「臨時福祉給付金」に対応する英語表現としては temporary welfare benefits のような言い方が挙げられます。厚生労働省が公式にこの訳語を使用している事例もあります。
だだしこれが唯一無二の正解とは言い切れません。臨時の・福祉の・給付金、という趣旨が正しく伝われば、他の単語を使って述べても問題ありません。
「海釣り公園」のような例の場合、英語では fishing pier という全く違った呼び名が一般的であるため、既存の訳語を探すという方法が有効です。でも「海・釣り・公園 → sea fishing park」でも伝わらないことはないでしょう。
「臨時福祉給付金」の場合、あくまで日本の制度について述べるなら、「臨時・福祉・給付金」をそれぞれ訳して趣旨を伝えることに注力して問題なさそうです。
もし海外の同種の制度について言及するという文脈なら、公式な呼び名(英語名称)を確認して準じるという流れが最適でしょう。
「臨時福祉給付金」を英語で表現する妥当な言い方
臨時福祉給付金とは、2014年に消費税が8%へ増税された際に低所得者を対象に実施された給付措置およびその給付金の呼び名です。
臨時福祉給付金は増税に伴う制度のひずみが解消されるまでの暫定的な措置として実施され、軽減税率などの仕組みが導入されたことを機に2018年までにすべて終了しました。
参照:「臨時福祉給付金(簡素な給付措置)」 ― 厚生労働省
temporary welfare benefits がいちばん無難
日本の臨時福祉給付金制度を英語で表現する場合、temporary welfare benefits という表現がいちばん無難でしょう。というのも半ば公式の英語訳と判断できるためです。
厚生労働省ウェブサイトの「政府調達対象の随意契約公示」の中で「低所得の高齢者向けの年金生活者等支援臨時福祉給付金」に関する公示を英語抄訳つきで掲げているページがあります。その中では臨時福祉給付金が temporary welfare benefits と訳されています。
参照:随意契約に関する公示(「低所得の高齢者向けの年金生活者等支援臨時福祉給付金」に係る広報等業務 外1件)― 厚生労働省公示 2016年2月16日
temporary =臨時の
temporary は「一時的な」「暫定的な」「臨時の」「仮の」といった意味合いの形容詞です。臨時福祉給付金の「臨時」には一時的な措置であるという意味合いが色濃く、その辺りのニュアンスも temporary はうまく反映してくれます。
temporary と表現することで、継続的な措置であるとか定期的な措置である可能性を排除し、あくまでも期間限定の対応であることが示せます。
welfare =福祉
welfare は「福祉」あるいは「福利」「幸福」などを指す英語の名詞です。
文脈によっては welfare が「生活保護」を指す語として用いられる場合があります。特にアメリカ英語において。
benefits = 給付金
benefit(s) は主に「利益」「恩恵」といった意味で用いられる単語ですが、文脈によっては「手当」「給付金」「生活保護費」などの利を指す語としても用いられます。
原則的には「手当」「給付金」のような意味で用いる場合は複数形扱いで benefits の形になります。
アメリカ政府の公式ウェブサイトを参照すると、いわゆる福祉給付金が Government Benefits と表現されていることが確認できます。政府が支出して国民の利益となる金銭的要素は基本的に benefits の語で表現してしまえます。
参照:Government Benefits ― USAGov
他の単語でも「臨時福祉給付金」は無難に表現可
「臨時」「福祉」「給付金」それぞれに対応し得る英語表現はいくつか見つかります。「臨時 →?」という調子で訳語を探した場合、必ずしも temporary に辿り着くとは限らず、たとえば provisional のような語に行き着く場合もあり得ます。
「おおよそ趣旨(どんなものか)が伝わればそれで十分」という観点に立つならば、temporary を provisional に置き換えて述べても何ら差し障りありません。内容は大体正しく伝わるでしょうし、文法上の問題もありません。
訳例の筆頭・最有力候補は temporary welfare benefits であるとしても special welfare payments とか provisional welfare entitlements のような言い方が候補から外れるわけではありません。どれを用いても基本OKのはずです。
(ただし、政府発の情報を参照してもらうための手がかりとして言及するような場合は、やはり政府が用いている temporary ~ の表現に準じる方がよいでしょう。)
temporary(臨時) は provisional 等に言い換え可
「臨時」は一時的であることや、タイミングの決まっていないことなどを意味します。厚生労働省も臨時福祉給付金について「制度的な対応を行うまでの間の、暫定的・臨時的な措置」(※太字は筆者)と説明しています。
provisional
provisional は「暫定的な」「とりあえずの」といった意味合いで用いられる単語です。「仮の措置である」という意味合いをよく表す単語としては provisional も有力な訳語候補です。
provisional は日常会話ではそうそう登場しないようなカタめの単語です。でも臨時福祉給付金は政府の施策なので多少カタいくらいで丁度いいともいえます。
special
special は「特別の」「特殊な」といった意味で、臨時給付が「特別な措置である」という部分を強調するという点においては中々に有力な選択肢です。
special と表現すれば、この臨時給付金が通常の給付金制度とは異なる特別な対応であるという点はばっちり表現できます。でも、何がどう特別なのかまでは伝わりません。給付条件が特別なのか、時期が特別なのか、はたまた金額が特別なのか、認識が定まらない懸念も残ります。
「福祉」は welfare 固定と考えた方がよい
「福祉」の訳語としては welfare の他に well-being なども挙げられますが、「臨時福祉給付金」の語における「福祉」は welfare が定訳と考えてよいでしょう。
well-being は、福祉は福祉でも「幸福・健康(な状態)」の意味合いで用いられる語です。「良く在ること」というニュアンス。
この well-being な状態を実現するための理念や制度、という意味の「福祉」が、 welfare であると捉えることもできるでしょう。
benefits (給付金)は payment などに言い換えて表せる
福祉給付金制度のような政府の給付金は benefits といっておけば間違いないわけですが、benefits 以外の表現が誤りというわけでも通じないというわけでもありません。
payment
payment (支払い)はお金の支払いとう意味で幅広く用いられる基礎的語彙です。これも十分に「給付金」の意味で使えます。
イギリス政府の公式ウェブサイトでは、benefits に関する案内ページの1項目として payments の項が設けられています。要するに benefits は給付(金)全体を指し、payment はその支払い(受け取り)に焦点を当てた語として用いられていることが見て取れます。
参照:Benefits ― GOV.UK
entitlements
entitlement は「資格」や「権利」を意味する単語です。「~する資格がある」「~を享受する権利がある」といった文脈で用いられます。
ただし社会保障に関連した文脈に限っては複数形の entitlements の形になり、「給付金制度」を意味します。政府からの給付金はいわば「国民である限り受け取る権利のあるお金」だからです。
アメリカの entitlement program には Social Security(社会保障制度)、Medicare(医療保険制度)、Medicaid(医療費補助制度)、unemployment compensation(失業手当)、food stamp(食料費補助)、agricultural price supports(農産物価格保証制度)などが含まれています。
給付金を entitlements で表した場合、そこには「困っている人を社会福祉によって助ける」といったニュアンスは含まれません。あくまでももらう資格のあるお金、という前提に基づく給付というニュアンスです。
日本の臨時福祉給付金は低所得者を対象とした制度ですが、国民全員が一定の条件においてもらう権利を持っている給付金です。 entitlements を用いて表しても間違いにはならないでしょう。