英語の前置詞 by は《近接》のイメージを根幹に持つ語です。まずは《近接》をコアイメージに位置づけ、空間的関係、時間的関係、そして抽象的関係を示す用法がどのように派生して展開していくのか、系統立てて整理して学びましょう。
前置詞 by のニュアンスは、表面的な用法・用例を並べるだけではなかなか捉えきれません。だからこそ、PEN英語教師塾の動画講義シリーズ「前置詞 by のコアイメージ」は非常にためになります。
→前置詞 by
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約14分半の動画を視聴してから、あらためて辞書などで前置詞 by の意味を振り返ってみると、理解の度合いが全然違ってくる筈です。
目次
by のコアイメージは「近接して」
by の根本的イメージを敢えて言葉で表現するなら、「近接して(いる)」状況と捉えられるでしょう。
日本語の会話表現に対応づけるなら「(~の)そばに」といった言い方に近いものがあります。ただし日本語の「そば」は英語の by のように抽象度な表現で用いられることは少ないので、1対1の対訳として適するとは言い切れません。
英語の前置詞 by は、用いられる文脈・言及対象によって意味合いが違ってきます。
- 場所への《近接》という意味なら「〜の近傍に」
- 時間への《近接》という意味なら「その時間までに」「その(時間の)間に」
- 抽象的な概念等への《近接》なら「〜に拠って」の意味
by の《空間的な近接》を示す用法
by の最も基本的で典型的な使い方は、《空間的な近接》を表現する使い方です。意味合いも使いどころも日本語の「そばに」に近い用法です。
海のそばに暮らしたい
男性が川のそばにしゃがんでいる
私は海のそばで育った
僕のそばに来ないかい?
おばあちゃんは窓のそばによく座っていたものだ
by の近接度合いはかなり近い
by で示される「近接」の度合いは、つまり対象との距離感は、ほぼ接しているといえるような近さです。
たとえば live by the sea といえば、「海のすぐそば」、「ほとり」とでも表現できる程度の近さが想起されます。海まで電車で20分かかる位の距離感は、海に近いとは言えるでしょうが、near the sea と表現するべきであり、by で表現できる距離感とはいえません。
私は海のすぐそばに住んでいる
私は海のそばに住んでいる
by の《時間的な近接》を示す用法
前置詞 by は空間的関係だけでなく時間的関係を指す語としても用いられます。コアイメージが《近接》であるという点は変わりません。
「〜までに」「〜の間に」という意味合いの用法
「時間的に《近接》している」というイメージは、具体的には「〜までに」「〜の間に」という意味合いを示します。「ある時間のそば」から「ある時間の手前」を連想して捉えると理解しやすいでしょう。
明日の朝までに答えがほしい
12時までには食べ終わります
彼はクリスマスがくるまでにお金を使い果たした
by と until の違い
時間について「~まで(に)」という意味を示す語というと until も思い浮かべるところですが、by と until には意味の明確な違いがあります。
by は「〜までに」、「未来のある時点までに」という意味合いを表現する語です。
until は「〜まで」という形で、「限界点」「継続状態の終点」の意味合いを表現する語です。
by、until と動詞の相性問題
by は意味上「瞬間的な行為」を表す動詞と共に用いられやすく、「継続的な行為」を示す語とは相性がよくありません。
until は by とは逆に、継続を表現する語との相性がよく、瞬間的な行為を表す動詞との相性がよくありません。
動詞 come の場合、「来る」という瞬間的な動作・行為を指す語なので、by と until の二択でいえば by の方が適切といえます。
彼女は12時までに来るだろう
動詞 run は瞬間的というよりは継続的な行為を指す語であり、by よりも until と伴って表現した方が適切といえます。
彼女は6時まで走った
「〜の間に」という意味合いの用法
前置詞 by の《時間的な近接》を示す用法には、「~までに」という意味合いに加えて、「〜の間に」と捉えるべき意味合いもあります。during に似たニュアンスです。
《時間的な近接》のイメージを、《時間の幅に対する近接》《時間を傍らに置いている》《活動のそばで時が経過している》といった空間的なふくらみのイメージで捉え直してみると、「~の間に」という意味用法の感覚が掴みやすいでしょう。
彼は夜間に働く
ナマケモノは昼間に寝るのかな
「Windmills by Night」は、和訳するなら「夜の風車」とでも訳すべき言い回しですが、英語の言語感覚で捉えると「風車が前景にあり、その傍らを見ると背景に夜のとばりが降りている」という視覚的イメージも想起されます。空間的イメージと時間的イメージのどちらの要素も感じられる言い回しといえそうです。
by と during の違い
日本語の「〜の間に」という表現に対応する語としては by の他に during が挙げられますが、by と during にもニュアンスの違いがあります。
by と during は「空間感覚の有無」という点で区別できます。
by は、ある時間帯を漠然と空間的に示して 「〜の間」という意味合いを表現します。
他方、during は、期間を明確に示しつつ「〜の間じゅうずっと」という意味を示します。
どちらの語を使うかによって意味合いが変わる
by と during は、同じ文の中で意味合いに応じて使い分けることができます。
たとえば、「彼は今日の日中は寝ていた」という文があるとすれば、「日中」を示す語には by と during のどちらも使えます。
by を使って「日中」と言った場合、ずっと寝ずっぱりだったとは限らず、寝たり起きたりを繰り返していた可能性も含みます。
during を使って「日中」と言った場合、「ずっと寝ていた」という意味合いが前提されています。
彼は今日、日中は寝ていた
彼は今日、日中ずっと寝ていた
《〜に拠って》という意味合いを示す用法
by の「近接して」というイメージは、「対象を傍らに置く」というイメージでも捉えられます。この「傍らに置く」イメージを抽象的に捉え直すと、「ある対象に拠って」に展開し、「手段」や「準拠」といった非常に多様な意味世界を作り出しています。
「手段」を示す用法
by は「手段」を示す意味合いでも用いられます。「近接している」→「ある対象を傍らに置いている」→「ある対象に拠っている」→「ある手段に拠っている」という脈絡で捉えると、理解できるでしょう。
運搬・伝達の手段
バスで通勤します
電車で通勤している
速達でそれを送った
交通手段・運搬手段
電車で通勤します
この小包を速達で送りたい
〜単位で、〜ぎめで
時間ぎめで
日割りで支払われる
〜で掛ける、割る計算をする
10に2を掛けなさい
20を5で割りなさい
〜の方法で
クリームを沸騰させてソースを作りましょう
彼はレアな本を売っていくらかのお金を稼いだ
〜の言葉によって
「文化差」という言葉で何を意味しているの?
その他の「手段」のby
顔を見れば君がショックを受けているのは簡単にわかる
ロウソクのあかりでディナーを食べる
機械的に単語を覚える
詩を暗記する
「準拠」を示す用法
「何かに近接して→「ある対象を傍らに置いて」→「規則などに拠って」→「規則などに準拠して」という形で意味が展開した、「準拠」「規定」のbyもあります。
play by the rules というと、まさに「規則の本を傍らに置いて」というようなイメージを思い浮かべることができるでしょう。
規則に従ってプレイしなさい(規則を傍らに置いて、規則に拠って)
それは法律で必要とされている(法律を傍らに置いて、法律に拠って)
「規定に準拠して」というニュアンスのbyの用例もあります。
18歳未満の者は規定上ここには入れない(規定に準拠すると)
彼女は職業上でいうとコンピュータの専門家です(職業名に準拠すると)
彼は生来楽観的だ(天性に準拠して)
熟語に用いられる by もコアイメージで捉えよう
英語の前置詞 by は熟語・慣用表現でも多く用いられています。多くの場合、「近接して」→「〜に拠って」という流れで捉えると、コアイメージのニュアンスを保ったまま意味を正しく捉えられます。
例:by all means
by all means は「ぜひとも」といった意味の熟語表現です。mean はここでは「手段」という意味合い。つまり「あらゆる手段によって」ということで「是が非にでも」という趣旨を表現する言い回しです。
君はぜひとも試験に合格しなければならない
例:by chance
by chance は「偶然に」と訳されることの多い熟語表現ですが、by を素朴に訳すれば「偶然に拠って」といったところです。
偶然にスーパーで彼女に会った
例:catch ~ by the arm
catch ~ by the arm は、catch の目的語に人称を取って「人の腕を掴む」と表現する言い回しです。by を素朴に訳すと「人を腕に拠ってつかむ」、すなわち、人をつかむ「手段」が腕であるという意味合いで捉えられます。
彼は僕の腕をつかんだ
受動態の構文における by+名詞句の用法
英語の受動態の構文は「行為者」または「原因」を指し示す際に by を使って示します。この by も《近接》というコアイメージの流れで捉えられます。
受動態における「行為者・原因」は、文意の中心となる出来事のそばに、当該の人(行為者)または事象(原因)がある、というイメージで捉えましょう。特定の人や物事が近接するような距離感で関わりを持っている、という近さのイメージが、因果関係ともいうべき関係を想起する手がかりになります。
この絵はある有名な画家によって描かれたものだ
コンピュータはビルによって壊された
窓は地震で壊された