英語の助動詞 must は、主に「義務」や「確度の高い推量」などの意味合いを表現します。勧誘や希望といった用法もあります。読解は比較的容易、自分で使うとなるとかなり難しい言葉です。
義務や推量の意味を示す助動詞は、must の他にも複数あります。「義務の強さの度合い」を図式化して把握する方法も有益ではありますが、それよりも「そもそもどういう種類の(ニュアンスの)義務・推量なのか」という観点で把握した方が、言葉の含みを適切に理解できます。
助動詞の意味の広がりに惑わされず、自分でも使いこなせるようになるには、言葉の根本の部分に秘められた「コアイメージ」を把握すること。英語の言語感覚を養うという点でもお勧めできる取り組み方です。
助動詞 must は「しなければならない」というイメージ
英語の助動詞 must の核心的なイメージをあえて言葉にするなら、「そうしなければいけない」「しないことは許されない」というニュアンスと言えるかもしれません。
語源を辿ると「許可と義務」の意味に行き着く
must の語源は古英語の moste(mōste)であるとされています。(たとえば Merriam-Webster などを参照)。moste は motan(mōtan)の過去形で、意味は be allowed to(することを許されている)および have to (しなければならない)、つまり許可と義務の意味を両方表現しうる語です。
否定語を伴って「禁止」「許されません」の意味を示す must not の用法は、moste の本来の意味に近い意味合いを保った用法といえるでしょう。
許可と義務の両方のニュアンスを帯びる言い方としては、権威・権力のある立場の者が下に命じる場面が想起されます。「もう下がってよい」というような場面です。
そう考えると、選択肢がひとつあって他の道を選ぶ余地はない、と判断される状況が must の「しなければならない」「しないことは許されない」というイメージの肝といえるかもしれません。
「義務」に通じる用法・用例
must で義務を示す用法の、義務の強さは、must の根本に王命のようなニュアンスがあると考えれば、ほぼ絶対的と言ってよい強制力が込められていると分かります。
shall は王命どころか天命というべきニュアンスを根本に持つので、must と shall の義務の強さ度合いは must ≦ shall のような感じと解釈できます。
義務・命令
一人称の文では話者本人の強い義務感を表します。
今すぐ行って彼を助けなければ
もう失礼しなければなりません
二人称では強い命令の意味を表します。「力を持った者から下の者へ言い渡す」ようなニュアンスがあるので、はっきりと上下関係があるなど、限られたニュアンスでしか使われません。ビジネスシーンでは基本的に適しません。
サッカーを一生懸命練習しなさい
公共の場では礼儀正しく親切にしなさい
禁止
義務・命令の mus tを否定文で言うと、禁止の意味合いになります。禁止の must notは、義務・命令と同じくビジネスでは適しません。
教室では飲食禁止です
怠惰になってはいけません
強い希望
話者の強い希望を表すmust もあります。コアイメージからの意味の脈絡は、「そうしないことは許されないほどの強いる力が働いている」→「何か強い力に突き動かされているほどに〜しなければならないぐらいの強い希望」といった感じに捉えられるかもしれません。
親切にしていただいたお返しにぜひ何か差し上げたいです
ぜひまたすぐにお会いしたいです
強い勧誘
ぜひぜひそうしてください! というような強い勧誘を表す用例もあります。「そうしないことは許されない」→「そうしないと承知しないぞ。と言いたいほどの強い勧誘の気持ち」といった感じで、コアイメージからの流れを把握できます。
次回はぜひ参加してください
ぜひご自由にケーキを召し上がれ
固執
「固執」の意味を示す用法は、少し見分けづらく、用例を把握していないと義務と混同してしまいやすい部分です。「そうしないことは許されない」→「そうしないと承知しないぐらいこだわる気持ち」という脈絡で理解できます。
彼女はいつも自分のやりかたでやると言って聞かない
なぜ君はそんなに自分の意見にこだわろうとするんだ
固執のmustであるかどうかは、文脈の中にある種の頑固さを感じさせる表現があるかどうかで決まります。
「当然」系の用例
must は「そうしないことは許されない」というニュアンスを起点として、「そうするのは当然」「必ずやそうするに違いない」というニュアンスも生じています。
当然・摂理
「当然そういうものだ」というニュアンスで must を用いる言い方もあります。使い所はかなり限られた使い方で、もっぱら格言のような趣で用いられます。
すべての被造物は必ず滅びる
確信度の高い推量
当然であるという意味合いの must の用法として最も多く用いられる用法は「〜に違いない」「きっと〜だろう」といった、かなり確信度の高い推量を表す用法でしょう。
文脈によっては義務(~しなさい)と解釈しても意味が通ってしまう場合があるので、注意しましょう。というより、義務も推量もどちらの意味合いも含むコアイメージを獲得しましょう。
ご冗談でしょう
あなたはジェームズ博士ですよね
声からすると彼は10代に違いない
反語
疑問詞 Why を伴う疑問文で must を用いると、反語の意味をとります。「そうしないことは許されない」→「そうしないことがなぜ許されないのか」というような、must の含む強制力に「たてつく」ようなニュアンスを感じさせます。
反語の must は腹立たしさや不満の表れとして用いられます。
何だってこんな晴れた日曜にこんなふうに働かなきゃならないんだ
なぜ私が君の要求に応えなければならないんだ