グローバル社会への進出を目指して英語を必至に勉強している人々は、日本人だけではありません。例えば中国でも英語教育は盛んです。
日本人と中国人を比較して「どちらがより英語が上手いか?」という話題が展開される場合、十中八九は中国人に軍配が上がります。ほぼ一般論としてそのように認識されていると言えるのではないでしょうか。
ただし、この「中国人は日本人より英語がうまい」という見方は、不確かな要因を少なからず含んでいます。ただ鵜呑みにするのではなく、妥当な要素と怪しい要素をきっちり認識しておけば、無駄に落胆することもなく、英語学習への意欲も高く維持できるでしょう。
1.中国語は構造的に英語学習に有利
中国語は日本語よりも語順や文法構造が英語に似ています。
・I am learning Chinese
・我在学習中文
・私はいま英語を勉強しています
日本語と英語では語順の倒置が頻発します。日本語の言語感覚で英語を使いこなすことは容易でなく、日本人は「英語脳」といって言語感覚から身につけなおすことを強いられますが、その点、中国語の場合は言語感覚の大幹をそのまま英語に適用できそうです。
こと発音に関しては中国語が断然有利といえます。中国語は母音だけで30以上の種類があり、英語よりも発音の数は豊富。他方、日本語の母音は5種類で、英語を学ぶには発音を新たに身につける練習も必要です。
2.英語に対するハングリーさの違いも要因
独自の言語を持つ国の中には、学問の最先端を自国語で学ぶことがままならない国が沢山あります。むしろ、どんな分野でも日本語で学べる日本の方が珍しいと言えるほどです。
中国語は表意文字である漢字のみを使い、カタカナのような表音文字もないので、西欧言語は取り入れにくい環境にあります。西欧の学問を学ぶには、西欧の言語を学ぶという必要性に駆られます。学問を志すならまず言語からという流れになるわけです。
日本語は、古くは漢語を、明治の頃には洋語を、日本語として取り入れています。(「社会」「科学」「文化」「芸術」「権利」「経済」などはいずれも幕末以降に編み出された語彙です)さらに、昨今ではあらゆる外来語をカタカナ表記のまま日本語の中で扱っています。日本国内で生活する限りにおいて積極的に外国語を学ぶ必要性はほぼ感じない環境が出来上がっています。
必要性の度合いが段違いという背景は語学に対する意欲の程度に直結します。
3.ただし比較対象は公平かどうか疑う必要がある
言語文化として「日本語より中国語のほうが」英語学習と親和性が高い。これは事実として受け入れざるをえないように思われます。それを踏まえて、ただちに「日本人より中国人のほうが」英語が上手いと言えるかどうかを論じるのは危険です。
まず比較対象が違っている可能性があります。例えば、「中国人の英語話者」として思い浮かべる人物像が中国外で活動している(グローバルな)人物で、「日本人の英語話者」は普通の大学生をイメージしている、なんてことはありませんか?
「中国人は日本人より英語がうまい」論は実証されたデータではなく、「大阪人はうるさい」のような漠然とした全体像に過ぎないことをまず念頭に置いておく必要があります。
4.「英語がうまい」と「英語を伝える」はイコールではない
あくまで傾向としての(例証データのない)話ですが、中国人は英語が流暢闊達でなくても何とか意図を伝えようと奮闘して、相手に理解させようとする、という傾向も、「中国人は英語がうまい」と同様に多く耳にする話です。相手に理解してもらう(そのために英語を上達させる)という要素とは別に、現在の自分の英語力で相手に理解させるという、一種の厚かましさを見いだすことができます。
この厚かましさはコミュニケーションにおいては重要な要素といえます。言葉がつたなくても意思疎通が図れれば結局はOKなのですから、引っ込み思案の多い日本人とは決定的な差がつく場面も多いでしょう。