英語で「死」や「死亡」に当たる語といえば die や death などが挙げられますが、ばっさり「死ぬ」と言ってしまわず、より婉曲的に遠回しに「死」を表現する言い方も沢山あります。
死はとても繊細な話題です。穏便な言い方・情緒に富んだ言い方を把握しておくと、きっと役立つ時がきます。
死亡・逝去を表す基礎的な表現
die は「死亡する」で普通に使える表現
die は日本語の「死ぬ」に対応する動詞であり、死を表現する最も基本的な語です。
直接的な表現ではありますが、必ずしも日本語の「死ぬ」のようなキツい物言いではなく、普段使いの言葉として用いられます。
訳語としては「死ぬ」よりも「死亡する」「亡くなる」などの表現と対応させて捉えた方が、実際の使われ方の感覚に近づけるでしょう。
die は「それまで維持されてきたものが尽き果てる」というような意味合いで幅広く用いられます。人間の死だけでなく、動物の死、植物の枯死、炎の消滅、名声の消失、記憶の完全な消去(忘却)、といった意味でも用いられます。(kill も同様に幅広く用いられます)
die は客観的で語弊の少ない語
die はストレートな表現であるだけに、語弊の余地が少ない語です。新聞やテレビなどが人の逝去について報道する際は、ほぼ die (died)の語が用いられます。(国民的大スターの逝去などでは詩的な表現が用いられることも多々ありますが)
die は死という事実を述べる場合の基本表現と言えます。特に感情を込めたり配慮したりするのでなければ、die と表現して差し支えない、くらいの感覚で把握しておいてよいでしょう。
もちろん歴史上の人物の死に言及する場合も die で表現されます。
その男は車にはねられた後に死亡した
近年は高齢者の多くは病院内で亡くなっている
pass away は「他界」のニュアンス
pass away は婉曲的に「死」を述べる表現としてよく用いられる言い方です。
pass away の基本的な(文字通りの)意味は「過ぎ去る」「消え去る」といったところで、「時間が過ぎる」とか「痛みが消え去る」という意味で用いられる場合もあります。
長らく駐印ロシア大使を勤めたアレクサンドル・カダキンが今日、世を去った
― The Economic Times, Jan 26, 2017
gone は「逝った」のニュアンス
be gone は基本的に「過ぎ去った」「消え去った」という意味合いで用いられる表現です。口語表現では「死んでしまった」状況を指す婉曲的な表現として用いられます。
gone は go の過去分詞(形容詞用法)ですが、gone 自体すでに一個の形容詞として扱われています。
ジム・ホーキンスがあの世に行ってしまった、私ははじめそう思った
― Stevenson, Treasure Island(宝島)
gone は色々な文脈で用いられ、必ずしも死を意味するとは限らないので注意しましょう。単に「もうここには居ない」という程度の意味で用いられているだけかもしれません。
痛みは消え去った
冬が去った
あのタイガー・ウッズはもういない、今はもはや見る影もない
― New York Post, January 25, 2017
「死ぬ」を表現するいろんな動詞
pop off
pop off は、オノマトペ的な動詞表現 pop と、「離れる」という意味合いを持つ off からなる句動詞です。「急にいなくなる」という表現で用いられ、急死・急逝を表現する言い方としても用いられます。
croak
croak もオノマトペ的な動詞で、低く枯れたような嗄れ声を表現する語です。そして、俗な用法として「死ぬ」ことを表現する語として用いられる場合があります。
croak は基本的にはカエルや牛の鳴き声について用いられますが、人が発するただならぬ声について用いられることもあります。おそらくは、末期の唸り声を想起させるのでしょう。
drop dead
drop dead も突然の死を表現する言い方です。
drop には「しずくが落ちる」の他、「倒れる」、「(~の状態に)陥る」といった意味合いがあります。
英語では《自動詞+形容詞》で「形容詞の状態になる」と表現する言い方があります。go mad 「怒り狂う」とか go bad 「腐る」のような言い方が典型でしょう。バッタリと dead(死んだ)状態に陥る、ということで急逝を表現する言い方です。
expire
expire は基本的には「(期限などが)切れる」という意味で用いられる動詞です。終了、満了などとも訳されます。そして「死ぬ」という意味合いもあります。「(人生の)期限が終わる」という感覚の言い方なのだろうと察せられます。
expire が die に等しい意味を持つことは英語辞書にも記載されているのですが、実際のところあまり用例は見られません。どうも使い所がかなり難しい表現のようです。
buy the farm
buy the farm は直訳すると「農場を買う」程度の意味の表現ですが、アメリカ英語のスラングとしては「死」を意味する婉曲的表現である場合があります。
特に「戦闘で亡くなる」「戦死する」という意味を強く含みます。第二次世界大戦中に生まれたスラングのようです。
農場の購入と戦死との関連は定かでなく、諸説あります。有力な説としては、farm は戦死者を埋葬する場(墓場)を指すというもの。あるいは、戦闘機のパイロットが農場に不時着して、その農場を買い上げなくてはならないほどの損失に結びつく、という由来譚もあるようです。
いずれにしても、現今において一般的に用いられる「死」の表現とはちょっと言えません。
snuff it
snuff it はイギリス英語の俗な表現として「死ぬ」の用法がある言い方です。snuff it の組み合わせで自動詞のように扱われます。
snuff の基本的な意味は「灯火を消す」、まあ死の隠喩になりやすそうな意味合いです。snuff out といえば「殺す」という意味合いに転じます。なお snuff には「嗅ぐ」という語義もあります。
perish
perish は第一義に「死ぬ」という意味を持つ動詞です。比喩ではなく直接的に「死」を表現する語。とりわけ、災難や災害への遭遇による突然の死・非業の死を表現する語として用いられます。
perish はどちらかといえば文学的な表現です。むしろ「死」の転用として比喩的に腐る・枯れる・ダメになるといった意味で用いられる方が多く目にするでしょう。perishable は「腐りやすい」ことを意味します。
decease
decease /dɪsíːs/ は名詞で「死」、動詞で「死ぬ」、どちらの用法でも使える言い方です。フォーマルな言い方としても用いられます。
disease (病気)や decrease (減る)と誤読しないよう注意しましょう。
もっと婉曲的で詩的な表現
日常的に多用されるというわけではなくても、死を明に暗に指し示す婉曲的な表現は沢山あります。
depart this life
旅立つ、世を去る
「現世を出発する」という言い方で死を表現する言い方です。
life には「生命」「生活」「生涯」「寿命」さらに「この世」に対応する意味合いもあります。意味合いによって可算名詞・不可算名詞と扱いが異なりますが、人の死について述べる文脈では複数形を取ることはまずないでしょう。
go to heaven、go to long home
天国へ行く、終の住処へ行く
天国は、キリスト教において、正しい信仰生活を貫いた者が死後に導かれる所です(言うまでもありませんが)。天国に行くタイミングは死後に他なりません。
天国(heaven)に代えて the kingdom of God(神の国)と表現する言い方もあります。glory (栄光)と表現する場合もあります。
少し曖昧に better place(よりよき場所)、better world (よりよい世界)と表現される場合もあります。
- go to heaven (天国へ行く)→ 死ぬ
- go to long home (終の住処へ行く)→ 死ぬ
- go to the kingdom of God (神の国へ行く)→ 死ぬ
- go to glory (栄光の御許へ行く)→ 死ぬ
- go to better place (よりよい所へ行く)→ 死ぬ
- go to better world (よりよい地へ行く)→ 死ぬ
- go to hell (地獄へ行く)→ 死ぬ
go through the pearly gates
天国の門をくぐる
天国(the kingdom)に入るには12の真珠で出来た城門(the pearly gates)をくぐると言われています。go through the pearly gates(天国の門をくぐる)といえば、それは死後を意味します。
knock in the pearly gates(天国の門をたたく)も同様の意味として使われます。
日本語的にいえば「三途の川を渡った」に近いニュアンスのありそうな言い回しです。
meet one’s maker
自身の創造主に会う
meet one’s maker の maker はキリスト教における創造主、すなわち神を指します。人称代名詞(の所有格)を伴うことで、maker が人間の創造主であり、人が被造物であることが示されます。
go to the way of all flesh
go to the way of all flesh(肉なるもの全ての定めを行く)もキリスト教の教えを前提とした「死」の暗喩です。人間は mortal (いつか死ぬ運命)という考えが垣間見られる表現です。
live out one’s life span
天寿を全うする
life span は「寿命」を指す語、live out は「生き延びる」という意味合いの句動詞です。自身の人生を全うした、大往生を遂げた、という意味合いが表現できます。
寿命を尽くしたと言えるほど長生きして亡くなった方にはぜひ使いたい表現ではありますが、夭折して、早世が惜しまれる人物には用いない方がよいでしょう。
breathe one’s last
息を引き取る
breathe one’s last は「最後のひと呼吸を行う」という意味合いの言い回しで、息を引き取ったことを表現します。
breathe(息をする)自体が「生きている」ことを表現する意味合いでも用いられる、という点も留意しておいてよいでしょう。呼吸は生命活動の証です。
シェイクスピアの「リチャード二世」にも、「I may breathe my last」という表現が登場します。
with one’s last breath
with one’s last breath と表現すると、息を引き取る間際、いわゆる「いまわの際」が表現できます。
死に目に会えなかった様子は didn’t make it(叶わなかった)のように表現しましょう。
rest in peace
安らかに眠る
rest in peace は「安らかに眠る」と訳されるフレーズです。rest は自動詞で「休む」「憩う」「眠る」といった表現、それ自体に休らうニュアンスを含みます。平和に・平穏に休らう、という祈りが込められた表現といえます。
他の表現にも言えることですが、皮肉めいた用法に用いられる場合も当然のようにあります。
TPPよ安らかに入滅し給え ― San Francisco Chronicle , January 23, 2017
join the great majority
亡き人の数に入る
join the great majority は、文字通りに捉えれば「多数派に加わる」という表現で、通常はそのままの意味で用いられますが、場合によっては死の婉曲的な言い方として扱われることもあります。
great majority は「死んだ人々」の隠喩です。現世で今まさに生きている人と、これまでに生を享け、そして亡くなった人々とを比べると、すでに死んでいる人の数の方が圧倒的に多い、自分もその(死者たちの)仲間入りをするのだ、という風に表現する言い方です。
pass beyond the veil
あの世へ旅立つ
veil(覆うもの、ベール)を用いて、死後の世界を表すことが出来ます。beyond the veilは「あの世で」という意味です。著名なファンタジーシリーズ「ハリーポッター」では、主要人物の一人シリウス・ブラックが、「the ragged veil(死のベール)」の向こうに倒れて死亡するシーンがあります。
It seemed to take Sirius an age to fall: his body curved in a graceful arc as he sank backwards through the ragged veil hanging from the arch. (シリウスが倒れていく様子は永遠に感じられた。彼の体はきれいな弧を描き、アーチにかけられた死のベールに吸い込まれていった)