「距離を置く」という表現は、英語でも比喩的に(心理的な距離を)表現する場面で使われます。たとえば keep a distance (from ~) あるいは put distance (between ~ and ~) という言い回しで、「~から距離を置く」という趣旨が表現できます。もちろん物理的な距離を取る意味でも同じ表現が使われます。
英語には「距離感」について言及する際に使える表現が豊富にあります。たとえば arm’s length は「親密な関係」といえる距離感を示す言い方。こうした英語ならではのちょっとした言い回しを探すのも楽しいものです。
「距離を置く」は英語に直訳してそのまま通じる
「距離を置く」という言い回しは、隔たることを指す表現です。物理的距離を指す意味合いでも用いられますが、心理的な距離(疎遠さ)を指す比喩的な意味合いでも用いられます。
英語では「距離を置く」は keep a distance from ~ のような言い方で表現でされます。この表現は日本語と同様、物理的に隔たるという意味でも抽象的に疎遠になるという意味でも使われます。
「距離を置く」の「置く」は keep か put で表現される
「距離を置く」の「置く」に対応する英語表現は、動詞 keep がいちばん手頃でしょう。距離を置くというより「一定の距離を保つ」と考えるれば腑に落ちやすいはずです。
もっと日本語の「置く」に近い語彙といえる put も「距離を置く」の意味で使えます。そのまんま「距離を置く」という言い方が英語でも使えるわけです。
日本語表現をそのまま英語に置き換えればスンナリ意味が通る、このような例は珍しい部類です。基本的には英語は英語で(日本語に依拠せず)発想するという考え方をお忘れなく。
動詞が keep か put で前置詞は違ってくる
keep と put のどちらを使っても「距離を置く」という意味合いに差はありませんが、どちらの動詞を使うかによって呼応する前置詞が違うという点には注意が必要です。
keep を用いる場合は keep distance from ~ という表現が主に用いられます。すなわち前置詞は from。これは「特定の対象《から》距離を保つ」というイメージで捉えられます。
put を用いる場合は from は適切ではなくなり、put distance between ~ and ~ という言い方が適切になります。「並べ置かれた2項目の間に隔たりを設ける(距離を置く)」というイメージで捉えるとよいでしょう。
「距離」は基本的に distance で表現される
「距離」に対応する語は名詞 distance に限ってしまってよいでしょう。
distance は、可算名詞なのか不可算名詞なのか、単数形なのか複数形なのか、といった文法的な用法の厳密さが希薄な語彙です。冠詞(特に不定冠詞)を付けても付けなくても、ほぼ同じ意味の表現として正しく使えます。
彼女とは距離を置いたほうがいい
彼はいつも周囲から距離を置いていた
複数形で表現すると中長距離を指す表現になる
そこそこの遠距離(それなりに大きな隔たり)を示す場合、しばしば some distandce あるいは distances のような語形で表現されます。
彼からは遠ざかっておきたい
at a distance とも表現できる
「距離を置く」と同様に「距離」を目的語に取った表現が keep a distance from ~ ですが、at a distance というフレーズを用いた別の英語表現も可能です。
at a distance は「少し離れて」「距離を置いて」といった意味のフレーズです。距離を置きたい対象を目的語にし、keep ~ at a distance と述べると、「~を距離を置いた状態に保つ」という意味になり、「距離を置く」と同様のニュアンスを表します。
distance は動詞としても使える
distance には名詞的用法のイメージが強いように思えますが、実は動詞的用法もあります。他動詞しかありませんので目的語に oneself を取り、「自分を~から遠ざける」つまり「~から遠ざかる」という意味で用いる場合が多いと言えます。
彼女とはしばらく距離を置きたかった
「距離を置く」を意味する言い換え表現
arm’s length は「一定の距離」を意味する慣用句
keep ~ at arm’s length という慣用句は「~から一定の距離を保つ」「よそよそしくする」という意味を表します。keep a distance from ~ とほぼ同じ意味でよく使われるフレーズです。
「一定の距離」を「腕の長さ」にたとえ、それ以上相手に近づかない状態を表しています。親しい人にはハグをするという欧米文化ならではの表現かもしれません。
動詞は keep 以外に、stay、hold、remain なども使えます。「とどまる」「保持する」「残す」などを意味するこれらの動詞から、距離を置くとは言っても関係が終わるわけではなく、一定の距離を保ちながら関係を続けていくことが表現できます。
arm’s-length とハイフンを用いて1語にすると、「対等で公正な」「よそよそしい」のように関係性を修飾する形容詞になります。法文書やビジネス関連の用語など、堅い場においても用いられる表現です。
アームズ・レングスの原則
get away from は自分から遠ざかるイメージ
get away は「離れる」「逃れる」などとにかく何かから無理やりにでも距離を取ろうとする行為を表します。
ちょっと離れるというようなものではなく、完全に遮断し接触を無くすぐらいに強く過激な表現です。多分に口語的かつ激情的な表現なので、使いどころには注意が必要です。
何もかもから逃げ出したかったの
myself to myself は他人との距離を表す
keep myself to myself で他人と距離を置くことを意味します。1人で過ごし、人とあまり関わらないことや、そうした内向的な人を表す際に用いる表現です。
彼はいつも他人と距離を置いていた
恋人と距離を置きたいときの定番のセリフ
「距離を置く」という表現は恋愛に関する会話内によく登場するのではないでしょうか。英語圏でも同じです。
ただ日本では、「別れる前にちょっと考える時間を持とう」「試しに距離を置いてみよう」といった実験的な面が多いと言えますが、海外では「距離を置いたらお別れはほぼ確実」「別れる前の一歩でしかない」といった認識がされているようです。
異文化を超えた恋愛は難しいでしょうが、言語をめぐる誤解だけは生じないようしっかり勉強しておきましょう。
鉄板は break
恋人たちが言ういわゆる「距離を置こう」というセリフに用いられる英語表現は、「休憩」や「小休止」を意味する break が鉄板のようです。お互いからも、この関係からも、少し休憩しようという意味で用いられています。
動詞は主に need が用いられ、「休憩が必要」つまり「距離を置いたほうがいいと思う」と相手に提案するニュアンスが表現できます。主語は I も we もどちらも使えるので、気持ちや状況に応じて正しい主語を選択しましょう。
私たち距離を置いたほうがいいと思う
近すぎた関係には space
2人の間に少しの隙間もなくて息苦しいという場面では space も用いられます。
離れるというよりは、適切な距離感で付き合おうという前向きな提案ではあります。ただ相手が今までの距離でちょうどいいと思っていた場合、傷つけることになるでしょう。
こちらも動詞には need が用いられます。テイラー・スウィフトによる2012年のヒット曲、 We Are Never Ever Getting Back Together の歌詞にも出てきます。
私たち1か月ぐらい会ってなかった、あなたが距離を置きたいって言ったから(ナニソレ?)
time を使っても表現できる
ここでいう「距離を置こう」とはつまり、別れという結論を出す前に「時間」が欲しいとも言い換えが可能だと言えます。time を用いた英語表現の方がより直接的に相手に本心を伝えられるかもしれません。
I need time for myself. で「1人の時間が欲しい」と表現することができます。今まで2人で話し合ってきていても、一度自分ひとりになって考える時間を取りたいという場合にはぴたりとくるフレーズです。
また、I think we need some time apart. というフレーズも定番で用いられます。apart は「離れた」を意味する形容詞で、some time apart で「離れて過ごす時間」を意味します。
文脈や言い方によっては「ちょっと離れてみよう」という軽い提案のようにもなりますが、近すぎる不健全な関係を正すための悲しい決断など重いシチュエーションでも使われる表現です。