日本語の「やっぱり」(「やはり」)という表現は、なかなか英語に訳しにくい言葉です。素直に英訳できない理由は、この「やっぱり」という日本語表現そのものが複数の意味・ニュアンスを持つ多義的な表現だからでしょう。
多義的な日本語表現は、いちど日本語の語義を振り返ってニュアンスの広がりを明確にし、それぞれの意味合いに対応する英語表現を一通り把握してしまいましょう。これは英語の言語感覚を身に着けて「日本語離れ」する意味でも大いに効果があります。
→「それは意外」と表現する英単語・英語フレーズ【ニュアンス別】
ニュアンス別「やっぱり」表現言い換えフレーズ集
「やっぱり、思った通りだ」という場合
「やはり彼は来なかった」というような文脈で用いられる「やはり」「やっぱり」は、予期していた通りになった、想定していた内容そのままだ、というニュアンスが中心です。「やっぱり → 思った通り」と言い換えてみると、対応する英語表現が見つかりやすくなります。
たとえば as I expected や as I thought のような前置き表現(「思う」や「予想する」といった思考を表す単語の過去形を使った表現)は、ニュアンスをうまく再現してくれます。
やっぱり彼は授業に来なかった
思ったとおり、電車はとても混んでいた
間投詞的に一言「やっぱりね。」と言うような場合は I knew it. のフレーズがうまくハマります。knew は know の過去形で、文字通りにいえば「前から知ってたわ」という意味合いです。
売り切れで買えなかったよ
? I knew it. I told you that you couldn’t buy it.
やっぱりねえ。無理だよって言ったじゃん
「やっぱり、やっときゃよかった」という場合
後になって判断を誤ったなと悔やむ場面の「やっぱり」は、 should + have + past participle で表現できます。
やっぱりやっておくべきだった
やっぱり買えばよかった、あのカバンのことが頭から離れない
「やっぱり、こっちにしよう」という場合
それまでの考えや判断を取りやめ、撤回、方針を変更したいときに使う「やっぱり」は、「気が変わった」あるいは「意見を変えた」のように述べるとニュアンスが伝わります。
actually は「気が変わった」という意味合いで使えるシンプルで便利な表現です。文頭に置いて前置き表現のように使うと「やっぱり(実際には)こうしよう」というニュアンスが出せます。
I’ve changed my mind や on my second thought などの表現も、やや説明的な言い方ですが、意味合いはうまく伝わるでしょう。
やっぱりピザか何か注文しよう
で、Tシャツは買うの?
? I’ve changed my mind. I’m not gonna buy it.
いや、やっぱりやめることにする
I’ve changed my mind.の表現を過去形 changed でなく have changed と完了形で表現することで、気が変わったまま(の状態)でい続けているという意味合いが示せます。過去形で I changed my mind と述べても特に間違いということはありません。
「何だかんだ言っても、やっぱり」という場合
「やっぱり我が家が一番よねえ~」という場合の、色々と紆余曲折を経て行き着いたところが出発地点と同じという意味合いの「やっぱり」。これは、結局あるいは最終的にはのように言い換えられます。対応する英語表現としては after all や in the end が挙げられます。
after all や in the end は、結論に至るまでに多少の経緯があったことを念頭に置いた表現です。
やはり原案に何も手を加えないことにした
ずいぶん気をつけていたのだが、やっぱりミスがあった
「今でも、やっぱり」とかいうような場合
「やっぱりあの人はきれいだ」「今でもやっぱりお菓子に目がない」というような場合の「やっぱり」は、今も昔も変わらない、今でもなお、という意味合いが中心です。英語でなら still や even now 、 yet などの表現を使うとニュアンスが再現できます。
長い間あっていなかったけど、やっぱりぜんぜん変わってないね
「紆余曲折」あったときのやっぱりとは異なり、以前から変化が見られないときに使われます。
日本語の「やっぱり」を英語で表現するコツ
「やっぱり」を起点に考えると混乱します
日本語の「やっぱり」は、国語辞書では(「やはり」の語で)大まかに3~4種類の語義に区分して扱われています、が、実際に日本語の中で用いられている「やはり」のニュアンスは多義的かつ流動的で、良くも悪くも非常に曖昧模糊としています。
日本語の「やっぱり」の実際の使用例をいくつか拾ってきて、国語辞書のどの定義に該当するか当てはめてみると、どっちつかずでうまく一つの語義に当てはめられない場合が多々あります。
- やっぱりアレですか、シメは雑炊ですか
- やっぱり失恋してもお腹は空くのよね
- やっぱり当たる人には当たるんだなあ
- すごく普通っぽいけどやっぱり怖いです
複数の語義のニュアンスを含んでいたり、ふたつの語義の中間的なニュアンスに位置取っていたりする場合もあるでしょう。しかも、それはきっと無意識的にそのように扱われているはずです。
他の日本語に言い換えてから考えてみましょう
その文脈の「やっぱり」が意味するところを、言葉で説明することは、はっきり言って至難のわざです。しかしながら、「やっぱり」を敢えて使わずに他の日本語に置き換えることは、そう難しくはないはずです。
- 私が思うに、あなたは雑炊でシメる派ですね?
- 私って失恋して泣き暮れてても食欲旺盛なのね
- 何度も当選してすごいなあ、うらやましいなあ
- いわくつきと聞いただけで怖くてたまりません
「やっぱり」の中に込めようとしたニュアンスは、いくつか断念して削る必要があるかもしれません。でも、その分だけ、文意は明確になります。それはつまり英語に直しやすい文章になるということでもあります。
日本語からの英訳を早々に脱却しましょう
英語習得における大きな目標・到達地点は、「英語を英語で直接に考える」「日本語を間に挟まずに英語で思考する」という境地です。
とはいえ最初のうちは「日本語を英訳して英語を話す・書く」という思考プロセスを経由せざるを得ません。日本語を身につけている以上、これは仕方のないことです。地道に英語に慣れて克服しましょう。
英語を英語で考えられるようにするには、思考を言語化する段階で日本語を差し挟まずに英語に結びつける練習が必要です。つまり、あるイメージを頭に思い浮かべて、それを言葉で表現する、という段階で、イメージに合致する英語表現を思い浮かべること。日本語表現が思い浮かんでもあえて無視して、(日本語→英語ではなく)イメージ→英語の結びつきを頼りに英語表現を模索することが大切です。
英語で直接に考える思考プロセスは、何日か猛勉強したからといって身につく代物ではありません。かなりの学習量を地道に反復して学んでいく必要があります。
言葉は挫折せずに続けていけば誰でも獲得できます。焦らずに諦めずにコツコツと学んでいきましょう。