引き揚げた数百匹の魚も、同じく fish と表現します。
他方、魚の種類に注目して数える場合は、複数形を明示して fishes と表現することがあります。深海魚類(abyssal fishes)や甲冑魚類(armored fishes)といった言い方はコレに該当します。
fish は可算名詞で単複同形というパターンですが、不可算名詞でも《量ではなく種類に着目する》場合に複数形が明示されることが多々あります。人々(people)を 民族(peoples)として扱うような場合です。
池で泳いでいる魚が数匹見える
深海魚を見るために水族館へ行きます
geniuses と genii(genius の複数形)
genius は「才能」「天才」、および「守護神」という意味合いがあります。
才能・天才の意味で用いられる genius は、複数形では geniuses と表記されます。他方、「守護神」の意味で用いられる場合は複数形が genii という語形になります。
このクイズバトルは、数学の天才達のためのものだ
この地方には良い守り神が居て下さるんだ
indexes と indices(index の複数形)
index は、一般的には「索引」および「指標」という意味合い、数学・統計学の分野では「指数」の意味でも用いられる語です。
基本的には index の複数形は indexes と表記されます。数学的な「指数」の意味合いにおける index の複数形は indices /ɪndɪsiːz/ という形を取ります。
上司は多くの指標を使って現状の景気を把握する
その文書によると、カーボンナノチューブの原子構造はカイラル指数によって定義されるそうだ
phenomena と phenomenons(phenomenon の複数形)
phenomenon は「現象」や「事象」といった意味で用いられる語です。「不思議な人(物)」という意味で用いられることもあります。
現象・事象という意味における phenomenon の複数形は phenomena 。「不思議なもの」という意味の phenomenon は複数形が phenomenons となります。
phenomena はやや学術的な雰囲気がありますが一般的に用いられます。他方 phenomenons は、もっぱら口語表現でのみ用いられます。
これらの現象は物理学で十分に説明することができる
これらの石は、この地域ではとても不思議な物である