英語の前置詞 to の根本にあるニュアンスは《相対する》とでも表現すべきイメージで捉えられます。こう捉えるとあらゆる用法・用例が破綻なく繋がります。
前置詞 to は一般的には「~へ」という理解で、《方向》のイメージで捉えられがちです。 go to ~ のような例では「方向」という理解も穏当に思えますが、prefer ~ to ~ のような例ではシックリ来ない感が残ります。
ということで、PEN英語教師塾の動画レッスン講義シリーズより、今回は前置詞 to に関するレッスンをご紹介します。
→前置詞 to
※動画の閲覧には、PEN英語塾へのログイン(有料)が必要になります。
目次
to コアイメージは「相対する」と捉える
英語の前置詞 to は場面に応じてさまざまな意味を示しますが、そうした意味合いの根底には共通イメージが見いだせるはずです。いわゆるコアイメージです。
前置詞 to のコアイメージは「向かい合っている」「相対している」といったイメージで捉えてみましょう。
face to face (面と向かって)や back to back(背中合わせで)といった表現の to のイメージと考えると把握しやすいでしょう。
to = 方向、と考えると意味が捉えきれなくなる
to のイメージは、素朴に解釈すれば《方向》《向かう先を示す》といった認識に落ち着くでしょう。
《to = 方向》という理解そのものは、見当違いというわけでもないでしょう。たとえば He went from Los Angeles to Atlanta. (彼はロスからアトランタヘ行った)という文例においては《to=方向》というイメージは妥当そうです。
しかしながら前置詞 to には《方向》のイメージではうまく捉えられない例も沢山あるわけです。
- Exchange Rate: 93 yen to the U.S. dollar
為替相場はUSドルに対して93円 - the key to the door
ドアの鍵 - dance to the music
音楽に合わせて踊る - heart to heart
腹を割って(互いに本音で)
「相対する」から「向く」「向き合う」イメージを導く
前置詞 to のコアイメージを「対象と相対して(いる)」と設定し、その上で、この「相対」のイメージを「対象に向いて(いる)」というイメージ、および「対象と向かい合って(いる)」という2つのイメージに広げてみましょう。
「相対する」イメージを「対象に向いて(いる)」と「対象と向かい合って(いる)」と2つに区分しておくと、そこから更に展開する具体的な用法・用例もおおむね体系的に把握できるようになります。
「対象に向いて(いる)」イメージの展開例
- 対象に向かって行く
- 対象に向かった〜
- 対象に向かって〜する
- 対象に向いた状態を維持する
- 対象に対して〜する
- 対象に対して〜である
- 時間・数の限度が〜までである
「対象と向かい合って(いる)」イメージの展開例
- 対象に対して〜の関係にある(関係)
- 対象に対して〜の割合である(比率・割合)
- 対象よりも〜である(対比)
- 対象に合う(適合)
「対象に向いている」イメージに基づく具体的用法・用例
「対象と向かい合って(相対して)」というイメージに基づいて捉えられる用例を見ていきましょう。
対象まで行く
go や come といった(「移動」を示す)動詞に伴って用いられる場合、to は「対象まで行く」という意味合いで捉えられます。いちばん一般的な to と用法といえる部類でしょう。
「対象に向いている」イメージを「対象に顔を向けて行く」→「対象まで行く」という流れで発展させると、違和感なく結びつけられます。
彼女は薬局に行った
彼女は正午にオフィスにやってきた
go to とも come to とも表現可
日本語で「〜まで行く」と訳せる種類の表現は、go to が一般的ではありますが、come to とも表現できます。
to は、視点を出発点と到達点のどちらかに置くというニュアンスを含みません。視点を出発点に置くなら go を、到達点に置くなら come を、という風に動詞を使い分けて表現できます。
to は対象への到達・到着の意味も含む
「対象まで行く」という意味の to は、行く方向を示すだけでなく、言及された対象=行き先に「到着する」という意味まで含みます。
たとえば、She went to the drugstore. (彼女は薬局に行った)という文では、彼女は薬局に「到着した」ことが暗に示されています。ただ薬局のある方向へと向かって行っただけだ、という解釈は困難です。
ただ薬局のある方向へと向かって行ったに過ぎず、薬局に到着したかどうかは全く関係ない、というニュアンスを特に示す場合には、to の代わりに toward を使って表現しましょう。
対象に向かう(ところのもの)
「どこそこへ向かう道」といった表現に用いられる to は「(対象)に向かう(もの)」というイメージで捉えられます。
「対象に向いている」(対象に顔を向けて行く)というイメージから「対象に向かう〜」イメージへ、これも特に違和感なくつながるでしょう。
その洞穴にいく道
オフィスに行く途中
成功への鍵 (成功に向かう鍵)
対象に向かって〜する
「対象に向かって(動作する)」という用法も、「対象に向かう(ところのもの)」と同じ流れで捉えられます。コアイメージからの流れも同様と言えるでしょう。ただ to を導く語を名詞か動詞かが異なります。
次の角を左に曲がりなさい
その子は満月を指差した
状況は悪い状態からさらに悪い状態に変化した
対象に向き、向いた状態を維持する
動詞の種類によっては、to が「(対象に向いた)状態を維持する」という意味合いを含むことがあります。
to が《維持》のニュアンスを含むかどうかは、動詞に依存します。つまり、keep や hold といった(維持の意味合いを含む)動詞を伴う場合がもっぱらです。
to に《維持》のニュアンスを含む文例は、日本語に訳そうとすると文例によって大きく表現が違ってくることが多いので、訳文に惑わされないように注意しましょう。
右側通行(右に寄った状態を維持せよ)
彼は自分の意見に固執し、まったく妥協しなかった
dance to the music のような表現は、やや特殊な例としては注意しておくべきかもしれません。これは「音楽に合わせて踊る」という意味合いで、音楽に(意識を)向けた状態で踊ったというイメージで捉えられます。
彼はその音楽に合わせて踊った
(対象)に対して〜する
前置詞 to が動作(行為)の向かう先、すなわち「対象に対して〜する」という意味で用いられる場合もあります。
日本語に訳する場合、たいていは「に対して」と明示してもしなくても文意が通じます。省略されることの方が多いので、「に対して」のイメージは訳文からは想起しにくいかもしれません。
私の慈悲の心に訴えた
私はピアノを子どもたちに教えている
(対象)に対して〜である
前置詞 to が形容詞に導かれる形で用いられる場合、「~に対して〜である」という意味合いで捉えられます。
この用法も「対象に向かっている」イメージとの繋がりで捉えられます。
彼は近所の人みんなに(対して)親切だった
この生地は肌触りがよい(← 触覚に対して優しい)
壁の色が目に心地よい(← 目に対して快い)
(時間や数の)限度が〜までである
「対象に向いて」というイメージの to は、対象が特に時間や数である場合、その(時間や数の)限度が「〜まで」であるという意味で用いられます。
コアイメージとの繋がりは「時間・数に向いている」および「時間・数を到達点としている」という観点から「時間・数を限度としている」と捉えると理解しやすいでしょう。
日が出て沈むまで
月曜日から金曜日まで
3つ数えて目を開けなさい(3まで数えなさい)
先生は30から35歳くらいだと思う
「対象に向き合っている」イメージに基づく具体的用法・用例
英語の前置詞 to は「対象に向いている」というイメージとは別に「対象に向き合って(相対して)いる」というイメージで捉えるべき用法・用例もあります。
この「向き合っている」イメージは、とりわけ《関係》《比率》《対比》《適合》などを示す場合に to を用いる感覚を理解するために重要です。
対象に対して〜の関係にある(関係)
「向き合っている」という中心イメージから、向き合っている際の向き合い方という部分に特に着目すると、to を《関係》を意味合いで捉えられます。
この表現は意味的にそれと対応する
(この表現はその表現に対して対応の関係にある)
AはBと正比例する
(AはBに対して正比例の関係にある)
正比例は direct proportion 、反比例は inverse proportion といいます。
彼女は息子の名付け親です
(彼女は私の息子に対して名付け親の関係にある)
対象に対して〜の割合である(比率・割合)
to の「向き合っている」対象との関係が、特に「量的な関係」に着目される場合、to は《比率》や《割合》を示す意味合いで捉えられます。
3対6は1対2に等しい
(6に対する3の割合は2に対する1の割合と同じ)
私たちのチームは3対8で負けた
(8点に対する3点の得点割合で負けた)
対象よりも〜である(対比)
「向き合って」のコアから比較の関係性を強調していくと、「対比」のtoの用例へとつながると説明できます。
コーヒーより紅茶が好きです
(コーヒーと対比して紅茶を好む)
野球とフットボールを比較してみよう
対象に合う(適合)
対比の焦点が対応あるいは適合という感覚に当たると、to は「適合する」イメージと捉えられます。
適合のイメージは、関係や対比に通じるイメージではありますが、「対象に向かう」イメージにも通じる部分のある、その意味でちょっと複雑な部分です。
ドアの鍵
(ドアに適合する鍵)
その問題に対する答え
(問題に対応する答え)
その映画は私の趣味に合っていた(私の趣味に適合する映画)
to my surprise の例
《適合》の少し応用的な例として、To my surprise, 〜. (驚いたことに~)という言い回しに注目しておきましょう。
驚いたことに、彼らは結婚した
to my surprise は慣用表現ということで(あまり深く考えず)そのまま捉えて済ませてしまいがちですが、もちろんコアイメージとの関連で理解できます。コアイメージと関連づけて理解した方が本来的・本質的とも言えるでしょう。
to my surprise を原義にさかのぼる形で捉え直すなら、「私の驚きと彼らが結婚したことは対応している」という風に解釈できるでしょう。つまり、「彼らの結婚」と「自分の驚き」の間に対応関係が見いだせるわけです。
to と toward を対比させて把握する
toのコアは「対象と向かい合って(相対して)」、towardのコアは「何かに向かって」を示します。うっかり使いみちを混同しがちなtoとtowardですが、ここで一度しっかり比較して、使い分けられるようにしておきましょう。
「対象の『方向に』向かって」はtowardで表現
She went to the drugstore. (彼女は薬局まで行った)の文例では、toは「方向」ではなく「到達点」を表すということが大切です。toを用いたこの文では、彼女は確実に薬局に到着している、と読み解くことができます。
彼女は薬局まで行った
(薬局に顔を向けて行き、到達した)
これが She went toward the drugstore. となると、toward は向かう「方向」しか表さず、到達したかどうかという観点が度外視されます。
彼女は薬局に向かって行った
(薬局の方向に向かって行った)
toward を使って She went toward the drugstore. と述べた場合、薬局の「方向に向かった」ところまではわかるものの、薬局に到着したかどうかまでは定かではありません。薬局へ向かう道すがらにある別の小売店に行ったのかもしれないし、薬局のさらに向こうにある郵便局などに行ったのかもしれない、というわけです。
toward は「に向かって」のイメージで捉える
toward は to と対比しつつ「に向かって」「の方向に」というイメージで捉えてよいでしょう。
たとえば、「20世紀の終わりに近づいている」と表現する場合、これは到達点を示すニュアンスはなく純粋に「向かっている」イメージのみ示すため、toward が妥当です。
20世紀の終わりの方向に向かって
博士号の方向に向かって
態度や気持ちを表現する場合は「相対関係まで示すかどうか」で to と toward を使い分ける
「態度」や「気持ち」は何かに向けられるもの。to も toward も「向かって」という意味を持つため、人や物に対する「態度」や「気持ち」を表す文ではすべてに to も toward も使えそうにも見えますが、少し精査してみましょう。
towardは「〜に向かって」という方向性のコアから、「〜に向けられた」というニュアンスの文に適しています。いっぽうtoは「〜に向かい合って(相対して)」という対応関係をも含むコアから、「〜に対する反応として」のようなニュアンスの文に適しています。
私への彼女の態度
(私に向けられた彼女の態度)
その町への彼女の気持ち
(町に向けられた彼女の気持ち)
her attitude toward me, her feelings toward the townは、 her attitude to me, her feelings to the town という形で、toを使って表現することも可能です。toを使うと若干「に対する」というニュアンスが強調され、「に向けられた」というニュアンスが弱められるだけで、不自然というところまではいきません。
ただ、たとえばreaction (反応)を使った文では相対関係を示す必要があるので、toward ではなく to を使うのが自然です。
私のコメントに対する彼女の反応
同じ「向かって」を表す前置詞でも、「相対する」ところまでを含意するのがto、「相対する」ところまでを含意しないのがtowardだと覚えておきましょう。