日本語の「スキルアップ」や「コストダウン」といった《名詞+アップ(ダウン)》型の言い回しは、基本的に和製英語と考えましょう。英語で表現する場合には動詞をちゃんと選ぶ必要があります。
count down(カウントダウン)のように、英語でも同じ言い方ができる例もあります。ただし、これは動詞 count に副詞 down を加えた「句動詞」であり、あくまでも動詞として用いるという点に注意が必要です。
「~アップ」「~ダウン」系の言い回しに対応する英語表現には、ある程度の傾向・共通性も見いだせます。一通り並べてまとめて把握してしまいましょう。
「~アップ」系の言い方が英語で通じない根本的な理由
「スキルアップ」や「コストダウン」のような日本語表現が、そもまま英語で skill up や cost down のように表現するわけにはいかない、その理由をまずは考えてみましょう。
up や down は基本的に副詞
日本語では「アップ」や「ダウン」の語は「アップ(する)」という風に動詞的に使われますが、英語の up や down は基本的に副詞として用いられます。上方へ・下方へという意味合いで汎用的に用いられます。
up や down に動詞の用法がないわけではありませんが、動詞としての意味合いはかなり限られます。up は「いきなり何事かを始める」、down は「人を打ち負かす」「飲み下す」といった意味合いです。
ちなみに up と down は、副詞や動詞だけでなく、前置詞、形容詞、名詞、さらに接頭辞としての用法もあります。
up や down は動詞を修飾する表現
英語にも「~ up」という形で用いられる言い回しは沢山ありますが、これは「動詞+up」という形の句動詞であり、up は動詞を補う語です。
日本語表現の「スキルアップ」や「コストダウン」は、「スキル上げ」「コストの引き下げ」という意味で、つまり「名詞(を)アップ(する)」というような構成で使われています。名詞が目的語になっている格好です。
全部が全部、和製英語とは限らない
日本語の「~アップ」「~ダウン」型の表現の中にも、そのまま英語で通用する場合もあります。たとえば、「カウントダウン」や「ブラッシュアップ」「ブレイクダウン」のような表現は、そのまま英語で count up 、brush up、break down と表現しても、適切といえます。
ただし、count up や brush up は、《動詞+副詞》という句動詞であり、もともと「スキルアップ」のような「名詞+動詞」型の表現ではないという点に注意が必要です。
また、count up も brush up も break down も「他動詞+副詞」の句動詞なので、たいてい brush it up のように目的語が挟まる形になります。
「パワーアップ」(power up)や「レベルアップ」(level up)などの言い方は、英語の power や level に動詞の用法があるため、英語表現としても正しい言い方であると言えます。とはいえ、level up は「レベルアップ」とは意味が違いますし、power up も一般的な言い方というわけでは全然ないので他の表現を用いた方が無難です。
「~アップ」系の日本語カタカナ表現
日本語で「名詞+アップ」の形をとるカタカナ表現の多くは、英語では「高める」「上昇させる」といった意味の他動詞を使って《動詞+名詞》の形にするとうまく表現できる場合が多々あります。
名詞の部分に置かれる語は、日本語と一緒の場合が少なくありません。
他動詞の主な例としては improve、enhance、raise、build、increase などが挙げられます。目的語に応じて適切な動詞を選びましょう。
モノによっては自動詞1語で表現できる例もあります。
キャリアアップ → advance (one’s) career
「キャリアアップ」は、「経歴を前進(昇進)させる」という意味で advance one’s career のように表現できます。名詞として扱うなら career advancement 。
「キャリア」は英語でも career で表現できます。ただし人の経歴について述べる場合には my や his といった人称代名詞(の所有格)が必要です。
仕事の経験を積んで技能を発展・向上させる、という意味では、develop や enhance のような動詞も使えます。
キャリアアップの趣旨が「昇進した」という意味合いなら、 get promoted と言い換えてもよいでしょう。キャリアアップのために転職したという趣旨なら move one’s career と言い換えることもできます。
スキルアップ → enhance (one’s) skill
スキルアップは「技能を向上させる」という意味合いから enhance one’s skill 、あるいは、improve one’s skill のように表現できます。
スキルは英語でも skill で表現できます。複数形を取る場合が多々ありますが、単数形で表現しても誤りではありません。
skill も「誰のスキルか」を示す意味で人称代名詞の所有格を伴います。また、「何のスキルか」を表現する場合、名詞を形容詞的に使って writing skill や English speaking skills のように用いる言い方がよく使われます。
イメージアップ → improve (one’s) image
イメージアップは、「印象を向上させる」という意味合いで、improve (one’s) image のように表現できます。
improve は改良・改善・価値を高めるといった意味合いです。image は基本的には「像」「映像」といった意味ですが、印象・イメージという意味もあります。
トヨタがイメージアップの方策を講じる
―― Japan Times , 31 March 2010
スピードアップ → increase (its) speed、accelerate
スピードアップは「速度を上げる」「早める」という趣旨の言い方です。
物理的な速度向上という意味では、increase its speed のような表現が使えます。「加速する」という意味で accelerate と表現してもよいでしょう。
「業務をスピードアップする」というような言い方の場合、加速というより「捗らせる」という意味で捉えて expedite と表現した方が適切でしょう。expedite は「手早く片付ける」というニュアンスのある語です。
パワーアップ → increase、 make more powerful
パワーアップは「増強する」という意味で自動詞 increase がうまく対応します。あるいは、 make more powerful とも表現できます。
The power of the engine has been raised. (エンジンの出力が強化された)という風に表現してもよいでしょう。
build up(鍛え上げる)と表現する手もあります。build up は句動詞であり正しく通じる英語です。
power up が英語として誤りという訳ではない
power には動詞の用法もあります。つまり、power up は(動詞+副詞の)句動詞としても解釈できる、英語としても適切といえる表現ということになります。
power の動詞の用法では主に「電力を供給する」「動力を増強する」といった意味があります。場合によっては日本語で「パワーアップ」と訳せます。
蓄電池(の市場)がポートフォーリオをパワーアップさせるだろう
―― Financial Times, 2017/04/19
とはいえ、句動詞としての power up は一般的に用いられているというわけではなく、主に電気・電力・発電に関連する文脈で用いられることがあるという程度に留まります。素直に「強化」「向上」といった意味の動詞を使った方が得策です。
power down も句動詞で、power up とは逆の意味で用いられます。
レベルアップ → strengthen、improve
レベルアップは、「一段と強くなった」という程度の意味合いなら、strengthen、improve のような表現が適切でしょう。
コンピュータゲームでキャラクターがレベルアップしたという場面も、 strengthen や improve で表現できます。
レベルアップを「次の段階に進む」という趣旨と捉えるなら、step to the next (higher) stage という風に表現してもよいでしょう。ただし単純に advance と述べた方が無難ではあります。
level up も英語表現としてあり得る
英語の level という語も、動詞の用法があり、level it up というような句動詞の形で用いられ得ます。
ただし動詞としての level はもっぱら「水平に平らにする」「均一化する」というった意味で用いられます。level up も「高い方に水準を合わせて均一化する」というような、日本語の「レベルアップ」とはかけ離れた意味合いです。
グレードアップ → upgrade
グレードアップは「水準を上げる」「格上げする」といった意味合いですが、英語では他動詞 upgrade の1語で表現できます。
upgrade は up+grade という構成の語で、up- は接頭辞と解釈できます。update や upconvert も同様の構成です。
機能などを「向上させる」という意味では、upgrade の代わりに improve と表現してもよいでしょう。
ブラウザをグレードアップ(アップグレード)してください。セキュリティ上の脆弱性が見つかりました
リストアップ → list
リストアップは「項目を列挙して一覧表にまとめる」というような意味合いですが、英語では list に動詞の用法があるため、単に list と表現してしまえます。
list を名詞として扱うなら、make up a list of ~ のような言い方がうまくハマります。
make up は句動詞であり、英語でもよく使われる表現です。「化粧(メイクアップ)する」という意味もありますが、もっともっと幅広い意味で用いられます。
レンジアップ → microwave、nuke
レンジアップは「電子レンジで温める」というような意味で用いられる言い方です。「チンする」が一般的なだけにレンジアップは正しい英語なのではという感も漂いますが、完全なる和製英語です。この言い方を考案した人は罪深い。
そもそも電子レンジは英語では「レンジ」とは言わず、microwave oven (マイクロ波オーブン)といいます。あるいは、単に microwave とも略されます。
そして「レンジで温める」という動作は、microwave を動詞(他動詞)的に用いて microwave と表現されます。
お料理ガイド:食べ物をチンする際に絶対に使ってはいけない5つのモノ
―― Pulse.ng 18.07.2017
microwave も現代的な俗な言い方ですが、もっと通俗的な表現として nuke in a microwave という動詞表現もあります。
nuke は nuclear (原子核・原子力・核兵器)の略で、動詞としては「核攻撃する」という意味合いがあります。これに加えて、いつからかレンチンの意味が加わっています。
(バターを軟らかくするための)一般的なやり方は、電子レンジでほんの数秒チンするというものだ
―― The Sun, 8th April 2017
nuke は「捨てる」「処分する」「破壊する」という意味で用いられることも多々あります。文脈によっては誤読してしまう場面もあるかもしれません。
今日のすこやかヒント:食器洗いスポンジを捨てよう
―― The Irish Times, Sep 15, 2016
通俗的な表現は極力避けたいという場合は、heat in a microwave と表現してもよいでしょう。
「~ダウン」系の日本語カタカナ表現
「名詞+ダウン」の形で用いられる日本語カタカナ表現は、多くの場合、下降・低下・損なわれるといった意味合いの他動詞で表現できます。
動詞の例としては、damage、decline、get worse、weaken などが挙げられます。ニュアンスに応じてうまく使い分けましょう。
イメージダウン → hurt (one’s) image
イメージダウンは「印象が悪くなる」という程度の意味合いですが、上昇に対する低下ではなく「印象を損なわせる」「印象に傷がつく」という風に捉えましょう。
たとえば hurt (害する)、harm (傷つける)、あるいは damage (打撃を与える)といった動詞を使うと、いわゆるイメージダウンの剣呑なニュアンスがうまく表現できます。
image (印象)の代わりに reputation(評判)を目的語にしてもよいでしょう。
レベルダウン → decline 、deteriorate
レベルダウンという言い方が用いられる機会は、主に「品質水準が下落・劣化した」というような場合でしょう。その意味では decline(下落する)、deteriorate(質が低下する)、といった動詞がうまくハマります。
弱体化というニュアンスを込める場合には get worse のような言い方も使えます。
グレードダウン → downgrade
グレードダウンは、「アップグレード」の場合と同様、down- を接頭辞的に用いて downgrade と表現できます。
up とdown の接頭辞の用法は、必ずしも upgrade と downgrade のように同じ語幹に付いて対をなすとは限りません。up- は付くのに down- を付ける言い方はないというような場合も多々あります。
「水準が低下した」という風に述べるなら、grade has fallen という言い方もできます。
パワーダウン → weaken 、become weaker
パワーダウンは「力が弱まる」「勢いが衰える」という意味合いで、weaken や become weaker のような表現が対応します。
句動詞として power down と表現する場合はあり得ますが、もっぱら電力供給が減衰あるいは停止するという意味になります。
スピードダウン → reduce (its) speed 、decelerate
スピードダウンは「速度を低下させる」「減速する」という意味合いなので、reduce (減少させる)、decrease(低下させる)、lose(失わせる)いう他動詞で speed を目的語に取れば無難に表現できます。
スピードアップが(加速)が accelerate の1語で表現できるように、 「減速」は decelerate とも表現できます。
プライスダウン → discount、cut price
プライスダウンは「価格を引き下げる」という意味合いですが、これは discount の1語で表現できます。
「価格を低くする」というニュアンスで、cut、reduce、lower といった動詞を用いる手もあります。この lower は形容詞 low の比較級ではなく動詞の扱いです。
コストダウン → reduce costs、cut costs
コストダウンは「費用を引き下げる」という意味合いで cut、reduce、lower といった動詞が無難に使えます。
discount は「割引する」という趣旨なので、コストの引き下げという意味にはちょっと対応しません。
あるいは、「安く済ませる」という意味合いで、 get something for a low price という風に述べてもよいでしょう。
シフトダウン → change down
自動車の変速比(ギア)を1段階下げるという意味で「シフトダウン」と表現することがありますが、このシフトダウンは英語では change down into second (ギアを2速に下げる) のように表現されます。
システムダウン → fail 、be down
システムダウンはコンピュータ関係の用語で、たいてい名詞的に用いられる(動詞としては「落ちる」という)傾向の強い言い方といえますが、「システムがダウンする」と表現する場合には動詞 fail がうまく対応します。
fail は「し損なう」「失敗する」という意味に加えて「機器・機械が不具合などで動作停止する」という意味があります。
英語にも、down 自体を「コンピュータシステムが故障や不具合で機能停止する」という意味で用いる言い方はあります。ただし、この意味の用法は副詞の用法と解釈されます。動詞としては使えません。be down あるいは go down、get down のように表現すると、適切な英語表現になります。
システムダウンを名詞として扱うなら、 failure、あるいは crash といった表現が適切です。
日本語の中で用いられる英語由来のカタカナ表現は、基本的に英語とは別モノです。英語の知識の足がかりにはなるとしても、正しい意味・用法をきちんと学ぶ上では妨げになります。