英語の前置詞「on」は、おおむね《接触》のイメージで捉えられます。ただし、そのイメージをもとにあらゆる用法・用例を正しく理解するには、根本(コア)のイメージから発展的な例へと正しく展開していく必要があります。
たとえば Dinner is on me. (今日は私のおごり)のような用例は、「接触」のイメージとは無関係そうにも見えます。こうした例をちゃんと納得して使えるようにならないと、前置詞 on の語義を「使い切る」ことはできません。
ということで、「PEN英語教師塾」の動画レッスンを紹介する大好評コラボレーション企画より「前置詞 ON の世界」をご覧に入れます。
→前置詞onの世界
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動画は17分ほど。講師は田中茂範先生です。以下は動画レッスン内で紹介されている内容をかいつまんで抜き出したものです。
記事内の一部の画像は、動画内の付帯資料からお借りしています。
前置詞 on のコアイメージは「接触」
前置詞 on は、初歩のまた初歩の段階では「上に」という訳で把握され、ちょっと慣れると「接触のイメージ」として把握される語です。
この「接触」(contact)のイメージは、 on の意味合いを捉える手頃な理解といえます。
上下左右は関係なく「くっついている」状態
最も基本的な on の用法は、対象が何かに接触している状況を指す用法です。床に接している(床の上にいる)状況に限らず、壁や天井に接している(張り付いている)状況も on で示します。
- a cat on the floor (床の上の猫)
- a fly on the ceiling (天井にいるハエ)
- a picture on the wall (壁にかかった絵)
日本語に訳す場合は「床の上」「天井にいる」「壁にかかった」という風に訳し分ける必要がありますが、英語においてはそうした区別は特になく、主語が on に導かれる名詞に「接触している」というニュアンスのみを表現します。
靴に泥がついているよ
彼は肩に刺青を入れている
彼は頭にタンコブを作っている
壁に影がある
「接触のしかた」のイメージを分けて捉える
英語の前置詞 on の「接触」のイメージは、《点》、《面》および《固定》という風にニュアンスを分けて把握すると、うまく理解できます。
- 点的な接触
- 面的な接触
- 固定の意味の接触
on にも物理的・空間的な関係を表現するイメージだけでなく、比喩的・抽象的な関係を表現するイメージもあります。抽象的な関係を示す on も、この点・面・固定というニュアンス区分を手がかりにすると、理解がはかどります。
「《点》的な接触」のイメージ
対象に対して点的に(接点で)接触するイメージは、on の基本的な「接触」のイメージに最も近い感覚で捉えられるといえるでしょう。
たとえば、魚が針にかかっている状況は on the hook と表現されますが、これは針の先が魚と1点で接している状況を示します。
今、魚が針にかかっている
apples on the tree (木に生っているりんご)という表現は、リンゴと枝が点で接触しているイメージで捉えられます。
木にたくさんのりんごがなっている
犬がヒモにつながれている
彼女は指にダイヤモンドの指輪をしている
点的な接触のイメージから「連続」のイメージを捉える
on の《点》的接触のイメージは、抽象的な連続性を表現する用法の捉え方に応用できます。
理科の回路図を思い浮かべてみましょう。電球のオン・オフはスイッチの接触で表現されます。スイッチの接触部分が点的につながると on の状態になります。この「オンになっている」イメージが、連続性、あるいは接続のイメージです。
ごめんなさい、私はあなたと一緒に行くことはできません。仕事中なんです
(義務を連続している状態 → 仕事中)
keep on、 go on、 carry on といった句動詞における(副詞の用法の) on も、連続・接続の意味で捉えられます。
進みつづけてください(進むことを連続しつづけてください)
on and on のような副詞の用法・用例は、連続している感覚を把握する手がかりにできます。
どんどん雨が降っている
ちなみに、on and off というと、続いたり途切れたりという断続的な様子が表現できます。
断続的に雨が降っている
「間を開けずに次の動作に移る」イメージ
連続性のイメージは、間髪入れずに行動に移るというイメージにも転じます。on で表現されることが起こったら間を開けずに次の動作に入る、という感覚で用いられる例です。
いちにのさんでこれを持ち上げましょう
(3と数える、と同時に)
東京駅に着くと、彼は友人のジョンに電話をした
(東京駅に着くと、同時に)
「3と数える」と「持ち上げる」、「東京駅に着く」と「電話する」は連続していて、間に状況の断絶(ブレイク)はなく、一連の(連続性のある)行動として捉えられています。
これを on でなく as soon as で表現すると、「すぐに」という感覚はあるものの、しばしの断絶を挟むニュアンスが生じます。次の行動に移るまでに5分か10分くらいの休憩を取っていても不自然でないニュアンス、一連の行動とは言いにくくなるニュアンスになります。
東京駅に着くとすぐに、彼は友人のジョンに電話した
「《面》的な接触」のイメージ
on を「面的な接触」と捉える用例は、《点》よりも応用的なイメージといえます。
面で接触する感覚から「支える」という意味合いが出てくることに着目しましょう。
物理的に支える基本例
A glass on the table. という文があった場合、単純に訳せば「テーブルの上にグラスがある」となりますが、イメージを深めれば「テーブルがグラスを支えている」という別の表現もできることがわかります。面的接触を「支える」へと深めたイメージを持つ用例はたくさんあります。
片足で立ちなさい【片足を支えに立ちなさい】
逆立ちをしなさい【両手を支えに立ちなさい】
仰向けで寝なさい【背中を支えに寝なさい】
腹ばいで寝なさい【お腹を支えに寝なさい】
横向きで寝なさい【身体の側面を支えに寝なさい】
比喩的に支える応用例
「支える」イメージを比喩的に使うと、かなり多様なニュアンスを表現することができます。比喩的な on の文例は「支える」イメージを理解できていないとうまく意味が取れないことがあるので、しっかり確認しておきましょう。
私たちはポテトを常食としている【ポテトを支えに生きている】
腹が減っては戦はできぬ【空の腹を支えに戦うことはできない】
私のもてなしを受けてください。夕食は私のおごりです【夕食は私に支えられている】
あなたのクレジットカードでジャケットを書いなさい【クレジットカードの支えでジャケットを買いなさい】
「乗っている」への応用例
「乗っている」という意味の on の使い方は、面的接触イメージ「支える」の応用例として位置づけることができます。「乗っている」の on は実際には慣れ親しんだ平易な用例であり、意味はとりやすいと言えますが、on の用例の中でどういった分類に属するのか把握しておくことで、より on の世界への理解が深まるでしょう。
男の子たちはバスに乗っている
私たちはたった今、NYに向かって飛行機に乗っている
「乗っている」を応用した言い回しはやや把握しづらいので、しっかりおさえておきましょう。
すべては予定通りだ【すべてが予定に乗っている】
私はダイエット中だ【私はダイエットプログラムに乗っている】
「《固定する》」というイメージ
on の「接触」のイメージは、「固定する」「ぴったり固定して離れない」という意味合いにも転じます。
接触と固定というとイメージがかけ離れているようにも聞こえますが、on time と in time の使われ方を比較すると、感覚は理解しやすいでしょう。
ぴったり時間通りに会議に来てください
時間に間に合うように会議に来てください
on time は、「ぴったり決められた時間どおり」というニュアンスです。しかし in time なら、「決められた時間に遅れなければ早くてもいい」というニュアンスだと理解することができます。
「心にぴったり固定して離れない」というニュアンスの用例もあります。 on my mind と in my mind の違いを比較してみましょう。
心にひっかかっていることがある
心の中に何かある
on my mind は、「心にぴったりくっついたまま離れない」という意味合いから「心にひっかかっている」というニュアンスと捉えられます。他方 in my mind は、「中にある」とい意味合いから、「心中に(胸裏に)ある」という意味合いを示す表現と捉えられます。
有名なアメリカの曲「Georgia on my mind」は「わが心のジョージア」などと訳されますが、英語的なコアイメージは「ジョージアが心にぴったりくっついたまま離れない」という感覚と解釈できます。
わが心のジョージア【ジョージアがいつも心を離れない】
なにかと特定の日を時間的に「ぴったり固定する」on の用例もあります。
私はクリスマスイブにパーティーをする予定だ
話題を「ぴったり固定する」on もあります。
どちらも大まかに訳すと「彼は日本経済について講義を行った」ですが、about と on でニュアンスに違いがあります。 about は「〜の周辺に」というコアを持っているので、「日本経済とその関連分野についてあれこれと」講義を行ったニュアンスだと解釈できます。一方 in は「〜にぴったり固定して」というコアなので、「もっぱら日本経済について専門的に講義を行った」という感じの意味合いだととらえることができます。
about the Japanese economy と on the Japanese economy の違いをはっきり会得することができていれば、英語ネイティブに近い感覚を身につけられていると言えるかもしれません。繰り返しイメージして身体になじませてみましょう。
日本語の助詞「の」と英語の前置詞の感覚の違い
日本語では、空間的な関係は「の」の語でざっくり示す傾向が多分にあります。他方、英語では、前置詞を使い分けて空間的関係を明確に表現します。
たとえば「ビンのラベル」という場合、英語では「接触」の関係を示すため《A on B》と表現されます。
- the label on the bottle (ビンのラベル)
「山の頂上」という場合は、「AがBの一部」という関係があります。この場合は《A of B》と表現します。
- the top of the mountain (山の頂上)
「ドアのカギ」という場合は対象を示す意味で《A to B》と表現することになります。
- the key to the door (ドアのカギ)
「コップの水」というような場合は「空間内」の意味合いになるた、《 A in B》と表現する必要があります。
- water in the glass (コップの水)
- the man in the picture (写真の男)
日本語に依拠した考え方だと、「の」に引きずられて、前置詞を使い分ける基準が不分明になりがちです。各前置詞をコアイメージで捉えて、英語で考えるクセを身につけましょう。