日本語の「外れる」という表現(動詞)は使い所の多い語です。英語で表現する場合には、「何が外れるのか」「どのように外れるのか」という様子などを顧慮して表現を使い分ける必要が出てきます。
「外れる」に対応する動詞は必ずしも特殊な語彙とは限らず、むしろ基本的な動詞と副詞の組み合わせ(句動詞)で大抵の意味合いが表現できます。
部品などが「取れる」「落ちる」
日本語の「外れる」にも色々な意味合いがあります。ひとまず思い浮かべる意味合いは「かさぶたが取れる」「フタが取れる」というような脈絡の言い方でしょう。このような文脈では、くっついていたものが分離するという意味で副詞 off がうまく機能します。
come off と fall off
部品などが外れる、取れる、という意味合いは、基本動詞に副詞を加えた句動詞で表現できます。たとえば come off 、あるいは fall off などが挙げられます。
come や fall に限らず「移動を表す動詞」なら大抵は off と組み合わせて「取れる」の意味の句動詞として使えます。移動を表す動詞の「移動」方向が off(離れる)側に向かっている、ということで、離れる・外れるような「取れ方」を指すわけです。
ネームタグがかばんから外れてしまった
ドレスの数個のボタンが外れてしまった
be unfastened 、 be uncoupled 、 be unlinked など
複数の部品を取り付けたり、留めたりする動作を表す他動詞( fasten 、 couple 、 link )に、接頭辞 un- を組み合わせて、受け身で用いることで「(一度つけたものが)外れる、外れている」の意味を表せます。先に「くっつける」段階があってはじめて、ある部品が「取れる」という因果関係を描くような表現です。人が目的や意図をもってつけた人工物が外される場面が殆どです。
衝撃で締めていたベルトが外れてしまった
何かをきつく締める場合には fasten 、2つの部品を組み合わせる場合には couple 、連結させる場合には link など、取り付ける様態によって核となる動詞が決まります。
集団や範囲を「抜ける」「やめる」
get out of と go out of
「外れる」には「チームから外れる」「エリアを外れる」と使われるように、ある集団や範囲から「抜ける」ことを表す用法があります。英語では get out of や go out of といった移動表現を使うことで、ある輪から物や人が抜け出すようなイメージに沿って、物理的な離脱も抽象的な離脱も共に表せます。
我々は直ちにこの領域から外れる必要がある
leave
leave はある場所から離れることを表す移動動詞で、やや抽象的に用いて「(組織、範囲などを)外れる」の意味合いを持ちます。目的語には、「去る場所(つまり、今までいた場所、組織)」が来ることに注意しましょう。
同社最高責任者で旧来の友人、副知事でもあるダニエル・L・ドクトロフが年末に会社を去るだろう
―― NewYork Times, September 4, 2014
似たような発想で「外れる」を表せる動詞に quit があります。 quit も本来、ある場所を離れる移動としての意味合いがあり、そこから派生して「(仕事や行為を)やめる」の意で使われます。
道やルートから「逸れる」
go off
go off は移動する物や人がある道すじから逸れていってしまうイメージを持ち、「(道やルートなどを)外れる」の意味で使える言い回しです。正しいコースが前提にあって、そこから誤った方向に行ってしまうニュアンスを伴います。off の後ろに、本来進んでいくはずだった道やルートにあたるものがきます。
stray from
stray from は「~から逸れる、はぐれる」を表す移動表現です。本来いるべきところから離れ、うろうろと彷徨うさまをイメージさせる言い回しです。 go off と同じように、本来沿うはずだった「正しいルート」を想定して使う表現です。
狙いや予想などが「当たらない」
go wrong
「外れる」には「予想が外れる」など、狙っていたものとは異なる結果になったことを表す用法があります。 go wrong は、移動する物体が思わぬ地点に行き着いてしまうイメージをもとにして、「(狙いや予想などが)外れる」ことを表す言い回しとして使えます。
not what one expected もしくは not what one thought
not what one expected( thought )は「人が予想していたものではない」と逐語的に述べることによって、「(予想などが)外れる」の意味内容を明示的に述べた言い回しです。やや奥の手感は否めないものの、適切な英単語1語が思いつかない(あるいは知らない)場合に、意味内容を文に直して説明する感覚は、これに限らず非常に有用です。
常識や規範から「逸脱する」
go off
go off は本来「物や人があるルートから外れること」を表す移動表現ではあるものの、比喩的に使うことで「常識や規範から逸脱すること」も表せます。日本語の「外れる」は「人の道に外れる」と言うように、あるルールや標準からの逸脱行為を比喩的に指すことが多々あります。これと同じ発想で、英語でも常識や規範を「正しい道、ルート」として捉えることによって、移動の動詞をそのまま援用する言い回しがごく一般的です。
be against
be against は「~に反する」にあたる前置詞 against を用いて、「(常識や規範から)外れる」という意味合いを表します。
deviate
deviate は自動詞として用い、deviate from の形で「常識や規範から外れること」を表します。 go off や be against といった表現よりもやや硬く、日本語で言えば「逸脱する」に近い言い回しです。
たがが「外れる」
get wild
get wild は、理性的に抑えていたものを解放して、大胆に欲のままに振る舞うことを表します。日本語で「たがが外れる」「羽目を外す」等と言い表す状況と似ています。
run amok
run amokは、見境をなくして暴れ狂うことを表します。理性のたがが「外れる」様子を捉える慣用句的な言い回しです。
知らせを聞いて、彼は突然たがが外れたように怒り狂った