英会話には自己主張が求められます。これは決して「自己中心的であれ」ということではありません。自己主張は、対話や議論を建設的に進めるための手続き、議論に参加する者が果たすべき役割です。
- 自分の見解を明示する
- 自身の立場を明らかにする
- 他人の見解に誤りがあれば指摘する
- 疑義・不明瞭な点があれば質問する
- 同意しかねる部分があれば異議を唱える
意見の対立は必ずしも「ケンカ別れ」に結び付くものではありません。むしろ、より高次の解決策を導き出すためには意見のぶつかり合いが不可欠です。結論ありきで妥協していては議論の価値がありません。
とはいえ、相手に対して異論を唱える行為そのものは、やはりネガティブな響きを伴いがちなもの。できるだけ相手の気分を不必要に害することなく、的確に、あくまで前向きに議論を展開させるための疑問の唱え方を身につけましょう。
◆ あえて感情をぶつける「非難」のフレーズ:
英語で「それは違う」と伝える「批判」「非難」の英語表現
建設的な批判の言い方・伝え方
意見や異見は、内容も大切ですが、伝え方も負けず劣らず大切です。
批判の内容そのものは的を射たものであっても、発言のタイミングが微妙だったり、微妙にトゲのある言い方だったりすると、正しく聞き入れてもらえるかどうか危ぶまれます。
建設的議論には、「紳士的な態度」と「相手を尊重する精神」、それに「機会を捉える間の良さ」が求められます。いずれの要素も、コツを把握した上で真摯に議論に臨めば、さほど難しくはありません。
相手とその意見に充分な敬意を払う
異論を唱えるにしても、相手の見解を頭ごなしに否定してはいけません。「先立つ見解」として十二分に尊重しましょう。それがどんなにばかばかしい内容であったとしても、です。
相手の説を引き継ぐ形を取る
開口一番で自分の主張を述べ始めると、自分が聞く耳を持っていない印象を持たれます。そうなると意見の押しつけのような雰囲気が出てきて、ともすると難癖とか否定のための否定といった雰囲気さえ出てきます。そうなると相手も聞く耳を持ってくれません。
I see what you’re saying but… (仰ることは分かりましたが)のように、先立つ見解に言及する一言をまず述べるとよいでしょう。相手の意見を理解した上で、それを踏まえて自説を述べる、という姿勢が表現できます。
相手の見解を正しく踏まえる
異論や批判は、相手の見解を正しく理解していることが大前提です。
そもそも相手の見解を誤って理解していたのでは、批判も成り立つはずがありません。理解不足の上にドヤ顔で批判したとなると色々と不名誉な印象を抱かれかねません。
内容の理解に一抹の懸念が残る場合は、はじめに相手の見解へ言及する段階で、相手の発言趣旨を要約・反復して「~ということですね」と確認する一言を挟むとよいでしょう。
見解の確認の一手間は、相手(の意見)を尊重し、それを踏まえて発言するという姿勢を見せる効果もあります。
もし確認した上で理解が不正確だったと気づいたなら、素直に引っ込みましょう。引き下がることを恥じる必要は全然ありません。
対立・食い違いは不本意と表明する
異論を提示することは、建設的な議論には不可欠なものですが、やはり、批判それ自体にはネガティブな色合いが伴います。
相手も自分の意見には自信や責任を持っています。批判はそれを打ち砕くもの、という点は念頭に置いておきましょう。
鬼の首を取ったかのごとく「その考えは間違っている!」と言い挑む姿勢は、建設的な議論に支障を来します。
否定や対立は本当は望まないのだが議論を進めるために必要だから敢えて行う、という姿勢を見せましょう。たとえば、I’m sorry but I disagree with you about this.(申し訳ないがこの件については同意しかねます)のような一言で充分にその旨が表現できます。
あくまでも相手の見解を尊重する姿勢が充分にあれば、この辺の言葉は半ば自然に出てきます。
同意できる部分は積極的に同意する
異議を唱えるとしても、見解や認識が共通している部分はあるものです。少なくとも、前提をさかのぼれば共通した立場が見つかります。
同意できる要素があれば積極的に同意を表明しましょう。同意できる部分には同意しつつ異議を唱えることで、問題点を切り分けて適切に批判していることが印象づけられます。肯定によってあくまでも友好的な立場に身を置いていることが示され、相手の心証もよくなりますし、議論を前進させようとしている姿勢を示せます。
異議を唱えるタイミングを見極める
発言の「内容」や「言い方」と共に「タイミング」も重要な要素です。
欧米の議論では意見や疑義は即座に発言をする向きが強く、その意味では「言ったもん勝ち」という部分があります。ご意見は?と振ってもらえるまで待っているような他人任せの姿勢では発言機会の到来は期待薄です。
相手が発言し終える間を見計らう
互いの意見に耳を傾け合う雰囲気ができているなら、相手への批判は相手がひととおり発言し終えたタイミングが適切です。
発言の後に「どう思いますか」と意見を請われる場合も多々あります。そのタイミングを待つつもりでもよいでしょう。意見を請われないと判断したらすかさず発言しましょう。
相手が発言し終えたら「すかさず」意見するのがコツ
相手の発言後に意見を述べる場合、頃合いが訪れたら間髪入れずに発言できるように準備しましょう。間を逃すと、他の誰かが発言したり、話題が次に移ってしまいかねません。
相手の見解を聞いている間に、疑問を感じた点や異議のある点などをあらかじめ整理しておけると理想的です。意見を求められたら即座に、端的に、しかも的確に意見を述べられると、これは間違いなくモテます。
あえて相手の話をさえぎるべき場合もある
はじめは冷静でも、意見の対立や衝突が重なると、どうしても感情が昂ぶってきます。言い合いの様相を呈することもあるでしょう。そうなると、おとなしく待っていても発言機会が訪れなくなります。
最悪の場合、言いたいことも言えないまま、激論の勢いに乗って話があらぬ方向へ進んでいきかねません。
そんな自体が危惧される状況なら、相手の発言中でもあえて話をさえぎるようにして自分の見解を表に出す、という方法も視野に入れましょう。
あえて相手の発言をさえぎるには、聞き手に回っている段階で「自分にも言い分がある」「発言したい」という姿勢を言外に示す準備が有効です。
- 人差し指を軽く立てて振るなどのジェスチャーで、意見や異議があることを匂わせる
- 相手の発言に合わせ「Yes, yes」と大きく相槌を打つなどして「物言いたげな雰囲気」を出す
- 大きく口を開けて、何か言いかけている・言いたげにしている感を出す
いきなり声をかぶせるのではなく、表情や仕草や相槌の調子などを駆使して自分のターンを引き寄せるような流れを作るように工夫しましょう。
批判を述べる際の具体的な英語フレーズ
発言を切り出す場面の具体的なフレーズ
発言の「内容」、「言い方」、「タイミング」、それぞれ大事ですが、第一声をどのように発するかという部分も負けず劣らず大事です。
最初の一言は発言全体の印象を左右します。議論の空気・雰囲気を転換することもありますし、批判を受ける立場の相手の心証はこの時点で固まる場合がままあります。
実際どう表現すればよいかという部分は、そう難しくはありません。まずは定型的な表現を覚えてしまいましょう。
出だしのお決まりフレーズ
私からひとつ、よろしいでしょうか
一言だけ申し上げてもよいでしょうか
話を遮り恐縮ですが、ほんの少しだけすみません
一言二言だけ、よろしいでしょうか
要は「自分の発言を許可してもらう形の謙虚な言い方」が最も無難で効果的な言い方と言えます。この感覚は英語における《丁寧な表現》の基本的な考え方にも通じるところがあります。
同意しかねる旨を伝える具体的フレーズ
恐縮ですがその点については賛同しかねます
この I’m afraid I can’t agree with you ~ のフレーズは、いちばんシンプルで汎用的な言い方といえます。まずはこの一言を覚えてしまいましょう。
最初に I’m afraid と述べることで、見解の食い違いを残念なことと捉えている気持ちが表現できます。ケンカ腰でないことを示すわけです。
そして、don’t agree with you(賛成しない)ではなく can’t agree with you (賛成できない)という言い方で否定することにより、否定のための否定ではなくてちゃんと理由があるというニュアンスが示せます。
必ずしも同意はしかねます
同じく agree with you を含むフレーズでも I don’t know if〜(〜できるかどうか定かでない)という言い回しと組み合わせると、同意できるかも知れないけど、出来ない部分もあるような、という曖昧さが表現でき、婉曲的に遠回しに異議を唱えられます。
私の見解は少しだけ違います
not quite は「完全にその通りではない」という、異論の余地を示す言い方です。相手の見解は「100%異論の余地なし」というわけではないが、9割方その通りと認めるにやぶさかでない、というニュアンスが伝わる、肯定混じりの婉曲的な否定表現です。
恐縮ながら全面的に賛成とは言いかねます
quite はこの手の発言には便利なフレーズです。quite right は「全くもってその通り」という意味合いの言い回しで、これを not で否定すると「100%その通りとも言えない」という部分否定の意味合いが生じます。
that’s not quite right と表現することで、相手側の見解にも部分的には(むしろ大部分は)賛同できる、というニュアンスを示せます。頭ごなしの否定でないことを示すには便利な言い方です。
私は少し違った見解を抱いています
この see it in a different way のような表現を使うと、婉曲的にではなく率直に(かつ穏便に)意義がある旨を表現できます。
different way は「異なる方法で」という意味合い。「ちょっとだけ角度の違う意見を持っている」というニュアンスで、いわば真っ向からの対立ではなく横から言い添えるような感じで異論を唱える雰囲気が演出できます。さらに slightly(少し)と形容して程度を調節しましょう。
根拠や理由を詳しく尋ねるフレーズ
相手の発言の根拠がいまいち不明瞭だった場合には、より詳しい説明を求めることも、有益な議論のために重要な手続きです。詳細な根拠にツッコミの余地が見いだされる場合もあれば、論拠自体に不備が見つかることもあります。
少し詳しく説明ねがえますか
elaborate は「精巧な」「入念に作られた」という意味合いの形容詞であり、また、「詳しく述べる」という意味の動詞でもあります。ビジネスシーンでは動詞の用法が好んで用いられます。
Could you〜? の言い方を用いれば英語的丁寧さが表現でき、相手に対して敬意を払っているニュアンスが示せます。
より詳しく伺ってもよいでしょうか
more details (さらなる詳細)と求める、Could you〜?で丁寧なニュアンスを表現し、文末の please ? で丁寧さをさらに補う、ということで「詳細を、どうかお願いします」というニュアンスを表現できる言い方です。
より具体的にお願いできますか
英語の specific は「具体的な」「明確な」といった意味合いの形容詞です。相手の発言に曖昧さが残ったり、根拠が不明瞭だったりした場合には、be more specific(もっと具体的に)と伝えることで、不十分な部分を指摘できます。
英語的「和を以て貴しとなす」の精神
議論は根本的には「議論のための議論」ではなく、「相手を言い負かすための議論」でもなく、あくまでも問題解決・意見の洗練・人類の発展を目的とする営みです。議論を意義あるものにするには、互いに認め合い、互いに高め合う姿勢が不可欠です。
「批判」は、単なる《誹謗》や《非難》ではありません。そういう意味合いもありますが、それとは別に、非難のニュアンスを含まない協力的な否定→再構築の手がかりとして、改めて捉えなおしてみてはいかがでしょうか。
英語圏の文化はかなりストレートに物を言う文化です。イエスかノーかをハッキリさせます。とはいえ傍若無人な物言いを良しとしているわけではありません。自分の意見が頭ごなしに否定されれば、怒る。めげる。しょげる。それが人間的な反応というものです。
日本人は引っ込み思案が過ぎる。言えばいいものを言わずにやり過ごしてしまうせいで、好機を逃す、損をする、誤解を受ける、馬鹿を見る。そこは意識的に改善すべきでしょう。
しかしながら全体の調和を何より重んじる日本人の資質は世界のどこにも引けを取りません。これはまた大きな長所です。
議論には激論激突も欠かせませんが、それ以上に調和が不可欠です。日本的な「和を以て貴しとなす」の精神は、理想的な議論を完成させるために求められている要素とも言えます。
final piece になるつもりで議論に参加しましょう。