英語の前置詞 of は、たいてい「~の」と訳してしまえる表現ですが、《of = の》と1対1に対応づけてしまうと、「理解の漏れ」が生じます。前置詞 of を完璧に理解する境地には到達できません。
前置詞 of の根本には「全体と部分」の「切っても切れない関係」とでも言うべきイメージがあります。このイメージに基づいて捉えると、of の正しいニュアンスが理解できます。
この根本イメージを把握すると、friend of mine のような言い回しのニュアンスや、ひいては the University of Oxford (オックスフォード大学)と Harvard University (ハーバード大学)の表記の違いなんかも納得できるようになります。
ということで、PEN英語教師塾の動画レッスン講義シリーズより、今回は前置詞 of を取り上げたレッスンをご紹介します。
→前置詞 of
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以下テキストは動画の概要をザックリ抜き出したものです。
(部分的に編集および本稿独自に補足した箇所があり、当該箇所の文責は本稿編集部にあります)
前置詞 of のコアイメージは「切っても切れない関係」
英語の前置詞 of は、端的にいえば「帰属性と出所性の相互関係」を示す語です。
根本的イメージとしては、「何かから出ると同時に、その何かに帰属して(いる)」そして「切っても切れない関係(にある)」というイメージで捉えてみましょう。
出所とか帰属とか言うと難解に聞こえますが、要するに、the top of the mountain (山頂)の the top と the mountain は全体と部分(全体の中の一部分)であって別個の存在ではない、という感覚です。
コアイメージを踏まえれば他の前置詞と使い分けられる
帰属性・出所性・切っても切れない相互関係。このイメージを念頭に置いておくと、日本語で「~の」と表現される場面を of で表現するべきか否か判断できるようになります。
the top 《of》 the mountain
たとえば「山の頂上」は、頂上が山体の一部分であり山そのものに帰属する部分です。そのため the top of the mountain と of で表現する言い方が適切です。
a label 《on》 the bottle
「ビンのラベル」の場合、ラベルはビンに貼りつけられた存在であり、ビンそのもの(の一部)というわけではありません。そのため、 a label on the bottle と on で表現する言い方が適切です。
the key 《to》 the door
「ドアの鍵」の場合、鍵はドアそのもの(の一部)ではなく、ドアを開けるために用いられる存在です。そのため the key to the door と表現されます。
the water 《in》 the glass
「コップの水」の場合、水とコップは別個の存在であり、「コップに入った水」というわけですから the water in the glass と表現すべきということになります。
日本語の助詞「の」は非常に広範な意味・用法のある語です。「コップの水 → コップに入った水」という風に「の」の言い換え表現を意識してみると、「の」をどの前置詞で表現するべきか考えやすくなるでしょう。
前置詞 of の具体的な用例
前置詞 of の意味・用法・ニュアンスを大まかに分割しつつ見ていきましょう。
全体と部分の関係
of の最も基本的な使い方として、《全体》と《部分》の関係を結びつけてつなぐ意味合いの用法が挙げられます。
日本語では「~の」の他に「~のうち」とも表現できます。
彼女は日本で最も有名な詩のいくつかを読んだ
some of the most famous poems は、the most famous poems が全体、その中の some が部分を示します。
300人のうち、たった12人が試験に合格した
the 300 people が全体、12 はその一部分を示します。
7月のはじめに私たちは新しい商売をはじめます
July が全体、 the beginning of July は 7月全体の一部分、と解釈できます。
所属の関係
全体と部分の関係を示す用法のうち、特に「所属」の関係を示す意味で of を用いる用法もあります。
「所属」の意味合いは必ずしも、of を使わないと表現できないわけはありませんが、of を使って表現することである種のニュアンスを強調できます。
彼はコロンビア大学の大学院生です
「~の学生」という趣旨を表現するなら、of の代わりに前置詞 at を使った言い方もできます。He is a graduate student at Columbia University. と述べても、日本語ではやはり「コロンビア大学の大学院生」と訳されることになるでしょう。
英語の前置詞 at は「〜 のところ(に)」という意味合いを根幹に持つ語です。そのニュアンスを踏まえて of と対比すると、student at ~は 「コロンビア大学で学ぶ(学生)」といったニュアンスが中心的と解釈できます。
他方、of を使って student of ~ と表現する場合、of は「全体に対する部分」であり「学校を構成する一部分」というニュアンスを示すため、「大学に所属している身」という意味合いが出てきます。
ついでに、a story of romance は単純に訳せば「恋愛の物語」といったところですが、これも具体的な意味は「恋愛モノというジャンルに属する物語」という意味合いに基づく表現と捉えられます。
応用:friend of mine
friend of mine (私の友達)という言い回しの of も、《所属》の関係を示す用法の(やや特殊な)例として解釈できます。
friend of mine を和訳するなら「私の友達」が穏当でしょうが、その根底には「私に所属する友達」というような、いわば自分を話題の中心に据えて言及するニュアンスが読み取れます。
その野球選手は私にとってよい友人です
応用:of importance
所属の of を示す特殊な用法用例としては of importance も挙げられます。
of importance は「(be+of+名詞)に属するものである」ということで「重要さに所属する案件 → 重要な案件」と述べる言い回しです。和訳すると助詞が「の」ではなく「な」になりますが、of が妥当な例、ということで留意しておきましょう。
その案件はこの上なく重要なものだ
出所の関係
前置詞 of の応用的な意味用法として、「出所」を強調する意味合いの用法もあります。
〜出身の
たとえば、 He is a man of Paris. という分では of は「〜出身の」という意味で使われています。
出身の意味合いで of を用いる言い方はさほど一般的とは言えず、出身を示すなら前置詞 from を使った言い方の方が一般的です。しかしながら、of を使って「~出身」と述べると、「(その土地に)帰属している」というニュアンスを強調できます。
man of Paris という言い回しからは、「パリの生まれである」ことだけでなく、「パリに帰属している(パリ市民である)」こともうかがい知れます。
彼はパリ出身だ
彼は旧家の出だ
~から分離して
「出所」の意味合いは、少し見方を変えると、「離れる」「分離する」「関係を切り離す・切り離される」「奪う」という意味合いにも解釈できます。
この「分離」の意味合いの使い方は、動詞+前置詞のイディオムの中に特に多く見られます。of に「分離」の意味合いがあると理解すると、《deprive 人 of 〜》とか《 rob 人 of 〜》といったイディオムの意味がすんなり腑に落ちるようになります。
その戦争は私たちから基本的人権を奪った
【戦争が私たちを基本的人権から引き離した】
その男は私の重要な書類を奪った
【私を襲って(robbed me)】
【重要な書類から私を引き離す(of important documents)】
「A of B」という形の分離の of には、「本来BはAに属すべきもの」という含みがあります。「本来Aに属すべきBがAから分離される」というのが、分離の of の持つニュアンスだと言えます。
ちなみに、rob の場合は the man robbed me とも言い換えられます。deprive は常に deprive A of B の形で使います。
〜をもとにして
「出所」の意味合いは「〜から出て」という意味合いに転じ、さらに「何かの素材や資質がもとになる」という意味に展開します。
私は木の家に住みたい
【木材がもとになった家】
彼は8人からなる大家族を支えている
【8人で構成される大家族】
彼は娘をピアニストにしたいと思っている
pianist of his daughter という表現は、「娘から資質を引き出してピアニストに育て上げる」というようなニュアンスの感じられる言い回しです。素材・資質といったニュアンスが of にある、という理解がないと容易に納得できないような例といえるでしょう。
行為・感情・評価の出所
「出所」の用法は、さらに、行為の出所、感情の出所、評価の出所といった用例パターンに区分できます。
「行為の出所」の例(〜を原因として)
「行為の出所」として、「〜を原因として」という意味を持つ用例があります。
彼女は私が嘘をついたということで私を責めた【accuse という行為の出所が telling her a lie】
祖父は老衰で死んだ【die という行為の出所が old age】
「感情の出所」の例(〜を…と感じる)
「感情の出所」として、「〜を…と感じる」という意味の用例もあります。
君は我が誇りだ
私は蛇がこわい
「評価の出所」の例(誰々は〜をして…だ)
やや複雑な構文ですが、it is +形容詞+of+人+to do の形で「誰々は〜をして…(形容詞)だ」という意味を持つものがあります。
彼らの申し出を断ることができなくて私は愚かだ
stupid of me と、for ではなく of を使っているところがポイントです。stupid という評価が me から出ている(me = stupid)わけです。構成が入り組んだ文章なので、繰り返し読んで意味の成り立ちを理解できるようにしておきましょう。
切っても切れない関係
of の「切っても切れない関係」が抽象化され、「内容表示」「関連」「行為関係」「範囲限定」などの意味関係を示すようになった用例もあります。
「内容表示」(〜という)
感謝の気持ちを持つことは大切だ【感謝という気持ち】
a feeling of gratitude は「感謝という気持ち」という意味で、a feeling の中身を gratitude で説明して内容を表示する構造になっていると説明することができます。
「関連」
コミュニケーションについての理論が多数ある【コミュニケーションに関連する理論】
「行為関係」
「A of B」のAが「Bの行為」を表す名詞の場合、「BのAという行為」という意味を表します。
日の出は新しい一日をもたらす
the rising は行為を示す名詞で、the rising of the sun だと「太陽が昇ること」の意味です。
※補足: the investigation of the sun だと「太陽を観測すること」という意味で、the sun は目的語の役割を持つことになります。the investigation of the sun は、the rising of the sun と一見似ているものの異なった使われ方をしている文例です。
「範囲限定」
「A of B」の形で、of B により「Aの範囲を限定する」用例があります。
日本の首相についてどういうご意見をお持ちですか【Japan の範囲の Prime Minister】
すべての季節で春がいちばん好きだ 【すべての季節の範囲のベスト】
校名に of を含む大学と含まない大学の違い
大学の学校名は、of のコアイメージの把握にも役立つ格好の話題です。
たとえば、オックスフォード大学は英語では the University of Oxford と表記し、呼称に of を含みます。ところがハーバード大学の場合は Harvard University であり、of を含みません。
日本の大学で言えば、たとえば東京大学の公式英語名は The University of Tokyo ですが、慶応大学(慶應義塾大学)の場合は Keio University が公式英語名です。
この of の有無は、決して創立者の好みで選ばれたというわけではなく、基本的に「所属の関係があるかどうか」という基準に基づいて切り分けられます。
端的にいえば、地名を冠する大学は「The University of 地名」という呼称を採用する傾向が顕著です。すなわち、その地名(で示される場所)に属している大学、という意味合いが、of の語に含まれているわけです。
ハーバード大学は、創設に関わった人物・John Harvard (1607–1638)の名に因む名称です。因んでいるとはいえ、その人物に属するというわけではありません。そう考えれば of がうまく当てはまらないのも腑に落ちます。
ただし、これは絶対的な法則というわけではなく、あくまでも傾向にとどまります。例外もあります。たとえば京都大学は、明らかに地名由来ですが、公式英語名は Kyoto University です。マサチューセッツ工科大学(MIT)はマサチューセッツ州に所在する大学ですが英語名は Massachusetts Institute of Technology であり、~ of Massachusetts ではありません。