学校教育の「オールイングリッシュ化」と、それに求められる対応とは

近年、教育分野では英語教育の強化に向けてさまざまな取り組みが進められています。

小学校から英語の授業を始める早期英語教育の方針や、英語の発表やディベートを取り入れた高度な言語活動の育成もそのひとつです。その中に、授業を英語を使って行うという取り組みも含まれます。

この「英語を使った授業」の方針を指すキーワードが「オールイングリッシュ」です。

→変化する英語教育、日本の幼児英会話の事情

オールイングリッシュとは

オールイングリッシュは「英語を使った授業」――つまり、授業中は日本語を一切使用せず、授業中のあらゆる発言やコミュニケーションを英語で行う授業の方針です。

教師による講義も連絡も、生徒の発言や質問も、生徒どうしのコミュニケーションも、すべて英語で行われます。「英語を学ぶ」のではなく、「英語学ぶ」、と考えると分かりやすいかもしれません。

いわゆる英会話スクールなどは、原則的に日本語を使わない方式で行うところが大半です。そういう意味では英会話スクールもオールイングリッシュ式の授業と言えそうです。

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学習指導要領の中での扱い

オールイングリッシュの授業方式は、2009年(平成21年)3月に発表された高等学校学習指導要領において具体的に指針が示され、2013年度(平成25年度)から順次導入が進められています

高校学習指導要領には次のような記載があります。

英語に関する各科目については,その特質にかんがみ,生徒が英語に触れる機会を充実するとともに,授業を実際のコミュニケーションの場面とするため,授業は英語で行うことを基本とする。―― 高等学校学習指導要領(平成21年3月)

中学校の外国語授業についても、グローバル化に対応した英語教育改革実施計画(2014年発表)の中で「授業を英語で行うことを基本とする」旨が提示されています。

「オールイングリッシュ」は俗称か

オールイングリッシュという言葉は、文部科学省の学習指導要領の話題に関連してよく用いられますが、文科省は学習指導要領でもその他の公式資料でも「オールイングリッシュ」という呼び名を特に使っていません。

学習指導要領とは別に、大学などが独自に取り組んでいる同種の取り組みを「オールイングリッシュの授業」のように呼んでいる例はあります。

なお、英語圏ではオールイングリッシュ(all English)という言葉の使用例を見つけることは至難のわざです。(for all English learners のように名詞を形容する例は多々ありますが……) 。ではオールイングリッシュは和製英語か、というと、一概にそうとも言い切れません。イギリスの英語学校 Regent が All English という授業コース( All English course )を設けている例などがあります。

教育学の分野では、外国語を用いて他教科の授業を行い、外国語の習得を推進する方法を、イマージョン方式(Language immersion)と呼んでいます。immersion は「浸す」という意味。

イマージョン方式は他教科を外国語で行うという前提があります。日本のオールイングリッシュは、英語で英語を教える授業が念頭に置かれており、その点ではイマージョン方式とは微妙に違います。

英語表現としては、all English よりは all in English の方が自然でしょう。「オールイングリッシュ」もおそらく、 in が暗に含まれている表現のはずです。


オールイングリッシュ式の授業の内容・特徴

従来の英語と比べた場合のメリット

オールイングリッシュで英語の授業が理想的に実現されれば、従来の英語の授業よりもずっと実践的で充実した英語能力の獲得が期待できできます。

  • 授業中に英語のみ使用することで、それまで日本語を使っていた部分も英語を使用することになり、授業中に接する英語の絶対量が増えます。
    多読多聴に近づけば、英語の言語感覚も獲得しやすくなります。
  • 質問や発表も含めて、英語で発言する機会が増えます。質問と応答のやり取りは、とっさに言葉を考える英会話能力の向上につながります。
  • どんな事柄でも英語で表現する必要が生じるため、典型的な英語表現だけでなく、日常会話で使われるようなちょっとした英語表現にも意識が向きます。
  • 授業から日本語を排除することで、日本語を経由しない思考訓練が期待できます。

従来の英語の授業を「英語の読み書きの訓練」とするなら、オールイングリッシュ式の授業は「英語コミュニケーションの訓練」であると言ってもよいかもしれません。

英語をただ理解するだけでなく、自分の意見を英語で発信し、また相互に意思疎通が図れるようになるための素地を養いやすくなります。


オールイングリッシュ授業の導入の障壁

教師の問題

オールイングリッシュ方式の授業ではあらゆる発言を英語で行う以上、指導者としての教師の役割はいっそう重要になります。語彙力、表現の正しさ、発音の正しさなど、かなり高度な英語スキルが求められます。

文部科学省が2016年4月に発表した平成27年度(2015年)版「公立高等学校・中等教育学校(後期課程)における英語教育実施状況調査」(PDF)によると、高校英語教師(英語担当教員)の英語力は、「英検準1級以上等」を取得している教員の割合が全体の57.3% 。つまり4割以上は英検2級かそれ以下相当の英語力という数字が出ています。

英検準1級以上はTOEICで言うとスコア700台半ば以上程度です。

近年では外国語指導助手(ALT)の登用も進められています。英語の発音や表現は英語ネイティブスピーカーを手本とする形を取るわけですが、全国の学校にALTの配属が実現されるのはまだまだ先のようです。

受験の問題

高校の授業は多分に大学入試への備えという性格を持っています。特に大学入試センター試験は高校高学年の授業にも影響する無視できない要素です。

センター試験は学習指導要領に基づいていますが、要領が大きく変わったからといってすぐに試験問題が対応するわけではなく、どうしてもタイムラグが生じます。実際、2016年1月に実施されたセンター試験の英語の試験内容は、オールイングリッシュ式授業が実施済みだったにもかかわらず、従来と何ら変わらない問題構成・出題方式でした。

授業と試験との兼ね合い、センター試験における英語とその他の外国語の兼ね合いなども含めると、受験英語から脱却して本来の英語習得に力を注げるようになるのは当分先のことと思えてきます。

 




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