最近では中東やヨーロッパの近辺を中心にテロ(terrorism)が頻発しています。2016年7月半ばにはフランス南部のニース(Nice)でテロ事件が発生、84名以上が犠牲となる凄惨な事態となっています。
日本でも多くの報道機関が「ニーステロ事件」などの呼び名で事件の凄まじさを報じていますが、事件の背景となる事情まで深く切り込んで突っ込んで報じているメディアはそう多くありません。
海外のメディアは日本国内で見聞きするニュースとはまた違った報じ方をしています。英字新聞を読むと国際情勢を見通す観点が一歩深まる実感が得られます。
2016ニーステロ事件の概要
テロ事件はフランスのニースで、2016年7月14日の夕方頃に発生しました。
ニースはフランス南部に位置するリゾート地です。気候は1年を通じて温暖、美しい自然や文化遺産が豊富で、スポーツ等のイベントも多く催されています。
7月14日はフランスでは「フランス国民祭」と呼ばれる祝日になっています。英語ではバスティーユ・デイ(Bastille Day)、日本語では「パリ祭」とも呼ばれます。「バスティーユ」の呼称はフランス革命の引き金となったバスティーユ牢獄襲撃事件に由来します。すなわち、7月14日は仏国における建国記念日なのです。
この日はパレードや花火の打ち上げなど華やかなイベントが催されます。テロ事件は、海岸の花火を見物するために集った群衆にトラックが突っ込むという形で発生しました。
犯行に及んだ人物はチュニジア系の男、と報じられています。
群集に突っ込むことで84人を殺害し、それ以上の怪我を負わせた、運転者はフランス当局によってモハメド・ブレル(Mohamed Lahouaiej Bouhlel)と判明した
――What We Know About the Driver in the Nice Attack―TIME, July 15, 2016
テロ事件の発生後に、中東の過激派組織「IS」(通称イスラム国)が声明を出し、ISに共鳴して起こした事件だと主張しました。
テロ実行犯は「ISと戦っている連合国の市民を標的にせよと言う呼びかけに対応してテロ行為に及んだのだ」と、同組織は語った
――Islamic State Says It Was Behind Deadly Nice Attack―Bloomberg, july 16, 2016
ニースが現場となった背景
ニースはフランス有数の行楽地であると共に、西欧とイスラムの対立問題が先鋭化しつつある都市のひとつでもあります。
壮麗な教会やヤシの並木が美しい浜辺のあるニースは観光地としてよく知られている。しかしパリ地域圏外でイスラム過激派による厄介な問題に最も直面している都市のひとつであるということはあまり知られていない
――Why Nice was an unsurprising location for a terrorist attack―The Economist, July 15, 2016
ニースはムスリム(イスラム教徒)人口も多い都市です。このテロ事件で犠牲になった人々の中にもムスリムが含まれていました。
フランス国内のほかの大きな都市同様、ニースには多くのムスリムがいます。死者の中にはムスリムも何人かいました
――Why Nice was an unsurprising location for a terrorist attack―The Economist, July 15, 2016
事件発生以前のニースで見られた動向
ニースやその近隣の地域では、ISが跋扈する中東のシリアやイラクへ向かう者が少なからず確認されています。2016年初頭頃までに数十名が中東へ渡っています。
今年の初めまでに、ニースやその他コートダジュール地域圏アルプ=マリティーム区内の地域に住む、少なくとも55名が、戦闘員となるためシリアやイラクにへと旅立っている
――Why Nice was an unsurprising location for a terrorist attack―The Economist, July 15, 2016
事件との関わりは希薄ですが、聖戦(ジハード)のため集会所を設置して志願者をサポートしていた事で知られる活動家オマール・オルセン(Omar Omsen)もニース出身でした。
彼はニースにイスラム聖戦のために有効な集会所を設けた
――Why Nice was an unsurprising location for a terrorist attack―The Economist, July 15, 2016
オマール・オルセンはニースからシリアへ渡った志願者の組織加入を橋渡ししたと見られています。
彼はニースからシリアへ飛び立った11人の志願者の採用の立役者と考えられています
――Why Nice was an unsurprising location for a terrorist attack―The Economist, July 15, 2016
記事で用いられた英文を文法的に斬る
形容詞句を先に持ってくる表現
Less well-known is the fact that it faces one of France’s most intractable problems of Islamic radicalisation outside the Paris region.
the fact 以下が名詞句で、文頭のLess well-known が形容詞句です。普通の文章とは前後逆の配置です。
形容詞句を先出しして倒置させることで、長たらしい名詞句が動詞の前に延々と続くような文章が回避され、文章が把握しやすくなっています。
もしコレが通常の主語-動詞-述語の順序だと、文章の前方8割がたを占める主語を読むうちは「何がいいたい文なのか」を把握できず、読み疲れしてしまいます。
セミコロンで関係を示す
Like most big cities in France, Nice has a big Muslim population; several were killed in the lorry attack.
セミコロンは、関係性のある2つの文章をつなげる意味でしばしば用いられます。ふたつの文章をまとめ、同じ脈絡で述べられてることを示します。
関連の希薄な文章をセミコロンでつなげると誤りと見なされます。たとえば、 I have a cold; I like eating. のような文はセミコロンの扱いとしては不適切といえます。
なお、同テロ事件を特殊したNHKのWebページはhttp://www3.nhk.or.jp/news/liveblog/nice-terro/ というURLで設けられていますが、テロを英語で綴るなら普通は terror です。