選挙は国政の行く先を占う試金石。2016年7月に全国で実施された参議院選挙の動向は、海外でも大いに注目を集めました。
投票結果は自民党が圧勝、結局あ自民・公明連立政権の続投という結果に落ち着きました。政策が大きく変わることもなく、日々ニュースで報じられてきた話題が引き継がれた形です。あらためて「今後の日本はどうなる?」というような視点で報道したメディアも多くはありません。
他方、国外のメディアが報じた参院選の話題は、アベノミクスや憲法改正といった要素を踏まえつつ「日本が今後どのような方向へ向かうのか」という国政の全体像に焦点を当てているメディアが多々見られます。
海外メディアの報道を見ることで、日本が抱える問題を客観的に見ることができるかもしれません。
海外メディアの報道
基本的には厳しい目
参院選の結果および日本の今後を見通す記事の多くは、決して安倍内閣を礼賛するものではなく、難点を分析して批判する見方が基調にあります。ただ、これは海外メディアだからというわけではなくマスメディアの基本姿勢とでも言うべきところでしょう。
The Economist:憲法改正よりも経済回復が先じゃない?
The Economist では、安倍内閣が推進する経済政策(通称「アベノミクス」)について厳しい評価を下し、そもそもこのような状況下で安倍政権が支持を得ていること事態に疑義を呈しています。
アベノミクスについては「景況感は低調」(business confidence is flat)、「賃金は停滞したまま」(wages are stagnant)、「消費活動は不活発」(consumption is sluggish)と、散々にこき下ろしています。
The Economist は、今回の自民党の勝利が、安倍首相の積年の目標である憲法改正へ近づいたことを認めつつも、今は憲法改正ではなく経済回復に力を入れるべきだと主張しています。
First, though, Mr Abe must turn to boosting the economy. For all the trumpeted “Abenomics” of the past three years, including monetary and fiscal stimulus, output is forecast to grow at just 0.9% this year. Business confidence is flat, wages are stagnant and, though jobs are easy enough to find, consumption is sluggish. Not for the first time, Abenomics needs a reboot.
どうなるか分からない経済とそれを安倍首相がどのように直していくのか分からない不安が徐々に増しているにも関わらずの勝利であった。
しかしながら、まずは経済の回復に力を入れるべきである。ここ3年間で吹聴されてきた「アベノミクス」は金融・財政を刺激することであったが、その結果としては、今年はたった0.9パーセントの成長率であると予想されている。景況感は低く、賃金も停滞している。仕事や見つけやすくなったものの、消費は鈍っている。アベノミクスをリブートする必要があるのは、何も今回がはじめてではない。
――Diet control-The Economist, Jul 16th 2016
The Japan Times も、経済を重視すべきという論調の記事を出しています。
安倍首相は、国会で優位になった彼の連立政権を、憲法改正ではなく、経済再生のための効果的な道具として使うべきである。
――Abe’s new voter mandate-The Japan Times, JUL 11, 2016
The Wall Street Journal:反アベ市民の声を紹介
The Wall Street Journal では、自民党の方向性に不安を感じて自民党以外の政党に票を入れた女性を紹介しています。
“In the past, I didn’t have any concern supporting the LDP, but the past few years have been terrible,” she said.
憲法改正をどのようにするかについて、連立政権内での議論が欠けている中、経済は優先されているようだ。日本経済の過去の四半期のうち、2つは縮小した。また、1つにおいては赤字に戻っている。世論調査は、アベノミクスに対する世間の不満が高まっていることを示している。
――Japan Election Boosts Shinzo Abe’s Bid to Revise Constitution-The Wall Street Journal, July 10, 2016
Bloomberg:そもそも憲法改正は可能なのか
多くのメディアが「憲法改正より経済回復が先決」と報じる中、Bloomberg は、たとえ自公連立政権が護憲派を負かせたとしても、早期の憲法改正は困難との見解を述べています。
しかしながら、それ(憲法改正)がいつになるかは明らかではない。仏教系組織がバックについている公明党というパートナーは、平和主義の憲法9条を変えることについて気が進まないだろう。
――Abe Seeks to Expand Majority: A Guide to Japan’s Election-Bloomberg, JUL 8, 2016
実際に自民党と公明党で憲法改正の中身について意見が割れている、という点も指摘しています。
トーマス・ハリス、「TENEO INTELLIGENCE」のアナリストはメールでこのようにコメントしている。「事実、一連の政治運動は、自民党と公明党で、何を改正すべきか、またどれくらい急いで改正するかについて合意していないということが明らかになった」
――Abe Seeks to Expand Majority: A Guide to Japan’s Election-Bloomberg, JUL 8, 2016
選挙関連用語おさらい
「参議院選挙」「衆議院選挙」を英語でどう言うか
英語では、参議院選挙は Upper House election のように表現される例が多く見られます。対する衆議院選挙は、Lower House election です。
参議院の公式な英語名称は House of Councillors で(councillors は「参議」を意味する語)、Upper House は二院制における「上院」に当たる語です。
日本やイギリス、そしてアメリカなどは議員が二院制で成り立っています。そのため、上院(Upper-house)と下院(Lower-house)といえば、日本の国会について詳しい知識がなくても、上院下院としての位置や役割が把握できてしまいます。
東京では、安倍信三首相が率いる連立政権が、日曜日に行われた参議院選挙で圧倒的な勢いを見せつけた。そして、安倍さんの長い野望である憲法改正への流れが強くなった。
――Japan Election Boosts Shinzo Abe’s Bid to Revise Constitution-The Wall Street Journal, July 10, 2016
日本におけるUpper House は「参議院」ですが、イギリスの上院は「貴族院」(House of Lords)、アメリカの上院は「元老院」(Senate)と呼ばれます。
日本の政党名を英語でどう言うか
主立った国政政党の呼び名の英語名はおおよそ、言葉の意味を英語に対応づけた呼称です。公明党は意味を捨てて Komeito と音写しています。
- 自由民主党:Liberal Democratic Party
- 公明党:Komeito (junior partner Komeito)
- 民主党(現、民進党):Democratic Party
- 日本共産党:Japanese Communist Party
- 社会民主党:Social Democratic Party
- 日本のこころを大切にする党:The Party for Japanese Kokoro
- おおさか維新の会:Osaka Restoration Group
- 新党改革: New Renaissance Party
- 幸福実現党:Happiness Realization Party
- 国民怒りの声:Angry Voice of the People
- 生活の党と山本太郎となかまたち: The People’s Life Party & Taro Yamamoto and Friends
すでに解散した「みんなの党」は英語では Your Party と訳されていました。
公明党はしばしば「junior partner Komeito」のように呼ばれています。ジュニアパートナーは共同体の中で持ち分の少ない側のパートナーを指す語。自公連立政権において規模が少ない方のパートナーという意味合いが見いだせる表現です。
自公連立政権は単に「連立政権」という意味で Coalition と呼ばれる場合が大半です。
一連の大規模な日本メディアによる報道では、安倍さんの連立政権、つまり自由民主党と公明党、そして保守的な同盟によっておそらく162議席が獲得されることになる。それは、彼が長らく望んできた憲法改正が上院で可決できる数が集まることになる。
――Abe Seeks to Expand Majority: A Guide to Japan’s Election-Bloomberg, July 8, 2016