英会話には自分から発信するアウトプット力が求められます。知識を吸収するだけでなく、その吸収した知識を正しく使いこなせるようにならなくてはなりません。意識的に積極的に英語を使って、アウトプットの練習に取り組みましょう。
アウトプットの練習は「英語の使い方」を意識する学習です。つまり、英語を使う立場になって初めて意識される細かい疑問に思い至るために重要な練習方法です。
この「英語の使い方」を効果的に意識するには、自分が教える立場になったつもりで知識をまとめるという方法が中々に役立ちます。
自分の中に教わる視点と教える視点を持とう
教える立場になったつもりで学習に取り組む方法は、言い換えれば、知識を客観的に納得できるレベルまで高める必要性を意識的に作り出す方法です。
ことさらに意識するまでもなく、自然と疑問がわいてくる、という場合もあるでしょう。普段見慣れない奇抜な表現は特に疑問を挟む余地があるものです。その「疑問がわいてくる」感覚を、より広く細かく適用できるようになることが、目下の目標です。
まずはツッコむ視点を身につけよう
自分で知識をインプットするだけなら「この単語はこういう意味、このフレーズはこういう意味。そういうものだ」という程度の把握で済ませてしまうこともできます。ここで敢えてイジワルなツッコミ役を設定しましょう。
「教える相手」を想定することで、多少イジワルなツッコミを加えてくる客観的な視点、を持てます。「ともかくそういう決まりなんです!」で済ませるわけにもいきません。それで済ませても、いずれ綻びが生じます。
ぼんやり把握した知識の細部に疑問を持てるようになると、もっと詳しく調べる必要に駆られます。結果、より多くの詳細な関連情報が得られ、より深く理解できるようになります。理解度も定着度も格段に違ってきます。
Nice to meet you. (はじめまして)にツッコミを入れる
たとえば Nice to meet you. というフレーズ。英和辞書を引くと、「はじめまして」「お会いできて嬉しいです」のように訳せることが分かります。が、それ以上の情報は辞書からはあまり得られません。
「nice to meet you =はじめまして」と対応づけて、これはそういうものだ、と理解して済ませてしまっても、悪くはないでしょう。しかしながら色々と疑問質問を下す余地はあるはずです。
ツッコミが思い浮かぶと、主語がない = 一般的な英語の文型(主語+動詞)から逸脱していることに目を背けているわけにはいられなくなります。
God bless you.(幸運を祈ります)にツッコミを入れる
God bless you を英和辞書で調べると「幸運を祈ります」のような訳文が見つかります。そういう意味なのか~と言って通り過ぎることもできますが、疑問質問の余地も結構あります。
Merry Christmas and Happy New Year ! にツッコミを入れる
Merry Christmas and Happy New Year ! はグリーティングカードなどで目にするフレーズです。
Merry Christmas はクリスマスを祝福するフレーズとして「メリークリスマス」のまま認知されていますから、さらに意味を深掘りする必要はないかも知れません。
Happy New Year は年賀状などでよく見るフレーズ。ことさら辞書を引かなくても「新年明けましておめでとうございます」の意味と理解できているのではないでしょうか。
「Happy New Year =明けましておめでとう」という理解を踏まえて、もう一度「Merry Christmas and Happy New Year! 」という一文を眺めなおすと、いつ使うフレーズなのかという部分にツッコミの余地があることに気づきます。
ツッコミに答えるには幅広い知識が必要
「AはBです」という情報を受け取って、「AはBである」と認識しているだけでは、「AがBである」ことの理由や根拠までは説明できません。
人に説明して納得してもらうためには、幅広く奥深い背景知識が必要です。自分の中のツッコミ役やイジワルでキレのあるツッコミをすればするほど、ツッコミに答えるために必要な情報は増えます。
ツッコミ役は今の自分自身である必要はありません。英語を学び始めの若かりし頃の自分を思い描いてもよいし、英語をマスターした将来の自分を思い描いてもよいでしょう。理想的な異性を思い描くとモチベーションが上がるかもしれません。
ひとりツッコミはアウトプットの練習につながる
自分で自分に質問(ツッコミ)を入れたら、次はそれに回答する番です。自分なりに(自分で満足できるように)回答するためには、自分で納得できるだけの情報を自分の言葉で説明できなくてはなりません。これはかなり大がかりなアウトプットの準備になります。
言語習得には「アウトプットの必要性」が大切
SLA(Second Language Acquisition)(第二言語習得)と呼ばれる言語習得論を研究している言語教育学者、白井恭弘・ピッツバーグ大学教授は「Input +output の必要性が重要」と述べています。(大量のインプットと少量のアウトプットの重要性、宮城教育大学、2012.12.8 英語教育フォーラム資料)。
白井教授は「インプットだけでは言語習得は容易でない」という立場をとり、インプットとアウトプットだけではなく、さらに「アウトプットの必要性」が重要であると述べています。アウトプットの必要に駆られると意識的・無意識的にリハーサルが行われる、そのリハーサルが学習効果を上げるための重要な要素というわけです。
アウトプットは欠かせない要素だが、本当に必要な部分は実際のアウトプットよりもむしろ「アウトプットの必要性にかられる」ことだ、とすれば、自分で自分に教えるつもりになる考え方は格好の実践的リハーサルになるかも知れません。
あえて形から入って要領をつかむ
「自分で自分に教えるつもりになる」といってもイマイチぴんと来ない方もいるでしょう。だいたい意識の持ち方の問題でしかないので、どういう境地を指すのかわかりにくい部分があります。
ちょっとした形式に則って「形から入る」つもりで取り組んでみた方が、導入が捗るかも知れません。たとえば「エンプティチェア・テクニック」と呼ばれる自己対話手法は、参考にできそうです。
エンプティチェア・テクニック
エンプティチェア・テクニックは、F・パールズの提唱した心理療法の試みで、2つのイスを手がかりに「先生」役と「生徒」役の1人2役を演じることで、自分との対話を形式化してロールプレイさせる方法です。考えを整理したり気づきを促したりする際に有効とされています。
- 椅子を2脚用意して向かい合わせに配置する
- 一方に腰掛け、質問者(先生)の立場になりきる
- 他方の(空席の)椅子に、相手(生徒)の姿をイメージする
- 空席の椅子にイメージした相手へ質問を投げかける
- 空席の椅子に移動して腰掛け、相手(生徒)の立場になりきる
- 先の質問を受けとめて生徒の立場で質問に答える
- 最初に据わった椅子に腰掛けて質問者の立場に立ち直す
- 以下繰り返し
椅子まで用意して一人芝居を打つプロセスは、「そこまでしなくても脳内でできるだろう」と思われがちですが、実際にやってみると意外と自己対話の効果が感じられるものです。精神医療・コーチング・自己啓発などの分野で実際に多数提唱されて実践もされている「イメージワーク」、あなどれません。
椅子を用意することは空間を意識することにもつながります。エンプティチェア・テクニックの方法で英語学習に自問自答する練習は、英語をちゃんと発声して会話練習に繋げるという意味でも効果が期待できそうです。
教うるは学ぶの半ば
教えることは学ぶこと、学ぶことは教えること、という意味のことは、歴史上さまざまなところで言われています。
経営学者ピーター・ドラッカーは「知的労働者やサービス労働者は、自らが教えるときに、最もよく学ぶ」(未来企業―生き残る組織の条件)と述べています。
中国古典「書経」にも「教うるは学ぶの半ば」という言葉があります。
学習が身につかないという行き詰まり感は、インプット学習ばかり行ってアウトプットの練習が足りないせいかもしれません。あるいは、実践に必要な細部の知識がまだ足りていないのかも知れません。自分で自分に教えるつもりで知識を整理している学習方法は、英語学習の行き詰まり感を打開するきっかけとなるかも知れません。