「すみません」という日本語は便利なものです。便利で万能な表現であるだけに、英会話の中でちょっとしたつまづきの要因になりやすい部分でもあります。
特に「すみません」を Excuse me.やI’m sorry. に対応する英語フレーズとだけ考えてしまっていると、スミマセンという便利フレーズが英語での意思疎通の妨げになってしまいます。
日本語では、実にさまざまな場面で「すみません」の表現が使われます。謝るときにも、お礼を言うときにも、依頼するときにも。声を掛ける時にも、席を外すときにも。軽く詫びる場面でも真剣に謝る場面でも使われます。
日本語の「すみません」は多種多様な場面状況に対応するという点に意識を向けて、各場面に応じた他の(より率直な)表現で言い換える、という思考方法が身につくと、英会話フレーズは一気に自然で通じやすいものになります。
英会話の上達のコツは「何気なく使っている日本語をあらためて意識すること」というつもりで、状況別に噛み砕いてみましょう。
→英語フレーズ「I’m sorry.」と「Excuse me.」の意味と使い方の違い
軽く謝る・詫びる意味で用いる場合
今日の日本語で最も多い「すみません」の使われ方は、軽い(さほど深刻でない)お詫びの意思表示でしょう。これは「失礼します」と言い換えた方がぴったりハマる場合が多くあります。
Excuse me.
失礼しました、ご容赦ください
excuse は(主に軽度の過ちについて)「非を免じてください」と述べる語です。
すれ違いざまに肩がぶつかったり、目の前を横切ったりするような場面で用いられます。「失礼します」「おっと失礼しました」というような、深刻でない事柄についてお詫びするニュアンスです。「許してください」というよりは「ごめん下さい」のほうが合うかもしれません。
「遅くなってすみません」というような場合には Please excuse my lateness. のような表現も使えます。
Pardon me.
失礼します、失礼ですが
pardon もexcuse と同じく「許す」「大目に見る」といった意味で、軽く詫びる場面で用いられる表現です。Pardon me. は Excuse me. よりも丁寧なニュアンスのある表現で、見知らぬ人に紳士的に声を掛ける場合などにも使えます。
尻上がりの調子で Pardon me ? のように尋ねると「失礼ですが(もう一度仰っていただけますか)」という意味合いの表現になります。お詫びの意味で使う場合には文末を下げる調子を意識しましょう。
I beg your pardon.
申し訳ありません、恐れ入ります
I beg your pardon. は Pardon me. をさらに丁寧に述べる表現として使えます。改まった場面やかしこまった場面にふさわしい表現といえます。
My bad.
ごめんよ
My bad. は俗な表現(スラング)で、「あ、悪い」くらいの軽度の詫び文句として使われる言い方です。気さくな相手に、深刻でない軽いうっかりを謝る程度に使われます。
ちゃんと謝る、心から詫びる意味で使える表現
I’m sorry.
ごめんなさい、申し訳ありません
I’m sorry を文字通りに訳するなら「残念に思っております」のような訳文になるでしょう。私は申し訳ない気持ちでおります、と表明することで、お詫びの気持ちを伝える言い方です。
sorry はそれほど深刻でないニュアンスの詫び文句としても使えます。誤りを指摘されて「あら、すみません」と述べる場面で Oh, sorry. と言ったりします。
sorry は自分の非を詫びる意味合いだけでなく、相手の悲痛な心境に同情して自分も残念な気持ちになる=「気の毒に思う」という意味合いでも用いられます。この点でも「ごめん=sorry」の短絡的な対応づけは早々に脱却したいところです。
「本当にすみません」くらいに心を込める場合には very を含めて I’m so sorry. や I’m very sorry. と表現できます。
さらに誠心誠意を込めるなら I am truly sorry. や I’m terribly sorry. と言ってもよいでしょう。
I apologize for ~
お詫び申し上げます
直接的に「お詫び申し上げます」と述べることで明示的に謝意を表明する言い方です。
ご心配をおかけしてどうもすみません
お時間をいただいたしまってすみません
I apologize ~の表現は定型フレーズでもありますが普通の平叙文でもあり、さまざまな語句を挿入してニュアンスを追加できます。
- I must apologize ~(お詫び申し上げなくてはなりません)
- I sincerely apologize ~(心からお詫び申し上げます)
- I must apologize to you for ~ (あなたに~を謝らなくてはなりません)
「本当に申し訳ありません!」と平謝りに謝る場合の表現としては I owe you a thousand apologies. という言い方もあります。
感謝を示す場面で使える表現
日本語の「すみません」には、相手の好意や厚遇に対して恐縮していることを伝える使い方があります。つまり感謝の言葉としての意味合いです。「ありがとうございます」と言い換えても何ら不自然ではない場面で「どうもすみません」と言うような状況が意外とあるものです。
英語では感謝は率直に感謝の言葉として伝えます。ここは日本語と英語の考え方の違いが顕著に現れる部分といえるでしょう。
Thank you for…
ありがとうございます
たとえば、日本語なら「わざわざ来て頂いてすみません」とでも表現できる場面では、英語なら「はるばるお越し頂いてありがとうございます」のように表現する言い方が標準的です。
来てくれてありがとう
とっさに「すみません」と言ってしまいそうな場面に出くわしたら、英語なら Thanks! (ありがとう!)と言うべき場面ではないかと疑ってみましょう。
厚意を受けた際に英語のお詫びのフレーズを返すと、あらぬ誤解の元になります。相手が意図を察してくれることもあるかもしれませんが。いずれにしても、感謝の気持ちは率直にポジティブに表現したほうが、互いに明るい気持ちになれるはずです。
お店で声を掛ける場合に使える表現
Excuse me.
ちょっとすみません
Excuse me. は相手の注意をひき、足を止めてもらう場面でよく使われます。街頭で声を掛けるような場合にも使えますが、レストランでウエイターを呼ぶ場面などでも使えます。
Hello?
ごめんください
お店で店員さんが見当たらない場合に「すみませ~ん」と呼ぶような状況は、英語では「こんにちは~」のように挨拶して反応をうかがう言い方が一般的です。
しかるべき場面でしかるべき表現を
日本人は何事においても「すみません」を口にする傾向があります。
それは「和」を尊重する、事を荒立てないように計らう日本的な美徳でもあります。言い換えれば、日本文化に根ざした考え方であり、西欧文化とはまた違った(異質の)感性の表れと言うこともできるでしょう。
日本語的な感覚で(「すみません」に対応する表現のつもりで、社交辞令的なニュアンスで) I’m sorry. を多用していると、もしかすると「いざこざで自分の非を認めたことになって立場を危うくする」ような状況も生じるかもしれません。
とはいえ、英語文化の中でも《謝罪は禁物》ということでは決してありません。謝るべき場面ではきちんとお詫びの気持ちを表明することが大切です。
要は英語表現の意味を正しく理解して、正しい場面で用いること。謝る時には謝る、感謝するときには感謝する。そういった言葉の区別が大切です。まあ、それが難しいところではあるのですが。