海外の映画やテレビドラマ、あるいは歌などのエンタメ作品は、英語を学ぶ手段としても大いに役立ちます。楽しみながら英語の文章表現・発音・アクセント等々を学びましょう。
正しい英語表現を正しい発音で学ぶ、という観点で見れば、ディズニーアニメのように英語圏で制作された作品が理想的かもしれませんが、日本のアニメ映画作品の英語版に親しむという形を取り入れてみるのも良い手です。英語ネイティブの言語感覚はいくぶん薄れますが、「日本語ならこう言う場面を英語ではこう言う」という感覚の対応付けが捗ります。
たとえば、スタジオジブリのアニメーション作品は、海外でも人気が高くてファンも多く、英語訳も豊富です。題材としてはうってつけでしょう。
今回はあえて「風の谷のナウシカ」(Nausicaa of the Valley of the Wind)の映画ではなく歌の方(※安田成美が歌った曲)の歌詞の一部を例に取り上げ、実際どんな風に英語学習に使えるか、考えめぐらし方を見てみましょう。
「風の谷のナウシカ」の英語版を聞く
曲としての「風の谷のナウシカ」は、アニメ本編では用いられておらず、厳密にいえば主題歌でも挿入歌でもなくてイメージソングという扱いです。
ジブリ作品のテーマ曲の英語版の歌い手としては、スウェーデン出身の女性歌手・メイヤ(Meja)がよく知られています。可憐な歌声の方です。
Nausicaa Of The Valley Of The Wind – Amazon(※サンプルで一節視聴できます)
「身体ごと宙に浮かぶの」という一節
同曲でちょっと気になるフレーズが、日本語歌詞で「身体ごと宙に浮かぶの」という部分。メイヤの歌では、このフレーズが、「You know our bodies will lift and float off the ground」となっています。
日本語とどのように対応しているのか、忠実な訳なのか、それとも意訳だったりするのか、確認してみましょう。
語義を詳しく確認してみる
you know は「あなたも知っているでしょう」
歌詞の最初に置かれている you know。これは日常生活でも頻繁に使われているフレーズです。you know にはいくつかの役割があるので、歌詞の中でどのような役割を果たしているのか考えてみましょう。
- 【役割1】話している内容が相手も知っていること、理解していることであるときに使います。もしくは、相手が知っていなかったとしても、それが当たり前の事柄であることを強調したいときに使います。
- 【役割2】文末に you know? と疑問形で使う場合には、相手の理解度を確認している表現と言えます。「そうだよね?」「分かってる?」と相手の理解や共感を求めるときに使います。
- 【役割3】特に大した意味はなく、日本語の「えっと・・・」「あの・・・」のように、次の言葉を考えるときに使います。通常、「~, you know, ~」のように文中で挿入されます。
歌詞における you know は文頭に置かれています。役割2は文末、役割3は主に文中で使われているため、歌詞中では役割1で使われていると考えます。
you know は「あなたも知っているでしょう」「あなたも分かっていると思うけれど」などと訳せます。
you know に対応する言葉は、日本語歌詞には入っていません。しかしながら、you know(あなたも知っているでしょう)というフレーズを入れることで、「身体ごと宙に浮く」という非日常的な出来事が、歌詞の中の世界では当然のことなんだ、そういう世界観を歌っているのだということを、聞く側である私たちに伝えてくれています。
our bodies は「身体ごと」
英語歌詞では、「身体ごと」は our bodies(私たちの身体)と訳されています。他の英語サイト等を見てみると、whole body という表現が使われていたりもします。whole body は「全身」を表す言葉です。
もちろん body だけでも「身体全体」を表すことはできます。しかしながら、「身体全体」をさらに強調したいのであれば、「全体」を意味する whole を付けると良いでしょう。
「全体」を意味する whole と entire の違い
whole と似た意味を持つ単語に、entire があります。こちらも「全体」を表す単語です。whole と entire の違いを押えておきましょう。
whole は「ひとつの塊」
whole は「全体」「全て」を表す単語です。whole の表す「全体」は、1つのものが壊れたり分解されたりしておらず、「ひとつの塊」として存在していることを表します。body のように、部分部分に分けることを前提としていないモノに対して使う傾向があります。
entire は「全部そろっている」
entire も「全体」「全て」を表します。entire は、「どの部分も欠けていない」ことを強調します。entire が表しているのは「全部そろっている」状態です。そのため、group(グループ)など、部分部分に分けることも可能なモノに対して使われる傾向があります。
lift and float off the ground は「宙に浮かぶ」
英語歌詞の中で、「宙に浮かぶの」の部分は lift and float off the ground と英訳されています。
自動詞でも他動詞でも使える lift
lift は自動詞でも他動詞でも、どちらでも使うことができる単語です。
- 他動詞:(主語)が(目的語)を持ち上げる
- 自動詞:(主語)が持ち上がる
他動詞の場合には目的語が必要になるので、歌詞中の lift は自動詞で使われていると考えられます。身体が何かの力によって持ち上がる状態を表しています。
off the ground は「離陸する」
off the ground は「地上から離れること」、つまり「(飛行機などが)離陸する」という意味のフレーズです。「離陸する」という意味で使われるときには、通常 get を使って get off the ground と言います。
float は「空中」にも「水中」にも浮かぶ
float は、「空中に浮かぶ」という意味も「水中に浮かぶ」という意味もあります。どちらの意味でも使われるので、float の前後の文章を見て判断する必要があります。歌詞では、float の後に off the ground(地上から離れて)とあるので、水中ではなく空中に浮かんでいると分かります。
少し詳細な訳のほうが想像しやすい
「宙に浮く」と言いたい時には、float in the air や float in midair という表現が使われることもあります。しかしながら、これらの表現はいずれも「宙に浮かんでいる」という状態を表すのみです。
日本語歌詞でも「宙に浮くの」というシンプルな表現にとどまっています。一方、lift and float off the ground という表現は「身体が持ち上がって地上から離れて浮かんでいく」という一連の動きを良く表しています。こちらの表現の方が、「風の谷のナウシカ」の世界を想像しやすいのではないでしょうか。