2016年7月、Chexit という新たなキーワードが登場しました。東南アジアの国際情勢に関する語で、直前に世界を席巻した Brexit をもじった語です。米国紙 Forbes などがこれを報じています。
After Anti-China UN Ruling, Filipinos Give Their Elation A Name: CHexit ― Forbes Asia, JUL 12, 2016
新語が登場する瞬間に立ち会うというのはなかなか感慨深いものです。言葉は辞書の中に収まっている標本ではなく、生きているものであるという実感をもたらしてくれます。
CHexitとは
CHexit は China と exit を合わせた合成語です。意味は脱出というよりも「中国は出て行け(退場せよ)」というニュアンスが中心です。
この背景には、南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)周辺海域をめぐる、中国と周辺国(とりわけフィリピン)との対立問題 ―― いわゆる「南シナ海問題」があります。
フィリピンは2013年初頭に、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき中国を相手に提訴。国連の常設仲裁裁判所(U.N. Permanent Court of Arbitration)に仲裁を求めていました。
そして2016年7月12日、仲裁裁判所は、中国の主張を全面的に退ける内容の判決を下しました。
ここ数年、南シナ海の海域ではフィリピンと中国双方の船籍がかち合って互いに取り締まり合う(摘発・拿捕・沈没)という衝突が続き、緊張が高まっていました。フィリピンの漁業関係者の憤懣もかなり高まっていたはずです。
その中で仲裁裁判所がフィリピン側の主張を認める判決を下したため、フィリピン国内では一気に「アンチ中国」の機運が高まった。その表れとして CHexit というキーワードが登場し、ソーシャルメディアを通じて一気に広がったというわけです。
CHexit は特定の政治家や学者が提唱したキーワードではなく、民衆の中から生まれて広がったキーワードのようです。
元ネタとしての Brexit
《国名+exit → 圏域脱出》という造語法には前例があります。
特に CHexit の語が大きく注目された背景としては、前月からヨーロッパ圏で取り沙汰されているイギリスのEU離脱問題=Brexit が大きく影響しているといえるでしょう。
Brexit に関する一連の動向は、2016年6月に国民投票を実施 → 投票結果は「離脱に賛成」派が多数を占める → 反対派は投票のやり直しを求めて抗議活動を繰り広げる + キャメロン首相が辞任を表明、そして7月半ば現在に至るまで行き先不透明な状況が続いています。
Brexit の問題も CHexit の問題も、注意深く見守っていきたいところです。
国際情勢こそ海外メディアを参照する意義がある
世界情勢は報道者と扱う問題の関係や距離感によっても観点が違ってきます。国内メディアですでに見聞きした情報も、海外メディアを通じて眺め直すと、また違った立場や観点から捉えることができたりします。
いわゆる南シナ海問題は、日本の国益や国防にも関わる問題でもあります。英語メディアを通じて動向を追うことは、英語学習もさることながら、日本や中国に対する偏向から遠のいて冷静な視点で問題を捉える意味でも有益と言えそうです。